次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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畳み方までは想定したが、最後のオチは、どうしようもないので許して下さい。

あと、なんで三人称ちっくに書いたのか作者も分かってない。
(えっ どういうこと?)


018:生かすための戦い

 何をもって人間の『死』とするのか、その定義や判定の方法は文化、時代、分野などにより様々であり、技術の進歩・発展よっても異なる場合が多い。凡そ、一般に知られるところでは『命がなくなること』、つまり生命活動を維持するための機能が停止することとされているが、ある解剖学者によれば、それは医療機関に従事する者(専門家)の間でも明確な定義は無いとして次の言葉を残している。

 

 生死の境目というのがどこかにきちんとあると思われているかもしれません。そして医者ならばそれがわかるはずだと思われているかも知れません。しかし、この定義は非常に難しいのです。というのも、「生きている」という状態の定義が出来ないと、この境目も定義できません。嘘のように思われるかも知れませんが、その定義は実はきちんと出来ていないのです。

 

 どういうことか?

 

 例えば脳が持つ機能が正常に動作しておらず、目は開かず、言葉も発しない寝たきりの状態を維持している人物がいたとしよう。

 その人物は、外部からの助けを借りることにより栄養を補給し、体内の老廃物を排出することになる。また、それに伴い爪や髪が伸び、身体に着いた傷が回復するなどの生命活動を行っている。そうした場合、その寝たきりの人物は果たして「生きている」のか、それとも「死んでいる」のか、ということである。

 

 人によっては、そんな状態に陥ってしまった個人は「死んでいる」と言うかもしれないし、或いは「生きている」というかもしれない。その境界線は酷く曖昧で個人の重んじる価値観や文化・風習によって大きく異なるのだ。

 

 それらとは別に文学の世界に於いては、既に『個』としての生命活動が停止し、その遺体(名残)世界(現実)から喪失しても、その個体が、かつて生きていた(存在した)ことを()()()()()()()()()()()()()()()()()()とする見方もある。だが、この場合は、その個体の生死というよりは、個人の抱く生死観、信仰の有無に近いだろう。

 

 だが、現実に「生きている」のか、「死んでいる」のか、この場合は果たしてどちらだろうか?

 

 

 * * *

 

 

 八尋がドン=フリークスという人間と狒々の姿をした魔獣一族のリーダー格を務めるパワーが罹患したゾバエに対する治療方法として選んだのは、治療とは銘打っているものの、それはどちらかといえば力任せの荒業に近い方法(もの)だった。

 

 八尋が佇む前に横たわる2つの身体、その姿から生気は感じられない。死の定義とは先ほど示した事例のように個々の持つ価値観によって様々に変化するものだが、朽ち果てて崩壊していく細胞、消えて無くなってゆこうとする身体を前にして、仮に事情を知らない第三者がこの場所に居合わせたとすれば、その2つの死を確信して疑わないに違いない。

 

 だが、それでも八尋は "裏の世界(チャンネル)" のチカラを緩めることなく、されども、これ以上は時間を加速させることも無く、最新の注意を払って2つの身体の状態を静かに見下ろし見守っている。

 

 ゾバエに侵されたモノたちが、その身体を維持するときに外から取り込む栄養について通常食せるものがない場合、自分自身の身体に被りついて体液を摂取することで何十年、或いは、何百年に渡って身体を維持し続けることが可能であることを八尋は事前に知識として持っていた。それ故に2人に対してノッキングを行いゾバエが乗っ取った身体を動かして栄養の摂取が出来ないようにし、更に加速された "裏の世界(チャンネル)" の中でも2人だけは生命を維持できるように乾眠さえも併用して施している。

 

 八尋が嘗て師事した者ほどではないにせよ、"裏の世界(チャンネル)" のチカラに頼らずとも遠大な時間を生き続ける中で、やがて、その師と同等程度の技術を持つにいたった彼ならではゾバエに対する荒療治。こんなことをして本当に2人が元通りになるとは露ほども考えていなかったが、それでも彼らの自我を彼らのものとして保ち、通常の生活を行うのに不便の無い程度には回復させられるはずだ、という希望を持って彼は、この治療に望んでいた。

 

 万が一、いや、それよりももっと高い確率でドン=フリークスという人間が八尋(自分)という存在を忘れ去ってしまったとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()にも似た衝動に従って八尋は事の経過を見守っていた。

 

 八尋は "裏の世界(チャンネル)" を緩めることはない。それは、ドン=フリークスという人間とパワーと名乗った魔獣の中に潜む、ゾバエ自身が持つイノチの残り火が完全に消えるまで……… 八尋は静かに、その様子を見守っていた。

 

 

 * * *

 

 

「終わりだ………」

 

 現実の世界では、まだ1日が終わるには幾分か時間が残っていたが、それでも加速された時間の中で、2つの身体が過ごした時間は優に10,000年は下らない時間が経過していた。

 

 驚嘆するべきは、まさしくゾバエ自身の持っていた生命力の高さだろうか。如何に個体に流れる「時間()」を止める程のノッキングと生命を維持する乾眠の併用とはいえ、その様な状態には通常なりえない2つの身体が、それだけの時間経過に耐えられるはずもなく。このままでは2人の方が先に死ぬと判断した八尋()の中にいるもう一人の()によってペースト状になるまで磨り潰された(調理された)究極の長寿食(ニトロ米)』を『全ての液体の源になる液体(三原水)』の性質を失わせない程度の割合で割ったものを定期的に与えたことで、辛うじて保ったというギリギリの治療(攻防)だったというのが正しい。

 

 あるいは、それもあって2人の身体の中へ入ったゾバエもイノチを繋いでいた可能性が無い訳ではなかったが、そうしなければ先に2人の方が朽ち果てていたことを考えると他に手の打ちようが無かったという事情もあり、それについては八尋にとってはどうしようもないこととして割りきることにしていた。

 

 それにしても、と八尋は思う。

 三原水は『()()()()()()()()()()』文字にすると、たったこれだけのことだが、これがどれほど重要な意味を持つかというのが、改めて噛みしめ理解した瞬間だった。それは八尋が如何に『神言』という最早、魔法に最も近い魔術を扱えるようになろうと、彼自身は、その全てを理解しているわけではない。むしろ、全く、その原理については理解に及んでいないといった方が正しい。そうであるが故に、ヒトや魔獣の体組織を構成する液体(血液、髄液、その他...etc)凡そ人の手では無から作り出すことは至難を決める、或いは、全く造ることすら叶わないソレ等についてはホイホイ作成できるものではなかった。

 それが対象の身体に馴染ませるだけでリスクなく幾らでも運用できるというのは、まさにヒトの世に対するものでなくとも究極のリターン(希望)とも言えるのかもしれない。

 

 八尋は、未だミイラといえそうな状態のままである2人の様子を見降ろしながら、こんなことを思うのは不謹慎かもなと考えつつも、なんとか工程の半分を無事に折り返せたか、と深い息を吐きつつ呟きを漏らす。

 

「あとは2人の再生か……… 仮死状態に(ノッキング)するのに比べて苦手なんだよな………」

 

 とはいえ、まだ半分を折り返したに過ぎない。このまま2人を正常な時間軸へ解放し、乾眠とノッキングを解除すれば、その瞬間に2人は息絶えるだろう。故に、まだ治療は終わってなどいない。むしろ、これからが本番であった。

 

 八尋は、発動していた "裏の世界(チャンネル)" を流れる時間の加速を止め、むしろ先程までとは逆に時間の流れを緩めていく。先程までの空間で流れていた時間は、現実世界で流れる時間1秒に対して実に1年という凄まじいもの。常人であれば、僅か数秒、以て十数秒で死に至る世界の中で過ごした時間の影響を極力取り除いた上で元の時間軸に戻っても問題ないレベルで再生させる。その為には、枯れきって古くなり再生させても使い物にならない可能性のある各種臓器の取り換え、三原水を用いた『体液』の注入など、やらなければいけないことは幾つもあった。

 

 八尋は内心で、これからのことを考えながら記録にある蔵の中身をチェックしながら誰にでもなく内心で呟きを零す。それに反応するのは2つの声。

 

『臓器の実は、まだまだストックに余裕があって良かった。命球(ライフ)があれば、もっと良かったんだけど……… 無いものねだりしても仕方がないか………』

 

『むしろ、よく此処まで持ってきたと自分で自分を褒めるべきだと()は思いますよ!』

 

『うむ。まぁ、本当にどうにもならなければ途中で投げ捨てずに此処までやりきった八尋に免じて、この霊長(ヒト)と魔獣には我の純血を『止めてください、死徒化してしまいます』むぅ………』

 

 実際は、八尋の裡に潜む姫さんが表に出てきて八尋の身体を使って与える『純血』などには対象を死徒化させるような効果は無いと考えられるが……… 代わりに不死の呪い(祝福)を已む者の身体を使って、そんなことをすることに全く問題が無いわけではないと考えられる。誰も不死の呪い(祝福)なんて押し付けられても困るだけだろう。最初は良いかもしれないが。とはいえ、そもそも不死の呪い(祝福)が伝染するものなのかは試したことが無いので何とも言えない上に、一応、血によって子を成すとも言える吸血鬼のモデル?らしいヒト?のような存在の行うことだ、何が起こるか想像もつかないというのが紛うことなき八尋の本音であった。

 

『というか、そんなホイホイ与えていいものなの? 姫さんの純血(それ)

 

『良いのではないか? 別に減るものじゃないし』

 

『軽いな』『軽いですね』

 

『うむ、よく言われる』

 

『『………』』

 

 これを仮に姫さんのオリジナルと呼ばれる存在、もしくは、その後継者の最有力候補が聞いたら、なんとコメントするか知りたいような、知りたくないような、そんな何とも言えない気持ちに八尋がなったのは言うまでもない。

 

「さて、ある程度は生気も戻ってきたか………」

 

 加速していた時間から緩やかな時間の進みに "裏の世界(チャンネル)" のモードを切り替え、その間に用意しておいた三原水を2つの身体に馴染ませていく。乾ききって朽ち果てつつあった身体は()()()()()()()()既にただ寝ているだけのようにしか見えなくもないという状態にまでなっている。あとは―――

 

 そこからは異様な光景であった。それは、()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()八尋は、ドンと魔獣の身体に包丁を滑らせていく。そこから取り出されるのはドス黒くなった、凡そ正常な機能を持っているとは思えない臓器そのもの。それを解析し、解読し、解剖するようにして検分し、先程『蔵』と呼ばれていた何処でも便利な収納鞄(トラベル・バッグ)に保管されていた『臓器の実』と呼ばれるものへ情報を書き込むように魔力を通し、空けた場所へ戻していく。本来の『臓器の実(原種)』であれば、情報を書き込む(こんな)手間は必要ないようだが、これは嘗て八尋が『あったらいいな』をカタチに『臓器の実』を品種改良をしたもので『原種』と比べて使い勝手の良い面と、悪い面が存在する。良い面での代表例では、臓器以外にも応用が利き(腕にも脚にも眼球にも出来る)、超特殊な手順を幾重にも踏むことで栽培し増やすことが可能な点。悪い面では原種とは違い規格のようなものが定まっている為、たとえば心臓を大体しようと思えばサイズは『S』(少)、眼球ならサイズは『SS』(最小)などであるが、小腸など人の背丈の3倍にもなるものであれば『XL』(最大)が必要になるなど扱う大きさを間違えれば、そもそも代替として利用できない。利用するには、代替する対象が持つ機能について熟知していなければならない。後遺症という面を心配する必要はないが、移植してから身体に馴染むまでには多少の時間(個体差がある)が掛かることなどが挙げられる。

 

 そうしてドン=フリークスという人間に対して繰り返すこと二十余度、魔獣であるパワーに至っては霊長(ヒト)とは身体構造が異なるため、実に三十を超える回数の移植を繰り返した。

 

「最後は、脳か……… しんどい上に、これなぁ………」

 

 そう誰にいうでもなく呟く。正直言って、これまでのことが飯事に感じる程のとてつもなさである。いや、十分、やってきたことは、とてつもないのだが。

 

 条件さえ揃えれば代替することのできる可能性がある臓器とは違い、霊長(ヒト)や魔獣に限らず『脳』に関する代替アイテムは皆無である。途方もない長い年月を生き、数多の次元を渡り歩いてきた八尋でも脳の代替など見たことも聞いたことも無かった。否、僅かに記憶の端、記録上に存在するものとしては "事象の拒絶" だろうか。 "時間の回帰" とでもいうべき、魔法の一種。霊長(ヒト)が持つには過ぎたチカラであるそれを使いこなしていたものが居たということは紐解けば見えるが、それを使えるのかというと、残念ながら使えない。つまり、こと此処に至って八尋にできることと言えば………

 

「無事に回復してくれることを祈ろう」

 

 内臓が基本的にはダメだろうと判断し総入れ替えしたことに対し、脳だけは『臓器の実』では代替が利かない。故に、最後は信じたくもない神頼み、まさに運否天賦のそれであった。




能力解説

○裏の世界(うらのちゃんねる)
 魚宝アナザが光速を超えた影響で時空が歪み、通常では認識できない特殊な空間。まるで時間が止まっているかのようで、時間の進みが遅い分、自分がまるでワープしたような感覚に陥るが、人工的に作ったものは時空の歪みが弱く、生身でも平気。カカ曰く所謂死後の世界で、死者の魂が漂い続けており、認識するにはペアを飲む必要がある。時間が止まっていると感じるぐらい遅く流れており、アナザ等普通に調理したら長い年月がかかる食材を調理するのに必要とされる。
 また、人工的に裏の世界を作り出すにはニュースといわれるアナザを食べて初めて"味"が認識できる肉を食べなければいけない。

 なお、八尋が作り出せる裏の世界は、時間の進みが遅くさせた場合の最大規模は、現実世界での1秒間で20年ほどだという(トリコの原作ではGODを食す前のアカシアが1秒感で1ヵ月だったことを考えると、その規模の違いに白目)
 いや、まぁ、GOD食べ終わった後のアカシアなんか100万分の1秒の速度で攻撃されていても関係なく対応できるチャンネルを開いてるから、1秒で20年なんて、どうってことないはずなんだよ!

 鹿王が作り出す時間の進みを早める空間についてもマスターしており、同様に現実世界での1秒間で早められる最大の時間は5年ほどだとか(遅くするのに比べて苦手らしい)
 鹿の王様は、1秒で1000年とかの時間操作ができるらしい。へぇ、すごい(白目)

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