そして、思いのほか暗い話になってしまいました。何考えてんだ作者。。
ちなみに、今は別立てて、とある企画進行中の為、次の投稿予定は未定です。
また、ここまでやっておいて、どう畳んだものかと頭を悩ませていたりも。うーん。。
この集落についてからは、俺が俺のエゴで生み出してしてしまった『もう一人の自分』とでもいうべき存在の『私』の作り置きしておいてくれた手料理を楽しみ、それはドンだけでなく、狒々の姿をした魔獣たち盛況だったようで何よりだなと1人頷いていた。その後、一夜明けてから様々な雑談を経て、ドン持ち前の親しみ易さからから、
そうして改めて案内されているメタリオンの栽培される
「ところで、どうする?
長老たちは加工した装飾品とか持って行っても良いと言っているが、なんか要るか?」
「うーん、荷物になるからなぁ…… それに悪ぃ、なんか、ちょっと疲れたみたいだ」
「?」
得られた情報については、ドンが執筆予定の『(仮)新大陸紀行』に、どの程度書くのか確認し、ドンはニトロ米の時と同様、メタリオンについての概要や、此処に来るまでの注意事項的なことを物語にし、栽培・育成方法、収穫・加工方法などについては上手くボカして書くという話をしていた。この辺りの気遣いも、さすがだなと思う。
ざっくりと聞いた感じでは、このような内容になるとのこと―――
・メビウス湖沿岸部から集落までの道筋について
・途中で遭遇する "漆黒の樹海" 内での脅威について
・メタリオンの収穫手順について(交渉に必要な手順も含む、加工方法は含まない)
・メタリオンから回収できる貴金属の種類について
・最期に、ここに住む現地の魔獣たちについて
―――となる予定だそうだ。
ただ、俺はドンから聞いた本に執筆する内容よりも、別れ際に言われた「ちょっと疲れたみたいだ」という言葉の方が、どうにも引っかかって仕方がなかった。樹海に入る前から感じていた違和感は、魔獣たちとの認識の相違から発生していたもので、それは既に解消しているのだから何の不安も無いはずだと己に言い聞かせても、それで何か、とてつもなく悪い何かが起こるような気がして珍しく不安にもなった。
(こんなに不定な気分に陥るのは久々な気がするな…… やはり何年生きようと、永劫を生かされようとヒトの子はヒトの子か)
そう自嘲気味に笑う。そして、また己に言い聞かせる。こんな不安は気の所為だと。
しかし、その不安が的中していたと判るのは、その後、暫くして直ぐに訪れるのだった。
* * *
この集落に着てから2ヵ月。ドンの体力は日に日に落ちていった。この集落へ着いてから最初の内は、強がって「暗黒大陸産の風邪かもな、わりぃ、ちょっと休ませてくれ」なんて減らず口を叩いていたのに、今では、それさえもなく「シュー、シュー」と浅い呼吸を繰り返すだけになっている。そして、俺は、その症状に心当たりがあった。それは、
『あい?』
俺の頭の上に乗っているアイが心なしか心配そうな声をあげる。
「大丈夫、とは言い難いな。この症状はゾバエ、だ・・・」
『あい・・・』
俺の返答を聞き少しだけ落胆としたような声を上げるアイ。未だ、こちらにおいても一部の賢い種族の間でも不治の難病と恐れられ、希望を騙る底なしの絶望とも揶揄される
否、おそらく『アイ』の能力を借りれば、ドンを救うことはできるはずだ。だが問題はその憑代となる奴がいないこと。何故なら『アイ』が
・・・ドンが死ぬ?
途端に俺は特に寒くも無かったのにカタカタと小刻みに震えはじめる。
・・・ドンが死ぬ?
・・・この
ダメだ、それだけはダメだ。最初は小さかった震えは次第に大きくなり始める。同時に
「ダメか?」
肩に触れられ、声を掛けられたことにハッとして振り向くと沈痛そうな面持ちをしたパワーが、そこにいた。
「あ、あぁ。他ならぬ、ゾバエによって
「あぁ、この症状は
「なら、どうして此処に来た? 俺たちを追い出す算段でも立てたか?」
「出来るなら、そうしたいがな。それこそ『まさか』だ。もちろん長老以外の一族の者たちにはドンの容態は伝わっていない。それに今のところは他に一族でゾバエと見られる症状を発しているものはいない」
「そうか、それなら良かった。この期に及んで、更に迷惑を掛けたくなかったからな」
そういうとパワーは隣にズシンと腰を下ろした。「大丈夫なのか?」とは聞かない。おそらく、パワーの奴も分かっているのだろう。だから、俺が口火を切った「お前自身は、どうなんだ?」と。
すると―――
「俺も、今日から此処で過ごすことになるな」
―――そう狒々の魔獣は、声を殺し、目を細めて言った。
ハハッ、俺は、とんだ疫病神だなと声を押し殺して笑う。もう嗤うしかない。俺と関わってしまった奴は、みんなこうだ。俺自身が死ねないばかりではなく、俺の周りに "死" を押し付ける。否、これは、もっと酷い。
「長老殿は、なんて?」
「いよいよかと。別に此処に来た八尋やドンを恨んではいなかったよ」
「そうか・・・」
いっそのこと罵詈雑言を吐いて当り散らしてくれた方が、どれだけ気が楽だったか。そうされないことに、されるときよりも鋭い痛みにも似た感覚に襲われる。
「なぁ、聞いてくれるか?」
「なんだ?」
「仮に、この状況からでも逆転する可能性が方法が僅かでもあるとすれば、パワーは、どうする?」
そう俺が静かに問うと、目を見開き「聞かせてくれ」と静かにパワーは言った。
* * *
まず、ゾバエによって罹患者の体内で何が起きているのか、その仮説の話をしよう。
不死の病、ゾバエとは、それを引き起こす微生物(細菌やウィルスではない)の活動によって全身性持続性の著しい凝固活性化状態が維持される。つまり微生物の活動が、患者の組織因子構造を変化させることにより、体内では線溶活性化の抑止および外因系凝固機序の活性化が行われる。これにより
似た症状とする理由は、あくまで本来の播種性血管内凝固症候群であれば、その状態を無治療の状況で放置すれば早晩死に至るのがのに対し、ゾバエを齎す微生物の活動が、それでは
そう考えた理由の1つとして、ゾバエを発症した個体の全身がドス黒く濁った色をしている状態であること、および外的因子による創傷または患者自身の生命維持活動によって付けられた傷口から殆ど出血が見られなかったことからも、その可能性は高いと考えられる。とはいえ、俺は医療に関する
その仮説に立った上でゾバエに対する対症方法で思いついたのは以下のとおりだ。
俺の持っている持ち物の中には、ここまでくる道すがら手に入れた『三原水』がある。これは先にも少し触れたとおり
乾眠は、本来、本人が自発的に行うものだが、俺は、これを他者に対しても行うことができる。その状態を維持したまま、今度は俺の開いた
微生物が死滅した後は、『三原水』を罹患者の2人に必要分だけ与え、ノッキングと乾眠の状態を解除するという方法だ。ただし、その過ごした時間の中で半ば干物となるであろう2人がそれでも生きていられるかどうか、仮に生きていたとしても、快復後に
どれだけ本人が「生きていたい」か、「死にたくない」かが、この力技に頼った治療方法の結果を左右することになるだろう。
他には、隣にいるガス生命体《アイ》の持つ
最終手段としては、まぁ、現実は厳しいということだろう。要は、ゾバエに罹患した2人を周りに被害が及ばないうちに処分するという方法だ。
それ以外では、俺の裡に潜む姫さんのチカラを借りれば或いは…… という可能性もある。ただし、2人は本来の種族からは隔絶し、姫さんの眷属に堕ちるということを意味するが。それは、ある意味で、ゾバエに罹患したまま生かされるのと同等程度に酷い内容と思えなくもない。死徒になるというのは、それくらい重いのだから。無論、姫さんの眷属になったらゾバエから護られるという確証もないしね。下手をすれば死徒なのにゾバエ罹患者という、よく分からない状況になる可能性もある。そんな二重の責苦など、ごめんだろう。
なので、横に控えた魔獣には最終的にどうにもなりそうでなければ、俺が俺の手で介錯しようということも踏まえながら「1.」と「2.」のみを提案した。
「そうか、治療方法が僅かでも存在するのか」
「確証はないけど………」
「いや、十分だ。もともとゾバエに罹り、あの樹海を永劫彷徨うことになることを考えれば、試せる
その返答に対して「アイに頼る方法は、どうする?」とは聞かなかった。おそらく魔獣自身も下手を踏めば一族全滅の可能性があることを判っているからだ。
「もう一度確認しておく。ドンには事前に最悪のケースを想定して血液などを保管してあるから助かる可能性はある。けど、パワー、キミについては唯でさえ確証のない方法に乗ってもらうしか手が無いことだけは理解しておいてくれ」
「問題ない。むしろ、先に俺を練習台にして八尋の
そう隣にいる魔獣は言い切った。
「なぜ? なぜ、そんなことを言い切れるんだ?」
「元は、俺たちがゾバエの保菌体をお前たちに嗾けてしまったのが、今回の発症に至る遠因だろう。その罪を俺の命1つで償えるのなら、それは本望だ」
それを聞いて俺は「すまない」と一言告げることしかできなかった。