次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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一人称を変えるとか微妙な仕込みやら何やらを畳めた回(一息)

ちなみにTSじゃないよ! ホントだよ!(白目)


015:俺と私とお月様

 深かった密林の中、既に辺りは俺の行使したチカラの影響で此処まで通ってきた経路を示すように更地が広がっている。追いすがる有象無象の亡者を時に灰燼に帰し、時に原型が無くなるまで切り刻み、時に大地の深くまで埋めて圧し潰される。

 

 その荒々しい破壊の爪痕を残しながら供に歩くのは長い金髪を靡かせ白を基調として豪奢な衣装(ドレス)を身に纏う、()の裡に潜むもの。大本となったのは「星の触覚」だとか、「自然霊」だとか、なんだとか、かんだとか、たしか吸血鬼が云々などなど...etc

 

 要約すると「いろいろと小難しい設定があるようだけれど、詳しいこと気にするな」ということらしい。

 

 ただ、そんな元々は裡に存在(ある)だけの「行動理念」に過ぎなかった()()が、どうして私の身体を使わずに表だって活動できるようになったのかというと、これがまた上手く説明できない。理論上は、そういうこともあるのか、と片付けられそうだが、それについて嘗て()が旅した世界でコンビ組んでいた人物に相談した折にも―――

 

「単なる概念上の存在、言うならばグルメ細胞の悪魔とも違う()()()()が、グルメ細胞に同化する形で完全な人格を得るだけでなく実体化も出来るようになったじゃって!?

 そんなことは、ありえんじゃろ。常識的に考えて・・・ と思いたいところじゃが、まぁ、実際に無いとも言い切れんか。実際に目の前に実例(立って)おるわけだし」

 

 ―――と額を押さえていたのを思い出した。

 

 ま、気にしたら負けですよ。ご都合主義って便利な言葉ですよね。

 

 そういえば、過ぎる歳月と共にファンキーな性格の爺さんへ変貌した兄弟子は元気に余生を過ごせたのだろうか?

 何か師匠絡みで得た情報について明かせない悩みも抱えているようで、その内容は結局最後の最後まで詳しいことは何も分からないままだったのだけど。唯、あの時の()に出来たことと言えば、精々が義兄同士の喧嘩の仲裁くらいしかなったので、()が去ったあとでも何とか丸く収まってくれてると良いんだけどね・・・

 

 そう昔を懐かしんでいること止め、私は意識を戻した。

 

 

 閑話休題

 

 

「ふむ・・・ 妙だな」

 

「あ、やっぱり? 姫さんも、そう思うよね!? 私も思ってました!」

 

「だから、その呼び方は止めろと言っておるだろう。何度言えば「でも()()()()()ってことを気にしていたのは姫さんですよね?」・・・それは、そうだが」

 

 まぁ、私だと何かネーミング・センス的なものは壊滅的だからなぁ。だから未だに名前呼びをしようと思っても『   』になってしまうし。()も、私に引きずられているのか、姫さんのことは『   』のままだし。いっそのこと読者アンケートでも取ってみましょうか?

 そうぼんやり考えていると、私の思考を読んだらしい姫さんから鋭いツッコミが飛んできた。

 

「なんか今、とてつもなくメタいことを考えなかったか?」

 

「い、いえー・・・?」

 

(私の場合は、()の時と違って姫さんと意識同調があるから気を付けないと!)

 

「おい?」

 

「ナ、ナンデモナイ、デスヨ?」

 

 そう視線を逸らしながら答えていた私の様子を憮然とした態度で眺める姫さんだったが、ここで2人のやりとりが止まった。どうにも悠長に構えている暇はないらしい。まだまだ掃除(救済)は済んでいないようだ。

 

「あ、なんだか、また囲まれてますね・・・ 仕方がない。

 私は、こっちを掃除しますから姫さんは向こう側をお願いしますね?

 それに、そろそろドンさんと合流しないと何だか不味い予感もヒシヒシしますし、元から全ては救えないのだから早めに切り上げましょう」

 

「それが良いだろうな。余興の狩りといえど、こればかりでは飽きもする。それにそろそろ・・・」

 

「はいはい。分かってますよー。ご褒美は期待してて良いですからね?」

 

「うむ。期待しておるぞ。

 ふふふ、八尋(そなた)の手料理か。それはそれで考えるだけで胸が弾むぞ」

 

「え、う、うーん。私も料理は得意ですけど、姫さんの口に合うかなぁ」

 

「謙遜するな。料理の腕に於いては、そなたは()()()()()()()()()時点で、あやつを超えておる」

 

「うーん。そうですかね」

 

「そういうものだ」

 

 私の自信なさげな所在を自信を持てと肯定してくれるのは正直嬉しかったのは内緒・・・ になってないなぁ、と苦笑いを1つ零した。それと1つだけ注文させてもらうことにした。腕を振るうまうのなら材料も揃えなければ。それと姫さまが全力を出すと持って行かれるものが多いし、この環境にも迷惑を掛けてしまうから自重するように進言しておく。

 

「あ、それはそれとして、あまりやりすぎないように!

 それと余裕があればで良いです。ハードラワンの若葉だけじゃなくて、果実や花なども見かけたら獲っておいてくれると嬉しいです。

 ・・・分かっているとは思いますけど、収穫(そっち)がメインじゃないですからね?」

 

「・・・それくらい分かっておるわ!」

 

 妙な間が気になりはしたが、姫さんは私が何を言いたいのか即座に察してくれたらしく、若干、顔を赤らめつつも私の注意を受け入れてくれた。どちらについて「分かったのか」は敢えて聞かなかったが、姫さんは、()と違って、私なんかよりも遥かに()()のだ。なので、そこは彼女を信頼して全てを任せることにする。

 私は、()裡にある存在(姫さん)と違って()()のだから他の事に気を取られている暇はないのだ。けれど、これが終わった後に用意する献立のことを考えてしまうのは、それは料理人として()に求められ、形作られた私の唯一とも言えるエゴなのだろうかと思いを巡らせながら、この状況へ私たちを追い込んだ本命のところへ歩を進めるのだった。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

「貴方ですか?

 私たちが、樹海に足を踏み入れてから今までずーっと外側からチクチクチクチク煩わしい行動を取っていたのは?」

 

 迫る獣を処理しながら辿り着いた場所に居たのは一体の魔獣。背丈は私より大きく、腕は長い。その風貌から狒々の様だと私は思った。同時に油断などできない相手だとも。

 

「だいぶ誤解があるようだが・・・ 言っても聞いてもらえないだろうか」

 

「どうでしょう? とりあえず、分かることは、貴方が私たちの妨害を続けていた事実が1つ。そして、貴方は暗黒大陸(この場所)に似つかわしくないくらい()()っということだけですよね?

 それこそ、有する "暴力" という側面だけでみれば、私なんかよりも遥かにね」

 

「そうだな。私は、私たちの一族は弱い。それ故に()()と共生せねば生きては行けない。

 だが、安心すると良い。私たちの一族は、貴女方と敵対する意思は無い。先に働いた無礼は詫びよう。故に、早くその警戒を緩めてはくれないか?」

 

「うーん。敵意は無いみたいですし、その言葉に嘘もないですね。分かりました。私は、貴方を信じます!」

 

「随分と軽いな・・・」

 

「それ、よく言われますね。 ハッ!!」

 

 その魔獣からのツッコミを1つ頷きつつも、同時に発声とともに大地を滑るような足取りで行われたのは "震脚" と呼ばれる技法。足の裏が地に着くと同時に発生するのは、大地を震わせるような響き。同時に此方に迫っていた怪物との距離が一足の内に縮まり、次の瞬間、弾けた。

 

 ズンッ

 

「さすがだな。伊達に、この森の中を自由に闊歩するだけはある、ということか」

 

「まぁ、私は弱い方ですけどね。専門は別なので・・・ それに油断大敵です。

 貴方も気づいてるでしょ。先程よりも多く囲まれています」

 

『カロロロ・・・』

 

 私の声に重なるようにして巨木を軋ませながら現れた生物に絶句した。

 

「あ、アシュラタイガー? 何故、此処に?? しかも、この様子・・・まさかゾバエに罹患しているの??」

 

 全身が黒く染まり眼も虚ろな三面の虎が此方を睥睨していた。

 

「知っているのか?」

 

 ごくりと生唾を飲み込みようにして確認を取ってきたのは隣に立つ狒々の魔獣。その様子を横目に、この存在の事は把握してなかったようだ。

 

「ここは私が止めます。なので、あとの処理はよろしくお願いしますね?」

 

「言っておくが、俺に、これを処理するチカラは無いぞ?

 それは先程も貴女が、指摘した通りだ。我々の一族の者に戦闘を期待するのは止めておけ。この森で出来ることは、精々、道案内くらいだ」

 

「それは知ってますよ。なので今のは私たちの相方に、です。

 貴方は、これが終わった後に道案内をお願いしたいです。先に行かせた人のことも心配ですし、それで之までの事は完全に手打ちということで」

 

「わかった。ならば邪魔にならないように努めよう」

 

「よろしくお願いします」

 

 その私の相槌を合図にアシュラタイガー(病)が、目の前の獲物()に狙いを定め踏み込んできた。同時に狒々の姿をした魔獣が、この場を離れることを確認し、私は、その踏込を避ける。

 

 踏込、引っ掻き、噛みつき。他にも尻尾を振りまわす攻撃など、病に侵され自我を保てているとは思えないにも関わらず、俊敏な動きで獲物()を仕留めようと動く、その様は正に密林の狩人の名に相応しいものだった。

 

(この後のことを考えれば、動き回るたびに口から飛散する唾液にも注意を払わなくちゃね・・・)

 

 ()は、何故かゾバエに罹患することは無いが、先程の話だと狒々の魔獣たちの一族も先に行かせてしまった()が認めたドンさん(人間)もゾバエに対する抗体のようなモノは持ち合わせていない。魔獣の方は、まだ詳しい話を聞いたわけではないので判断に困るが、それでも念には念を入れた方が良いだろうと判断して猛攻の合間に飛んでくる飛沫にすら気を配り私は避け続ける。

 

 そして―――

 

「何を遊んでおる。さっさと仕留めよ」

 

 ―――美しくも冷たさを湛えた声が響いた。

 

「それは、私の、仕事じゃ、ない、です!」

 

 というか、さっきから見てないで手伝ってくださいよ!!

 

 私は心中で声を大にして叫んだ。

 

「仕方がないのう。これ、そこな猫よ。遊びもそこまで行くと度が過ぎるぞ。王の御膳だ、控えるが良い!!」

 

 その圧倒的な殺意を含んだ一睨みに、私を仕留めんと俊敏な動きを見せていたアシュラタイガー(病)は、完全に動きを止められ奥歯をカチカチカチと鳴らしていた。

 

 威圧ノッキング

 

 久々に見たけど、やっぱり()や姫さんの使うソレは威力というか、掛けられる圧が半端ない。これは所変われば「真の英雄は目で殺す」とか何とか揶揄されても全くおかしくは無いのではないだろうか。そして、それはゾバエに侵され、大半の自我も失われているであろう本能による行動しか許されていないアシュラタイガー(病)であっても例外ではなかったようだ。

 

「ごめんなさい」

 

 私は、呟き。そして未だ動きを止めたままのアシュラタイガーのイノチの鼓動を止めた。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

「というわけなんです!」

 

「何が『というわけなんです!!』だ!

 まったく意味が分からねえよ!!」

 

「あい!!」

 

 そう捲し立てるのは "漆黒の樹海" を抜け先にある狒々の魔獣たち一族の住まう集落で再会を果たしたドンさんとガス生命体(アイちゃん)。ここの魔獣たちの集落は、先に()とドンさんとで訪れ世話になっていたところと比べても小さく、だいたい3分の1程度だろうか。なんにせよ、無事に再会できたことに私は安堵していた。

 

「するってーと『アンタ』は八尋と同一の存在で、その八尋がチカラを使って喚んだ奴に好きにさせようと思えば思う程、八尋自身のチカラが小さくなるから代わりに生存特化の『アンタ』が出てくるって事で良いのか?」

 

「厳密には違いますが、まぁ、そのような認識で良いと思います。()が行うチカラの解放の仕方もイロイロあるんですよ。ちなみに先程から姫さんが「黙れ、殺すぞ」って言ってます。なので言葉遣いは気を付けた方が良いですね!!」

 

「それを『お前』が言うのか!!」

 

「あい?」

 

 私も姫さんも明確な呼称が無いので、どうしても名前呼びではなく、『お前』とか『アンタ』みたいな呼び方になってしまうのは仕方がないのですが・・・ その辺りは難しいところですね。

 

「再開を喜んでいるところを申し訳ないが、そろそろ此方についても説明を良いだろうか」

 

 そう割って入るように声を掛けてきたのは、樹海で遭遇した狒々の魔獣ことパワーさん。当初は樹海を悠々と闊歩する私たちが敵性の存在ではないかと危惧をして、いろいろと仕掛けを行っていたらしいが、その誤解も解消できたとのことで集落まで案内してもらったのだ。

 

 ドンさんには詳しくは聞いていませんが、おそらく普通に打ち解けて普通に案内してもらったのだろう。私はともかく、()や姫さんには出来ない芸当を簡単にやってのけるセンスは本当に素晴らしいと思います。

 

 ・・・何やら裡から抗議の声が聞こえる気もしますが、事実なので無視することにしましょう。

 

 私は、それらの声を全て棚上げしてドンさんとアイちゃんと一緒に狒々の魔獣さんの話を聞くことにするのだった。

 




というわけで、もう主人公(八尋)の裡に潜む人の正体は丸わかりですね。
タグ整理と一緒に付け加えておきます(やっとか)

アンケートは集まらないと思うので実施は未定。

それと前話との矛盾というか、説明不足感がハンパなさそうなので修正予定です。。

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