次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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 気が付いたら最終投稿から一ヶ月ちかく経ってた。
 やだ、なにこれ、こわい(白目)
 
 下書きは済んでいた "筈" だったんですけどねー・・・ いろいろとあっちにフラフラ、こっちにフラフラしている間に投稿が遅れてしまいました。
 
 また期間限定で非ログインユーザーの方からもコメントいただけるように設定を変えてみました。メンタルがとても貧弱なので、こんなことをして本当に大丈夫なのかと既に不安で一杯です・・・


012:病の蔓延る漆黒の樹海

 全ての液体の元となり得る『三原水』を手に入れ、欲望の共依存との徒名を持つ霧状の生物、ガス生命体『アイ』を旅の仲間としてから暫く、その道中では巨大生物の闊歩する平野/台地を抜けて、俺たちは漸く錬金植物『メタリオン』の群生する丘陵の入り口があるメビウス湖の沿岸部までやってきた。

 

「なんか、すっごいご機嫌だな・・・」

 

 そう呟かれた声のする方に振り向いて「そう見える?」と微笑みかけると、どこか遠い目をしたドンが、やはり気の抜けた声で肯定し、次いで俺がご機嫌な理由を尋ねてきた。

 

「その手に持っている棒みたいなモノが関係あるのか?」

 

「これ?」

 

 そういって俺の髪の色と同じ色を持ち濡羽色の輝く長物を傾けて聞き返す。ドンが間髪居れずに頷いたのを視界に納めて肯定した。

 

「それは何だ?」

 

「なんだと思う?」

 

 何時に無く真剣な眼差しを俺の手に収まるソレに向けるドン。質問に質問で返すのは聊かマナー違反の気もあるが、ここは敢えてその原則(ルール)を無視して聞き返した。

 

「何って・・・ 剣には見えねえし、棍棒の類だよな?」

 

「うーん、残念。これは『棍棒』ではなく、れっきとした『(カタナ)』に分類される得物だよ。

 ま、より正確に言うなら、この世界にある『剣』という概念には収まらないものである上に、今は所謂『封印状態』的な段階なのもあって一見しただけでは、そう認識できないだけ。でも、一度これが『剣』そうだと認識してしまえば、この状態でも『剣』に見えてもくるだろう?」

 

 そういうと目を丸くして驚いた表情を作り、次いで興味深そうに手に持っているモノを見つめていたドンは暫くして「そうだな、なんだか言われたら本当に『剣』に見えてきたぜ」と納得した表情で頷いていた。

 

「それで、そんなものを取り出したのが、お前の機嫌の良さとどう関係してくるんだ?」

 

「ん~。それは、まだ内緒」

 

 そう答えると一層不満げな表情を浮かべるドンだったが、それ以上は追及してこなかった。まぁ、追求されたところで今は未だ答える気は欠片も無いので、そちらの方が良いけどね。

 

 この一見しただけでは剣には見えないモノは、いつからか俺の裡に正確に『在る』と認識できるようになった別人格とでも言うべき『潜在意識?』を此処ではない別な次元にある世界を旅していたときに意識の内側から現実世界へ具象化することに成功したものだ。それまでは内側に在る『   』を外へカタチを与えて出すには、真名開放とでもいうべき儀式を経た上で、この身を貸し出すというカタチでしか外側に出すことは出来なかったのだが、この方法を覚えたことで、それまで意識を内側に向けることでしか逢うことが叶わなかった俺の中に在る、もう独りの()を外側に存在させる方法を確立させることが出来たのだ。その時は感動の余り、思わず抱きしめてしまったね。たまたま立会いをしてくれた奴らの目が近くにあったこともあり、恥ずかしがった『   』から直ぐに引き剥がされちゃった挙句、すぐ引っ込んじゃったけど・・・。

 

 ま、それはさておき。当初『   』にとって、ドン=フリークスという男は、この場にいるべきではない異物以外の何者でもない存在だった。ぶっちゃけると「こんなヤツが傍に置くなど言語道断、今すぐ処分してくれる」などと物騒な強硬論を唱えていたほどだ。それが、この数年という僅かな時の中で評価:規格外(EX)と言っても過言ではない成長ぶりをドンが見せていたことで「気に食わんヤツだが、傍にいるくらいは許す」と譲歩の姿勢を見せたことには冗談抜きで驚いたものだった。

 

 ま、それもこれもドン自身(本人)がどう考えているかはさておき、既に今すぐに俺たちの手を放れたとしても、おそらく暗黒大陸の東側(パラダイス)に限定すれば、これから向かうことになるメタリオンの群生地までの通過地点など、東側の地域でも稀に見る極一部の超危険地帯でもなければ、おそらく単独でも踏破および調査を完遂できるであろうほどに成長したドン=フリークスの才能と為人(ひととなり)あってのものだろう。ヒトではないモノの認められるなど、それは才能を通り越して異能と言っても良いかもしれないけどね。

 

 そして、そんな誰であっても基本的には好感度マイナスから始まる『   』が、その中で最も毛嫌いすることの多い人間(ドン)が傍にいるにも関わらず、珍しく自分から外に出ると自己主張してきたので上機嫌にもなるというものだった。

 

 

 閑話休題

 

 

 それはそれとして、ここから先は俺でも気を引き締めて進まないと面倒な領域になるため、ドンには此処に来るまでも再三に渡って口してきた最重要注意事項を改めて説明する。

 

「この先にあるメタリオンの群生地に行くには、この "漆黒の樹海" 、またの名を『疫病の森』を抜けていくことになる。

 この場所を構成する樹木も見てのとおり、その高さは300メートルは下らない。それ故に一度足を踏み込んでしまえば昼時であっても、その中は夜の様に暗い。また、これまで通ってきた場所に生息していた超巨大獣に出くわすことも殆ど無い。何故だと思う?」

 

「そりゃあ、ずっと聞いてきてる不死の病(ゾバエ)に関係あるからか?」

 

「そう。この暗黒大陸と呼ばれる場所の生物の殆どは本能で識っているのさ。『この森はヤバい』と。

 だから、この中で遭遇する生物がいるとしたら、それは俺らと大差ない大きさの固体か、ゾバエに侵された憐れな被害者だけだろう」

 

 そういったところで、まるで新しい獲物を誘い込むかのように森の奥深くから常人なら浴びるだけで足が竦むほどの冷気を纏った一陣の風が不気味な音を立てながら吹いてきた。その音に僅かに感じた虫の報せとでも言うべき些細な、ともすれば見落としてしまいそうな微細な俺は僅かに気に掛かる違和感。なんだろうと注視して見て見るものの特に変化らしいものは見受けられず、強いて言えば開拓したルートは当の昔に廃れて使い物になっているくらいかと中りを付けた所で傍らに居たドンから声を掛けられた。

 

「ずっと気になっていて聞きそびれていたことがあるんだが、良いか?」

 

「うん? 良いよ、むしろ分からないことがあったら遠慮せずに聞いて」

 

「なら遠慮なく。

 ここまで来る最中も思ってたんだけどよ、こんなデカい森や、それと同じくらいの生物が当たり前に闊歩しているのは、こっち側じゃ当たり前のことなのか?」

 

「そうだよ。むしろニトロ米があった付近だけが特別小さい方だってだけ。

 暗黒大陸では、これが普通だよ」

 

 そう伝えると驚いた様子を見せつつも、どこか納得いった表情を浮かべるドン。

 まぁ、俺としては、てっきり、この "漆黒の樹海" についてかと思ったら、それ以前の話だったことに若干の落胆を覚えたものの、それが常識ではない人間界(場所)で生活してきたのなら、さもありなんと気を取り直す。曰く「最初に辿り着いた場所が場所だっただけに移動中に何処までも大きくなっていく環境に戸惑いを覚えていた」とのこと。まぁ、たしかに俺もコチラ側へ着た当初は面食らったなーっと遠い昔の記憶を掘り起こし、あの頃は俺も若かったと内心で一人ごちる。

 

「まぁ、これは余談になるけど、暗黒大陸(こっち側)でも場所によって危険度が大きく異なるのは察しの通り。

 その中でも大きく東側と西側という見方をした場合、西側の方が、東側よりも遥かに環境の危険度は高い。それに準じても生物の危険度も上がるが、ポイントによっては東側の方がヤバいところも中にはある。

 そういう意味じゃ、ドン達の一行が最初に行き着いたのが東側のヘルベルが支配する森だったのは、ある意味、運がいい。ヘルベル自体の脅威度は東側でも高い方だけど、今のドンがそうであるように、ある程度小慣れてくれば上手いことやり過ごすことは、そんなに難しくないからね」

 

「だとすると、この森自体は、どうなんだ?」

 

「森そのものに限れば最低ランクだよ。

 だって此処にくるまでに見てきたような巨獣たちも出てこないし、普通に進めば何時かは抜けられる場所だからね」

 

 そう、この "漆黒の樹海" と呼ばれる森を抜けるだけなら、さほど苦労はしない。それは基本的に、こちらから手出しをせずに進めば比較的すんなりと抜けられるアイの塒と同じだからだ。

 

 だが、それは、あくまでも()()()()()()()評価であって、その中に在るゾバエの危険度までは考慮していない。一応、ゾバエに侵されたモノ、あるいはキャリアとなっているモノに細心の注意を払って進むべき行路を開拓し、後日、登山でいうところの極地法のノリで進めば、ゾバエ自体が要警戒対象であることは変わらずとも、やはり森を抜けることは、さほど苦しくない。故に、もし10段階でランク訳するなら "G" か、おまけしても "F" くらいである。

 ちなみにヘルベルの森は、ヘルベル以外にもソコソコ脅威度を持つ魔物も多いし、そういったものを捌けるだけの実力がないといけないという観点で、とりあえず "D"。

 

 この評価方法は、いつぞやドンに聞いた人間界における危険度の基準を暗黒大陸向けにドンの成長と照らし合わせながら直してみたものだが、正直言って、これから向かうことになる人間界で俺が "普通" の生活を出来るのかが心配になったのは内緒だ。下手したら寝起きの "うっかり" で辺り一面死屍累々とか本当に最悪だからなーっと逆に不安になったりもしたものだ。もちろん、そんなヘマはしないと思うけど。たぶん、きっと。

 

「というわけで、ここからは開拓していくルート通りに一歩も外れることなく慎重に着いて来てね?

 俺が嘗てこの森を踏破したのは、もう数百年以上前だから何かの拍子に森のルールが変わってないとも限らない。故に進む道すべてが確実に安全であるという保障は無いが、それでも法則に変化がなければ、そこから外れない限り、ゾバエに罹患したものや、そのキャリアに遭遇することもないはずだ。それが、この森を抜けるための正攻法であり、それがメタリオンの群生地に辿り着く一番の方法になるからね」

 

「それは大丈夫だ、俺を信じろ!」

 

「その根拠のない自信が一番不安なんだけどなぁ・・・」

 

 いつもの調子に思わず口をついて出た言葉に噛み付かれるも、そこは勝手知ったる仲というか、適当に軽い準備運動がてらにいつもの手合わせを経て気持ちをリラックスさせ覚悟を決める。

 

「本当に、ここから先は何が起こるかわからない。対生物であれば、ここまで通ってきて分かったように、今のドンのレベルであればある程度は独りでも対処できるだろう。けれど、此処から先『疫病の森』で遭遇した生物を()()()()()()()()()()()。これだけは本当に注意してね?」

 

「おう」

 

『あい』

 

 この時の俺にはドンに対して散々耳に痛いことを言っておきながら、俺自身が何処か覚悟が足りなかったのかもしれない。森へ入る前に感じた僅かな違和感、それにもう少し真剣に思考を巡らせれば防げたかもしれない悲劇。そんな先の事など露とも知らず、俺たちは陽が昇り始めてさえ夜の闇に包まれた静寂さを感じさせる薄暗い漆黒の森の中を進み始めたのだった。




 いろいろと構想時点から考えていた中の人要素を少しだけ、ご開帳?
 一応、それとなくは書いてきましたがメタリオン編のラスト辺りに登場させる予定です。さて上手く書けるだろうか、否、書けない(ぉぃ)

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