次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

14 / 25
 メタリオンの前に三原水を手に入れた!

 あと旅の仲間が増えたよ!!

 やったね!?(錯乱)



011:暗黒大陸 Return.3 『三原水』

 裏の世界(裏のチャンネル)を参考に作り出した安全場所(セーフ・ゾーン)でもある俺だけの自由空間(マイ・ルーム)から抜け出た後、沼地に自生していた究極の長寿食(ニトロ米)(原種)および周辺の調査を終えてスタート地点でもある巨大湖(メビウス)の沿岸部まで戻ってきた。久しく見ていなかった暗黒大陸(この場所)でも上位に入る大きさの湖に「戻ってきたんだなぁ。早く人間界に行ってみたいなぁ」との思いを馳せていたが、どうやらそれは口に出ていたようで、傍らに佇むドンからは「早く錬金植物(メタリオン)を観にいこうぜ!」と無情な宣告がなされるのだった。う、うん・・・『契約』が履行しないうちは、お預けだよね・・・。

 

 一頻り未練がましくメビウスを眺めた後、俺は気を取り直してメタリオンを観にいく際に必要な最重要注意事項を説明していた。

 

「というわけで、メタリオンの群生地に着くまでの間に規定の道順(ルート)を未踏を舐るとか訳の分からない理由で外れたりしなければ、こちら側でも最悪の病なんて揶揄されるゾバエ病の保菌体(キャリア)、または罹患体と道中カチ遭う事なんて、まず無いと言えるね」

 

「そうか。ちなみに、その安全なルートを外れてソバエ病に感染したら、どうなるんだ?」

 

 そう躊躇無く聞いてきたドンに「コイツ、何言ってんだ? 今の話を聞いていたのか?」という顔をしてしまった俺は悪くないはずだ、絶対。

 

「ゾバエに罹ると外的な要因以外では基本的に死ねない身体になる。それは、つまり罹患した対象者自身の本来持つ寿命が無くなると言い換えても良い。ただし、ゾバエの2つ名が『希望を騙る底なしの絶望』とも呼ばれる通り、次第に自我も薄れてきて発語能力が無くなり、外からの刺激に対して異常に鈍くなっていく。罹患したモノ達が "音" や "熱" に非常に敏感になるという観察結果から鈍くなるのは "痛覚" や "触覚" だけという見方もあるが、とにかく自分の身体や感覚をコントロールしているのが、自分自身の意志によるものではなくなっていく感覚を味わいながら永遠に近い時間を生きることになるな」

 

 それが、こんな身となってしまった俺をしてゾバエが最悪と呼ぶ所以でもある。そこにドンから質問が飛んだ。

 

「外的な要因ということは・・・ 例えば首を刎ねたりすれば対象の生物は死ねるのか?」

 

「さあね。頭と身体が泣き別れになれば、もしかしたら罹患している対象者の意識は()()()()()のかもしれないけど、それで罹患していた対象者が死んでいたところでゾバエの元になっている "菌"? まで一緒に死滅してくれるわけじゃないからね。罹患した奴を救う(殺す)ことは出来ても、根本的な解決には至らないと思うよ」

 

 俺の言葉に何かを言いかけたドンを制して、それに、と続ける

 

「そもそもゾバエに罹ると、その影響下で身体の構造が大きく作りかえられちゃうみたいでね。やったら耐久能力が上がるから一言で首を刎ねると言っても、よっぽど自分の持つ攻撃能力(火力)に自身が無いと、あっという間に距離を詰められて逆に仲間入りなるだろうけど。ゾバエの持つ感染経路は、飛沫・接触・経口・ベクターと、なんでもアリっぽいからね・・・」

 

 その説明に黙って耳を傾けていたドンは顔を顰めたまま神妙な表情で頷くことを繰り返し、最期に「げっ」と漏らした。うん、大体そうなるよね。あの時だけは、こんな身体になっていたことに数少ない感謝をしたものだよ。この身体に掛けられた祝福(呪い)が、ゾバエを打ち消すとは思っても見なかったからなぁっと俺は遠い目をした。もちろん、そんなことはドンには言わなかったが。

 

「まぁ、罹患したモノの首を刎ねずとも、土葬みたいな形で自力では脱出できないくらい深く埋めてしまえば、その辺りに放置するよりも余程安全に処理できるかもしれないけどね」

 

「それは土壌の状態にも関わらず、ゾバエの元になっている "菌" や生かされ続けている本体の方が密閉状態になって呼吸ができなくなるからか?」

 

「そうだね」

 

 俺の埋められるなら、そっちの方が手っ取り早いとの言葉にドンなりに整理した内容を聞いて然りと頷く。もちろん確証など無いのだが。

 

 何よりもゾバエに支配されたモノが自力で這い上がれないくらいの穴を掘る手間暇を考えたら、とてもじゃないが効率的とは言いがたいし、首を刎ねて生体活動を停止させた奴を埋めるとしても、そいつに触れる可能性が残る以上、ミイラ取りがミイラになったなんてことも容易に想像できちゃうよね、だからルートは外れずに、遭遇したら逃げ一辺倒にした方が安全だよと続けると「触らぬ神に何とやら、だな」と、あのドンですら何処か遠くを見つめるような目で呟いていたのを見て、ちょっと驚いてしまった。もちろん表情には出すようなヘマはしなかったけど。

 

 なので万が一にもゾバエに侵されたモノに遭遇した場合は、ドンでいえば "念" を用いたオーラ操作術で対象を吹き飛ばして距離を取りつつ、その間に逃げを打ったほうが良いのだが、それにも実は問題があったりもする。それは、ゾバエを罹患したモノたちにも此処ではない別の場所にいる植物兵器(ブリオン)と呼ばれる生命体同様に学習能力でも備わっているのか、それとも生前(生かされ続けている訳だから、この表現も正しいとは言いがたいが)の経験からくる行動なのか、その辺りは判然としないものの、とにかく此方の行動を見切るような動作を取ることがあるくらいかと続ける。そうすると「なんだ、それ・・・」と心底呆れるような反応をするドンがいた。だって事実だし。俺に文句を言われても困るよね。

 

「一応、ゾバエに対抗できるかもしれない最善策としては、今いるこの場所からメビウスを挟んで反対側、つまり真北にある『万病に効く』と言われる香草か、またはメビウスから南西の方へ深く進んだ先にある "世界樹" と呼ばれる樹の一部を煎じて呑めば、もしかしたらゾバエ "菌"? の活動そのものを抑制することは可能かもしれない」

 

「かもしれない?」

 

「そう。例によって試したことが無いからね。それに現状、それらのストックを持ち合わせていないから、仮にドンがゾバエに侵されるなんてことになったら、その時は正攻法で助けてやることは出来ないな」

 

 そういうと「でも正攻法に頼らなければ助かる可能性もあるんだろ?」と笑うドンを見て肝が据わってると感心すれば良いのか、呆れれば良いのか、よく分からない表情をしてしまった俺がいた。そして、その声には特に何も返さずに無茶をしないように釘を刺しておくことにする。

 

「まぁ、そんな訳で『契約』の範囲内なら多少無理をしてでも助けてあげるけど、最初に言ったとおり、わざとルートを外れてゾバエに罹るようなことになったら助けてやら無いからな。それは『契約』の適用範囲外だ」

 

「わかってるよ、無茶はしない」

 

「本当に?」

 

「本当だ!」

 

 刺した釘は糠を穿つかのごとく手ごたえの無さを感じながら、妙に自信満々のドンに対して不安を覚えたが、それはもう慣れるしかないだろうなと、そう強く思った。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

『キング・クリムゾン!!』

 

「ん?」

 

「どうかしたか?」

 

「いや、なんでもない・・・よ?(なんか神の見えざる何とかが働いた様な気がしたけど、気のせい、だよな?)」

 

 俺たちがメタリオンの群生地を目指す途中、その間に全ての液体の元になりえる液体(三原水)を入手した。ドンから聞いた話では、この時代の人間界では資源エネルギーの代表格として一時代を築くことになる "石油" の発見がには至っていなかった様なので、そういう意味でも余計に価値が想像しにくいというのも頷ける話だった。そうでなくとも『三原水』の真価は、神秘を追い求める愚者でもなければ分かるまいと内心で一人ごちる。仮に一般人で、この『三原水』の持つ可能性を正しく理解できるものがいるとすれば、それは医療機関に勤めているものくらいかもしれない。そこまで考えて、もしかしたら三原水(これ)万病に効く香草(あれ)もしくは世界樹の若葉(あれ)を組み合わせたら、それぞれが単独でゾバエに対抗できずとも、組み合わせることによって問題なくゾバエに限らずあらゆる難病にも対処できるんじゃないかと想像してしまった俺がいた。もちろん可能性の話でしかないし、直ぐには試せないので確証を得ることなど出来はしないのだが。

 

 それ故に『三原水』の湧く源泉に辿り着くまでの労力として最大の難関となる霧状生物(アイ)の塒を抜けてまで手に入れる価値がどれくらいあるのかとドンが首を傾げていたのも理解できるというものだ。俺の持つ常識(経験)にあるインターネットなんて無い時代だからな。さもありなん。なので俺は天啓とも言える閃きから『三原水』と『万病に効く香草』が揃うことで、この世の中からゾバエに限らず、それ以外の細菌やウィルス、赤血球や白血球の異常からなる難病治療の希望(リターン)となりえることを簡単に伝えると「その発想は無かった」と感動した様な表情を浮かべるドンを見ることになった。ただ赤血球だの、白血球だのと、そもそもの前提から説明しなければならなかったのは大きな誤算だったが。ググレカスと言えないのが、こんなに辛いことだとは思わなかったぜ。

 

 ちなみにアイは付き合い方を間違えなければ非常にイイ奴らである。あいつ等の感情表現を表す際の鳴き声?も、とても愛らしいものだしな。それにアイの持つ2つ名である『欲望の共依存』とは良く言ったもので、アイに憑かれた奴が起こす奇跡(お願い)の内容によっては、その代償(おねだり)として求められる内容は物凄く重いものになる。そして、そのおねだりを達成できなければ、俺の食事方法の1つでもある『大気食』とは違った意味で最悪の事態を引き起こす。これは本当に偶然というには不幸なことではあったが、俺たちが『三原水』を手に入れる過程でアイによって捻り殺された遺骸がアイの塒となっている洞窟周辺や洞窟内に大量に転がっていたのだ。その現場検証から得られた僅かな手がかりから被害者が人間界からきたドン達とは別の探検隊ではないかとのことだった。捻り殺された以外は、最早原型など留めてはおらず、それを見た俺たちに出来ることと言えば亡くなった者達を灰に変えて弔うことくらいしかなかった。

 

 まぁ、これは完全に余談となるのだが、俺個人としては、ここで遺骸を放置することによって辺りに充満しつつあった腐臭や、それに伴う疫病の類が蔓延する前に手を打てたというのは不幸中の幸いだったと考えていた。だが、こういった惨事を引き起こしかねないリスクのある反面でアイに憑かれたものが起こす奇跡の内容が、奇跡を起こして貰う側の欲望に満ちたものではなく、他者を慈しむようなものであれば、その限りでないことを俺は知っていた。つまり俗物的な話になるが、所詮は欲に目の眩んだ連中の起こした行動の後始末が悲惨なものになるというだけのことなのだ。そう考えると先にも書いたとおり、アイは、ヘルベルやゾバエなどとは違い、付き合い方さえ間違えなければ、アイこそが究極のリターンであると言うことも出来ないことは無い。たぶん。きっと。

 

 ちなみに先に挙げたお願いの代償について、その対価を支払うことに失敗する以外でもアイによって捻り殺されるパターンの1つにアイに対して何らかの攻撃的な姿勢を見せたり、実際に攻撃を加えたときというのがあるだろう。今回のケースだと探検隊が失敗したのは後者かなと中りを付ける事になるが、おそらく間違ってはいまい。アイとは簡単な意思疎通も、その気になれば出来ないことは無いのだから相手が正体不明の存在でも受け入れるだけの度量を示せば実際のところ塒そのものは簡単に抜けられたりするのだ。というか上手くすれば特に対価など支払わずに道案内もして貰えたりする。それにも依らず暴力に頼る外敵の排除を試みれば、この通り、素敵なミンチの出来上がりというわけである。ちなみに憑かれるかどうかだけは運次第ということを念のために付け加えておく。アイに気に入られたら、その時は諦めて宿主にでもなっておけとしか俺には言えなかった。俺? アイが憑こうとしたことは一度もありませんでしたが何か?

 

 さて、ここで賢明な読者の皆様であれば『何で俺はアイに「解呪」をお願いしないの?』と思ったかもしれない。実際に俺も何れはそれをと思ったことが無い訳ではなかったが、俺の身に掛けられた祝福(呪い)は時空だけでなく、次元すら超越して発動しているということを考えると、俺自身がアイに頼った奇跡(お願い)で救われた後に、それが代償(リスク)を伴うものだとしたら、それは、この世界が消滅するだけでは足らないほどの結末になっても何もおかしくは無い。そう考えてしまったが故に、俺は、俺の業の為に他者(世界)に自分の罪を押し付けるのは何か違う気がしたというだけの話だった。

 

 そういえば、まだドンには伝えていないし、おそらく此れからも伝えることは恐らく無いと思うが、実は俺の中にも既にアイと似たような存在がいる(それが原因でアイが俺に憑こうとしなかったのかもしれないが)。その詳細については此処では説明などしないが、その存在そのものは、ここではない世界で気がついたら俺の中に潜在意識として最初から居たらしいということくらいしか分かっていない。まぁ、そうなったのは偶然によるものだと思うが、それに気づいて以降、俺が何度代替わりしても、そいつは常に俺の中にいる。曰く『とても居心地が良い』のだそうだ。

 

 でも、そんな『   』が俺の中に居続けていてくれたからこそ、俺は最後の最期に、世界にたった独りだけになったとしても完全に気が狂わずに居られたのだろうし、何度絶望しても、またこうして奮い立ち面白おかしく生きようと足掻けているのだろうと考えると、その存在には感謝してもしたりない存在なのだ。そんな存在について、俺は、ソイツのことを『姫』と呼んでいるのだが、その当人曰く『恥ずかしいから止めろ』と口止めされている。本人曰く『今では、お前(俺)とは対等の存在で居たい』のだそうだ。まぁ、当人がそれで良いのなら俺は別に構わないけどと伝えた『この朴念仁め!』と怒鳴られたことがある、なんでさ?

 

 

 閑話休題

 

 

 まぁ、そんなこんなあって俺とドンは『三原水』を入手した後、予定通りメタリオンを目指して目的地の入り口を目指す。

 

「メタリオンを観に行くぞ~」

 

「おう」

 

『あい』

 

 -!?-

 

 

 そう現在は『三原水』を入手した際に懐かれた?アイを愛玩動物よろしく連れている状態だ。旅は道連れ世は情けという言葉もあるくらいだ『アイが仲間になりそうに此方を見ている』的な反応をされたら、それを捨て置いて先を行くのは、どうにも憚られたのだ。俺の気持ちが。

 

 とはいえ、その様子を見ていたドンは当初目撃してしまった惨劇の後のこともあり盛大に引いていたが、なんというか、今ではそれが嘘だったかのように連れてきた個体(アイ)と種族の垣根を越えて打ち解け、簡単な意思疎通くらいなら難なくこなせる様になっていたのだから大したものだと感嘆とした。本当に器がデカいというか、何というか。それに、この着いて(憑いて)きたヤツにも勝ちきれないようじゃ、まだまだだしなーっと笑っていると凄く悔しそうにしていたのも印象的だったのを覚えている。道中に俺以外に、あの集落で生活をともにした魔獣たちとは別格の訓練相手が増えたんだ、嬉しいだろ? と内心で嗤っていると、なんかムカつくという理由で殴られた。解せぬ。

 

 そうして俺たちは新しい旅の仲間を迎え入れつつ、当初の目的であるメタリオンの群生地へ歩みを進めるのだった。

 




 『キング・クリムゾン』って大変便利なキーワードですね(白目)

 そして安定の捏造回でした。

 あと前話『【幕間】過ぎ去った時をユメに視る①』について加筆しました。
 読み返してみたら、どうしても含めたくなった小ネタが出てきてしまったもので。。お楽しみ頂けたら幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。