次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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話は進まないの巻


009:修行と裡に隠した思い

 死角からの殺意を伝染させる魔物(ヘルベル)の奇襲すらいとも容易く捌いて見せたドンの姿を見て、その成長っぷりに嬉しさを噛み締めながら、捕まえた個体は軽くノッキングを施した後、放置して行軍を再開する。目指すのは先の集落で長老から聞いた究極の長寿食(ニトロ米)の原種が自生していると言われる沼地だ。そこは巨大湖(メビウス)とお世話になっていた魔獣たちの住む集落を結ぶ道程(ルート)からは外れた場所にあり、正真正銘、ヘルベルの巣窟となっている場所となっているそうだ。それを聞いて、なるほど頷いたのは記憶に新しい。

 

 つまり、ヘルベルという魔物は、何も知らずに究極の長寿食という名の寿()()()()()()()には垂涎のハイリターンであるニトロ米を求めて寄ってきた獲物を捕食しているという構図なのだろう。この場所(暗黒大陸)では、ところによっては尋常ではない大きさにまで成長する生物が多くいる中で、ヘルベルは比較的常識の範囲に収まる大きさに留まる代わりに磨かれた武器(猛毒)は、そんな巨大に成長した獣相手でも問題なく同士討ちをさせるほどの威力を生成するにまで至ったのだろう。そして、今にして思えば、その食事方法も基本的には一般に言われる蛇の行うそれと同じ(丸呑み)だが、あまりにも規格外すぎる獲物相手には強靭な顎を用いて肉を噛み千切り部分的に呑みこんでいる所も見たことがあったのを思い出した。

 

 そして、そうであればこそ集落の魔獣たちが多少の難を抱えているとはいえ、わざわざニトロ米の原種に拘る様子を見せていなかったのも納得できるというものだった。

 

「ドンー 右3 左4 それと空から2」

 

「だー、わーってるよ! というか八尋も少しくらい手伝え!!」

 

「それじゃあドンの修行にならないだろー。だから俺の分までふぁいとー!」

 

「まったく胸に響かねえ声援をありがとよ! ちくしょう、あとで覚えてろ!!」

 

 次々とそこらじゅうから迫ってくるヘルベルの位置と数を教えるついでに完全な棒読みで応援すると口だけで反撃してくる様子を見て「なんか完全にヤラレ役の台詞みたいだね」と笑いながら、俺は俺で迫ってくる固体を適当にあしらう。しかし幾ら気性が荒いと言われていてもヘルベルも魔物、俺とドンが並んでいれば、より弱い方(ドン)へと数が集中しているのが良く分かる光景だった。

 

 やがて捌きは出来ても仕留めるほどまでには至っていない今のドンの実力では、そろそろ対応できるキャパシティが限界を迎えようとしているタイミングだったのと、迫ってくる魔物の数が多くなり過ぎて煩わしかったこともあり、この辺りでドンが集落では行き詰っていた魔獣たちの扱う技のヒントを与えることも兼ねて、俺は抑えていたものを全開にして周囲へ撒き散らした。

 

 それは時間にすれば1秒にも満たないほんの僅かな間だったけど、俺を中心に数十キロ圏内にいた殆ど全ての生物は、瞬時にその場から離脱していったのが分かった。

 

 そして、それは俺が背後から発した正真正銘の"殺意"。それに本能が反応したのだろう、即座に俺との距離を十数メートルに渡って離したドンも同じだった。

 

「今、何をした?」

 

「別にー。ちょっと()()()()()と思ったから実力行使(威嚇)に及んでみただけだよ?」

 

 先程までの疲弊とまた違った意味で顔色を悪くしたまま問いただしてきたドンに軽いノリで答える。そして「ほら、念願の休憩時間だよ」とおどけてみたのだが効果はイマイチだった。残念。

 

 その後、お互いに距離を開けたままの状態で突っ立っていても仕方が無いと割り切って、未だ身構えたままのドンに一歩ずつ距離を詰める。ゴクリと息を呑む音さえも鮮明に拾いながら、目の前に立って---

 

「心拍数が上がってるね。もしかしなくても俺の殺気に中てられて小便ちびりそうになった?」

 

「んなわけあるか!」

 

「そう。その割りには膝が笑っているし、発汗も凄いけど、違うなら仕方が無い。それにしたって、もう短くもない付き合いなのに何時までも身構えたままだなんて心外だよ。ぶろーくん・まい・はーとだ」

 

()()が、そんな軟なわけねえだろ!!」

 

 強がるドンをからかいつつも、久々の「お前」呼びを受けてこれは相当キテるんだろうなぁ、少し悪ふざけが過ぎたか、と内心で少しだけ反省する。

 

 その後、暫く経っても肩の力が抜けきっていない様子に俺は「こんなに嫌われるなんて酷い、よよよ・・・」と袖で涙を拭う仕草を見せると、さすがにバカらしくなったのか、何時もの調子を取り戻して軽やかにツッコミ担当に戻るドンが、そこにはいた。よし、ちょっと滑ったかもだが概ね問題ない。無いったら、無い。俺の中ではそういう事にして話を先に進めることにした。

 

「ところで、今、()()視えた?」

 

「何の話だ?」

 

 俺の問いに訝しむように首を傾けるドン。ありゃ?

 不意打ち気味とはいえ明確な "殺す" という志向性を乗せて辺りに拡散させた重圧(プレッシャー)は、それが単なる威嚇に過ぎない行為であったとしても、今のドン位の実力者であれば「()()()()()()()()()()()」というリアルな "死" を垣間見たハズ、なんだけど・・・

 

「えっと、なんていえば良いのかなぁ・・・動機の言語化? 難しいよね。とりあえず、今の俺の "殺気" を全身で浴びて何か見えなかった? なんていうんだっけ、えーっと・・・」

 

「・・・走馬灯のことか?」

 

 喉まで出掛かっていた言葉の答えをドンが告げる。それに対して「それそれ」と頷き辺りを見回して修行に最適な虫の仲間が何十匹も身を縮ませて丸まっているのを見つけたので次々と腕に抱えていく。

 

「本当にドンは幸運に恵まれてるよね。こんなところにBBダンゴムシの亜種が生息していることも単なる偶然にしては出来過ぎてるよ」

 

 そういって俺は球状のダンゴムシ抱えきれない分を次々を宙へ方っては次を掘り起こしお手玉を始める。だいたい20匹といったところだろうか、あと10倍の数くらいであれば難なく回せるけど、今は俺ではなくドンの修行時間だからね、まずは此れくらいで良いかなと回収を止めてドンを見ると意図が全く伝わらなかったのだろう、かなりムスっとした表情を浮かべる男がそこいた。

 

「やってみる? というか、やってみて?」

 

「ふざけてんのか」

 

 うん。ダメだ、全然意図が伝わってないね、これ。相変わらず俺は口下手・言葉足らずだなと思いながら、折角戻していた空気が再び険悪なものになる前に訂正する。

 

「全然。大真面目だよ。今は、たぶんゾーン?とでも言えばいいのかな。その走馬灯が視えたという瞬間に掴んだ感覚が無くならない内に試してみるといい。今なら出来るはず」

 

 そういって俺は、お手玉中のダンゴムシをドンに向かって次々と投げ渡していく。それを未だ戸惑いは隠せないながらも受け取り俺の言ったとおりに器用にお手玉を繰り返していく。途中で何匹かは落としてしまったようだが、それでも初見にしては上出来といえる数のダンゴムシをお手玉してみせ「こんなの楽勝だろ」と息巻くが、果たして何時までソレが保つのかなと楽しみにしながら結局何匹のダンゴムシでお手玉が出来ているのかと数え始める。

 

 指差し呼称で ダンゴムシが1匹・・・ ダンゴムシが2匹・・・ ダンゴムシが3匹・・・ ダンゴムシがよnzzz・・・

 

「寝るな~~~!!!」

 

 はっ!!

 

 先程までの様子が嘘のように丸まったダンゴムシを投げつけられる(軽快なツッコミを受ける)ことで突然襲ってきた眠気から目が醒めた。

 

 ・・・閑話休題・・・

 

「とまぁ、身体を構成する30兆とも60兆とも言われる全細胞の意識を統一して物事に取り組む技術が、あの集落に限らず暗黒大陸(こちら)である程度の実力を持っている亜人種と呼ばれるもの達が習得している技の正体なのさ」

 

 ある程度の時間を置いてゾーンから抜け始めたのか、ドンが急に手に取っていたダンゴムシを落としてお手玉に失敗し始めたタイミングを見計らって俺は唐突に殺気を放った意図とダンゴムシのお手玉をさせた意図を説明し、ドンが四苦八苦していた魔獣たちの扱う技術の正体を明かしたのだった。それにしても、この説明の前に、しかもゾーンに入っていたとは言え、初見で20匹とか、やっぱり才能ありすぎだよと俺は心の裡で独りごちた。今でこそ1人で100匹以上を云千回、云万回のお手玉が出来るようになったとは言え、俺がそうなるのに掛かった時間は軽く1,000年を越えるのだから、なんというか、その才能が羨ましいを通り越して呆れ返るばかりだったのは俺だけの内緒である。

 

 ちなみに念にしても、それは同じだ。今でこそ念の基礎/応用の技術は完璧にマスターしてドンたちが扱うそれよりも遥かに精錬されたものを行える自信はあるが、それとて約2,000年ほどの時間を掛けている。まぁ、時間の経過事態は裏の世界(裏のチャンネル)に引き篭もって過ごした体感時間みたいなものだから、こっちでは2分程度しか経ってないからか、ドン達には相当変な目で見られていたけれども。凝性だからね、仕方ないね。

 

「ほー。身体を構成する細胞の意識統一か。たしかにそれっぽいことは言われた気もするが、やはり技術は秘匿されるものって事で詳しくは教えてもらえなかったからな。外から見よう見真似でやってみても上手く行かない訳だわ」

 

「俺が、これを始めて会得した場所では、この技術のことを猿舞(モンキー・ダンス)と呼んでいたね。もう名前も思い出せなくなっちゃったけど、とてもヤンチャな師匠が何処かに隠し持っていた食寳を手に入れるために、超々重力の働く山で行われた厳しい修行(シゴキ)にも耐えたもんだよ。あれはイイ経験だったなぁ・・・」

 

「そうか・・・」

 

 途中で何処か遠くを見つめるようにして独白の様なことを言い始めてしまった俺の様子に神妙な表情を浮かべて頷くドンの姿に、そんなシリアスなものでは断じてないから安心してと言いたかったものの、それがキッカケで、あれこれと余計なことを説明することになった挙句、あの日に()()()()()()にしたものを思い出されても面倒なだけなので、それは自重することにした。

 

 正直に言えば、あの時のドンの言葉には本当に心が震えたのは偽りのない本心だった。やはり時、人、場所、たとえ世界そのものが違ったとしても俺自身の抱える問題について真剣に言葉を紡いでくれる存在というのは、それが解決に至らないものだとしても嬉しいものなのだろう。だけど、これまでがそうだった様に、これからも、この祝福(呪い)を解くのは俺自身の命題であり、その為だけに今を生きるヒトの人生を無為に費やさせる必要など何処にもないのだと、いつか辿ってきた道のりの中で割り切ったのだ。だから、今回もドンが俺の為に自らの時間を費やす必要なんか何処にもない。そんな心の裡に抱いた思いを頭を振って霧散させた。そんな様子を再開したダンゴムシを用いたお手玉に四苦八苦しながらも、こちらの思索に耽る俺の様子にドンは首を傾けていたが「なんでもないよ」と返して流しておいた。

 




主人公は口下手。そして才能は皆無(すべて時間と根性が解決)
本来、書くべきところを入れようとすると元々の分から溢れに溢れて初の10,000字とかになりそうだったので、例によって、途中でぶった切りました。

どうせなら予定していた最後まで書いてから投稿ししろよ!

はい、異論は認めます。
でも、このままやると次は何時になることやらと思ったので・・・

しかし、本当に見事なまでに進まなかったな。
メタリオン、一体、いつになったら出てくるんや・・・

原作? なにそれ、おいしいの?

どこかでキング・クリムゾン ひつようかな? かな??

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