次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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遅くなりました。
幕間の話を書いたら一瞬燃え尽きたりしてました。


008:暗黒大陸 Return.2 『メタリオン』

 今、居候させてもらっている集落へ着てから早いもので5年の月日が経った。当初は1,2年程度の滞在予定だったはずだが、ドン曰く中々思うように執筆作業が進まなかったことと、この集落に住む魔獣たちとの手合わせに負け越し続けていたこと、また日常的会話や使われる文字の読み書きなんかを人間向けに分かりやすく纏めるには何が必要かなどなど、想像以上に考えることが多かったらしい。それが、ここに間借りして5年という月日を費やした理由だ。

 

 その間の様子を近くで見ていた俺の感想といえば当初は「この調子だと10年じゃ利かないかな」と思っていたが、そこはさすが怪物(フリークス)という意味を名に持つ男。そんな俺の思いを良い意味で裏切る声が俺に届くのだった。

 

「この辺りが "今の" 俺に此処で俺に出来る限界っぽいから、そろそろ先に進もうぜ」

 

「ん? もう良いの?」

 

「おう。今、この場に留まって出来ること/出来ないことは大体わかったからな。それにこいつ等との手合わせの調子が良いし、ここ最近は勝ち越しが多くなっていたから、今を逃すと本当に先に進めなくなりそうだ」

 

 その声に「無理しちゃって」と返すと少し顔を赤くしたドンから「うるせー」と返された。確かにドンの言うとおり今が此処で出来ることの見切りを付けるタイミングでもあったのかもしれない。それを超えると恐らくこの男のことだし当初の目的を忘れて最期まで突っ切ろうとしかねないのだし、そういう意味では本当にちょうど良かったのだろう。

 

 とまぁ、そういう訳で一区切りついた今の時点で出来ないことに見切りを付けた切り替えの早さは素直に評価できる。この大陸に実力不足のまま足を踏み入れても俺という偶然があったとはいえ、独り生き残れたのは伊達ではないということかな。

 

「なんつーか、意地を張らずに出来ないことを見よう見まねで無理繰り真似しようとしていたのが悪かったのかもな」

 

「そうかもね。アレは、コツを会得するのに難儀するから」

 

 そういうと「八尋でもか?」と聞いてきたので「俺は気づいたら出来てた」と返す。此処までくると次に来る言葉は言われずとも頭に浮かぶというもの。

 

「聞いた俺がバカだった」

 

 ほら、言うと思った。そういって笑ってやると「いずれマスターしてやるよ」っと鼻息荒くしていたので若いなーっと思いながらもヒントだけ教えることにした。

 

「たぶん、俺と出遭った瞬間のドンには出来てたぜ。それと意識してやれていたわけじゃないと思うけどね」

 

「本当か!?」

 

「ん。まぁ、そういうわけだから何れ出来るようにもなるだろ」

 

 此処でドンが同じ様に出来なかったのは自分の命の危機を感じられなかったからだろう。俺にしても、魔獣たちにしても本気でドンを殺そうなんて考えるような奴は此処には居ないからな。

 

 しかし、この短期間で若手中心かつ命の掛からない組手とはいえ、勝ち越すか・・・ 本当に才能が溢れているなと魔獣たちと最後の組手に勤しむドンを見る。

 

 ハッキリいって、この集落の中核を成す手練の魔獣ともなると、そいつ等は俺の眼から見ても非常に優秀だ。その実力は、おそらくその気になれば集落(ここ)から巨大湖(メビウス)までの往復くらいなら難なくこなすレベルだろう。その間に遭遇することになるであろう殺意を伝染させる魔物(ヘルベル)については基本的に相手しないことが前提になるだろうが、だとしても、どんな方法であろうが往復できる実力があるということに変わりは無い。逆に、この集落という魔獣たちのテリトリーに入ってくるような「逸れ」の類であれば楽に狩ることができるだろう。それを可能としているのが、ドンが()()無理そうだと割り切った、ここの魔獣たちの間で使われる独特の体術だ。確かにアレは幾ら才能豊かなドンであっても何かキッカケがなければ一朝一夕でマスターできるものではないなと傍から見ていた俺でも感じていることではあった。例えば()()()()()()とかね。己の持つ細胞レベルでの意志を統一する技術というのは、正直、それくらいのインパクトが無ければ理屈が分かっていたとしても、そう簡単に成せるものではない。まぁ、俺は、全く似たような技術というか、おそらく大雑把な括りでいえば同一のものを使えるが、その話は、また何れすることになるだろう。

 

 ちなみに余談だがドンからは魔獣たちの使う "念" とは違う、そのチカラについて「どれくらいの期間があれば使えるようになるか」と聞かれたことがある。その時は割りとテキトーに「300年くらい?」と答えたのだが実に渋い微妙な顔つきをしていたのを今でも覚えている。そのリアクションが習得期間についてのものなら既に究極の長寿食(ニトロ米)を食べたことで半分は人間を止めているのだから今更だろうにと突っ込んだら「そういう意味じゃねえ」と返されつつ叩かれた。解せぬ。

 

 まぁ、それはともかく、明日には此処を発つことで話がまとまったので今日は星屑のベッドに包まれて眠るとしよう。そう思い描きながら俺は(そら)へ向かって跳んだ。その後で、また「何処に行ってたんだ?」と問い詰められるかなぁ・・・ と思ったが、それは今更だった。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

 出発の朝、長老を筆頭に集落に住む魔獣たちは総出で俺たちを送り出してくれた。ドンも、この何年かで随分と親しくなった魔獣たちと固く握手を交わし、別れの時を惜しんでいる。とはいえ、いつまでも此処に残るわけにもいかないことはドン自身も分かっていることだから一通りの挨拶を終えたら踵を返して此方に向かって歩いてきたので俺も合わせるように歩を進めて集落を後にしたのだった。

 

「次は何処へ行くんだ?」

 

「案内する約束になっていたメビウス沿岸部の東側、その最西端にある錬金植物(メタリオン)を取りに行こう」

 

 集落から離れ、密林を抜け、まずは何時か来た道を戻るようにメビウス湖の沿岸部を目指しながら質問に答える。

 

「どういうものなんだ?」

 

「言葉通りだよ。文字通り成長の過程で様々な貴金属を練成する植物だな。むしろ金属そのものが植物の形を取って発芽していると言っても良いのかも知れない。何故メタリオンが、そのような生態を有するに至ったのか俺は分からないし、()()()()()()()()が、とりあえずのところは植物そのものが様々な貴金属の性質を帯びて育つという事実さえ押さえておけば問題ないと思う」

 

「なるほどなー。そのメタリオンだっけか? それが練成する貴金属っていうのは一定なのか?」

 

「いや。メタリオンは、それが育つ環境によって内包する金属を変化させたり、偏りを持たせることが可能みたいだよ。まぁ、その育成方法が相当難しいみたいだけど」

 

「難しいみたい?」

 

「そう。俺も自然に育ったものに偏りがあることを確認したことがあるくらいで、そもそも本当に偏りを持たせて育てる手法があるのかどうかも実際は定かじゃないし」

 

「なるほどなー。メタリオンが育つ場所には、あの集落みたいに管理者みたいな魔獣たちはいないのか?」

 

「いないね。というのも、メタリオンが育つ周囲にいる獣()()()()()()()が保有している病原菌が厄介極まりない。ハッキリ言えば、その病原菌の持つ特性は、ヘルベルなんか目じゃないくらいヤバい」

 

「マジかよ・・・」

 

 これから向かう先にある希望(リターン)厄災(リスク)の話をすると引きつった表情を浮かべるドン。正直「ゾバエ」は、俺に掛けられた祝福(呪い)とは、全然別のマジものの絶望(呪い)だろう。俺は、この身体故に罹ることはないみたいだが、アレに侵された生物の末路は本当に悲惨の一言に尽きる。

 

 この先にあるリスクについての説明をドンがどう捉えたのかは分からないが、俺の諦観とも言える表情を読んだのか、話題を変えるべくメタリオンの持つリターンの詳細を聞いていたので気を取り直して説明を再開することにした。

 

「つまり、メタリオンからは金や銀、銅とかいった貴金属が手に入れられるって事で合ってるんだよな?」

 

「うん。そう理解してもらって構わないよ。それだけでも人間(権力者)にとっては相当重要な植物になるんだろうけど、メタリオンの真価は、そこじゃない」

 

「というと?」

 

 俺の言葉に興味津々な様子で耳を傾けるドンに軽く微笑んで、かつて見たことがある非常に稀有な育ち方をしたメタリオンの例を挙げていく。

 

「例えば、そうだなー。この世界の人間たちは『幻想金属』なんて呼ばれる貴金属がこの世にはあるということを知ってたりした?」

 

「どうだろうな。御伽噺に出てくるような筆者の空想なんて言われる眉唾の代物なら幾つか見たことはあるが、そのどれも『実物』を見たことがあるなんて奴は恐らくいないんじゃねえか?」

 

 俺の問に答えるドンに1つ頷き、その見聞きしたことのあるという御伽噺の中には一体どんな金属があったかを尋ねるとドンは少し考える素振りを見せた後で答えを口にしていった。

 

「えーっと、そうだな。例えばオリハルコンとか、アダマントとか、それとウーツ鋼、ヒヒイロカネなんてものがあったのは覚えてるな。もちろん見たことも触ったこともねえけど」

 

「うん。なかなか博識だね。じゃあ、それらの貴金属が御伽噺の中の存在じゃなく、実在する金属だとしたら、どうする?」

 

 そういうと驚きの表情を浮かべながら結構な速さでメビウスを目指しながら、敢えて集落までの最短距離とは違った別のルートを進んでいたドンの足が止まる。それほどの衝撃だったのだろう。事実、俺も天然物のメタリオンが、そういったこれまで頭の中で描いただけの貴金属を成長の過程で精製していたのを見たときは息を呑んで暫し佇んでしまったものだと思い出して他人(ドン)の事をとやかく言えないなと思うと同時に、此処ではない別の世界で手にとることがあったものが、同様にこの世界にもあるのだと知ったときには実に不思議な気持ちに陥ったものだと苦笑いをするしかなかった。ただし、此処が既にある程度の安全を確保された場所(ルート)ではなく、ヘルベルのテリトリー内だということは忘れてはならない。

 

 即ち---

 

「後ろ、危ないよ」

 

「大丈夫だ()()()()

 

 ドンは、俺の注意に対して淡々と答え、今まさにドンへ迫ろうとしていたヘルベルの牙を避け、同時にその首を捕らえる。次いで向かってきた双尾に隠された毒針の軌道を見切り、空いた手で掴むと見事に固体を捕獲して見せたのだ。集落で時折視線を向けていたときに確認した成長ぶりから、個体差もあるが、もう早々遅れを取るようなことはないだろうとは思っていたが、よもや此処まで至っていたのかと今度を別の意味で俺が息を呑む番だった。

 

「どうだ」

 

「さすがだね。ちょっと見ていない間に凄い成長をしていて驚いたよ」

 

「へへ、まーな」

 

 そういった俺にドンは表情を綻ばせながらはにかんだ笑みを浮かべるのだった。

 

 




 実は、まだ続くんですが、ほら印刷した紙を見ながら手打ちしていると増えたり減ったりするアレ現象に悩まされたり、GOに登場するミニリュウとイーブイが余りにも可愛いビジュアル過ぎて、そのどちらかだけでも絡ませられないかと考えたりしていたら書き溜めていたものから練り直しが必要か・・・ なんて思ったりしていたら筆は止まるしイロイロ大変でした。

 もっとも、それよりも本当に素敵な文章を書く作者様(ギャグにせよ、シリアスにせよ)が多くて、その内容に勝手に打ちのめされていたのが最たる理由だったりもしますが。だから、ポケモンに嵌っていたから筆が止まったとか、きっと気のせいだから。たぶん。

 あと当然ですがメタリオンも完全に捏造してます。というか、これくらいないとリターンにはならないだろう・・・ ということで。

 ちなみに幻想金属にはミスリルも含ませようか考えたんですが、その起源を調べてみると登場は意外と最近のこと過ぎて、ちょっと微妙かなぁ・・・ と思ったので敢えて外しました。なので特に他意はありません。

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