次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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 初投稿です。。

2016/11/05:
 [1] 本文表記の統一と誤記の修正。
 [2] 本作のタイトルともなっている『次元跳躍者』が連想できそうな文言を追記。
 [3] あとがきの削除



【『新大陸紀行』執筆編】
001:始まりは暗黒大陸?


 暗く、昏く、どこまでも続く底が見通せぬほどの闇の中、自由を失った身体は、コポコポと水に沈むかのように抗うことなく底へ底と向かって堕ちていく。もはや何度目になるかも分からない自由の利かない身体のまま漆黒の孔に引きずり込まれる中にあって、それでも意識だけはハッキリとしていた。

 

 ここには全てがあるが、何も無い。矛盾するセカイ。なるほど、ここが『 』なのだろうと思った。

 

 ――同時に、また()()()()()()()()()()とも。

 

 一度、この闇に捕らわれれば、殺がれ、削がれ、砕かれ、溶ける。融けて、混ざって、『一』になる。それまで保持していた己の意識や記憶などは容易く塗り潰されて消えていく。全ては『経験(きろく)』と『知識(ちくせき)』に置き換えられていく。そして散って融けていたものが、また集まって再始動。闇は、その下地を作り出す。

 

 本当に『死』というものがあるのなら、それが全てのものが迎える終わりだというのなら、俺も早く楽になりたいと何度思ったことだろう。

 

 けれど、この身にそれは許されない。欠片となって割れた筈の身体は闇に溶けてなくなることなく、まるで何事も無かったかのように『一』へ戻った。これが、かつてユメを望みそれを叶えてしまった愚者の辿る末路。終わりが無いのが終わりの始まり。否、ユメとして望んだものが、この結末なのか、或いは()()()()()()()()のか、それは俺には分からない。『経験』を紐解いても、『知識』を翻しても、そこに疑問の答えは得られない。

 

 ――一体、何度繰り返せば(罰を受ければ)許される………

 

 ―――この犯してきた罪は、どう贖えば赦される………

 

 ―――こんな筈ではなかった。こんな筈では………

 

 ―――こんなことになると知っていたなら永遠など求めずにいられたのに………

 

 ―――何故、永遠なんか求めた? 解らない、もう思い出せない………

 

 ―――完璧に引き継がれるのは、この魂に刻んだ記憶(痛み)だけ………

 

 ―――その記憶(痛み)から生まれるのは嘆いても取り返しのつかない罪の意識だけ………

 

 

 * * *

 

 

 ―――かつて滅ぼした世界(次元)がある………

 

 ―――似たように汚された世界(次元)を滅ぼしたことがある………

 

 ―――救えたかも知れない世界(次元)でさえ、あらゆる抵抗を無視して滅ぼしたことがある………

 

 ―――そして、その因となった『諸悪の根源』『この世の全ての悪』と呼ばれた世界(次元)を滅ぼしたことがある………

 

 ―――その果てで出会い、最期の時に駆けつけることも叶わず、救うことが叶わなかった同類()がいた………

 

 ―――皆、死んだ。良いヤツも、悪いヤツも、好きなヤツも、嫌いなヤツも、同等にチカラを振るうヤツも、弱いヤツも、みんなが皆、平等に死んで(消えて)いった………

 

 ―――でも俺だけが死ぬことがなかった(消えることがなかった)。俺だけが未だに終わらない旅を続けている………

 

 ―――次は、きちんと終わることが出来るのだろうか………

 

 どこか他人行儀に後悔の念を募らせながら、意識が急速に沈んでいく感覚に捕らわれる。どうやら『次』が始まるらしい。ここでなら『痛み』も、『苦しみ』も、『悲しみ』も、何もかもを感じられずにいられるのに。しかし、それは許されない。罪には罰を。永遠を求めた愚者には、それに相応しい結末を。何度も何度も繰り返させる。それが、それこそが『 』の決定だ。

 

 

 * * *

 

 

 ――ズゥン

 

 異常に重い圧迫感に襲われたことを契機として闇に沈んでいた意識が僅かな痛みと供に呼び起こされる。辺りは相変わらず真っ暗ではあるが、どうやらそれは俺自身が何か、とてつもなく巨大な何かに圧し潰されるいるかららしい。

 

 ――ズズズ

 

 圧し潰される感覚は現在進行形で強さを増していくが、この身が、この程度の圧力に耐えられないわけも無く。圧し潰されながらも僅かに自由となる手足に力を込めて原因となる障害を力任せに押し返した。

 

 ――キュウゴゴゴォォォォォ

 

 けたたましい鳴き声とともに俺を圧し潰していた何者かが横に倒れるのを見た。頭を振って身に付いた土を払い、鳴き声のする方向へ目を向けると『前生』においては見たことも無いほどの大きさの恐竜にも似た6本脚の獣が横倒しになっているのが目に映った。どうやら俺を圧し潰していたのは、その恐竜の脚だったらしく、力任せに押し返した所為でバランスを崩したようだ。

 

 ただ、真に驚くべきは、その横倒しになった恐竜よりも更に一回り以上大きいオットセイにも似た獣が大口を開け、その恐竜の体へ牙を突きたて、捕食し始めたことか。呆気に取られいた直後、更に驚くべき展開が俺を襲った。

 

 ――ズドォォォォォンンン

 

 恐竜の鳴き声なんかよりも更に大きな音を立てて地中から空へとその身を投げたのはワーム型の生物。大きさだけなら先のオットセイの様な生物よりも更に2回りも3回りも大きいだろうソレは、空を飛ぶ奇怪な蛾の様な生物に狙いを定め一口でパクリと丸呑みにしてみせた。

 

「な、なんだ? ここは?」

 

 目まぐるしく切り替わる展開に思わず出てきた言葉は正直なもの。もう数えるのも億劫になるほど繰り返してきた人生(悪夢)の続きに呆然としながらも、現状、自分が置かれている世界の全貌に当たりを付けるべく、脳内では目まぐるしく積み重ねてきた記憶と経験の中から該当しそうなキーワードを探し出す。

 

 時間にして僅か数十秒。その数十秒の間にも迫ってくる巨体の生物群の動きや環境の変化に合わせて身体を動かし危機を回避する。そして漸く思い当たった世界の名は――

 

「グルメ界?

 い、いや、しかし。幾ら記録に残る情報と照らし合わせてみても、グルメ界中を見て回った中に、こんな生物たちは居なかったような?」

 

 誰に対してでもなく確認のように呟いてみるものの現状が変わる訳も無く、もしかしたら記憶から零れ落ちているだけで居たのかもしれないと考えることにする。

 

 しかし、1つ前の生ではギr■■■■■(思い出せない)の教育係を経て、成長した王を見守り、時に嗜め、供に過ごした黄金の日々。気がつけば、王が連れてきた友だというエr■■■■■(思い出せない)も一緒になって国を栄えさえた輝かしい日々。それが一転して、こんな訳の分からない秩序無き環境が秩序と言わんばかりの世界に飛ばされることになるとは思っても見なかった。はて、前世の最期となった原因は何だったか? それすらも思い出すことは、この状況では叶わなかった。

 

『バォォォォォ』

 

 鳴き声に振り向くと今度は先程までの巨大な生物に比べたら随分と可愛らしい(それでも、かなり大きいが)象のような生物が群れを成してこちらに迫ってくるところだった。どうやら俺を餌とでも思っているらしいが、残念、これでも永遠を生きてきた「化物」の称号は伊達や酔狂では名乗れない。ひとまず、いい加減に落ち着きたくもあるから止まってもらおう。

 

【ここ」「では」「動けない】

 

 いつか気が付いたときには扱えるようになった、その統一言語(チカラ)を行使して迫る獣どもの動きを強制的に停める。対象となった範囲から漏れたらしい後方から突き進んでくる獣たちは先頭で止まったままの獣たちへ次から次と突っ込み阿鼻叫喚の惨状を目の前に繰り広げ始めるが、しかし、このままでは何れ止まっていない獣がコチラに到達するのは時間の問題だろう。他にも俺を狙っていそうな多くの生物の気配が周りから感じ取れる以上、同じことを繰り返すだけでは意味が無い。ならば俺が「化物」たる所以を見せ付ける次の行動は、この辺り一体の生物全てを屠ることに他ならない。

 

「さて、食事と行こう」

 

 そう呟き俺は辺り一帯の大気を根こそぎ食らった。

 

 ―絶滅の呼吸(デストロイ・ブリーズ)

 

 俺が呼吸という名の食事を済ませた、その瞬間、辺り一帯の木々や草花は次々と枯れ斃れて散っていき、地上に、或いは、空を渡る生物は、その悉くが地に堕ちて、その活動を止めた。

 

 これは、かつてグルメ界と呼ばれる此処とは似て非なる場所で見た馬王の行う食事(それ)の真似事。俺の行う大気食は、馬王の行う食事の規模とは比較するべくも無い極小の範囲に限定されるが、それでも俺に大気を喰らい尽くされた空間は半径にして数十キロにも及ぶ。

 

「美味い。よもや大気だけでこれほどとは思いもよらなかった。前世、彼の王と、その友と駆け抜けた時代、神代の時に味わったものに勝るとも劣らぬ素晴らしい大気だな。穢れが、全くない」

 

 これまで幾度か行ってきた大気食では感じたことのない「旨み」に充足感を覚え、身体全体に力が漲っていくのを感じる。そして次に俺が行ったのは身体に取り込み切れなかった、或いは、排泄とも言える穢れを多分に含んだ大気の放出。先程まで晴れていた空は一気に澱み黒々とした雲が空を覆い始めるが、俺はそんなことを気にすることもなく、本能に従い、もっとこの美味い「大気」を思う様に食い漁りたいという欲求にかられる。それを止めたのは空から降ってきた「劇毒の雨」だった。

 

「マズったな………

 久々の食事だったからウッカリしてた。とりあえず、此処から移動しないと食休みがてらに情報の整理もできないな」

 

 そう呟き、大気食(この方法)による食事は周りへの悪影響が甚大であることから繰り返せば抑止力(ガイア)が動き出しかねない自体であることを思い出し、そうなると面倒だと今後は自重するように心に決めた。

 

 この世界は俺に何を与えてくれるのだろうか。

 

 願わくば、ここが嘗て『暗黒次元』を支配した荒廃の王。その志を継ぐものたちに暗躍され黒く汚され、穢され、腐敗し、死を撒き散らす存在が蔓延ることのない世界(次元)であらんことを。

 

 そうであれば、俺は、かつてそうしてきたように、この世界も同じように滅ぼさねばならなくなってしまうから……… それだけは、それだけは嫌だ。ふと、そんなことを考えてしまった。


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