『雄英』入学二日目。
個性把握テストを乗り越えた俺達の前に”彼””はやってきた。
「わーたーしーがー‼普通にドアから来た!」
№1ヒーロー”オールマイト”。
オールマイトは世界で一番有名なヒーローであり最強と呼ばれるヒーロー。
平和の象徴とされる彼は今年から雄英高校の教員となった。だから、俺は何時か生でオールマイトが見られる日が来ると楽しみにしていたが、まさかこんな早くに会えるとは思っていた無かった。
正直言えば、俺はオールマイトに憧れている。
オールマイトのヒーローとしてのチカラは俺が目指すべきものそのものだった。
オールマイトのチカラは圧倒的なスピードとパワーと耐久力。
そんなシンプルな強さは、実は俺の”個性”と似ていると思っていた。
勿論、オールマイトはスピードもパワーも耐久力もゴキブリのそれとは比べ物にならない位に高い。
しかし、”
「オールマイトの”個性”がわかれば色々勉強になると思うんだけど…オールマイトは”個性”を公表してないからな。本当に謎だ。”怪力”とか”ブースト”とかか?あるいは俺みたいに別の生物のチカラを使えるのかもしれない。…
南米に生息するらしい最強の蟻にして最強の昆虫。自重の100倍の重さを牽引ではなく
「……まあ、ともかくオールマイトから学ぶべき点は多くある。真面目に授業を受けよう」
そう決めて前を向く。
しかし、オールマイトが行う授業は俺にとってはあまり気が乗らないものだった。
戦闘訓練の授業。どうあがこうと俺の”個性”が人目に触れてしまう。
唯一の救いは戦闘服《コスチューム》だった。
『
入学前に「個性届」と「身体情報」を提出すると学校専属のサポート会社がコスチュームを提供してくれる素敵システム。
要望を添付することで便利な最新鋭のコスチュームが手に入るその制度に、俺は切実な要望を書き連ねた。
・生えてくる触覚と羽と
・頑丈な甲皮があるのが全身を覆うデザインを希望。フルフェイスも必須。全身を覆い隠せるようにしてほしい。
・全体的に黒っぽさを感じさせない爽やかなデザインを希望。
・湿っぽさを感じさせない爽やかさが欲しい。
・出来る限り爽やかに。例えるなら朝の爽やかイケメンニュースキャスター風の爽やかさを希望。
・爽やかに‼‼
少しでも他人に嫌悪感を抱かせないデザインを強く希望したコスチューム。
それを着てみての感想は、
「………なんじゃこりゃ」
いや。確かに俺は全身が隠れるデザインで爽やかな感じを希望したよ。
けど、真っ白な西洋のデザインの鎧ってどうよ。
確かに童話とかで”爽やかな”王子様が来てるイメージの鎧に兜が付いた”全身甲冑”だよ。
全身は隠れてるし爽やかだよ。
けど、滅茶苦茶、中二病っぽいんだけど。俺、何歳だよ。…15才か。
「おぉ。お前のコスチュームはかっこいいな。白ではなく黒ならより良かったが」
「ん?確か…
「なんだ、お前はもうクラス全員の名前を覚えているのか。すごいな。…すまない。俺は、お前の名前を知らない」
「まだ二日目だもんな。話すのも初めてだし、別に気にしないよ。俺は黒山光だ。これからよろしくな。常闇」
「ああ、よろしく。…にしても、黒山のコスチュームは西洋甲冑を思わせる良いデザインだな」
「…そうか?正直、恥ずいぞ。全身が隠れるデザインを希望したんだが…緑谷みたいなジャージ素材を希望しとけばよかったかな」
「いや。俺はお前のコスチュームの方が好きだ。黒山、少しこっちに来てみろ」
「なんだ?」
常闇に言われるがまま彼の隣に立つ。
「ほら、こうして並ぶと俺の黒とお前の白のコントラストが良い。
「
「なんだ?黒山」
「…実は俺、嫌いじゃないぜ?そう言うの‼」
「ふっ。そうか」
「俺とお前で
「闇黒!?そうか‼常闇の”闇”と黒山の”黒”で”闇黒”‼…ふっ。悪くない‼‼」
イエーイとハイタッチを交わす俺と常闇。
この後、対人戦闘訓練でのチーム分けの際に俺と常闇が同じチームになった時には
「
「俺達、
「なら、サクッと勝ってやろうぜ。
「ふっ。そうだな。
オールマイトの授業。屋内での対人戦闘訓練の第二戦目。
俺と常闇は何やら異様なテンションで用意された会場、五階建ての雑居ビルの中で配置についていた。
「くっくっくっ」
「ふっふっふっ」
俺と常闇は互いに不敵な笑みを浮かべながら顔に影を作り芝居がかった動きで雑居ビルの中を移動する。
なぜ、俺達がこんな状態なのかと言うと、単に第一線目の爆轟&飯田ペアvs緑谷&麗日ペアの戦いの熱に当てられたからだ。
声の聞こえない状態でのモニター越しながら、二人の戦いの熱は観戦していた俺達に熱いほど伝わってきた。
爆轟も緑谷も俺にとっては中学の同級生。
そんな二人の熱い戦いを見せられて、その熱に当てられない訳がない。
そしてそれは俺だけでなく、あの戦いを見ていたクラスメイト全員に言えることだった。
ヒーローを目指す者が、熱くならない訳がない。
故に変なテンションになっている俺と常闇。
しかし、俺達は変なテンションながら、冷静だった。
「…さて、
「然り。故に俺達に求められるのは冷静さと迅速さ。こうしている間にも奴らは核兵器(偽)を確保する為に---」
瞬間。雑居ビル全体が凍り付いた。
「なん…だと…‼?」
対人戦闘訓練の会場である雑居ビル全体を凍りつかせる程に強大な”個性”。
それを見た瞬間、俺は敗北を悟る。
それはビルが凍り付くと同時に足元が凍らされ身動きが取れなくなったからではなく、ただ単純な肌で感じる冷気が理由。
「…くそっ、悪い。
「
そういう常闇から黒い影で出来た獣の様なモノが出てきて、凍らされていた俺達の足下の地面を砕く。
足は自由になった。
しかし、
「そうじゃない。悪い。本当に、ごめん」
「黒…」
その生物は外気温が20度以上で活動を始め、25度を超えると更に活動が活発になる。
それはつまり
現在、雑居ビル全体の室温は吐いた息が白くなる温度。約13度以下。
---活動範囲外気温である。
「………俺はもう、戦えない」
「………そうか。わかった。気に病むな、黒。お前は何も悪くない」
「っ、悪くなくは、ないっ!俺が、俺の”個性”がっ!」
「俺の”個性”もピーキーだ。割とあっさり制御できなくなる。今回は、お前がそうだったってだけだろう」
「だが!そんなこと!ヒーローは言っちゃいけない筈だ!」
出来ない。
無理だ。
相性が悪い。
「『だからどうした』。そう言えるからこそのヒーローだ」
「そうだな」
「なら…」
「そう言える様になるために、俺達は『雄英』に来た。俺達みたいな”個性”を持つ人間に、”個性”の制御は絶対に必要。いや…必然。故に俺達は『雄英』に来た。運命でなく、自ら選んでだ」
「………常闇」
「時間はある。ヴィジョンは見えている。学べば、良い」
だから、ここは任せろと常闇は俺に背を向けて歩き出す。
「………くく、そうだ。そうだよな。俺達はまだ15才だ」
焦る必要はない。
どうやら俺は緑谷と爆轟の戦いの熱に自分で思っている以上に当てられていたようだった。
ヒーロー見習いの入り口に立っただけの俺が、ヒーローの在り方を説くなんてお笑い草だ。
冷静さを取り戻した俺は常闇の背に笑いながら声をかける。
「闇、任せた。悪いけど、頼む。闇黒コンビの初戦闘を無様な形で終わらせないでくれ」
「ああ、それはかまわないが---別にアイツらを倒してしまっても構わんのだろう?」
「…勿論」
「…ふふふ」
常闇踏影の個性。『
獣の様な影による全方位中距離への対応。
間合いに入らせない射程範囲と素早い攻撃は脅威。
しかし、それも霞んでしまうほどの”個性”はある。
「常闇。お前は二人相手によく持った」
個性―
右で凍らせて左で燃やす!範囲も温度も未知数!強すぎ‼
「…その傷で二人を相手に退かないとは…友との約束を果たしたい一心か。呆れた男だ」
個性―
六本ある
「二対二の対人戦。俺の初手でお前のペアが戦闘不能になった時点で、お前達のチームの敗北が決まっていた。常闇、そこをどけ。もう十分だろ」
「………」
「…お前は一人でよくやった。この結末を無様だなんていう奴はいないだろ。お前は黒山との約束をしっかり果たしたと思うぞ」
「…やはり、俺と黒のやり取りは筒抜けだったのか。いや、こうして
「ああ、障子の”個性”で悪いが筒抜けだった。黒山は寒い場所では動けない。だから、こうして俺達は二人でお前を--「よかった」---どういう意味だ?」
「お前たちが黒の話を聞いていてくれて。そして、黒の動きを追い続けていてくれなくて、良かったと言った!」
「っ!?障子!黒山がどこに居るか調べろ!」
「もうやっている‼」
障子目蔵は六本の触手の先端を全て耳に変え黒山光の居場所を音で調べる。
黒山光が今どこに居るのか答えは---すぐそこ。
「轟----お前の真下だ!」
突如、轟焦凍の立っていた床が砕け、下から黒光りする腕が現れる。
轟焦凍はすぐさま右腕から冷気を出すが黒光りする腕は轟焦凍の足首を掴んで離さない。
「…くっ、どうして」
その生物は外気温が20度以上で活動を始め、25度を超えると更に活動が活発になる。
現在、雑居ビル全体の室温は吐いた息が白くなる温度。約13度以下。
---活動範囲外気温。
「お前は動けない筈じゃ…」
否である!
一般的には冷気に弱いとされるゴキブリだが、劣悪な環境に容易く適応してこそのゴキブリ!
現に1990年代初頭のシベリアで氷点下の地でも活動するゴキブリ種が確認されている!
「確かに寒いけど…もう
筋力。瞬発力。繁殖能力。
その生物の優れている点は数多くあれど、何より秀でている能力は適応力と生命力である。
人類が誕生する遥か昔、三億年前から生息し今なお生息地を拡大し続けているその生物の適応力と生命力は生物界屈指!
「じょうじ」
「…すげぇな」
下の階から掴んでいた轟を投げ飛ばす。
咄嗟に受け身を取った轟が次に見たのは、床をぶちぬいて現れた白甲冑。
つまりは俺。黒山光。
「じょうじ」
「すげぇな。…(すげぇパワーだ。黒山の”個性”は…甲冑の隙間から所々見える黒い甲皮に羽。おそらく昆虫系のナニカ。だが、何の虫だ?この寒さで活動できる虫なんているのか?それを悟らせない為の全身甲冑か)」
轟は俺の姿を捕えて一考した後、直ぐに立ち上がる。
そんな轟のバックアップを行う為に直ぐに障子が轟の傍まで駆け寄ってきた。
轟には強力な”個性”だけじゃなくそれに見合うフィジカルもメンタルも揃っている。
勝ちを確信した後から打たれた奇襲に動揺するのは一瞬で直ぐに冷静さを取り戻していた。
…どこかの
いや、だめか。冷静に戦える爆豪なんて、厄介なことこの上ない。
「…ほんと、すげぇな」
「そうか?俺の”個性”はシンプルな増強型とあまり変わらねぇ。違うのは羽が生える位だ。正直、この四人の中じゃダントツで地味な”個性”だと思うけどな」
すげぇとつぶやく轟の発言にそう返した俺だったが、どうやら轟が言いたいのは”個性”のことじゃなかったらしい。
「お前の”個性”が何かも気になるが…俺がすげぇと思うのは別のことだ」
「別の事?」
「ああ、だが、あんま長く喋ってはいられない。このままじゃタイムアップで俺達の負けだ。行くぞ、障子」
「ああ」
「っ、奇襲で決められなくて悪い。来るぞ、闇」
「気にするな、黒」
屋内での対人戦闘訓練第二戦は第一戦目に負けずとも劣らない激闘の末、俺と常闇の
訓練終了後のモニタールームでの講評にて
「お疲れさん‼今回のベストは………うぅ~ん!先生悩んだ末に轟少年に決める!何故だか分かる人!」
「はい」
「はい蛙吸君!」
「轟ちゃんの初手はすごかったわ。ビル全体を凍らせて、仲間を巻き込まず核兵器にもダメージを与えないでなおかつ黒山ちゃんも弱体化したんですもの」
蛙吸の言葉に各所から最強じゃねぇか!とツッコミが入る。
うん。俺もその通りだと思う。あの爆豪ですら、轟の実力にはショックを受けている様子だった。
「概ねその通り!その上でその後の対応もよかった。障子少年への的確な指示に奇襲への冷静な対応!素晴らしい!では、次になぜ先生はそんな凄い轟少年が居ながら今回のベストを決めるのに悩んだのでしょーか!わかる人!」
「はい!オールマイト先生!」
「八百万君!初戦に続きやる気十分だね!どうぞ!」
「それは他三人もレベルが高かったからです。轟さんをサポートした障子さん。二人を相手に時間を稼いだ常闇さん。策を張り奇襲を仕掛けた黒山さん。轟さん以外の皆さんもベストと呼べる行動と対策を行っていました」
「そのとおり!では先生から続けて八百万君に質問だ!仮に轟少年以外にベストを選ぶ場合、先生は三人の内の誰を選ぶと思う?」
「轟さん以外、それは…黒山さんと常闇さんです」
「黒山少年と常闇少年の二人かい?その理由は?」
「それは、お二人の連携も素晴らしかったからです」
クラスメイト
「常闇さんがヒーロー側チームの二人と戦って時間を稼いでいる間に、戦闘不能になったと思わせた黒山さんが寒さに適応して奇襲をかける。策としては単純ですが、黒山さん達はそれを言葉も無しに行いました。あの場面、ヒーロー側は障子さんの”個性”を使って敵チーム側の会話を聞いていた筈ですのに、黒山さんの奇襲はヒーロー側に気がつかれることはなかった。つまり何らかの隠語または言葉以外で意思の疎通を図ったという事ですわ。長年コンビを組んだ間柄なら兎も角、クジで決められた即席のコンビでそれを行った連携は素晴らしいものです」
「そのとおり!プロは何時如何なる時に誰とでも連携し最高の結果を出さなきゃならない。そういった意味で黒山少年と常闇少年の連携はプロでも通用するレベルだった。あの短時間で当人達以外の誰にも気づかれることなくどうやって意思の疎通を図ったのか興味が尽きないな!」
ハハハ!と笑うオールマイト。
「そうだ。黒山。俺が戦闘中にすげぇって言ったのは、お前たちの連携についてだ。どうやったんだ?」
「気になるな」
同じ中学とかでもないだろと首を傾げる轟と俺もそれが気になると六本の腕を上げる障子。
それに便乗するようにクラスメイト達が俺と常闇に詰め寄ってくる
「今後の為にどうやって連携を図ったのか、ぜひご教授してください」
「黒山ちゃん。常闇ちゃん。私も教えて欲しいわ」
「男同士の友情って感じで熱かったぜ!」
「凄いよーーー」
「優雅がではあったね。ボクの方が優雅だけどね」
詰め寄ってくるクラスメイト達。
俺は真相を話すべきかと常闇に目配せをしたが、常闇は全力で首を横に振っていた。
ああ、そうだな。俺も出来れば言いたくはない。
まさか、俺と常闇が連携の為に使った隠語が、中二病要素を全開に盛り込んだ18禁ゲームのネタだなんて言える筈がない。
常闇が轟達二人との戦いに挑む前に言った。
---「別にアイツらを倒してしまっても構わんのだろう?」---
この台詞は時間稼ぎを命じられた一人の弓兵の台詞。
それに「勿論」と返した俺の意図は時間さえ稼いでくれれば、どうにかしてやるという意味。
正直、通じるか怪しかったそれは通じた。
それはつまり、常闇と俺は同じゲームをプレイしたことがある同志という意味。
しかし、それをクラスメイト達の前でカミングアウトするのはまずい。
なにしろ俺達はエロゲをプレイしたことがありますと言うようなもの。
それは不味い。今後のクラスでの立ち位置が決定づけられてしまう。
いや、けど違うんだ。
あのゲームはエロとは要らない位に面白いんだ。
だからエロを抜いてコンシューマー化されたのがヒットしたりしてるんだ。
なんでエロゲ?なんてタグが付くんだ。
詰め寄ってくるクラスメイト達に混乱する俺と常闇は、思わず口をそろえて答えた。
「「「なんで?」」」
「闇とは運命《さだめ》を感じたから!」
「黒とは運命《さだめ》を感じたんだ!」
どちらにせよ、俺と常闇のクラスでの立ち位置が決まったらしかった。
※でテラフォーマーじゃゴキブリに見えなくない?という意見を頂いて、ああ、うん。
言われてみればその通り!と思った。
なので主人公の完全変身時の姿は…みなさん、まずはゴキブリを思いうかべてください。
ここ数年見ていない方または寒冷地にお住まいの方はゴキブリで画像検索してください。
生理的嫌悪感を感じる虫が頭に浮かびましたね?
それを二足歩行の人型にしてください。
それが主人公です。
・・・寒気がする
ちなみに氷点下の地で活動が観測されたゴキブリ種。そんなものはいません。捏造です。
シベリアの冷蔵庫の裏にはいるかもね!