---最強の生物を知っているか?
始まりは中国。”発光する赤子”が生まれたというニュースだった。
以降、世界各地で”超常”は発見され、原因もわからないまま時は流れた。
そして、”超常”が”日常”に代わり、”
世界総人口の約八割が特異体質を持った世界で、その特異体質は”個性”と呼ばれた。
そんな世界で中学生が憧れる職業はと問われれば、答えは決まっていて---
「えー!おまえらも三年生ということで‼本格的に将来を考えていく時期だ‼今から進路希望のプリントを配るが皆‼---だいたいヒーロー科志望だよね」
「「「「ハ----イ」」」」
学校内での”個性”の使用は禁止されているのに”個性”を使い個性的な返事をする
しかし、担任、てめぇは駄目だ。煽る様な言い方してんじゃねぇよ。
そんな言い方をするから乗っかる
「せんせえー、”
ほら、見ろ騒ぎ出したと俺は呆れた溜息を洩らしながら顔を横に反らす。
窓の外から見えるのは木の枝にとまる小鳥が二羽。せめてあの小鳥達の十分の一位の和やかさが爆豪にあれば俺もアイツと仲良くできると思うんだが、机に上に立ち「オールマイトを越えるぜぇ‼」と爆笑する爆豪をみて無理だと悟る。
志望校が『雄英高』?国立で偏差値が79のエリート校のA判定がとれるのはすげぇと思うよ。けど、
馬鹿笑いを続ける爆豪。そろそろ止めろよと担任を見れば奴は何を思ったか前に提出した一回目の進路希望の紙をまじまじと見ていた。
おい待て止めろ。マジでやめろ。
「そういや緑谷も『雄英』志望だったなぁ」
---教室から音が消えた。次いで消えてくるのは、爆笑、侮り、嘲笑。
その全てが隣の席の緑谷出久に向けられた。
「はあぁ!?緑谷ぁ!むりっしょ‼」
「勉強が出来るだけじゃヒーロー科は入れねんだぞー!」
「”無個性”の癖に馬鹿じゃねえのかー!」
「…ちっ」
簡単に他人の夢を笑うんじゃねぇよ。
「こらデク!”没個性”どころか”無個性”のてめェがあ~、なんで俺と同じ土俵に立てるんだ‼?」
「待っ…違う、待って、かっちゃん。僕は只、小さいころからの目標で、だから…」
隣の席だと言うだけで俺は緑谷とは親しくない。
けれど、緑谷への誹謗中傷があまりに醜かったので俺は静かに手を上げていった。
「先生。そういうのを発表するならしっかりとやってください。今年この中学から『雄英』を受験するのは爆豪と緑谷と--―俺でしょう?」
「はぁっ!?」
爆豪の視線が緑谷から外れ俺に向く。
「なんだ黒山!てめェも『雄英』を受けんのか‼」
「ああ」
「おいおい、黒山あぁ。デクと同じ”無個性”の分際で『雄英』を受けるとかよ。お前、頭湧いてやがんのか?」
「俺の進路をお前にとやかく言われる筋合いはねぇ。それと爆豪、何度言えばわかんだ。俺は”無個性”じゃねぇ。何回言っても覚えられねぇとか。お前、頭湧いてんのか?」
「ああぁん‼やんのか糞虫けら野郎が‼」
「おいおい、受験生。離せよ。学校で”個性”の使用は禁止だろ。内申書に傷ついたら大変じゃねぇかなぁ?」
「ちぃっ‼‼」
「ふ、二人とも止めなさい!」
担任によりとりあえずその場は治まった。
その日、一日中、爆豪は俺を殺す気の視線で睨んできた。みみっちい奴である。
帰り道。緑谷に話しかけられた。
「あ、あの。黒山君。さっきは助けてくれて、その、ありがとう」
「別に助けた訳じゃないよ。俺は『雄英』を受験するのは本当だし、それを言っただけだろ」
「でも、あの後、かっちゃんにすごい睨まれてたよ。明日からかっちゃん、黒山君にもきっと色々突っかかってくるよ」
「まあ、それは大丈夫だ。俺は魔法の呪文を使えるからな」
「魔法の呪文?」
「ああ、爆豪の”個性”を黙らせる強力な奴だ。お前も知りたいか?」
「かっちゃんの”個性”も黙らせる呪文。それが黒山君の”個性”なの?教えて!」
「『内申に響くぞ』」
「…」
「…」
「…プっ」
「…プっ」
「「あはははは‼‼」」
「黒山君って面白い人だったんだね」
「そんな高度なギャグじゃないけどな」
「………ねえ、黒山君。そのさ、こうして君と話せたら聞きたいと思ってたことがあったんだ」
「なんだ?」
「黒山君の”個性”って、なんなのかなって。黒山君は今まで一回も”個性”を使ったことがないでしょ?その所為でかっちゃんも皆も黒山君のことを”無個性”だって言ってた。けど、黒山君は”無個性”じゃないんだよね?」
「…ああ、俺には”個性”がある」
「それがどんな”個性”か、聞いてもいいかな?」
「…ごめん。緑谷。それは言えない」
「あ…、ううん。僕こそごめんね。ずっと黒山君は”個性”を隠してたんだもんね。言えない理由があるんだよね。それなのに、僕ってば少し仲良くなったからって---
「違う」
---黒山君?」
「俺の”個性”が教えられないのは、俺が誰にも教えたくないからだ。俺が”個性”を使わないのも、俺が使いたくないからだ。緑谷だからとか、そういうんじゃない。---俺は決めているんだ」
「何を決めているの?」
「俺が”個性”を使うのは誰かを助ける時だけだって」
「…どうして?」
「そうしなきゃ、きっと俺は、悪者になってしまうから」
群英高等学校。一般入試試験。実技会場。「C」
ターゲットA。一ポイント。
ターゲットB。二ポイント。
ターゲットC。三ポイント。
ターゲットⅮ。〇ポイント。※お邪魔ギミック。
受験会場として用意された「
ターゲットⅮは零ポイント。会場内を暴れまわるお邪魔ギミック。戦闘は避けるのが無難。
全国屈指の難関校にしては単純な実技試験。
出来る限り”個性”を使わないでポイントを集める中---俺は油断していた。
だから、反応が遅れた。
---圧倒的脅威っ!
「ターゲットⅮ!零ポイント!」
「まじかあれ!デカすぎるだろ!」
「ビルよりでかいぞ!」
「逃げろ!ポイントは零!戦っても意味がねぇ!」
「潰されるぞ!」
ビルをなぎ倒して進むターゲットⅮ。
速度自体は遅いから素の脚力でも逃げ切るのは難しくない。
けれど---
「…っ、ケロ、油断したわ」
百メートル先で倒れる人を救うには反応が遅すぎた。
---どうする。どうする。
これは実技試験。命の危険は無い筈。
あそこで倒れている女子がターゲットⅮに潰されるなんてことはあり得ない。
---なら、助けなくてもいい。
こんな所で俺の”個性”を使えば、周りに居る全員に俺の”個性”が知られてしまう。
---そんな
俺は倒れる女子から背を向けて---
『何を決めているの?』
『俺が”個性”を使うのは誰かを助ける時だけだって』
『…どうして?』
『そうしなきゃ、きっと俺は、悪者になってしまうから』
「………………………………………………………………くそぉっ!」
緑谷。
卒業間際に仲良くなったクラスメイト。
あの日にお前と一緒に下校しなければ。
お前が一緒に『雄英』に受験なんてしていなければ。
俺はきっと”悪者”になっていた。
「女子ぃぃいいいい!今ぁああああああああ!助けるぞ!」
「ケロ!?む、無茶よ!逃げて!その距離からじゃもう間に合わな---
否!間に合わない筈がない!
誰もが目にした事のあるその生き物の瞬発力は、直接的に人間大のスケールに直すと
---ケロ!?」
女子の身体はターゲットⅮが崩したビルの破片で挟まれていた。
表情を見るに大きな怪我はしていないようだけれど、この瓦礫をどかさなければ女子を助けることは出来ない!
「瓦礫をぉお、ど
「む、無茶よ!あなたの足の速さは凄いけど、この瓦礫は少なくとも500キロ以上あるのよ!私はいいから逃げ---
否!どかせない訳がない!
その生物は瞬発力だけでなく最大筋力においても恐ろしい力を秘めている!
力持ちの代名詞であるカブトムシは
「じょぉおおおおおおおじぃいぃいい‼‼」
---ケロケロ!?」
女子の身体の上に有った瓦礫をどかすことはできた。しかし、やはり女子は少なからずの怪我を負っていて走ることが出来ない状態だった。
そして、ターゲットⅮ。巨大お邪魔ロボは振り上げた腕を今にも振り下ろそうとしていた!
「私は走れないわ。けど、助けてくれてありがとうね。あなただけでも逃げ---
否!大丈夫だ!
何故ならその生物は羽を持ち空を飛ぶ!
「俺に掴まれ女子!」
---ケロ。もう驚かないわよ。それと、私のことは梅雨ちゃんって呼んで」
女子を背負い俺は飛ぶ。巨大お邪魔ロボの攻撃が届かない上へ上へと飛んでいく。
そして、人々は目撃する。
光を反射し黒光りする漆黒の外殻を持ち、凄まじい瞬発力と速さを持ちながら羽を持ち空を飛ぶ。
三億年前から進化をすることなく外敵と戦い続けてきた人間の宿敵を。
その生物の姿はあらゆる人間に嫌悪。憎悪。悪寒。---あらゆる悪意を抱かせる。
その生物の名は----
「「「「「ゴキブリだぁあああああああああああああ‼‼‼」」」」
実技会場に絶叫が木霊した。
「じょうじ。…だから、知られたくなかったんだ!」
「あら?そんな酷い”個性”じゃないわ。私だってカエルだし。ゴキブリって角の無いカブトムシでしょ?」
「…女子。そんなことを言ってくれる女子はお前が初めてだ。よかったら俺と結婚を前提に付き合ってくれないか」
「梅雨ちゃんと呼んで。いきなり結婚とか気が早いわ。あなたは生殖能力もゴキブリ並なのね」
”個性”『
ゴキブリっぽいことが大体できるぞ‼最恐!
続かない。