ゴリラになっちまった   作:ドラ夫

7 / 8
サブタイトルめっちゃ適当。
今回はあまりギャグ要素がないかもしれないです。申し訳ない。
でもゴリラ要素はあるからセーフ?



箸休め回ということでお許しください。


ゴリラ的村人生活

 陽光聖典を退けた後、ガゼフは陽光聖典構成員及び、囮に使われたバハルス帝国の騎士達を装っていた法国の騎士達を連れ、リ・エスティーゼ王国へと帰った。

 ホヒンダ殿はくれると言ったが、あの伝説の武具と呼ぶに相応しい葉っぱと木の棒は丁重にお返しした。

 持って帰ったところで、貴族の連中が「戦士長は既に王国の秘宝を装備している。それなら戦力の拡散をすべき……」などと難癖をつけて、我が物にするに違いない。であれば、かの御仁が持っていた方が良いに決まっている。

 困っている領民を助ける訳でもないのに、何が戦力の拡散か……

 

 

 それにあれ程の装備を持っている事が知れれば、貴族達はこぞってあの御仁に手を出すであろう。

 心優しい国王はそれを止めようと、また苦労を重ねることになる。それはまったくもって良くない。

 タダでさえ、スレイン法国最高機密の六色聖典の一つと、バハルス帝国を装って村々を焼き払った法国の騎士達の処罰という大任を、これからせねばならないのだから。

 本当ならホヒンダ殿やハムスター殿を家に招き、あの味の薄い滋養料理を振る舞いたいのだが……それはしない方が賢明だろう。

 しかし遅かれ早かれ、あれ程の力を持っているのであれば、何かの権力争いに巻き込まれてしまうだろう。

 そうならなければ良いのだが、とガゼフはありもしない可能性を考えながら、馬を走らせた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 リ・エスティーゼ王国の第三王女、黄金ことラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフは考える。

 

 

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフをスレイン法国に暗殺させ、戦力の低下したリ・エスティーゼ王国をバハルス帝国に取り込ませる。

 その際鮮血帝と交渉し、適当な領地を与えてもらい、そこでクライムと二人過ごす。

 それが出来なくともあの鮮血帝のこと、王制を廃止することは間違いない。それに乗じて……などと考えていたが、予想に反してガゼフは帰ってきた。

 ガゼフは死ななかった事を聞いたラナーは、最初落胆した。

 どうして自分とクライムの未来のために死んでくれないのか、まったく無能だ。

 

 

 しかしそれは後の報告を聞いて、その考えは直ぐに覆る事になる。

 ガゼフはただ帰ってきたわけではなかったのだ。かのスレイン法国最高機密の部隊──六色聖典の一つと、スレイン法国が軍事的戦略行為を働いた明確な証拠を持ち帰ってきたのだ。

 それほどの大戦力と戦い、どうして生き残れたのか。何でもトブの森に住む『森の賢王』が彼らを侵入者と勘違いし、陽光聖典に襲いかかったのだという。その混乱に乗じて、一気に攻め込んだとか。

 ──幸運。

 正にそれだ。自分とクライムとの未来を祝福する、幸運。あるいは運命。あるいは愛。

 ラナーは考える。

 これだけの材料があれば、スレイン法国を落とせる、と。

 そんな事は常人なら──いや天才であっても無理だろう。しかしラナーの才覚は天才などという甘っちょろいものではない。

 化け物、おおよそ才覚の示唆に使う言葉ではないが、そう形容するに相応しい。

 ラナーであれば、その細い糸を手繰り寄せ、“正解”を導く事が出来るだろう。

 尤もそれはよっぽどのアクシデントがなければ、の話だが。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ホヒンダは構える。

 地面と平行になる様掌をパーに開き、右手が上、左手が下。両腕の間隔は三〇センチほど。体からは極力チカラを抜き、ユラユラと体を規則的に揺らす。

 ホヒンダがとった構え、それはカンフーのそれである。

 ホヒンダの持つ数多のゴミクラスの中で、数少ない有用なクラスの一つ《格闘家(ファイター)》。その中の派生クラスの一つ、カンフー。

 かつての友、プレイヤーネームとっとこニートの『カンフーゴリラってそれヤバくねwww 映 画 化 決 定』という一言によってとったクラスである。

 ちなみにとっとこニートの実家は超のつく金持ちであり、この時勢にあって珍しい、家から一歩も出ない正真正銘のニートである。

 尤も彼の家は東京ドーム三個分という途轍もない広さを誇っており、様々な設備が整っているため、家から出る必要はまったくないのだが。

 

 

 カンフーゴリラに対し、ハムスターがとったスタイルはボクシングのそれである。

 左手をやや前に、必殺の右手は力強く放つために肘を曲げて。、

 知っててとった構え──ではないだろう。恐らく、野生的な本能から自然にとった構え。しかしそれが、異様なほど様になっている。

 

「参るでござる!」

「ウホッ!」

 

 ハムスターの閃光の様な左手ジャブが走る。

 それに対し、ホヒンダは右手の掌を手首に添えることで動きを逸らし、かわす。

 体制の崩れたところにカウンターの〈ゴリラパンチ〉──要はただの左ストレート──を放つ。それをハムスターは頭を左右に振る事で回避、と同時に死角外から尻尾をふるって攻撃する。

 ホヒンダは後頭部を狙ったそれを〈野生の勘 (攻撃察知)〉で察知し、上体を反らす──リンボーダンスの様な体勢をとって躱す。ハムスターは尻尾が空振りした勢いのまま回転し、足蹴りを無防備なホヒンダの足に向かって放つ。

 それをホヒンダは強靭な筋肉で無理矢理バク転の様に飛ぶことで回避。しかし空中にいるホヒンダに、先ほどより速度の乗った、裏拳の様に振るわれた尻尾が襲い掛かる。

 

「ウホホホッ!」

 

 最初の様に力の抜けた掌を尻尾に添え、軌道を逸らす。いや、逸らしただけでなく、更に勢いをつける。

 その結果ハムスターはその場でコマの様に回り、目を回してしまう。そこに〈ゴリラパンチ〉──要はただの右ストレート──を放つ。

 “ゴツン”と鈍い音が響き、ハムスターの脳を揺らす。思わずハムスターがタタラを踏んだ。その隙をホヒンダは見逃さず、〈ゴリラパンチ〉──要はただの左ストレート──を放ち、更にすかさずもう一度〈ゴリラパンチ〉──要はただの右ストレート──を撃つ。

 

「むん! でござる!」

 

 ハムスターの体の模様が光り、魔法──《ブラインドネス/盲目化》が放たれる。直ぐに抵抗するが、魔法抵抗に薄いホヒンダは一瞬目が目えなくなってしまう。

 その隙にハムスターはホヒンダに接近する。ハムスターの短い手と違い、ホヒンダの手は長いため、この距離では満足に拳を振るうことが出来ない。

 もちろんハムスターはそんな事情は知らないが、野生の勘で“この間合いが自分に有利である”と察する。

 その小さな手からは考えられないほどの衝撃が、ホヒンダの体を揺らす。

 またハムスターの爪は非常に鋭利であり、拳を握っていても、ホヒンダの皮膚を切り裂いていく。

 

 

 この間合いにいては負ける。そう悟ったホヒンダは、多少のダメージ覚悟でハムスターを強引に押し込み、距離を取ろうとする。当然ハムスターはその動きを予想しており、尻尾をホヒンダの体に巻いて距離を保とうとする。

 こうなれば容易に距離をとることは出来ない。

 ──ならば、

 

「ウホーーーーーーーッ!」

 

 逆に接近し、ハムスターの超至近距離で、スキル《威圧》を使う。あまりの衝撃に草原が揺れ、ハムスターの鼓膜を激しく振動させた。

 その隙にラグビー選手の様な構えでハムスターに体当たりをかまし、吹き飛ばす。

 お互い初期位置に戻り、改めて構え直す。するとそこへ、

 

「ホヒンダ様、ハムスター様! ご飯の用意が出来ました!」

 

 エンリの妹であるネムが二人を呼びに来た。

 二匹は構えを解き、ホヒンダはバナナを取り出しネムに与え、ハムスターは自身の背にネムを乗せた。

 

「今日はどっちが勝ったの?」

 

 バナナを頬張りながら、ハムスターの背中に揺られながら、ネムが元気よく聞いた。二匹は我先にと、自分の武勇を答える。

 

「それはもちろん、拙者でござるよ!」

「ウホ! ウホ、ウホホホ!」

 

 ハムスターの言葉に、ホヒンダは首を振った。そして自身の胸を、誇らしげにドラミングする。

 それを見てネムは、訳も分からないまま大笑い。

 

 

 二匹は現在、バハルス帝国の首都──帝都アーウィンタールにある闘技場で戦うために、鍛えている最中だ。

 というのも現在、村では働き手や金銭が不足しつつある。そこで何か案はないかと考えていたところ、昔鮮血帝の大粛清で失業した貴族専門だった商人──今は村で細々と暮らしているヤダム・ペインターが、二匹に闘技場に出場してもらって稼ぐ事を提案したのだ。

 流石に命の恩人にそこまでしていただく訳には……

 と村人達がたじろぐ中、ネムが二匹にその事を勝手に相談。二匹は意外とそれに乗り気で、結果二匹は闘技場に出場する事が決まったのだ。

 

 

 ヤダム・ペインダー曰く今現在の《武王》は歴代で最も強く、恐らくハムスターを凌ぐということ。普通にホヒンダが出場すれば良いのだが、ハムスターがその今代《武王》と戦いたいと言ったので、ホヒンダは第一試合をハムスターに譲った。

 しかしハムスターでは武王に敵わない──ホヒンダが神器級(ゴッズ)アイテムを貸せば恐らく勝てるが、それでは意味がない──ので、ホヒンダがハムスターを鍛える事にしたのである。

 

 

 もちろん全力状態のホヒンダとハムスターでは勝負にならない。

 故にホヒンダは偽りの賢者(マジック・ダミー・トレード)というレベルをMPに変えるアイテムを使い、レベルをハムスターとどっこいまで落として戦っている。

 七〇近くのレベルをMPに変換しているため、今現在のホヒンダのMPは非常に高いが、ホヒンダは魔法を一つも覚えていないのでまったく意味はない。単純に戦力が落ちただけである。

 ちなみにこの偽りの賢者(マジック・ダミー・トレード)は一見強力なアイテムに見えるが、レベルを落とすと高い位階の魔法を使えなくなるので、結果低い位階の魔法が沢山撃てるようになるだけというゴミアイテムである。

 

「頑張るでござるよー!」

「オレ、ガンバリマス」

 

 ハムスターが声を掛けると、畑を耕していたゴブリンが発音の悪い言葉で返事を返した。これはハムスターが《チャームスピーシーズ/全種族魅了》という魔法で従えた、野生のゴブリン達である。

 トブの大森林の西を従えた『森の賢王』がいなくなった事により、調子に乗ってカルネ村を攻めてきたゴブリン達。彼らをテイムし、村の労働力にしたのだ。

 またホヒンダの持つゴミスキル〈イカダ作り〉というスキルを覚えさせ、それを応用して村の周りに木の柵を作らせている。もちろん、材料はホヒンダが〈森との約束〉によって作り出した木だ。

 ちなみに〈イカダ作り〉はホヒンダの持つゴミスキルの中でもぶっちぎりでゴミであり、とった事を末代まで後悔するレベルである。

 丸太を四本、縄を一〇メートル分用意するとイカダが作れるこのスキルだが、そもそも《フライ/飛行》などで空を飛んで海や川を渡れる為本当に意味がないスキルだ。

 そんなゴミスキルも意外なところで役に立ち、柵はもう直ぐ完成予定である。完成次第ホヒンダとハムスターはバハルス帝国に向かう予定だ。

 

 

 しかし今はそんな事は置いておいて、エンリが作ってくれているであろう焼きリンゴに思いを馳せよう。

 二匹と一人は、ゆっくりと夕日で赤く染まる道を帰って行った。料理を作って待ってくれているであろう、優しい姉と両親のいる家を目指して。








『ありえないほどどうでもいいオリキャラ解説』
・ヤダム・ペインダー
昔は貴族専門に商いをする、そこそこの商人だった。ところがハゲ帝が大粛清を行い、貴族達を没落させたことにより顧客がいなくなり無事死亡。多額の借金を背負う。
藁をもすがる気持ちで、闘技場にて大穴である七代目武王の対戦相手に全財産を賭ける。実はこれが八代目武王ゴ・ギンの初試合であり、見事賭けに勝つ。
借金を返済後、もうこんな思いをするのはゴメンだと平和な村で余生を送る事を決心。ハゲ帝がトラウマになったので帝国を出て王国へ、それ以来カルネ村で暮らす。

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