鎧なんて飾りです。   作:C-WEED

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勉強しないと。そう思いつつこれを書いていた私です。とっとと上げないと集中できない気がしたもので。

とりあえず楽しんでいただければ幸いです。
毎度のことながらアホな話ですので過度な期待は……。

8/1 黒祇式夜様、誤字報告ありがとうございます。
3/24 ヒビキ(hibikilv)様、誤字報告ありがとうございます。


第八話

 散歩に行くと言ったきり本田君は姿を消した。安静にしてなきゃいけないのに……私も付いていこうとしたのに……。

 

 本田君の瞬歩はとても早い。同時にスタートしても引き離されるのに、出遅れたこのタイミングではおそらくもう追い付けない。

 

 霊圧の痕跡を辿りながら移動する。そしてたどり着いたのは西の白道門。本田君、外に行っちゃったんだ……。

 

「あんれぇ、今夜は通行人が多いだなぁ」

 

 門番の兕丹坊さんだ。

 

「兕丹坊さん、本田君がここを通りませんでした?」

 

「……本田ぁ? あぁ、副隊長だか? えらく急いだ感じで通ってっただなぁ」

 

 やっぱりか……。

 

「その少し前にゃぁ浮竹隊長達が通ってったがら、多分追っかけてったんだなぁ」

 

 さっき十三番隊の偵察部隊が全滅したって聞いたし、浮竹隊長達はその虚の討伐に向かったんだろうな。本田君は……その手伝い? 隊長が出てるのに? 確かに浮竹隊長は発作があったりするかもしれないけど、本田君が今すぐ向かう必要なんて無かったんじゃ……。

 

「ここで待ってても、良いですか?」

 

「構わねぇだよ」

 

 無事を祈ることしかできないって、辛いなぁ。私がもっと強かったら連れていってくれたのかな。

 

 

 

 本田君が戻って来たのはそれからしばらく経ってからだった。

 傷だらけの志波副隊長に肩を貸しながら歩いてくる。見たところ、怪我はないのかな? ……無事で良かった。

 

 ……あれ? 浮竹隊長の横、本田君と志波副隊長の反対側には朽木さんが居る。……どうして朽木さんが?

 

 

 もしかして本田君が飛び出して行った理由は……。

 

 本田君は朽木さんのことを……?

 

 

 何となく胸が苦しい。

 ……まぁ幼なじみだって言ってたし、大事にするのは当然だよね。私だってシロちゃんのこと大事なお友達だと思ってるし。

 仲間思いの本田君なら余計にそうだよね。

 

 

 そうに……決まってる。

 

 

「おかえり、本田君」

 

 

 

 本田君がこっちを見た。何か言いかけて、本田君は意識を失った。

 

――――――

 

 あれから大変だった。

 なんか恥ずかしくてあんまりルキアの顔見れなかったり、傘も無いのに雨が降ってきたり。一番はホンダムが腰でウィンウィン煩かったので再び始解したら、バックパックから海燕さんの斬魄刀がペッていう感じで出てきたことだ。

 

 雛森? 門のとこで待ってたよ。ハイライト? ハハッ何のことだか。びびって胃が痛くなったりそのまま気を失ったりなんかしてませんよ。ええ、してませんとも。副隊長は伊達じゃないのでね。あんな暗い目を向けられる覚えはありません。そりゃ心配かけたりはしたでしょうけども。そもそも天気悪かったからこう、光の加減がいつもと違ってそう見えただけかもしれないし。

 救護詰所にいるのはあれだ。もともと一晩は泊まる予定だったし。また倒れたとかじゃない。そう、精密検査みたいなのもやらなきゃいけなかったってのもある。何もおかしい所なんてないんだ。うん。

 

 

「すまねぇな、本田」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 救護詰所のベッドの上。違うそういうことじゃない。別のベッドだ。病室が同じなだけだ。

 

「……お陰で目が覚めたよ」

 

 すまねぇってそっちの話ですか。

 

「……俺はただ死んで欲しくなかっただけなので」

 

 この結果がどんな展開を導くのか不安でならないのはここだけの話。アーロニーロが多少弱体化するのが良いのか悪いのか。他にも色々起こりそうで怖い。悪いことばかりではないのは確かだけど。

 

「無事で良かったです」

 

「……ありがとな……ところで」

 

 コンコン、と扉を叩く音が響く。おっと誰か来たようだ。四番隊の誰かかな?

 

「どうぞ」

 

「失礼するよ」

 

 もう、なんか、もう……ヨン様だ。あきれるほど眼鏡。違う違う。眼鏡誉めようって決めたじゃないか。

 

「や、本田君、志波副隊長」

 

「藍染隊長?」

 

「こんな遅くにどうなさったんです?」

 

 何しに……見舞いか。部下思いって大変だな。

 

「見舞いに決まっているだろう。まさか自分の副官が日を跨がない内に再び救護詰所に担ぎ込まれるなんて思わないからね」

 

 じっと此方を見てくる。

 

「確かに休めとは言ったが……好きに動いて良いとは言っていないよ? そもそも今日も安静にしておく筈だっただろう。何か弁明はあるかな?」

 

「ありません……」

 

「ま、まぁ、藍染隊長、俺らは間違いなくこいつに助けられたんです。だから、あんま怒らないでやってください」

 

「はぁ……まぁいいだろう。……今回は、だからね本田君。今後はこんな無茶をしてはいけないよ。数時間前にも言ったが、君は一人じゃないんだ。……まさか僕達じゃ信用に値しないのかい?」

 

 いい上司だ。うん。でもいい人ではない。原作知らなかったらガンガン頼りそう。むしろ俺が雛森ポジションやってたかも。……ないわ。

 

「……そんなこと、ある筈ないじゃないですか。藍染隊長は、入隊した時からずっと、俺の憧れですし、雛森だって、学生の時からの付き合いです。どっちもかけがえのない存在だ。……だからこそ、俺の勝手に巻き込みたくなかったんです」

 

 雛森はともかく、ヨン様に関してはただ純粋に関わりたくないだけなんだけど。俺もなかなか平然と嘘つくね。これも胃痛の原因かな? ……これもヨン様の所為じゃねぇか!

 

「……でも、今後は頼りにさせてもらいますね」

 

 とっとと話を切り上げよう。社交辞令って大事。頼るって言ったけど頼らないなんてよくあることだ。俺は悪くない。

 

「うん、そうしてくれ。……ところで体は問題ないかい? 虚に寄生されて一時は体を乗っ取られたんだろう?」

 

「これから細かい検査をすると思いますが、一旦やった分では特に異常はありませんでした。俺も特に何も違和感とかはありませんね。多分大丈夫だと思います」

 

 何やら考え込んでらっしゃる。あ、メタスタシアってヨン様が作ったやつじゃん。じゃあ霊体融合って知ってんじゃん。ヤバイヤバイどうしよう。何されるんだ俺。もしかして消される?

 

「今は大丈夫かもしれないが、油断してはいけないよ? 何せそんな例はなかなか無いからね」

 

「はい、気を付けておきます」

 

 消されなかった。今は。……海燕さんも居るからか? まぁ考えてもしょうがないか。あぁ、また胃が……。

 

「何か異変を感じたらすぐに相談するんだ。いいね?」

 

「はい」

 

 相談したら返って危険そう。だってヨン様である。光の加減で眼鏡が目を隠してるから余計に怖い。あ、そうだ。眼鏡。誉めよう。

 

「ところで、やっぱり藍染隊長は眼鏡が似合いますね」

 

「あぁ、ありがとう。浮竹から連絡があったときは何事かと思ったが、まさか眼鏡のこととはね。君が話したんだろう?」

 

「はい、不味いことしちゃいましたかね?」

 

 てへへ、と言った具合に申し訳なさそうな顔をしてみる。

 

「いや、構わないとも。別に隠していた訳じゃないしね。ところで、僕が伊達眼鏡だと言うことを君に話した覚えはないんだが、どうしてそれを?」

 

 あっ……。

 ……もうなんか、自分が嫌になる。そうじゃん、この人一言も伊達眼鏡だなんて言ってないよ。怪しまれてるよ。消されちゃうよ。

 目が何を知ってる? って言いたげじゃないか。

 原作で眼鏡外してらっしゃったからですなんて言える筈もない。何で眼鏡の話題出しちゃったかなぁ。あー泣きそう。これで終わりかぁ……。もう適当でいいや。

 

「まぁ藍染隊長は俺の憧れですからね。当然藍染隊長のようになりたいと思うじゃないですか。で、藍染隊長の特徴と言えば多方面に才を発揮する人格者であり、眼鏡をかけておられるということがあります。多方面で活躍するというのは一朝一夕でどうこうできるようなものじゃありませんから、当然すぐに用意できる眼鏡に俺の意識が向いた訳です。銀蜻蛉で似たような形状をした眼鏡を購入し、実際にかけて鏡を見てみたわけですよ。するとどうでしょう。まぁ顔が違うのは当然ですがどこか違和感があったんですよね。そこで藍染隊長に聞いてみれば早かったんですけどそれは何か違うと思った私はちょいちょいお世話になる四番隊に赴き伊江村三席を観察してみたわけですよ。特に収穫はありませんでしたけど。なので今度は伊勢副隊長の所に行きまして、これまた観察してみたんですがどうにもよくわからなくてですね。再び鏡の前で眼鏡をかけたり外したりしたとき気づいたんです。藍染隊長の目の大きさが眼鏡越しでも変わって無かったことに。気づいた後、実際藍染隊長を見て、伊達眼鏡を購入してかけてみて確信しました。藍染隊長は伊達眼鏡だったのだと」

 

 海燕さんやヨン様が何か言っている気がするが知らん。続けよう。

 

「伊達眼鏡だとわかって違和感が取れたわけです。晴れて俺も眼鏡デビュー、といきたかったんですが、ご覧の通り俺は眼鏡をかけていません。理由はわかりますか? この理由というのがまた情けないんですが…………」

 

 

 

 結局この話は朝、卯ノ花隊長が様子を見に来るまで続いた。深夜のテンションって怖い。ひどく眠い。だがこの眠気も生きている証だと思うと何となく心地よかった。

 

ーーーーー

 

 本田正勝。この男が私の予想を裏切るのは初めてのことではない。防御力を高めた虚をけしかけた時もそうだ。入隊時には使いこなせていなかったあの鎧を明確な意思を持って顕現し、戦い、純粋な物理攻撃で撃ち破った。

 

 今回のメタスタシアも最終的な目標からすれば失敗作に過ぎない虚だったとはいえ、十三番隊の偵察部隊を全滅させるなど死神に対してかなり強いことは事実としてある。斬魄刀の吸収と霊体融合。死神に対して圧倒的に優位に立てる能力だ。特に霊体融合はいかな防御力を以てしても抗うのは不可能と言っていい。

 

 にもかかわらずあの男は自我を保っている。体にも特に異常はないという。

 

「おもろいことになってますねぇ」

 

「そうだね。毎回予想を裏切ってくるというのは腹立たしいこともあるが、面白くもある」

 

「消さなくてもいいのですか?」

 

「要、それはまだ早いよ。彼はメタスタシアの霊体融合を受け、それでもなお正気を保っている。これが何を意味すると思う?」

 

「彼の意識がメタスタシアのそれを上回ったということですか?」

 

「そうだね。では、メタスタシアの体はどこへ行ったと思う?」

 

「まだ本田クンの体ん中、ですか」

 

「……!」

 

「その通り。面白いと思わないか?」

 

 虚と死神の融合。思っていたものとは違うが、その一つの形と言える。彼がどのような進化を見せるのか。消すのはそれを見た後でいい。

 

「ですが、彼は何かに気づいているのでは?」

 

「……問題ない」

 

 あの男は眼鏡に異常な執着を見せていただけだ。それだけだ。たまにそういう者も居る。彼がたまたまそういう人間だっただけのことだ。

 

「ところで……僕の眼鏡をどう思う?」

 

――――――

 

「きゃーーーーー!!」

 

 朝の救護詰所に悲鳴が響き渡る。

 方向からして本田副隊長達の部屋だろう。私は様子を見に行くべく日誌を書く手を止めた。

 

 本来であれば日誌を書く作業も昨日の内に終えている筈だったのだが、夕方頃、本田副隊長が担ぎ込まれ、夜になり十三番隊の偵察部隊が全滅という報告、そして死体が担ぎ込まれ、夜中には傷だらけの志波副隊長と安静にしている筈の本田副隊長が再び担ぎ込まれたため、今書くはめになった。

 

 副隊長ともあろうものが言われたことも守れな……いやいや、正義感が強くて大変うっとおし……いやいや素晴らしい人格の持ち主だと思います。

 

 急いで駆け付けると、救護班員がおびえたような顔で部屋の前で座り込んでいた。

 

「何があった!?」

 

「い、伊江村三席! それが……」

 

 確か本田副隊長は昨夜虚に寄生されたのだとか。まさかそれが残っていた……!?

 

 恐る恐る部屋の中を覗き込むとそこには、耳を塞ぎながらベッドに横たわる志波副隊長。そして目の下にクマを作り困ったような顔で立っている藍染隊長。そしてベッドの上で同じく目の下にクマを作りながら、ギラギラした目で何かを語る本田副隊長の姿があった。

 

「藍染隊長? 聞いてますか?」

 

「あ、ああ」

 

「それでですね眼鏡のつるというのは……」

 

 

 私は黙って扉を閉めた。

 

「君、卯ノ花隊長をお呼びするんだ。私ではどうしようもない」

 

「は、はい!」

 

 

 

 その後、やってきた卯ノ花隊長によって場は納められた。何があそこまで本田副隊長を追い詰めたのか知るものはいない。わかったのは本田副隊長が眼鏡に並々ならない情熱を注いでいることだけだ。

 

 それと、とうとう本田副隊長の胃に穴が空いたらしい。

 

 




読んでいただきありがとうございました。

シリアスは無理だって前回言いましたけど、ふざけすぎた感が……ね。楽しんでいただけたならいいんですけど。

次回をお楽しみに……してもらえますように。

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