鎧なんて飾りです。   作:C-WEED

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何とか書いたとはいえ……って感じです。
楽しんで頂ければいいんですけど。

7/24 早速ちょっとだけ書き足しました。zzzz様、誤字報告ありがとうございます。
8/1 黒祇式夜様、誤字報告ありがとうございます。
16/3/1 不死蓬莱様、誤字報告ありがとうございます。


第六話

 五番隊第三席、本田正勝。なかなかどうして、こんな俺でも肩書きが付くとちょっとカッコいいじゃないか。

 だが残念、カッコよさは俺の胃痛と不眠を癒してはくれない。雛森はよく気遣ってくれるが、痛みを止めるのはバファリンの優しさじゃない方であるからして、雛森の気遣いも、俺の胃痛と不眠を止めるには至らない。

 

 吉良と恋次はそれぞれ四番隊、十一番隊に異動した。何故俺を連れていってくれなかったんですか。決まってる、席官だからだ。

 

 

 

 そんなこんなでフラフラしながらも一生懸命働いて、はや一年、この度副隊長に就任することに。

 そんなに手柄を挙げた覚えは無い。今まで副隊長不在でも滞りなかったんだから一人で何とかしろよヨン様。

 

 

 ある日のことだ。

 

「本田君、僕は君に副隊長になってもらいたいと考えている」

 

 我が耳ながら出鱈目な音を拾ったものだ。誰が副隊長だって? ハッ! 笑わせてくれるぜ。

 

「聞いていたかい?」

 

「っ!? すみません藍染隊長、も、もう一度お願いできますか?」

 

「君に、副隊長になってもらいたい」

 

 は? 笑えないぜ。お断りだよ。どうせ貼るカイロよろしく使い捨てにされるんだ。誰がなるもんか。

 

「不安かい?」

 

「はい、辞退させてい「僕から見て、いや、誰から見ても君は十分に副隊長となれるだけの実力を備えているよ」……ですが」

 

「本田君、私も、本田君なら十分副隊長としてやっていけると思う」

 

 なんなのこの人たち。そんなに俺を副隊長に仕立てあげたいのか。ヨン様はともかく、雛森まで……。いやヨン様がそんなに俺に拘る意味もわからんけど。ホンダムか? そんなにホンダムが珍しいか? ……珍しいか。

 

 三席の時点でも思ったけど、どうやら俺は四番隊には行けそうにない。ささやかな夢は所詮夢に過ぎなかった。辛いなぁ。胃が痛い。

 

「か、考えさせて下さい」

 

 

 

 結局、意思の弱い俺が断り切れる筈がなかった。

 

 その日の夢に出てきたホンダムが、「やったねかっちゃん! 仕事と危険が増えるよ!」とでも言わんばかりにサムズアップしてきた。

 流石に腹が立ったので、ぶん殴った。ホンダムはびくともしなかった。俺の拳はレッツパァリィしてる。

 夢でよかった。

 

 

 まぁこんなことがあったわけである。

 

 机に向かって書類とにらめっこ。

 そもそも雛森が副隊長になるべき所をどうして俺にやらせるのだろうか。警戒されてるのか使えると思われてるのか。だめだわからん。ああ、副隊長。そう、副隊長である。あれだ。隊首会とかの時に隣の部屋とかで待機させられるやつだ。黒崎くんがルキア連れて逃げる時に一瞬で倒されるやつだ。いや、待てよ? あの時三人は斬魄刀を解放してたよな。だったらその時は俺も解放するのか? となると一瞬でやられることはないな。いやいや待て待て。そもそも何で俺が黒崎くんと敵対しなきゃならないんだ。俺もルキアの幼なじみなんだから助けたいに決まってるだろう。でも立場的なあれもあるし、恋次は確か黒崎くんに倒されて吹っ切れたんだっけ。俺もなんかそういうの必要なのかな。でもあれ割と深い傷だったし、あんなの食らったら貧弱な俺じゃすぐくたばってしまう。そもそも話を知ってる所為で別に黒崎くんが悪い訳じゃないってわかってるから怒りも糞も無いんだよな。ああ、やる気スイッチとかないのかな。塾の先生に見つけて貰うって言っても……あ、大宇奈原先生に頼んだら見つけてくれないかな。駄目だよなぁ。ああ、胃が痛い。帰りたい。

 

「本田君、ちょっと書類を届けて来てくれないか」

 

「はい! よろこんで!」

 

 

 

 そんな感じで色んな隊に書類を届けている。徒歩で。気分は郵便屋さん。ホンダム発動しながらやったらもっと早いけど、伝書ホンダムとか誰得だよ。

 ヨン様曰く、俺の顔見せも含んでるんだとか。……顔覚えられてもなぁ……厄介事増えそうな気がする。

 

 

 さて次は……十三番隊? うーん、そう言えばルキアに会うの久し振りじゃん。朽木家に行ってから全然会ってないもんな。どんな顔して会えばいいんだろ。海燕殿死んでたら目も当てられないんだが。

 

 

 

 まだご存命だった。よかったと考えるべきなのだろうか。……うん、よかったよかった。もしかしたら死なないかもしれないし。実際に十三番隊見に行って思ったけど、やっぱあの人達いい人だね。いや、五番隊の人も隊長除けば皆基本的にいい人だけど。なんかレベルが違うっていうかね。

 

 ルキアとも少しだけとは言え久し振りに話せたので良かった。相変わらずなんとなく気まずい感じがあったけど。まぁいいか。

 

 さて、次は……十一番隊……。怖い……あ、胃が……。パッと行って帰ろう。何なら隊舎の前に書類置いて……駄目だよな。

 

 

 隊舎を覗き込む。書類誰に渡そうかな……。一応隊長に渡すようにって言われてはいるけど、更木剣八だからな。いい加減虚相手にはびびらなくなってきたけど、更木(ザラキ)剣八だからなぁ。ボスに即死は効かないけれど、俺は生憎ボスじゃない。命の石も持ってない。なんの備えもなく出くわしたら確実に意識を手放すだろう。しかもあの人書類とか見なさそうだし……。かといって副隊長はお子様だし……。

 

「ねーねー、こんなとこでなにしてるの?」

 

 唐突に背後から話かける声。驚いて飛び上がりそうになった。

 

「……あ、草鹿副隊長。更木隊長に書類を届けに参りました」

 

 ピンク髪のょぅι゙ょだった。

 

「剣ちゃんなら居ないよ? それより、あなた誰?」

 

「俺は新しく五番隊副隊長に就任しました、本田正勝です。よろしくお願いします」

 

「かっちゃんだね! よろしく!」

 

 眩しい笑顔。胃痛が癒されるような気がする。気のせいだけど。やはり小さい子というのは癒しだ。心がほっこりする。可愛いは正義ってやつだね。

 

 

「あ? 正勝じゃねぇか。何でこんなとこにいんだ?」

 

 草鹿副隊長に癒されていると、可愛くない声が耳に届いた。恋次である。恋次に会うのも久し振りかな?

 

「そういや聞いたぜ。副隊長になったんだってな。すげぇじゃねぇか。こないだ吉良と三人で飯食った時に雛森が言ってたぜ」

 

 ほう、雛森と会ったのか。てか三人で? 俺は? ハブられたの? 泣くぞ? ちらっとも聞いた覚え無いんだけど。

 

「ハハ、プレッシャーで眠れない日々が続いてるよ」

 

「で、何でこんなとこにいんだ?」

 

「書類を届けに来たんだが更木隊長は居ないらしいな」

 

「居ないよー」

 

 草鹿副隊長はかわいいな。……ロリコンじゃないぞ。しかし居ないとなるとどうするか。草鹿副隊長に渡しても……。視線を向けると「ん?」と小首を傾げた。癒されるなぁ……。ってそうじゃない。

 

「草鹿副隊長に渡すのもあれだし……どうしようか? 三席の人とかは居るか?」

 

 某ツイてる人とかね。

 

「おう、多分居ると思うぜ。こっちだ」

 

 

 恋次に連れられて進む。ょぅじょことやちるちゃんは俺が肩車している。少しずつ竹刀をぶつけ合う音と怒号というか雄叫びというか、そんな声がしてきた。心なしか汗臭いような気もしてくる。

 

 やがて、道場の入り口に着く。

 

「ここだ」

 

 入りたくない。けどちゃんとわかる人に渡さないと……いや待てよ? 恋次に渡しても良かったんじゃ……

 

「一角さん、客です」

 

 遅かった。

 

「客だァ? 誰だよ」

 

 竹刀を置いてこちらに近付いて来るつるりん。

 

「五番隊副隊長、本田正勝です。書類を届けに参りました。更木隊長がいらっしゃらないとのことなので「ほぉ、本田って言やぁ阿散井の幼なじみだよな?」……はい、まぁ」

 

「阿散井から聞いてるぜ? お前強ぇんだろ?」

 

 知りませんよそんなこと。恋次何てこと言いやがる。嫌な予感しかしない。

 

「ちょっと付き合えや」

 

 

 

「おらおらどうしたぁ!? 守ってるだけじゃどうにもならねぇぞ!?」

 

「いけぇ! 一角さん!」

 

「こんなもやし野郎なんざポキッといっちゃって下さいよ!!」

 

「かっちゃんがんばれー!」

 

 つるりんの猛攻に防戦一方の俺。飛び交う野次。ああ、胃が痛い。唯一俺を応援してくれるのはやちるちゃん。俺はこの子を甘やかしていくと誓う。てか誰だもやしとか言ったの。そんなに細くないぞ。

 

 救いなのはまだつるりんが本気じゃないこと。まだ俺でも対応できている。まぁこれもいつまで持つか。

 反撃しないとなぁ。野次馬どもが煩いし。やちるちゃん応援してくれてるし。

 しないとなぁとは言っても策があるかと言えばそんなことないし。副隊長が三席に負けるってどうよ? 別にいいかなぁ……。

 

「こっ……」

 

 降参ですと言おうとしたら、つるりんの後ろに、あるものが目に入った。ホンダムである。めっちゃこっち見てる。どっか穴が空くんじゃなかろうか。胃がチーズになっちまうぜ。これはあれだ。降参など許さんってやつだ。

 

 逃げ場なし。諦めて反撃をしようとした所で莫大な霊圧を感じた。野次馬静かだな。

おっ、なんか膝が荒ぶってる。なんだこ

 

「よォ、愉しそうなことしてんじゃねぇか」

 

 正義を背中に背負ってマグマを操りそうな声がする。

 

「俺もまぜろよ」

 

――――――

 

「俺の幼なじみに本田正勝ってのが居るんすけど、そいつはかなり強いっすよ」

 

「どんな感じなんだ?」

 

 道場での打ち合いの後、阿散井と話した時だ。話題は身近な強いやつ。本田のことはそこで知った。

 

「そうっすね……なんつーか、隙がないんすよ」

 

「ほーお」

 

「本人は斬術は得意じゃないって言うし、実際剣技とか型みたいなのはないんすよ。あいつが得意なのは鬼道と歩法ですし」

 

 ただ、と阿散井は続ける。

 

「こっちの攻撃が決まらないんすよ」

 

「どういうことだ?」

 

「避けられるか、防がれます。最終的に縛道で動き封じられたり、カウンター食らって負けます。てか俺は負けました」

 

 ちまちました戦いは好きじゃないが、阿散井がここまで言う相手だ。強いのは本当なんだろう。機会があれば戦ってみたいもんだ。

 

 

 

 その本田が今目の前に居る。しかも俺に用と来た。戦うしかねぇよなぁ?

 

 

 

 成る程、確かに阿散井が言っていた通りだ。全く攻撃が入らない。これで鬼道ありなら今頃俺が負けることもあるだろう。

 

「おらおらどうしたぁ!? 守ってるだけじゃどうにもならねぇぞ!?」

 

 だが今回は鬼道はなし。反撃する他ない。さぁ、どうする?

 

 

 と、隊長が帰って来たらしい。どういうわけか霊圧が駄々漏れだ。草鹿副隊長の他は皆霊圧に当てられて気絶してやがる。

 

 

「隊長、霊圧駄々漏れっすよ。眼帯はどうしたんすか」

 

「技術開発局の奴に預けてきた。それより、そいつ誰だよ」

 

「五番隊の新しい副隊長らしいです」

 

「強えのか?」

 

「中々のもんです。おい、本田?」

 

 さっきからピクリともしない本田に声をかけるが、反応がない。近づいて、肩を叩くと、そのまま倒れた。

 

「……あ? こいつ、気絶してやがる」

 

――――――

 

「そう言えば、五番隊に副隊長が就任したらしいぜ」

 

「えっ、そうなのか?」

 

 男性隊士の会話。

 ……五番隊と言えば正勝達が配属された隊だったか。正勝も恋次も元気にしているのだろうか。二人のことを考えて、思い出すのは、養子の話を頂いた時のこと。あの時以降、二人とは顔を合わせていない。もし、もしもあの時断っていたら、私はどうなっていたのだろう。こうして正勝達と離れることも無かったのだろうか。

 

「まだ若いらしくてな、数年前に霊術院を出て、去年から三席としてやっていたらしい」

 

「へぇ、そりゃあ随分才能があるんだな。志波副隊長並みじゃないか?」

 

 海燕殿並みとは、相当な実力者なのだな。どのような御仁なのだろうか。

 

「確か名前は……本田……正勝? とかだったっけ」

 

 ……正勝? 今、正勝と言ったのか?

 正勝が……副隊長? 確かに正勝は優秀だろうし、周りが副隊長に推すのはわからないでもない。だが、正勝本人は……。

 

「よお、なぁーに考えてんだ? 朽木」

 

 後ろから声をかけられた。海燕殿の声だ。

 

「海燕殿! 五番隊の副隊長が替わったというのは本当っ…………正勝」

 

「ひ、久し振りだな、ルキア」

 

 海燕殿の後ろには、ぎこちない笑顔を浮かべる正勝の姿があった。暫くぶりに見た正勝は、少しやつれて見えたが、以前よりも遥かに力を付けたことが窺えた。

 

 

 

「……副隊長に、なったのだな」

 

「おう」

 

 何を話せばいいのか。何を聞いたらいいのか。考えた挙げ句出てきたのは、ただの事実確認。私の頭は上手く回っていないらしい。

 

「ルキアは……どうだ? 朽木家の人達とか、十三番隊の人達とは上手くやれてるか?」

 

「ああ……問題ない」

 

 十三番隊の皆とはともかく、兄様とはほとんど話すこともないのだが。正勝には余計な心配をかけたくない。

 それよりも、久し振りに会ったのだからもっと話すことを……。

 

「あっ、ごめんルキア、とりあえず浮竹隊長のとこに行かないと」

 

「っ! そうだな、引き止めてしまってすまない」

 

「……また時間のある時に話そうぜ。すみません海燕さん、行きましょう」

 

 

 

 

「朽木さん、見てたわよ。彼、噂の新副隊長でしょ?」

 

 正勝と海燕殿の背中を見送っていると、背後から都殿が声をかけてきた。なんだろう、視線がいつもより生暖かい気がする。

 

「はい、私も先ほどその事を知って驚いています」

 

 十三番隊に入って、始解を会得して、少しは近付けたと思っていたのだが、いつの間にか正勝は副隊長。ますます差が開いてしまった気がする。

 

「知り合い……なのよね?」

 

「ええ、幼なじみというやつです」

 

 昔は、いや昔からか。正勝は私たちの先を行っていた。

 

「なるほどね……久し振りに会った幼なじみが遠くに行っちゃった感じがして寂しいわけだ」

 

「……そうですね。寂しいんだと思います」

 

 都殿の顔を見ると、何となく驚いた風な顔をしていた。何か変なことを言っただろうか。

 

「都殿?」

 

「あ、ごめんなさい。てっきり否定すると思ったから」

 

「昔から正勝は、あの男は、自分も怖くて仕方ない癖に無茶ばかりするのです。だから、放っておけないというか……。ここに来て、以前より力を付けて、少しは追い付いたつもりでいたのですが……」

 

「……朽木さん、彼のこと大好きなのね」

 

「はぁ!?」

 

 そんなことがある筈……私が正勝のことを? 確かに話す時に頭が真っ白になることはあったし、心臓の鼓動が早くなることもあったけれど、それは単に久し振りに話す所為で緊張していただけの話で……。……養ってくれという言葉の意味を察した時、満更でもない気がしていたのを思い出す。まさか……いや、でも……。

 

「ま、存分に悩みなさい。失敗してもやり直せるわ。あなたはまだ若いんだもの……ってこれじゃ私おばさんみたいじゃない!」

 

「ぷ……はははは」

 

「もう! 笑い事じゃないのよ!? ってもうこんな時間か」

 

「どこかへ行かれるのですか?」

 

「流魂街で虚の住処が発見されたからその偵察にね」

 

 

「お気をつけて」という私の声に、都殿は笑顔で手を振りながら去っていった。

 

 それが、最後の姿になるとは露知らず、私は自分の気持ちについて考えていた。

 




読んで頂きありがとうございました。
たぶんちょいちょい書き直したりすると思います。

今回のネタ
「やったねかっちゃん! 仕事と危険が増えるよ!」→「家族が増えるよ!」「やったねたえちゃん!」:おいやめろ

やる気スイッチ:塾の先生に押してもらう。君のは何処にあるんだろう。

ザラキ:ドラゴンクエストの即死呪文。どこぞの神官が愛用している。

正義を背中に背負ってマグマを操る:中の人ネタ。ONE PIECEの赤犬を指している。
赤犬にするかマダオにするか某司令にするか迷いました。

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