鎧なんて飾りです。   作:C-WEED

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私にしては快挙。ほんと快挙。未だかつてこのペースで上げたことは無かった。まぁ、そんなに話は進みませんけど。

なんにせよ楽しんでいただければ幸いです。

7/31 ちょっと変えました。
8/1 黒祇式夜様、誤字報告ありがとうございます。


第三話

 目が覚めると

 

 体が縮んでしまっていた!

 

 なんてことはなく、見覚えのない天井に困惑する俺です。体が痛い。何があったかなんて思い出そうとするまでもない。何で死んでないんだ。いや死にたくないけど。

 

 どうせあれだ。ヨン様達が助けに来たんでしょ。ずるいよな。あれじゃん、こう、友達に不良役になってもらって好きな子に好印象与えようとする奴じゃん。ガチの命の危機にそれやられたらそりゃ雛森も落ちるわ。

 

「正勝! 起きたのか!?」

 

 部屋の扉を開けて、恋次が入ってきた。無傷なのかお前。すげぇ。これが原作キャラの力か。

 

「他の皆は?」

 

「雛森も吉良も大丈夫だ。檜佐木さんと青鹿さんは無事だ。蟹沢さんは……」

 

 蟹沢さんは……まぁ……カニってたしなぁ。もしあの状態から生き延びてたら生命力ヤバすぎでしょ。吸血鬼かっての。まぁそんなこと無かったからこんな空気なんだろうけど。

 

「そうか……」

 

 一回走馬灯見て思った。どう頑張っても死ぬ時は死ぬ。どうしようもない。今回は生き延びられたけど、いつかオサレが足りないとか言われて瞬コロされてしまうかもしれない。センスを磨かねば。

 

 と思ったけど無理だわ。センスとか磨きようがねぇ。こんな俺は目ぇ瞑ってどっかの隙間に挟まって口だけ開けて雨と埃だけ食ってかろうじて生きる他ない。

 きっと隙間に挟まってれば安全だろうし、いっそ本当にそうしようかな。……俺が挟まれるような隙間なんて他の人も挟まれるんじゃね? 駄目じゃん安全じゃないじゃん。てか挟まってる壁動かされたら圧死じゃん。そんなカッコ悪い死に方は嫌だ。

 

「あの後どうなったんだっけ?」

 

 覚えてないというか、知らないからな。なんで吃驚してんのお前。俺普通に潰れてただろ。モザイクの集合体みたいになってただろ。

 

「覚えてねぇのか?」

 

「覚えてない」

 

 え、本当に何で吃驚してんの? お前のその反応に吃驚なんだけど。何か? ヨン様と13キロさんと正義蟋蟀さんの勇姿を見逃したなんてあり得ないとかそんな感じか?

 

「あの巨大虚どもはお前が倒したんじゃねぇか」

 

「えっ!?」

 

「どうした?」

 

「いや何でもない」

 

 俺が倒したって何だよ。俺気絶してたじゃん。してたよね? 無意識で戦ってたみたいな感じ? 冗談きついぜ。メンタルと体の強さが釣り合ってねーよ。

 

「しかし……そうだったか。生き残りたい一心で夢中で刀を振ってたからさ。巨大虚の爪が迫ってきた後のことははっきり覚えてないんだよ」

 

「あれ刀だったのか? てっきり槍だと思ってたぜ」

 

 おっふ、間違えたの? 槍って何よ。俺ら浅打貸してもらってたよね? あれを振ってたんじゃないの?

 

「失礼するよ」

 

 この甘いイケボ……ヨン様か。扉の所を見るとマジでヨン様だった。駄目だ体が痛い。ラスボスからは逃げられない模様。こっちに近づいてくる。砕く? 砕く? 鏡花水月砕いちゃう?

 

 ……流石に病室でそれはねぇよ。アホか俺は。

 

「あ、藍染隊長!!」

 

「え、えぇっと……何か、ご用でしょうか?」

 

 流石の恋次も姿勢を正す圧倒的カリスマ。実物はヤバイね。勝てる気がしない。蛇に睨まれた蛙ってこんな気分なのかな。日番谷さんはよくこんなのに挑めたな。腐っても隊長ってことか。助けて黒崎君。

 

「や、特に用と言う程ではないよ。君らの怪我は僕達の到着が遅れてしまった所為もあるからね。それに君はまだ意識が戻っていなかったらしいから、様子を見に来たんだ。思っていたより元気そうで安心したよ」

 

「そ、そうなんですか。心配していただきありがとうございます」

 

 その後の展開を知らなかったら俺もこの人に心酔してたんだろうね。何て言うか、13キロさんの言う通りだ。ステータス馬鹿みたいに高くて、人心掌握の技術も並外れている。規格外ってこういうのを言うんだろうね。チートとも言う。

 

「ところで、本田くん、だったかな?」

 

「そいつは阿散井ですが」

 

「君のことだよ」

 

「あ、それでしたら自分です」

 

 真っ直ぐに俺を見詰めるヨン様。ヨン様の目を見たまま視線を逸らさない俺。俺はノンケだ。勘違いするなよ。韓流ファンでもない。

 

「僕達が到着した時には君は傷だらけで倒れていたんだけど、話によるとどうやら君は斬魄刀を解放して戦ったそうだね」

 

「必死だったので自分でもよく覚えていないんですが、どうやらそうらしいです」

 

 恋次の話から推測するに解放したんだろうなぁ。というか俺にも斬魄刀があったんだな。まずそこに驚く。どんなやつなんだろ。やっぱ鬼道系が良いな。遠くからチクチク戦いたい。でも恋次の話だと槍って感じだったみたいだし、鬼道系ではない……?

 

「君はかなりの才能を持っているようだ。君が卒業するのを楽しみにしているよ」

 

 つまり、お前が掌の上でいい感じに踊ってくれるのを楽しみにしてるよ、と。勘弁して下さい。

 

「ご期待に沿えるように頑張ります!」

 

 自分でも吃驚するほど元気な声が出た。五番隊には行きたくないもんだ。まだ良い隊長してるんだろうけどさ。怖いじゃん。俺の心はウエハースだもの。眼鏡より簡単にグシャッといけてしまう。

 

「では、お大事にね。二人とも頑張りたまえ」

 

 

 

「良かったじゃねぇか正勝! 期待されてんな!」

 

 良くねぇよ! ……とは言えないか。今のところヨン様の本性知ってんのって現世組と黒幕サイドだけでしょ。今言ったら確実に頭おかしい。

 

「うん、まぁ取り敢えずは怪我を治さないとな」

 

「っと、そうだった。さっさと治してまた鬼道教えてくれよな」

 

「おう! 任せとけ!」

 

 雛森も俺も割とお手上げなのはまだ言うべきじゃない。

 

「じゃあな!」

 

――――――

 

 正勝の病室を出た恋次が最初に見たものは、扉の前を行ったり来たりしている見知った少女の姿だった。

 

「何やってんだ? ルキア」

 

「れ、恋次!? ……コホン、いや、なに、ちょっとした散「正勝なら目を覚ましたぜ」本当かっ!?」

 

「気になるなら中に入れば良いじゃねぇか」

 

 呆れた顔で溜め息を吐く。

 全く、ルキアといい、正勝といい、変な所で不器用というか、よくわからないつまづき方をする。ルキアがここで行ったり来たりしているのもこれで何度目か。

 

「まっ、正勝のことなど少しも気にしておらん! さ、散歩で通りかかっただけだ!」

 

「……そうかよ」

 

 恋次はそのまま去っていった。

 

 ルキアは扉を前にして、深呼吸を繰り返す。

 大丈夫、少し話すだけだ。変に気負うことはない。そう、ただ様子を見に。

 

 ドッドッドッと走る音が聞こえる。こちらに向かって近づいて来ていた。

 

「なっ……恋次!?」

 

 驚愕で固まるルキアを軽々と持ち上げ、扉を開ける。

 

「散歩なら、ついでに病室ん中にも入っていけよ」

 

 そのまま部屋の中に投げ込んだ。

 

――――――

 

 唐突に扉が開いたかと思うと、室内に何かが投げ込まれた。何かの嫌がらせかとも思ったが、投げ込まれたものは俺のよく知る人物だった。

 

「ルキアか」

 

「ひ、久しぶりだな正勝」

 

 投げ込まれた時にぶつけたのか、腰を押さえながらルキアが答える。やっと相手してくれたけど、いまいち喜べないこの状況。誰だよルキア投げ込んだやつ。なんか話しづらいじゃないか。

 

「目が覚めたようで何よりだ」

 

「おう、ありがとよ」

 

「……」

 

「……」

 

 ほら気まずい。すごい気まずい。どうしてくれる畜生。こういう空気苦手なんだよ。

 

「投げ込まれたみたいだけど、怪我とかしてないか?」

 

 沈黙が辛くて、取り敢えず聞いてみた。なんか微妙な顔してる。まずいこと聞いたか? いやこれでまずいとか意味わからんけど

 

「私は……大丈夫だ。それより、その……」

 

 ルキアにしては珍しく歯切れが悪い。俺が何かしたか? 思い当たるのは養ってくれの件だけど……まだ解決してなかったかぁ……。そりゃそうか。せっかくの決意の場面だったもんな。一回謝られたぐらいではどうにもならないんだろう。あるよね、謝ってもすまないことってさ。

 

「ルキア」

 

「は、はい!」

 

 何で畏まってるんだ。別に良いけど。

 

「前に養ってくれって言ったろ?」

 

「あ、ああ」

 

「吃驚させたよな。本当にすまない。結論を急ぎすぎたみたいだ。まだあんなこと言うのは早かった」

 

「き、気にしなくて良いぞ……?」

 

「だからさ……」

 

 トントン、と扉を叩く音が聞こえる。誰だろ。

 

「本田君! 目が覚めたん……あっ……」

 

 吉良だった。あっ……て、お前何を察したんだよ。どんな観察力だ。

 

「ご、ごめん、出直すよ」

 

 特に何もすることなく去っていった。何しに来たんだあいつ。

 

「すまんルキア、えっと……何の話だったっけ」

 

「正勝」

 

「はい」

 

「私こそ悪かった。あの時はあまりに突然で気が動転してしまったのだ」

 

 お、おう、何が? 殴られたこと? 今更気にすること無いのに。

 

「それに、その後は話し掛けられても結果的に無視することになってしまった……反省している」

 

 後悔は? いやそれはどうでもいいよ。馬鹿か俺は。

 

「気にすること無いって。またこうして話せてるんだから問題ないさ」

 

 原因は俺だったしね。それで怒る程俺はやなやつじゃない。

 

「それで……だな……」

 

 おっと、何か雰囲気が変わったか? 何だろう。

 

 ところが再び扉を叩く音が。タイミングが良いのか悪いのか。

 

「本田君! 調子はど……あっ……」

 

 雛森だ。吉良に続いてお前もあっ……て。何なんだろう。流行りか? 察するのが流行りとか聞いたことないんだが。

 

「えっと……また一緒に勉強できるの楽しみにしてるね」

 

 雛森も顔を出すだけで帰った。お前も吉良も顔出しに来ただけか? なんだってんだ。冷やかしなら来ないでくれ、なんてことは無いけれど。むしろ来てくれた方が嬉しい。どんどん来い。さもなくば孤独死する。

 

「正勝」

 

「おう」

 

「私もそろそろ戻る」

 

 心なしかテンション下がってない? 気のせい? 別に帰るのを止めはしないけどさ。

 

「そうか、わざわざ来てくれてありがとう」

 

「いや、こちらこそ。久しぶりに話せて嬉しかったぞ」

 

 少し微笑みながらそう言ったルキア。

 デレか? デレ来た? ルキアがデレた? 可愛いなぁ。やっぱデレ来るといいね。無視される期間が長かった分より良いね。

 

「では、またな」

 

 

 ルキアが出ていって病室に一人。どんどん寂しさが募ってくる。引き止めれば良かった。吉良とか雛森とか戻って来たりしないかな。しないよな。

 寝るか。寝よう。よし寝る。

 

 

 三時間後、ようやく眠りにつくことができた。

 

 その夜、俺は夢を見た。

 なんか狭い畳部屋、言ってみるならそう、茶室のような部屋に俺は正座をしている。向かいに正座して座っているのは、赤褐色に輝く鎧を纏った武者。戦国最強。巨体でありながら縦横無尽に動き回り、手に携えた機巧槍で敵を貫く無敵の武将。本多忠勝その人だった。

 

 なんだこれ、ホンダムが正座してる。正座なんか出来そうに無いけどわかる。これ正座だ。

 ホンダムは無言でこちらを見ている。俺も無言で見つめ返す。だが、高い。かなり見上げなければならない。筋肉痛になりそう。

 さて、長いこと見つめあっているが、何だろう、ホンダムは何か伝えたいことでもあるのだろうか。

 

「何かご用ですか」

 

 ホンダムは何も答えない。ただ黙ってこちらを見つめているだけだ。

 

 この時間が延々と続くのだろうかと思っていたら、いつの間にか病室に戻っていた。

 

 訳のわからない夢だったが、ひとつだけわかった事がある。

 

 ホンダムは正座できる。

 

――――――

 

 また正勝の病室の前まで来てしまった。

 あの日、死神になろうという話をしたあの日、正勝の発言にひどく戸惑った私は、思わずやつを殴ってしまった。

 

 俺を養ってくれ。

 

 結局私はこの言葉に対してはっきりと答えてはいない。

 ここに込められた感情とはどんなものだったのだろう。そのことを考えると、嬉しいような、恥ずかしいような、怖いような、不思議な気持ちになる。

 

 霊術院の廊下で顔を合わせた時、正勝は普段と変わらない様子で話し掛けてきた。こちらはこんなにも悩んでいるというのに、何も無かったかのような顔をしていたことに腹が立ち、つい無視をしてしまった。

 

 その後何も話さないまま、先日、現世で正勝達が巨大虚に襲われたという話を聞いた。心配のあまり飛んできた訳だが、どうにも病室に入って正勝と向き合う覚悟ができない。

 病室の前の廊下を行き来してもう何度目だろうか。藍染隊長や恋次が中に入っていくのを見掛けたが、正勝の様子はどうなのだろう。聞いてみるべきか。

 

 丁度病室の前に来たとき、病室から恋次が出てきた。

 

 

 咄嗟に誤魔化そうとしたが、バレていたらしい。

 よし、行こう。

 覚悟を決めて扉の前に立つ。心臓が五月蝿い。深呼吸を繰り返すが、駄目だ。一向に収まらない。

 

 その時、ドッドッドッと、明らかに私の心音ではない音が近づいて来た。恋次だった。驚いて固まっている間に、問答無用で部屋の中に放り込まれた。

 

 

 正勝は普段と変わらない様子で話し掛けてきた。その姿は普段とはかけ離れたものだったが。体の所々に包帯が巻かれ、巨大虚との戦闘の激しさを物語っている。

 

 当たり障りのないことを言って以降、頭が真っ白な所為で何も言えずにいたら、私の方が心配されてしまった。

 自分の方が遥かに重傷だというのに。

 

「私は……大丈夫だ。それより……その……」

 

 上手く言葉が出てこない。殴ったことを、無視したことをまずは謝らなくては。

 

「ルキア」

 

「は、はい!」

 

 正勝の真剣な声に思わず畏まってしまった。何を言われるのだろう。

 

「前に養ってくれって言ったろ?」

 

「あ、ああ」

 

「吃驚させたよな。本当にすまない。結論を急ぎすぎたみたいだ。まだあんなこと言うのは早かった」

 

 結論を急ぎすぎた。まだ、早かった。少しずつ進めて最終的に養うことに繋がることと言えば……っ!!

 

「き、気にしなくて良いぞ……?」

 

「だからさ……」

 

 その先を聞くことは出来なかった。病室に訪れる者が居たからだ。確か正勝と同じ組の……吉良? 少し視線が剣呑なものになってしまったかもしれない。吉良はすぐに引っ込んでしまった。

 

「すまんルキア、えっと……何の話だったっけ?」

 

 さっきの言葉の続きを聞きたいが、まずは私も謝ろう。

 

「正勝」

 

「はい」

 

「私こそ悪かった。あの時はあまりに突然で気が動転してしまったのだ。……それに、その後は話し掛けられても結果的に無視することになってしまった……反省している」

 

「気にすること無いって。またこうして話せてるんだから問題ないさ」

 

 そう言って正勝は微笑んだ。また、心臓が騒ぎだした。

 ……このまま、聞いてしまおうか。

 

「それで……だな……」

 

 またしても、と言うべきか、今度は私が、と言うべきか。何れにしてもその先を言うことは叶わなかった。

 

 確か雛森だったか。またしても正勝と同じ組。幼なじみが学友から慕われているというのは誇らしくもあるが、こうも邪魔をされると些か嫌になる。案の定雛森もすぐに戻っていった。

 

 なんというか、今日はもう、質問するような気分ではなくなってしまった。挨拶して、部屋を出た。

 

 いつかきちんと聞いてみよう。……誰かに相談した方がいいのだろうか。

 

――――――

 

 夢から醒めて思い出した。今度割り勘で飯にでも行こうって言うのを忘れていた。うん、これならルキアも抵抗を感じないだろう。そこから少しずつ、少しずつな。

 

 ま、次会った時で良いか。




読んでいただきありがとうございました。

主人公が屑に見えてきたのは私だけですかね?まぁ次回をお楽しみにしていただけるんであれば、お楽しみに。

今回のネタ
目が覚めると体が縮んでしまっていた:名探偵コナンより、劇場版などで毎回お馴染みのあれ


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