取り敢えず楽しんで頂ければ幸いです。過度な期待はしないでください。
10/2 Where is my friend様、誤字報告ありがとうございます。
3/1 不死蓬莱様、誤字報告ありがとうございます。
「黒崎君は元気かねぇ? どう思う、恋次よ」
「んなこと知るかよ」
「こっちに乗り込んで来るかもしれんねぇ」
「あ? ルキアを助けにか? 無理だろ」
「ルキアはどう思う?」
「さあ、どうだろうな……」
ルキアが尸魂界に連れ戻されてから、既に数日が経過していた。
ルキアの処刑まであと二十五日。
朽木白哉の口から、その宣告がされた直後の会話である。
「なら、賭けをしようか」
「賭けって……何をだよ」
正勝の提案に恋次は怪訝な顔をする。
「黒崎君が来るかどうか、さ」
「ハッ! さっきも言ったが無理に決まってんだろ。アイツじゃ穿界門は開けねぇ」
「ルキアも来ない方に賭けるか?」
「……ああ、そうだな。来る筈がない」
「じゃあ俺は黒崎君がこっちに来る方に賭けよう」
正勝の言葉に恋次はニヤリと笑みを浮かべた。
「こりゃ、賭けは貰ったも同然だな。俺らが勝ったら何が貰えんだ?」
「そうだな……どっかの場面で一回だけ俺が助けに現れようかな」
「何だそりゃ」
だから……、と正勝は続ける。
「俺がこの賭けに勝ったら……黒崎君がこっちに来たら、恋次にはルキアを助ける手伝いをしてもらおう」
「なっ……!」
「ルキアは……その時は、諦めずに助けを待っててくれ」
「…………わかった」
ルキアは俯いたまま小さな声で答えた。その表情を窺うことはできない。
「まぁ、楽しみにしとこうや」
そう言って、正勝は背を向けて去っていった。
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元気づけようと思って話してみたんだが、失敗だったかな?
俺の頭の中ではそんな疑問が渦巻いていた。
恋次の反応はどうでもいいとしても、ルキアは最後、俯いたままだった。何言ってんだこいつとか思われたのか? そう考えると、自分の発言の悉くが恥ずかしくなってくる。
やっぱ似合わないことはするもんじゃないな。
「正勝!」
「あれ、恋次? どうした? 俺何か忘れ物でもしてた?」
「は? 知るかよそんなこと」
「じゃあ何なんだ?」
「……お前は、ルキアを助けるつもりなのか?」
恋次からの問い。言外に、護廷十三隊と敵対する気か? と問われている気がする。敵対なんてとんでもないってのが正直な所だが。
隊士達の足音や声がやけに響いて聞こえる。
「……恋次は、何もしないのか?」
「俺は……」
「本田くーん!」
恋次が答えようとしたところで、俺を呼ぶ声が聞こえた。雛森が走ってこちらに向かってきている姿が見える。
「もう、本田君ったら、最近、いつも、朝、いないん、だから」
かなり走ったらしく、息を切らせて俺を半目で睨む雛森。
「ごめんごめん、仕事だろ? 今行くよ」
「ふぅ……もう、ちゃんと反省してよね?」
「はいはい。それじゃあな、恋次」
あ、結局質問に答えてなかった。何かしら言っとくか。
「俺は……俺のために動くよ」
いいよね? 答えになってない☆
なんちゃって。本当にどうしよう。やっぱり黒崎君に斬られないと覚悟決まらないのかな? 勘弁して欲しいぜ全く。
そもそも煮え切らない俺が悪いんだけど。
「なぁ、どうしたらいいと思う?」
此方に向けて大きく拳を振りかぶったホンダムに問い掛けてみた。
「!!!!!!!」
「確かにそうなんだけどな。やっぱこう、決心がつかねぇのよ」
ホンダムの振るう拳を紙一重で避けつつ、まるで会話が成り立っているかのように言葉を吐く。やっぱりホンダムが何を言ってるかわからない。
仕事を終えて、日課である具象化ホンダムとの組み手をしている。我ながら、慣れたもんだ。回避ならかなり上手くなった。
「そこだ!」
拳を振るった直後の隙を突いて攻撃を仕掛ける。
今の俺の拳では勝てない。故に、足。回避の勢いを利用してのカウンターキックだ。手がダメなら足。単純な発想だが、実際、蹴りの方が威力は高い。
脛が鎧に当たる。
脛だ。
まごうことなき、脛だ。
夜の森に、男の悲痛な叫びが響き渡った。
俺は何をやっているんだろうか。いや、確かに回避は上手くなった。でも元々この組み手は卍解に至るため、ホンダムを屈服させるために始めたものだった筈。
屈服させるどころか此方が心折れそうだ。まともにダメージを与えられないのにどうしろと。
……この苦しみを越えた先にある卍解だ。さぞかし強力なものに……なってほしい。
まさかシロちゃんみたいな感じじゃあるまいな? 始解と卍解の能力が一緒とかあんま笑えないぜ。そりゃもっと固くなるなら安心っちゃ安心だけど。
って今は卍解のことはどうでもいい。ルキア処刑問題である。まぁ俺が何かしなくても黒崎君が何とかしてくれるだろうし、海燕さんもいるしもっとこう、スッと行けるんじゃないかな。
いや、この違いが思いもよらない展開を巻き起こすかもしれない。そっちも気に……しないとダメかな。もういい気がしてきた。俺頑張ってるよ、うん。なるようになるさ。たぶんいい感じに収まるって。
そうと決まれば帰って寝よう。
瀞霊廷に向かって歩きだす。が、不意に地面がなくなった。否、俺が浮いているのだ。頭を掴まれて宙吊りだ。クレーンゲームの景品はこんな気分だったろう。あとメタスタシアもな。そんなことを考えているといきなり空中へと放り投げられた。眼下には此方に向けて槍を投げようとしているホンダム。今回から槍を使うなんて聞いてない。いや、言われてもわからないけど。
成る程、まだ修行は終わっていないと。勘弁してくれ。
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最近、本田君は毎朝毎朝毎朝毎朝朽木さんの所に行っている。幼なじみが大切なのはわかるけど、毎朝通うことは無いと思う。夜遅くまで修行してるみたいだし、昨日だって傷だらけで帰って来た。治療は自分でやってるのかな? 次の日にはけろっとしてるし……。
朝早くに朽木さんの所に行って、仕事して、夜は遅くまで修行して……一体いつ寝てるんだろう。ちゃんと疲れは取れてるのかな? 前みたいにいきなり倒れたりしないか心配だよ……。相談しても阿散井君は「正勝なら大丈夫だ」みたいなことしか言わないし、吉良君は「最近は僕も忙しいけど色々修行したりしてるんだ!」みたいなことを言い出すし……。やっぱり私がしっかり支えないと……! ……支えるって言っても、私には大したことは出来ないんだけどね。
「……ったく、槍使うなら言えっての。しかも空中とか、いきなり難易度高すぎだろ……あー疲れた」
本田君、帰ってきたんだ……。汗と……鉄の匂い。今日も怪我したみたい。大丈夫かな……?
いつものパターンだと、本田君はこの後お風呂に入る。かなり長いし、その後怪我が直ってるからお風呂のついでに怪我の治療をしてるんだと思う。……本田君の裸……やだ私ったら!
……本田君はお風呂に向かった。よし、今のうち……。
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おかしな話なんだが、最近、風呂に入っている間に死覇装が綺麗になってたり、着替えを持って行くのを忘れた時に着替えが置いてあったりする。
なんだこれ。意味わからん。ちょっとしたホラーだ。死神が心霊現象に悩まされるとかこれいかに。
いや、そりゃあ助かってはいるよ。なんか色々楽だし。でもさ、おかしいじゃん。どう考えてもさ。最近の胃痛の種はこれです。いや他にも色々あるけど。なんか怖いでしょ? 虚の霊圧とかもしないし、心当たりなさすぎてさ。
「痛っ!」
風呂で怪我の治療をしつつ、こんなことを考えております。丁度裸になってるしね。これまた理由はわからんけど最近傷の治りが早い。俺の回道で何とかなる程に。最初はホンダムが手加減してくれているのかとも思ったけど、特にそんな様子はない。今日だって予告なく槍使ってきたし。俺の体はどうなっているんだろう。これもまた胃痛の種。やってらんねぇな。
風呂から出ると、ほら、案の定死覇装が綺麗になっている。こんなん誰に相談したらいいんだよ……。
翌朝、今日はルキアの所ではなく普通に仕事をしに来た。今日も今日とて簡単にはさばききれない量の書類が……。ヨン様の悪意を感じる今日この頃である。
「や、今日は早いね、本田君」
「おはようございます藍染隊長。最近何故か書類の量が増えてまして」
「ははは、そうかな? 本田君は仕事が出来るから色んな書類が回って来てるのかもしれないね」
爽やかな笑顔だ。殴りたい。こういうのを殴りたいこの笑顔って言うんだな。返り討ちにされるのがわかってるから何もしないけど。
「ところで最近変なことがありまして」
「どうかしたのかな?」
「最近、風呂に入っている間に着替えが置いてあったり、死覇装が綺麗になってたりするんですよ」
「ふむ……聞いたことがないな……心当たりは?」
「ありません。まぁその、楽って言えば楽なのでいいんですけど、誰かわからないのが不気味でして」
「うーん、僕もよくわからないな……ひとまずもう少し様子を見てみないかい?」
「……そうですね。そうします」
案外頼りにならんな。まぁこんなよくわからん事案には仕方ないか。
「おはよう本田君!」
「ああ、雛森、おはよう。どうだ? 今日はちゃんと出てきたぞ」
「うん、いつもそうしてよね。本田君は副隊長なんだから。……ところで、藍染隊長と何を話してたの?」
「ああ……最近変なことが起こるようになってな」
「変なこと?」
「俺が風呂に入っている間に死覇装が綺麗になってたり、着替えを忘れた時には着替えが置いてあったりするんだよ」
「………………へぇ、そうなんだ」
答えるまでにえらく長い間があったような気が……気のせいか。まさか雛森は何か知ってるのか?
「何か知らないか?」
「……うーん、私も心当たりはないなぁ。でも、別に困るようなことではないでしょ? ならそんなに気にしなくてもいいんじゃないかな?」
「そうかぁ……? でもなんか、気持ち悪くな 「そんなことないよ!!!」 ……お、おう」
何でそんな剣幕で言うのか。思わず後ずさってしまった。いや、これは仕方ない。吃驚したもの。
「なら、まぁ、そんなに気にしないでおくよ」
「うん、それでいいと思う」
その夜は、特に何も起こらなかった。
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正勝は、何故あのようなことを……。いや、わかっている。きっと私を元気づけようとしてくれたのだ。
それに、それだけではない。正勝は、本気で私の処刑を止める気でいる。そのためならば、立場上敵である一護の力も利用するつもりなのだろう。あの賭けはそういうことだ。
私を助けようとしてくれている。その事はとても嬉しい。
だが私は処刑を受け入れるつもりだ。いや、受け入れなければならない。どんな事情があったにせよ、罪は罪。罰は受けなければ……そうでなければ、色んな人に迷惑が掛かる。私を拾って下さった兄様をはじめとする朽木家の人々、浮竹隊長や海燕殿、恋次や、……正勝。世話になったというのに、恩を仇で返してしまっている。これ以上、迷惑は掛けられない。
私を助けようとすれば、間違いなく護廷十三隊と衝突する。兄様とも。正勝なら或いは……そう思いたいが、そう簡単に行く筈がない。
正勝が傷付くのは見たくない。最悪、命を落とすかもしれない。そんなことになるのは嫌だ。
だから私はあの時、「わかった」ではなく、明確に拒絶するべきだったのだ。……だが、できなかった。
やはり私は、弱いままだ。
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「よし、ホンダム、俺は決めたぞ!」
「?????」
「俺、彼らが乗り込んできたら適当に斬られた感出してそのまま体力を温存して来るべきタイミングに備えるぞ!」
「!!!!!!!」
「おっ、わかってぐッ!!!」
殴られた。
いや名案だろうよ。更木隊長だってそんな感じだったじゃん。なんか良いとこ取りしてたじゃん。まぁあの人はガチで大怪我だったけど。俺はそんな感じで良いでしょうよ。あんま戦いたくないし。
また殴られた。何故考えてることがわかったんだ。
読んで頂きありがとうございました。
楽しんで頂けたなら何よりです。
久しぶりのせいか何を書いたもんか今一思い付かなくて内容が散らかってしまいましたね。申し訳ないです。もうさっさと苺に乗り込んできてもらおうと思います。
次回をお楽しみにしてもらえたらいいなぁ。