とりあえず楽しんでいただければ幸いです。
8/28 みこた様、誤字報告ありがとうございます。
3/24 ヒビキ(hibikilv)様、誤字報告ありがとうございます。
……さて、どうしよ。
乱入したものの、ここからどうしていいかわからない。どこぞの恐暴竜よろしく暴れれば良いのだろうか。……そんな訳無い。どうにかこの場を納めなければ。
「ぐっ……くそっ! 体が動かねぇ……!」
黒崎君が六杖光牢から抜け出そうと頑張ってる。そう簡単に抜けられる筈無いけど……ここで抜け出されたら自信なくすね。一応副隊長だし。ちゃんと詠唱したし。どうか抜け出さないで下さい。
……うーん、この場に俺だけなら色々とスムーズなんだけど……あ、そうだ、ルキア連れて先に帰って貰えば良いんだ。
「では朽木隊長、あとは俺が処理しときますから、ルキアを連れて……」
「いや、それには及ばぬ」
「は?」
あっ……。
止める間も無く、黒崎君は鎖結と魄睡をぶち抜かれた。前後からの流れるような見事な連撃。流石朽木隊長と言う他無い。無いんだけど……。
「鈍いな……倒れることさえも……」
カッコいい台詞ありがとうございます。感激です。
でもこれじゃ、俺が混ざった意味……無いよね。
「こいつくらい、俺一人でやれました……」
「そう言うな。私も観戦してばかりでは腕が錆びる」
……まぁ、原作通り怪我してくれたし、当初の計画通りに、俺が治療しよう。
「……正勝」
「うん?」
「……助かった。ありがとよ」
悔しそうな表情で恋次が礼を言ってくる。俺は邪魔しただけなのにね。
……あー、成る程、俺の乱入も無意味じゃなかった。恋次のサングラスは無事だな……。何だよそれ……まぁ、幼なじみの財布事情を救ったと考えれば……納得できる訳無いね。
「……うん、まぁ、大した怪我は無さそうで良かった」
「一護!!」
ルキアが黒崎君に駆け寄ろうとする。
「俺が!」
恋次が早かったので止めるのは任せる。
……そう言えば、何で人間に死神能力の譲渡は駄目なんだろう。決まってるからって言われたらそれまでだけど。問答無用って奴なのかねぇ。ルキアみたいなパターンなら情状酌量があって然るべきなんじゃ……あ、そうか。もう今頃は四十六室全滅してるんだっけ? ヨン様手が早いなぁ。見事な手腕に俺はドン引きです。
考え事をしている内に、黒崎君が朽木隊長の袴の裾を掴んで、強がっている。まだ食い下がれるのか……流石主人公だ。
「……その腕、余程要らぬと見える」
「破道の一 衝」
ちょっと手を弾く位の積もりで放ったら、狙いがずれて頭に当ててしまった。……気絶した? ミスったなぁ……これじゃ俺、ただの嫌な敵キャラみたいじゃん。
……みたいって言うか、現状正にその通りなんだけど。
朽木隊長達はルキアを連れて帰った。残されたのは俺と石田と黒崎君。無事に立ってるのは俺一人。雨も降りだして絶賛テンション下降中。ミスの大きさに気付き愕然としている。黒崎君気絶してたらルキアが黒崎君を突き放すシーンなんて起こり得ない。今週のやらかし先生は俺ですな。
黒崎君は……うーん、深手である。そりゃそうか。
俺の回道じゃどうもならんね。本当に応急処置だわ。……もしかしてホンダムなら何とか出来たりして。いや、そんな訳無い。……でももしかしたら。出来たら出来たで意味わかんないけど。
……試して、みちゃう?
「ちょっと待って下さい」
心臓が止まるかと思った。誰だよこんな時間に。振り返ると、所謂、ゲタ帽子こと浦原さんが近付いてきていた。
「その人を殺されるのは、困るんスよね」
殺す? 何のことだろうか。……あ、斬魄刀持ってたら仕方ないか。
「殺すだなんて、俺は彼を治療しようとしただけですよ」
「あなた、尸魂界の人でしょう? ……何のつもりですか?」
「俺としても、この少年に死んでもらっては困るんですよ」
だってねぇ? 立場上、ルキア助けるために動き難いし、黒崎君がどうにかしてくれるのが一番、何だろう、こう、すっきりする。そのためには努力は惜しみませんとも。いや、あまり無理の無い範囲でなら。
「あ、そちらで治療なさいますか?」
「ええ、そうさせて貰います」
恩返しはまぁ……黒崎君が乗り込んできたときになんか助けてやろう。
「じゃあ俺は眼鏡の彼を治療しましょう。安心してください。危害を加えるつもりはありませんから。何なら刀をその辺に置いときましょうか」
「……いえ、結構ですよ。なら、お任せします」
任せてもらった。こりゃ腕がなるね。そんなに傷は深く無さそうだし、いけるいける。
あ、そうだ。自己紹介がまだだった。って黒崎君担いで帰ろうとしてるじゃん。
「申し遅れました。俺は五番隊副隊長、本田正勝といいます。以後お見知り置きを」
「……アタシは」
「あ、名乗らなくても大丈夫ですよ。身分を隠すのって大変ですよね。黒崎君をよろしくお願いします」
「……お気遣いどーも」
「あ、そうだ。伝言お願いできます?」
去り際、なんかすごく疑いの目で見られた気がする。何がいけなかったのか? しがない駄菓子屋とか言われても反応に困るし、尸魂界の奴に名乗りたく無いだろうから言ったんだけど……伝言だって、こう、黒崎君へのエールのつもりだったし。
……まぁ仕方ないね。治療治療。
━━━━━
「……い、おーい、起きろー。風邪引くぞー。別に風邪引いても俺の知ったことじゃないけど」
……あの赤い髪の死神、阿散井恋次だったか。奴に切られた傷が……ない?
「……! 君は」
飛び起きて見ると、確かに傷が塞がっている。そして、僕の傍らに居るのは、さっき追い払った筈の男だ。
「何故此処に?」
「偶然だけど。俺からも聞かせてくれ。何でこんな所で倒れてるんだ?」
「それは……」
死神の霊圧を感じたから、なんて正直に言う訳にもいかない。くっ、どうする。……いや、落ち着け。朽木さんにした言い訳と同じことを言えば良い。
「実は 「24時間営業のヒマワリ何とかにこんな時間から買い物に行きたくなったから出てきたけど怪しい赤パイナップルに倒された?」 何故それを!?」
「君を倒した奴は俺の幼なじみでね。その尻拭いで君の治療をしたんだよ」
「なら、君も……」
まさか、死神を倒そうとして、返り討ちにあった所を死神に助けられるなんて……何て日だ。
「さて、死神嫌いの鎌……じゃない、石田君。治療されっぱなしじゃ嫌だろうから対価を貰うとしようか」
「……一体何を?」
金銭的な物……か? 全く検討がつかない。
「君が買えるだけ、フライドチキンを買って来い。コンビニでな」
「は?」
「ほらダッシュ! 小腹が空いてんだよこっちは。……まぁ二三軒回って、売ってなかったら……貸し一つな」
━━━━━
朝の六番隊舎。寝間着姿の恋次が足音を立てながら歩いている。
俺はその後ろを、気付かれないようにしつつも堂々と歩いている。
すれ違う六番隊の隊士達は俺を怪訝な顔で見てくるが、気にしちゃいけない。何でこんな朝から他所の副隊長が居るんだって話だ。そりゃ怪訝な顔にもなる。
でも手を振ったら振り返してくれた。ちょっと嬉しいよね。
恋次が扉を開けると、理吉君が逃げ出す地獄蝶相手に手こずっていた。ナイスキックだ恋次。やっぱ部下はきっちり指導しないと。そのままお説教が始まったので、俺は先に行くとしよう。
「やぁルキア、おはよう。飯は食ったかい?」
「おはよう、正勝……ん? ここは六番隊舎であろう。何故正勝がここに居るのだ?」
「そりゃ、ルキアの顔を見に 「正勝!? 何でお前がこんなとこにいんだよ! どっから入りやがった!」 ……恋次の後ろに居たんだけどな。気付いて、無かったのか……」
「えっ、そりゃあ……悪かった」
ちょっと悲しい顔をすると、すぐに謝ってくれる。素直なのは良いことだ。これを素直と言って良いのかわからないが。俺が恋次に呼び掛ければ済んだ話である。
「霊圧の感知をもっと鍛えた方が良さそうだな。阿散井副隊長。ほら、ルキアからも何か言ってやれよ。応援とか」
「頑張れ副隊長殿。強いぞ副隊長殿。変なマユゲだぞ副隊長殿」
「お前らなぁ……!」
懐かしいな。三人でこんなどうでも良い感じの会話をするのはいつ以来だろう。実にいい気分だ。
「そうそう、あの少年、えぇっと……苺だっけ? 彼、生きてるよ」
「何!?」
「戻るのが遅ぇと思ったら、あいつの手当てをしてやがったのか!」
つい口が軽くなってしまった。まぁ、良いでしょう。
「未来ある若者を無闇に殺すものではないよ、阿散井君」
「似てねぇぞ」
うるせぇ。似せる気ねぇんだよ。
「……そうか、生きておるのか」
「もしかしたら、お前を助けに来たりしてな」
「無理に決まってんだろ、そんなの。あいつはもう死神の力を失ってんだぜ? それに、万が一乗り込んで来たとしても、あいつじゃ護廷十三隊にゃ勝てねぇよ」
「良い勝負だった恋次が言うと説得力が違うな」
「あん時ゃ限定霊印があっただろうが!こっちで戦えば圧勝だよ!」
「流石っす阿散井副隊長。マジリスペクトっす。ちょーかっけーっす」
「いい加減にしろよ……!」
「ところで恋次、兄様は?」
ひとしきり話した後、ルキアが恋次に問い掛ける。
「朽木隊長は今頃、今回の件の報告をしてる。そこでお前の減刑を請う筈だ。みすみす見殺しになんかしねーだろうよ」
「……いや」
「あの人は、私を殺すよ」
沈黙が場を支配する。
さっきまでの和やかな雰囲気は何処へ行ったのか。反応に困るんだから仕方ないけど。
「私のことよりも自分のことを心配すべきだぞ」
「何?」
「もっとマユゲを大事にすべきだ。イレズミマユゲ殿」
ルキアの牢を離れ、隊舎へ帰る。隣を歩く恋次は難しい顔だ。大方、ルキアの処遇とか、朽木隊長のことを考えているのだろう。……うーむ、成る程。
「なぁ恋次」
「……なんだよ」
「俺もルキアと同意見だ」
「朽木隊長がルキアを助けることはねぇってか?」
「いや、マユゲの方。よく見たらホントにイレズミマユゲじゃないか。大丈夫かよ」
怒った恋次に追いかけられたのは言うまでもない。
━━━━━
痛みが、ない……これは、いよいよ俺も死ぬのか
さっきまでめちゃくちゃ寒かった筈なのに、むしろあったけえ……人の体温みてえだ……人の体温!?
「ああああああああ!!!!????」
目を開けると、視界一杯に広がる眼鏡と髭のゴツイおっさんの顔。
「む!? 素早い反応。良いですな! 店長! 黒崎殿が目を覚ましましたぞ!」
「離れろっ……! 近いんだよっ……!」
駄目だ、びくともしねえ。なんて力してやがるっ……!
「っ……!」
何とか拘束から逃げ出そうともがいていると、恋次ってヤローに切られた肩が痛みを発した。
……あれ? 俺……死んでねえ……何でだ……?
「あんまり動くと死んじゃいますよ、黒崎さん。まだ傷は塞がった訳じゃないんすから」
「ゲタ帽子……! あんたが俺を……助けたのか……?」
「そうっすよ? ところで、その言い方……助けて欲しくなかったんすか?」
「……いや……そうだ、石田! あいつもあそこに倒れてただろ? ここに居んのか?」
「いえ、帰りましたよ。……あ、そうそうキミに伝言があります」
伝言だと……? 石田か?
「『ルキアを助けたいなら、強くなって尸魂界に乗り込んで来るといい。君の成長を楽しみにしている』だそうです」
「……何だよそれ、一体誰が……?」
「三人目、キミの動きを封じた人を覚えてますか? 彼からです」
「……あいつか」
あの光、鬼道、だったか? ルキアのとは比べ物にならない威力だった。そして、抜け出せないまま……。
「それで、どうします? 行きますか? 尸魂界へ」
「……! 勿論だ! どうやったら行ける!?」
「勿論教えますよ。でも、条件が一つ。これから10日間、アタシと戦い方の勉強しましょ」
「何だよそれ! 修行か!? そんな暇なんて」
「今のキミじゃあ勝てないから言ってるんだ」
気が付いたら、ゲタ帽子に倒され、杖を突きつけられていた。ただの杖の筈なのに、刀の切っ先を突きつけられているような威圧感を感じる。
「弱者が敵地に乗り込むのは自殺って言うんすよ。朽木サンを救う? 冗談がきつい。死ににいく理由に他人を使うなよ」
返す言葉が見付からなかった。
「朽木サンが処刑されるまで、一月の猶予があります。キミをイジメるのに10日、尸魂界への門を開くのに7日、そして向こうに到着してから13日、充分間に合う」
……俺は、弱い。今回の戦いで身に染みて分かった。もっと力があれば……。
「10日で俺は、強くなれるか?」
「勿論、ま、キミの気持ち次第ですがね。半端な覚悟なんていらない。……10日間アタシと、殺し合い、できますか?」
「どーせ俺ができねえっつったら……誰もやるやついねえだろ。」
覚悟は、決まった。
「しょうがねぇっ!やってやろーじゃねえか!」
俺は、強くなる……!
読んでいただきありがとうございました。楽しんでいただけたなら何よりです。
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