これで純の日常がさらに色とりどりに…。ならないか。
すでに茶色だもんな。
とりあえず7時間目どうぞ。
美術部でやっていけると俺は思っていた。今日の昼間までは。
美術部入部から次の日の夜。
「なんでアンタらがいるんだァァァァァァッ!」
俺の家に千石、上井草先輩、仁さんがいた。
「バカなの!? ゼロるの!?」
「落ち着け純」
「落ち着けるもんですか! というか穂高さんも止めろよ!?」
「いやー、姫矢君のご家族の許可のメール持ってたから…」
「またあのクソ両親かァァァァァァッ!」
絶対許さねぇ!
「落ち着きなさい姫矢」
「そうだよ何で先生もいるんだよ!」
「ご家族に監視は必要でしょうって聞いたら『そうですね。うちの息子がいろいろ危ないし。貞操的に』って」
「ガッデムッ!」
声マネ上手いのもイラつくしお袋にもイラつく。
つーか全員敵かよ。俺の味方はどこだ。
俺の携帯がポケットの中で震えた。相手はあらかた予想がつく。
「おいお袋。どういうことだ」
『声怖いぞー。それが主人公なのかー?』
「んなことはどうでもいいんだよ! これ以上住人増やしてどうする!」
『名目はシェアハウスでしょ? 住人が増えても問題ないじゃない』
「それは正論だが! だからってうちの学校の人を入れるなよ!」
『バカね。考えなさいよ』
「ああ!?」
『今あなたは弱みを握られてるの。それを解決する方法がこれしかなかったのよ。それとも何? 退学したかった?』
……っ。
なんだかんだで先を読みやがる。かつて倒産寸前の会社を救いまくっただけのことはある。
「…悪かった。いきなり大声で怒鳴りあげて」
『いいのよ。家賃はちゃんと受け取ってね』
「ああ」
『それと』
「? 何だよ」
『その絶妙な修羅場、頑張ってね』
「はぁ!? おい、ちょっと待ておふ━━━」
……切られた。つまり逃げられた。
これだからお袋は敵に回したくない。
「お疲れだな」
「ええ、そうですね皆さんのせいで!」
「まぁ落ち着けって。さっきも言ったろ?」
「…すみません。取り乱しました」
「まぁ、いきなり住人が増えてたらそうなるよな。俺も謝るよ」
本当にいい人だ。俺が女だったら絶対に惚れてた。…いや、どうだろう。あの上井草先輩と一緒にいるぐらいだしなぁ。付き合ってるんじゃないのか? あの人と一緒にいたい理由ってそのぐらいしか思い付かんぞ。
「俺と美咲の関係を疑ったな?」
「え!? あ、はい…」
「確かにあんな変人と一緒にいるのには疑問も持つよなぁ」
「そりゃあ、まぁ…」
「幼馴染みなんだよ、俺ら」
「はー、幼馴染み」
「驚かないんだな」
「俺もいますから、幼馴染み」
ただし半分暗殺者のコードネーム。注意するべし。
「大変だよなぁ…」
「ですよねぇ…」
上井草先輩の方を見てみる。穂高さんと格ゲー中。馴染み過ぎだろ。
「これ後輩君のゲーム?」
「俺の家ですからね。穂高さんは基本的にゲームしませんし」
時々相手してもらってるけど。相手にならなくて困ってます。え? 輝たち? 今の状態で呼べるかよ。
「よし、ならやろう!」
「えー…。バイトの後の家事で疲れてるんですけど…」
「いざ!」
「聞けよ!」
はー…。まぁ、相手いなかったし丁度いいか。準備運動準備運動。
使うキャラはガイル一筋。彼だけで俺は戦い抜いてきた。
上井草先輩はリュウ。基本的なキャラだな。
「いくよ、後輩君!」
「かかってこい!」
いくぜ、アケコン!
『1P、WIN』
「あ、あぶねぇ…」
なんとか2ラウンド全て取ったのだが体力がヤバイ。ここまで押されたの久々だな…。
「くー! 悔しい! もう1回だ!」
「くっ…」
この人は強い…! 気を抜いてられないな…!
久々のバトルは、まぁ、よかった。
時計はすでに1時を回っている。しかしこの人は時間という概念がないらしい。
「後輩君、もう1回だ!」
「いい加減にしてくださいよ…」
俺が勝ち続けた結果、この時間までやるハメになってしまった。穂高さんと先生は寝た。いや、助けろよ。
「先輩…。明日、学校…」
「そんなこと知るか! もう1回!」
「やらねぇよ…」
つーか風呂入りたい…。
今日のバイト、大体が力仕事で少し汗をかいてしまったのだ。
「しかし後輩君は汗臭いね」
「気付いてんなら風呂入らせろよ!」
「私が先に入るー!」
「おい、待て!?」
そのままリビングを出ていく先輩。あれはマジで風呂入りにいったぞ…。これ絶対にしばらく風呂入れないタイプじゃねぇか…。
「…外行くか」
少し散歩して落ち着くか。
外は意外と肌寒かった。上着着て正解だったな。
「ここも懐かしいな」
俺が来たのは小学校のころ、忍と陽子、箒とよく遊んだ公園。頭を冷やしたいときとかに、時々来る。
かつてはここで忍と陽子と話していたベンチに座る。
気持ちいい風が吹く。
「どうしてこうなったんだろうな…」
家に他人が住み始めたり、幼馴染みが恐かったり、働かなきゃいけなくなったり、
穂高さんの笑顔を見たいと思ったり。
…最後のは何だ? 自分でもよく分からない。
まぁ、答えなんてすぐ見つかるだろ。
ベンチから腰をあげる。
と、鳴き声が聞こえる。ニャー、ニャーと。
…やめろよ。マジで。
俺は捨て猫を見捨てることができず拾いまくってるのだ。両親は別にいいよー、と軽く見ているのだが今の俺は違う。
ただでさえ5匹いる猫にこれ以上仲間いるのか…!?
まじでヤバイぞ。食費とかワクチンとか。
ニャー、ニャー。
いや本当に。こっちは金足りたいんだっつーの。
ニャー。
……。
…結局拾ってしまった。猫1匹追加。
みんなー、6匹目だぞ~。
……。
じゃねぇよ何やってんだよ俺。どうすんだよこれ。金とか名前とか。
段ボールを抱えながらドアの前で悩む。
「何やってるんだ?」
「わぁ!? って仁さんですか…。こんな時間まで何やってるんです?」
「ちょっと彼女とね。四人目の」
「四人目?」
はー、モテるんだな。今まで四人と付き合ってるのか。俺もモテたい。
「勘違いしてるようだから言っとくけど」
「?」
「五人と同時に付き合ってる」
「…は?」
ナニソレイミワカンナイ。
「…最低なんですね」
「何言ってるんだよ。バレなきゃ犯罪じゃないんだ」
「今の録音したんで」
携帯を仁さんに向ける。
『バレなきゃ犯罪じゃないんだ』
「…意外と策士だね」
「いえ、基本です」
「そういう君も可愛いのをお持ち帰りしてるよな」
「…まぁそうですね」
「6匹目だよな?」
「…はい」
「いいのかな?」
「…バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
「今の録音しといた」
「…互いに無しということで」
「そうだな。無益な戦いから平和は生まれないしな」
「ソウデスネー」
うさんくせぇ。
「名前は決まってるのか?」
「グレーの猫ですから…。ずいほうですかね」
「他の猫の名前は?」
「白くて赤い首輪があかぎで青い首輪がかがさん。あかぎとかがさんは姉妹です。白くて黒い首輪で金色の金具がこんごう、茶色の猫が妹のはるな、黒猫がながとです」
「となると次は4姉妹か。名前はいなずまとかな」
「やめてくださいおそろしい」
現実になっちゃうかもしれないだろ。
さて、リビングに、って…。
「何やってるんです上井草先輩!?」
何故か上井草先輩は鍋を作っていた。
「おかえり後輩君」
「あ、ただいまです。…じゃねぇよ!? 何で鍋作ってるんです!? 朝4時ですよ!」
「言ってなかったな。新人が美術部に入部したら鍋で歓迎するんだよ」
「知らねぇよ!?」
だからって朝に作るなよ!それに何人ん家の食材使って勝手にやってんの!? 言ったら俺が晩飯で作るし!
「みやみや起こしてくる~」
「おい!? 関係ない人巻き込むな!?」
…前言撤回だ。ろくでもねぇ。
「「……」」
俺と穂高さんは疲労困憊していた。主に美術部関係のせいで。
「珍しく純君が弱ってます…」
「一睡もしてねぇから…」
「朝から鍋は無理…」
俺の暗殺者リストに上井草先輩と仁さん、千石先生が追加された。NEWの文字が眩しい。
「まぁ、元気でいこうぜ!」
「やめろ陽子。頭に響く…」
「昨日ここらへんで金髪の人に道聞かれたんだよ」
「聞けよ…」
「でなー。その子ユニオンフラッグのパーカー着てたんだよなぁ」
「そいつ軽めにキャラ被ってんじゃねぇか…」
金髪はアリス。パーカーは俺。でもユニオンフラッグってことは差別化できるな。俺のは和風だし。
「そうそうこんな感じの子!」
と、陽子が指を差したのはユニオンフラッグのパーカーの金髪の子。うちの制服を着ている、リボンの色が同じだから同級生か。
って…。
「本人じゃねぇか! 痛いっ!」
ツッコミで頭痛に響いた。少し押さえよう…。
「そんな毎回ツッコミするからよ」
「お前らがボケなきゃいい…」
「私たちはボケてないんだよ!」
「やめてアリス頭に響いてるから…」
穂高さんなんてヨレヨレでいつ倒れるかわからない。そういう俺もマズイけどな。
つーかこの金髪見覚えがあるな…。気のせいか?
「アリスの知り合いだろこの子…」
「正解デース!」
「ボリューム下げろ…」
金髪の子ハイテンションで追い付けない。俺が死ぬ。
「九条 カレンデース! よろしくお願いしマス!」
「カレンー! ひさしぶり!」
「久しぶりデスアリス!」
元気なのはいいよ。声もうちょっと下げようか。穂高さんは座ってウトウトしてるから。
「紹介するね! こけしみたいのが忍で元気なのが陽子! ツインテールで頭がいいのが綾で、男の子が純。で、今死にそうなのがみやび…」
紹介するたびにテンションが下がっていくアリス。たぶん俺と穂高さんが原因。
「カレンかー。よろしくな!」
「よろしくね、カレン」
「よろしくデス! 陽子! 綾!」
「金髪です~」
よく見ると忍がおそるおそる後ろから近づいてく。怖いからやめろ。どこのホラー映画だお前。
「よ、よろしくな。カレン…」
「よろしくデース!」
穂高さんは挨拶ができないほど真っ白に燃え尽きていた。できれば俺も燃え尽きたい。
教室のドアを開けるとみんなの話し声が。頭に響く…。
「大丈夫か穂高さん…」
「そういう姫矢君は…?」
「無理…」
「私も…」
揃って机に頭を伏せる。
「おや純君。お疲れだね。どうしたのかな? 昨日の夜の運動が響いたのかな? 何かいいことでもあったのかい?」
「黙れよ、輝」
睨む。
「睨みに力がない。帰って休んだ方がいいんじゃないのかい?」
「何でわかんだよ…」
「確かにな。姫矢、俺らが先生に言っておくから帰るといい」
「神城…。いや、いい。どうせ授業には影響はない」
≪優等生の劣等生≫なんで。
「でも純君が一徹でそこまで弱るなんておかしくない? 僕と三徹しても大丈夫だったじゃないか」
「一徹+いろいろ不幸が重なってな…。俺のHPはもう0よ…」
穂高さんは珍しく机で寝てる。あとでノート貸してやろう…。
「穂高さんもお疲れだね…。ま、まさか! 純君の裏切り者!」
「誰が裏切り者だ。というかどういう意味だ」
「うるさい裏切り者め! 糾弾されろ! バーカバーカ!」
「黙らせてやる」
輝の右頬を撃ち抜く。クリーンヒットだったらしく床に倒れて動かなくなった。
「今のは橘がいけなかったな」
「けっ。調子に乗るからだ」
「相変わらず仲が良いんだな」
「おい、橘姉。冗談でも言っていいことと悪いことがあるんだぜ」
「まぁ、そうだな。しかし姫矢」
「なんだよ」
「不埒者め」
「お前もかブルータス」
どうしてそうなる。一体俺が何をした。
「はぁー。これだから純君は鈍感だの朴念人とか言われるんだよ」
「まぁ、姫矢らしいが」
「おい待て輝、神城。話がまったく見えないぞ」
「お前ららしいがな」
「橘姉どういうことかkwsk」
「ほらー、席に座れー」
ちっ…。千石め…。邪魔をしおって。睨んでおこう。
ガルルルルル…。
ギロッ。
すみませんなんでもないです。
「今日は転校生を紹介する。九条、入れ」
は、九条?
「転校生の九条 カレンデース! 皆さんよろしくお願いしマス!」
お前転校生でうちのクラスかよ!
ツッコミそうになったときカレンが俺を見て、笑った。
動悸が激しくなる。教室が暑く感じる。頭がちょっとクラクラした。これは、何だ?
いや、今まで体感はしたことはある。綾の初めての笑顔を見たときとか。箒が女になり始めたときとか。最近だと穂高さんに。
だが俺はそれを表す感情を知らない。
こんな苦しくなる感情は、一体何だ?
俺が錯乱していると左から視線を感じた。
ジト目で穂高さんが睨んで(?)いた。
「え、穂高さん…?」
「嬉しそうだね」
「穂高さんちょっと待とうか何でそんな不機嫌なんだよ」
「別に不機嫌じゃないです」
膨れっ面で顔を反らされてしまう。えー、どうすりゃいいのこれ…。
ここで俺は気付く。少し失礼だったかもしれない。
なら勇気を出してさんはい。
「穂高。何がいけないんだ?」
ちょっとだけ呼び方を変えてみた。名前を呼ぶのは恥ずかしいので無理。これが限界だ。
「知ーらない」
「ちょっ、穂高!? 待ってくれ!? 嬉しくなかったんだからな!」
弁明する俺の横で穂高は何故か顔が赤くなりながら、勘違いだと思うけど、少し、笑ってるような気がした。
転校生要素すくねぇな! いやでもほら。カレンは次回ちゃんと活躍するんで。ホントに。
え、山本?
……。
8時間目待っててね! では!