バイトが終わって帰路に着いたとき俺のケータイが鳴った。
「んだようるせぇな…」
よく見れば通知が相当来てる。バイト中はケータイ弄らないだろうからロッカーの中に閉まっていたから…。今度からはちゃんと持とう。
って早く出ないとまずい。
「はい、もしもし。姫矢です」
「バイトおつかれー!!」
「げ…」
通知とか誰からの電話か見なかったのが仇となった。あんまり電話したくない相手、お袋だったからだ。
「んー? 今げって聞こえたよー? 聞こえちゃったよー?」
「いいから早く用件言えよ。俺バイトで疲れてるから」
「ごっめんごっめん~」
「ちっ…」
俺がお袋と電話したくない、というか会話したくない理由がこれだ。チャラいというかなんというか。あれだ。子供っぽい。
容姿は完全に20代にしか見えないのもあって近所では人気お母さんランキング1位を取り続けている。このキャラで。そしてなにそのランキング。今すぐやめとけ。
「用件言っちゃうねー。今家には純一人だよね?」
「ん? まぁそうだけど」
「それだとなーと思ってね」
「どれだ」
「シェアハウス扱いにしちゃったんだー」
「…は?」
「だから今日から住人が住、む、わ、け。純は八百屋さんだねー」
「それを言うなら大家さんだろ! つーか初耳なんだが!?」
「当たり前じゃん、言ってないし!あ、家賃はちゃんと回収してねー。食費も回収よろしく!」
「軽いな!っていうかまさかバイトしろって言ったのこういうことなのか!?」
「Oh yes.」
「クソ両親!」
「あれー?そんなことを言ってしまう子にはお仕置きしなきゃねー!」
「帰れ天然ドS嬢!」
「帰ってるよ。家に」
「うがああああああ!」
イラつく。すっげぇイラつく。
「あ、そうだ。純歌に変わるね」
「へ? いや別にい━━━」
「お兄ちゃんやっはろー!」
「え、あ、久しぶり…?」
「元気そうでなによりだよー!あ、そうだ!やっぱアメリカってスゴいねー!」
「そ、そうか」
「でねー!新しい学校が―――」
切った。だって訳わかんねぇじゃん。アメリカ凄いって言ってんのにいきなり新しい学校の話になるなんて。
もう無理です。お腹いっぱいです。
「バイトで疲れてんのにあれ以上聞かされてたまるか…」
帰ったら晩飯作らないといけないし、新住人には挨拶しないといけないし…。働くの辛い。これなら将来は専業主夫に徹してた方がマシだ。
でもラビットハウスから家が近いのはありがたい。もう着いた。
リビングで詰襟の上着をソファに掛け洗面所に向かう。ドアノブを回し開けた。
まず目についたのは胸だ。圧倒的胸(学校で誰かが牛と言っていた)。その質量はたぷーんではなくどたぷーんであろう。タオルに隠されているのが幸い中の不幸、ではなく不幸中の幸いだ。
これ以上は倫理的にも、他の何か的にもマズイと思い目線を上に向けると整った顔が目に入る。俺はそこまで女の子の顔を輝のように評価しないがこれは100点ではないだろうか(注:個人の意見です)。濡れたショートヘアーの茶髪。俺を見る黄色い瞳。その瞳には何かの芯があるように見える。
何故だろうか。頭がクラクラしてきた。それに熱い。
そんな中で結論を言おう。何故洗面所に穂高みやびがいる・・・!?
「ひっ…」
「ひっ?」
「姫矢君のエッチぃー!」
「グハァッ!!」
顔面に薬用石鹸μ'sが直撃した。
「「………」」
かれこれ10分ぐらいこれである。俺はいい加減腹が減ってるし穂高さんも辛いだろう。というか穂高さんは夕飯を食したのだろうか。さて、どうしたものか。
あ、そうだ。相手は一応お客様ではないか。ならこの手がある。
「えっと…。お茶でも飲む?」
「…う、うん」
小声ではあるけど返事が聞こえた。第一段階はクリアか。
お湯を沸かす間、俺は自分の思考に入っていく。
お袋はシェアハウスにした、と言っていた。つまりこの家に俺含め最大7人が住める。でも、よく思い出してみると靴は穂高さんのしかなかった。つまり。今、この家には俺と穂高さんしかいない、というわけだー!(パラガスボイス)
………。
「アウトだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「ふえ!?」
「えっ!?あっごめん!気にしないでくれ!」
「わ、わかった」
そんな間にもお湯は沸いてくれていてあらかじめ茶葉を入れた急須にぶちこむ。
「はい、お茶どうぞ」
「あ、ありがとう…」
「んじゃちょっと電話してくるからごゆっくり~」
「う、うん」
ポケットからケータイを取りだしある人に連絡する。
「もしもし~♪ 私達からのサプライズ驚いた~?」
「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「うるさいなぁ~」
「うるさいなぁ~、じゃねぇよ! バカなの!? ゼロるの!?」
「純はスクエアエニックス敵に回すつもり?」
「そこはどうでもいいんだよ! 男一人の家に女の子入れるってバカだろ!」
「自w称wエwスwパwーwこwのw手wはw読wめwたwぁw?www」
「読めねぇしお前こそ敵に回すぞ!?」
「そこはどうでもいいんだよ。純に彼女ができないのが心配で心配で。一時期はホモなのかと…。でもその様子だとホモじゃないんだね♥」
「うるせぇなバカ!ホモじゃねぇしちゃんと女の子に興味あるわ!」
「だろうね。でもなんで本が制服系統多いの?」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「あ、でも日本発つ前は乱交系が」
「シャベルナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!それ以上はマジでやめて!?自殺しちまうぞ!?」
「落ち着いて少尉。純の本は大体知ってるから」
「こんちくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「うるさいよ。近所迷惑だしチンパンジーってあだ名付けるよ」
「何でそんなあだ名付けられなきゃいけないんだよ!とりあえず!俺はシェアハウス反対だからな!じゃあな!」
「ちょっ、まっ━━━」
ケータイの赤いマークにタッチする。
はぁ…。穂高さんには悪いけど帰って━━━
「あの…」
「うわぁ!?って穂高さんか…。もしかして聞いてた…??」
頷く。
「帰るとしても私帰れないの…」
「…ふむ?」
よく考えてみようか、俺。穂高さんがここにいる理由だが何故か家に帰れない、ということか。穂高さんもそう言ってるし。まさかとは思うが…。
「穂高さんって上京してきた?」
「うん」
「やっぱりかぁ~」
俺の通う陣代高校は都立、つまり東京にある。東京に来た理由は不明だが上京したのはわかった。
寮の方にすればよかったのでは?なんてツッコミは野暮だろう。
「…はぁ。わかったよ。ならルール作らなきゃな」
「ルール?」
「俺、男。君は女の子。Do you understand?」
「い、イエス、アイ、ドゥ」
「よし。まず、家事全般は当番制。互いの部屋にはいかず洗濯物や会話はリビングで。当校時間はずらす。あとは…」
「スラスラだね…」
「俺の日常がかかってるんで。弁当は違うメニューにしなきゃな…」
それを考えるとめんどくさいな。料理はできるとはいえ二人分、それもメニュー違いとなると…。むぅ…。
と思考を巡らせていると穂高さんが口を開いた。
「わ、私姫矢君と同じでもいいよ・・・?」
「え?ああ、そう?ならいいか・・・」
「あと、変なお願いごとだと思うけど聞いてくれる?」
「ん?何?」
食費、家賃はたぶん講座に振り込まれるのだろう。いやでも食費の計算が難しいな・・・。
「私と・・・友達になってください!」
「別にいいけど。・・・うん?」
俺と友達になりたい?むしろこっちからお願いしたいぐらいだが。
「いいの?俺男だしそこまで善人じゃないよ?」
「う、うん」
「…そっか。ならよろしく、穂高さん」
俺は右手を伸ばす。
穂高さんはその手を恐る恐る握った。
「ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いします!」
とりあえず言えるのは俺に新しい友達ができて同居人も同時にできた。バイトで働くことにもなったし。
これが俺の高校生活初日。少し濃すぎる気もしなくもないが気にしない。
だって楽しかっただろう?
こうして俺の高校生活が始まった。
ここから本番? だと思うのでよろしくお願いします
あ、あと評価付けてくれると嬉しいです。寂しいので