純も大変だな!いや、絶対管理してる俺の方が大変だな!
というわけで2時間どうぞ!
突然だが俺の両親は今アメリカにいる。妹も「本場のユニバーサルスタジオを体感したい」という不純な理由で付いていった。ちなみに英語は喋れない。それでどうユニバーサルスタジオを楽しむというのだろうか。
俺はというと英語しゃべるのめんどいし、地元から離れるのが嫌だから日本に残ることになった。入試も受け終わった後だったし。
ここで俺に難題が立ちふさがった。
光熱費と学費、食費は出してくれるらしい。だが遊ぶ金は自分で稼げと言うのだ。
今までバイトもしたこともなく、親バカ丸出しのおかげで好きなものを買えてたからヤバイ。これは非常にまずい。面接とかダルい。
だがここで親バカ丸出しの親父から救いの手が伸ばされた。バイト先に宛があるからそこに行け、と。これは面接を受けなくともバイトができるということであり、本当に親父には感謝してもしきれない。
まぁ文句を言うとしたら俺に働かせることと始業式のあとということか。
でもそんな些細なことなので言わない。
とりあえず今日からバイト。そういうことだ。
放課後、輝が俺に話しかけてきた。
「純くーん! カラオケ行こうぜー!」
いつの間にか純君呼びになってやがる。吐き気がする。
「悪いな。今日は無理だ。バイトがあってな」
おお、なんかカッコいい。人生で言ってみたいセリフ60位ぐらいだ。全然じゃねぇか。低いにもほどがある。
「姫矢君がバイト!? 嘘でしょ!?」
「山本が驚くのもわかる。これにはいろいろ事情があるんだ」
俺の今の事情を全員に説明。
「ついに姫矢君が働く気に…」
「お前は俺のお袋か。そして働く気になった訳じゃない」
むしろ働きたくないぐらいだ。
「よかったじゃないか、姫矢。社会を知ることができるぞ」
「神城、俺がそんな前向きな人間だと思うか?そんな前向きならすでに就職してるレベルの人間だというのに」
「姫矢に限ってそれはない」
さすが神城。完全にバレてやがる。
まぁこの姫矢 純が働くはずないんだよな!
「ここか…」
学校の外に出て10分ぐらい。親父が残した地図を元に目的の場所にたどり着いた。店名はラビットハウス。なんか聞いたことがある訳だが…。
とりあえず中に入る。
「いらっしゃいませ」
中には店員らしき銀髪の中学生ぐらいの女の子がいた。
「え~と、俺は客じゃなくてバイトに来たんだけど…」
「純さんですか。お久しぶりです」
「え?俺のこと知ってるの?」
「覚えてないのですか?私です。
うん…?智乃…?
「思い出した!チノちゃんか!久しぶりだな!」
いろいろ思い出したぞ。昔から親父の行きつけのカフェがあって小さいときはよく付いてった。その時一緒に遊んでたのがチノだったんだよな。いやー懐かしい。
「大きくなったなぁ~」
「やめてください、撫でないでください…!」
「えー。昔は喜んでたのに」
「喜んでません!」
おう、全否定。この話はやめておいた方がいいな。
「7年ぶりか。久しぶりだな」
「そうですね。…カッコよくなりましたね…」
「え?俺そんなにいい男になってる?」
「前言撤回です。昔とあんまり変わらないようです」
本当にそう思ってるのだろうか。顔が赤い気がする訳だが。
「気のせいです」
なら追及しない。話を変えよう。
「お父さんとお祖父さん元気か? まぁ親父と連絡取り合ってるんだから元気なんだろうけど」
「お父さんは元気です。でもお祖父ちゃんは…」
「そうなのか…」
「と、思うじゃろ?」
「…は?」
俺は下げた顔を思わず上げてしまった。
「うさぎが喋った…?それも聞き覚えのある声で…?」
「久しぶりだな。チノのお祖父ちゃんじゃ」
「…ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
え!?いや!?どうしてそうなった!?
「ちょっと待ってください!?どうしてそうなったんです!?」
「少しうるさいぞ。いろいろあったんじゃ」
「はぁ、すいません。でもそれは驚きますよ」
「そりゃそうじゃろうな。でもこれは秘密で頼むよ」
「わかりました。で、俺はどうすればいいんですか?」
「上に更衣室があるので着替えてきてください」
「了解。じゃ、またあとで」
カウンターの隣にあるドアを開くといろいろとドアがあった。たしかここから先は家なんだよな。あんまり入らないようにしないと。
階段はすぐ近くにあった。そこから上に上がる。更衣室ってどっちだったけな。右?左?うーん。
「左好きだし左にするか」
左の方のドアを開ける。ツインテールの女の子がいた。身に付けてるのは対となる紫色の下着だけだ。
「へ・・・?」
「なっ・・・!?」
銃を構える同い年ぐらいの女の子。・・・って銃!?
「ちょっ、まっ」
「変態がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
訓練用と思われるゴム弾が俺を襲う。
2度と自分の勘なんて信じるもんか。
男性用の更衣室が隣の方だと射たれた後にチノに聞いた。何故更衣室に向かう前に言ってくれなかったのか。
着替えた後、俺は店の方に戻った。
「大丈夫ですか?」
「全然大丈夫じゃない」
なんだよ、この女。いきなりハンドガンで射ってくるなんて。
ピリピリする俺達を感じ取ったのかチノが間を持つ。
「こちらが
「天々座…!?」
「姫矢だと…!?」
「?知り合いなのですか?」
首をかしげるチノ。まぁそうなるな。
「いや、親父の話にたまに天々座って出てきたもんで」
「こっちもだ。よく姫矢という人の悪口を言っていた」
「そういえば二人のお父さんと私のお父さんは仲が良かったんでした。完全に忘れてました」
「もしかして会ったことあるのか?お前と」
「どうだろうな。私の方は記憶がない」
俺もない。初対面なのだろうか?いや、こういうのは知らない方がいい。知ってしまったらなんか・・・うん、なんか。
「この話はここまでにしましょう。仕事中ですし」
「あ、そっか。悪いな」
「いえ。ではまずメニューを覚えてください」
渡されたメニューを見るとそれなりの種類があった。ふむ…。
「大丈夫か姫矢?ちゃんと覚えられそうか?」
天々座が心配してくるが安心して欲しい。こう見えてもコーヒーの違いぐらいはわかる。
「…チノ。今出したコーヒー豆、キリマンジャロか」
「え? そ、そうですけど」
「で、その隣がスペシャルブレンドか。さらに隣がブルーマウンテン」
「お前ここで働いたことがあるのか!?」
「いや、ない。でもさっき俺が着替えに行くときスペシャルブレンドの注文を受けてた。その時した香りがそこからしてる。それにあの香りは普通のコーヒーじゃ出せない。ブレンドしてると思うべきだ。あの女の人が頼んだコーヒーからはキリマンジャロの匂い、中年男性のカップからはブルーマウンテンの匂いがする」
「す、スゴいです…」
「お前どうしたらそうなるんだ!?」
「本場ブラジルでコーヒー飲み比べに付き合わされまくってたからな・・・」
親父とお袋が最高のコーヒーを作るためだけにブラジルに行き飲み比べしまくっていた。そして何故か俺も付き合わされた。あの時はカフェイン中毒で死ぬかと思った。全然寝付けない日々が続いたし。
「金額の方は覚えられましたか??」
「やってみるか?」
「あそこの2人の客の合計金額は…?」
「スペシャルブレンドにケーキセットが2つ。これで1240円。追加でケーキ、確か300円だったな。だから1540円だ」
っていうかケーキ2個食ってるやんけ。よくそんなに甘いもの食べれるなぁ。
「うそだろ…」
「嘘じゃねぇ。チノ。計算してみてくれ」
しばらく電卓を弄るチノ。そしてその顔は驚愕に変わる。
「せ、正解です…」
「どうだ、天々座?」
「なんか気味悪いぞ…」
「ひでー」
「姫矢の学校はどこだ?」
「陣代高校だけど」
「え・・・?隣の・・・?お前ならもっと高いところ行けただろ!?」
「いや、頭良すぎる学校も嫌だしバカすぎるのも、と思って陣代高校にした」
「バカだ・・・」
えぇ・・・。だってなんか頭いい学校って堅苦しそうじゃん?隣のお嬢様学校とかまさにそうよ。だから普通で校則緩めの陣代高校にしたのに・・・。バカとはなんだ。
ショックを受けてる俺をよそにチノは何かを決めたらしい。
「純さん、今日からよろしくお願いします」
「え?マジで?即採用?」
「はい。純さんだったらコーヒーの作り方もすぐに覚えるでしょうし、大丈夫です」
おお。バイト確保。これで俺の安定したゲーム生活を送ることができる。
「なら早速働いてもらおうか」
「…え?」
「何で驚いてるんですか…」
「いや今日チュートリアルだけで帰れるんじゃねぇの?」
いや待て?さっきチノはこういったはずだ。『今日からよろしくお願いします』って・・・。あぁ、はい・・・
「そんな訳ないだろう。ほら、さっさとカウンターに入れ」
こうして俺は2人にこき使われるのであった。
6時になった。閉店だ。
「終わった~…」
「初日にしてはなかなかの戦果だな」
「誉めてんのか…?」
疲れて頭が回らねぇ。というか大半が力仕事だったような気がする訳だが。ならこのウエイター姿は一体。
「体力は全然ですね」
「3年帰宅部よ」
「自慢できないな…」
まじか。3年帰宅部って自慢できないのか。覚えておこう。
「とりあえず着替えましょうか」
ギロリ。
「天々座、もう間違えねぇから安心しろ」
一度習えば忘れない。それが俺だ。
「下着は少女趣味なのに。なんでハンドガン持ちなんだよ・・・」
疲れているからなのか思わずそんな一言が出てしまう。
「なっ…!?」
「あ? どうした天々座」
「やっぱり変態が!」
「ちょっと待てよ!? こっちは疲れてんだよ銃向けるなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
ゴム弾が再び俺を襲う。痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
「あ、そうだ。純さん。シフト表です」
「え? ああ、ありがとう」
俺は月から土曜か。なるほどな。って…。
「おい!? 毎日じゃねぇか!?」
「リゼさんも毎日ですよ?」
「そういう問題じゃねぇ!?」
労働基準法ってご存知!?
こうして。俺のバイト初日は終了した。
働くって辛いんですね。親父とお袋には本当に頭上がらねぇよ。
今回もありがとうございます!
次回もよろしくおねがいしますね!