不健全鎮守府   作:犬魚

925 / 940
世間は大型連休に突入!雨やけど!

【登場人物】

提督(メガネ)
メガネ踏んだら曲がった

秋雲(非メガネ)
原稿にコーヒー吹いた


提督と秋雲と婚約破棄

夏も近づく八十八夜、そんなセンチメンタルなコトを考えつつ執務室でオートメ●ニックのページをめくっていると、執務室の重厚な扉を勢いよく開けてやって来たのは陽炎型でありながら夕雲型にも片足を突っ込んでいるせいでそもそもどちらの姉妹なのか、陽炎も夕雲もわかっていない記憶の中でふわふわした駆逐艦、秋雲…!

 

海軍所属の軍人でありながらも駆逐艦である自分を良しとせず、常に、軍なんてヤ●ザみたいな仕事から早く足を洗ってプロの少年漫画家としてやっていきたいと考えているアツい心とアツい筆を持つ少年漫画家志望である

 

「テイトク、秋雲さん、婚約破棄しようと思うんすけど」

 

「ケッコンしたのか…?俺以外のヤツと…」

 

「いやいや、秋雲さんはフツーにミコンっすよ」

 

「じゃなんだよ?婚約破棄って、九十番台か?」

 

「それは詠唱破棄っす」

 

婚約破棄…ッッッ!!

それは、昨今大人気ジャンルとして確立しつつあるファンタジー・スタイルである!

主人公は物語開始からイケメン王子から2ページ目にはインネンをつけられ婚約を破棄されると言ういきなり破滅から始まるジャンルであり、破滅かと思いきやなんやかんやあってザマァ!な展開が目白押しなのが人気らしい…

 

「たまには流行りもんでも描いて小遣い稼ぎでもしようと考えたんすよ」

 

「ナニが小遣い稼ぎだ、漫画ナメてんのかコノヤロー」

 

この秋雲、ハッキリ言って絵は上手い、メチャシコなドエロい絵からキャッチーなイラストまで用途によって描き分けられる高い技術を持ってはいるが、本人は本宮ひ●し先生を敬愛しており、本宮ひ●し先生のようなアツい少年漫画を描いて憧れの少年ジャ●プで連載したいと心の底から思っている

ただ、めっちゃエロい絵が描けるのでワ●マガジンとかコミックアンリ●ルとかに持ち込んだ方が普通に売れるだろう…

 

「で?なんで婚約破棄なんだ?」

 

「山田ゼレフのコミカライズ頼まれたんすよ」

 

「山田ゼレフ先生の?」

 

ラノベ界史上、最も凶悪だったと言われている黒ラノベ作家、山田ゼレフ先生

その作風はハードコア・エロスを得意とし、暴力!セックス!ドラッグ!花とか夢とかまるで無い切れ味抜群のティーンズ向けラノベを多数刊行している新進気鋭の若手作家である

あの、プライド高くてア●ルが弱そうなキンパツ美少女のパースちゃんも山田ゼレフ先生の作品を愛読しており、山田ゼレフ先生の新作を早く読みたいが為にニホン語を勉強しているほどだ…

 

「なんか山田ゼレフのヤローも一応売れるからって出版社さんから婚約破棄書かされたらしいんすよ」

 

「ラノベ屋ってのも大変だな」

 

「で、気乗りはしないけど書いてみたら案外売れたらしく、ここで1つコミカライズでもってハナシになったらしくて、山田ゼレフのヤローがそれなら良い人いますよって出版社さんとハナシになって秋雲さんに描かないかって…」

 

「ふ〜ん、そうか」

 

山田ゼレフ先生も大変だな、前に天霧クンに聞いた話だが山田ゼレフ先生こと狭霧クンも本当はめっちゃ糖度の高いピュア・ラブ・ストーリーを書いて世の若者たちをキュン死させたいとか言ってるらしいが、いかんせん彼女にはそっちの才能が無いらしく、ピュア・ラブを書こうとするとすぐに酒!女!暴力!レ●プ!とかになるそうな

 

「まぁそんなワケでテイトク、婚約破棄してくれねーっすか?」

 

「やだよ、っーか俺は婚約などしていない」

 

「いいっすかテイトク、秋雲さんはどんな作品でも描く以上はリアリティを求めるんすよ、リアリティ、これが重要なんすよ、リアリティこそが作品に生命を吹き込むエネルギーでありリアリティこそがエンターテイメントなんすよ、マンガは自分で見た事や体験した事、感動した事を描いておもしろくなるんすよ」

 

ナニ言ってんだコイツ?イカレてるのか…?

 

「だから秋雲さんはリアリティを得る為に婚約破棄をしなくちゃあならない」

 

そして、その相手は誰でもいいってワケじゃあない!身近ですぐに婚約できて手軽に破棄できる人材………つまり!テイトクが相応しい!!と秋雲はテーブルを叩いた!

 

「オイオイオイオイオイオイオーイ?秋雲よ、俺はこの美しい海上の愛と平和を守る為に日々深海棲艦と戦う海軍の将校なんだぜ?田舎とは言え地方の基地を預かる責任ある立場なんだ、しかも!駆逐艦と婚約だぁ?俺の社会的立場を考えたらロリ●ンのレッテルを貼られちまうのは想像に難くない!」

 

「“どエロいの”描きます」

 

「だから気に入った」ドン!

 

リアリティの為だもんな!そう、リアリティ!まずは自分で婚約破棄してみなくちゃ婚約破棄される気持ちは理解できない!

 

「よし、じゃとりあえず婚約っすか、どうすればいい?」

 

「いや、秋雲さんも知らないっすよ」

 

「マジかよオマエ、婚約破棄ナメてんのか?」

 

「まぁ、よくワカんねーっすけど、とりあえず役場とかに行くんすかね?」

 

グゥゥゥム、そもそも婚約とは何か?俺たちは婚約破棄の前に婚約と言うもの自体をよく知らないのだ、婚約とは何か…?祝福?祝福が必要なのか?

 

「テイトク、とりあえず腹減ったんでマミー屋行かねーっすか?マミー屋」

 

「マミー屋か…」

 

「今日なんかガッツリしたモン食いたい気分なんすよ、カラアゲみてぇーな」

 

「カラアゲか、いいな!よし!行くか!!」

 

こうして、俺たちは胃に対してガッツリとした攻めを行うべくマミー屋へと向かった…

 

◆◆◆

 

甘いもんも辛いもんも扱う本格派スイーツショップ、マミー屋…

本格派スイーツショップと銘打っているものの、普通に定食メニューもあり、ワンパクな空母達にも足りないとは言わせないグルメ大衆食堂でもある…

 

「…………はぁ」

 

そんな本格派スイーツショップの窓際席に座り、ため息を吐きつつイチゴのショート・ケーキにフォークを刺していたのは、見た目薄幸な美少女でありながら内面はわりとドス黒いと姉妹からディスられることのある見た目薄幸の美少女、狭霧

 

史上最悪の黒ラノベ作家と推されている山田ゼレフ先生その人である

 

「………はぁ、面白いの?コレ?」

 

自分で書いていて常々思う事だが、自分が書いている作品は本当に面白いのだろうか?と考えてしまう、いや、そもそも自分が本当に書きたいものはもっと明るく、キラキラして、読んだ人がハッピーになれるものが書きたいのだ

 

しかし皮肉にも彼女にその才能は無く、その逆、ダークな雰囲気、ギラギラした人間関係、悪い意味でハッピーハッピーやんケな作品を書く才能はあった

 

「あ、山田ゼレフじゃねーすか?」

 

「…はぁ?あぁ、秋雲さんと……提督」

 

そんな悩める狭霧のいるテーブルに、コーヒーとケーキっぽいものを持った秋雲と提督がやって来た

 

「なんすかなんすか?一丁前にため息とか、アレっすか?次は誰を殺すか考えてるんすか?」

 

「そんなコト考えてないですよ」

 

「アンドレイ殺さねーっすか?アンドレイ、あいつヤなキャラっしょ?」

 

「あぁ…そのうち殺しますよ」

 

そう言えば、秋雲に自分のクソラノベのコミカライズやらないかって頼んだっけか……そんなコトをぼんやりと考えつつ狭霧はケーキを一口食べた

 

「秋雲さんと提督はデートですか?」

 

「違うっすよ」

 

「今日コイツと婚約破棄しよーと思ってな」

 

「……………え?ケッコンしたんですか?私以外の駆逐艦と…?」

 

ナニ言ってんだこの提督、イカレているのか?と思ったが、よくよく考えたら自分はこのおっさんのコトに対して特に好意は持っていなかったので言ってみてから狭霧は苦笑した

 

「カッカッカ、小粋なゼレフ・ジョークってやつだな」

 

「ちょ、あまり外でその名前は呼ばないでくださいよ、一応秘密にしてるので…」

 

「あぁ、すまんすまん」

 

「そういやこないだキンパツ美少女のガイジンさんが山田ゼレフの新作はいつ出るのかしら!ってグイグイきたんすけど」

 

「さぁ…?今のペースだと再来月には……ですかね?」

 

「マジグイグイくるんすよ、なんなんすかあのガイジン、テイトク、あのキンパツ美少女なんなんすか?」

 

「キンパツ美少女のパースちゃんだ、それ以上でもそれ以下でもないのだよ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。