【登場人物】
提督(ハンサム)
車に瓦でも刺さったらイヤなので近所イ●ンモールの立駐に避難させる名采配
初春様(雅な御方)
提督からもナチュラルに様付けをされているナチュラル高貴な御方、雲龍と同じく妖怪仙人疑惑がある
ある晴れた昼下がり、小粋なテイトクジョークを交えつつ秘書艦サミー子とババ抜きをしていると執務室の重厚な扉が開いた…
「テイトクはおるかの?」
「ゲ、ゲェーッ!!」
「いや、ゲェーは失礼すぎでしょ…」
秘書艦サミー子の冷静で的確なツッコミはいいとして、執務室にやって来たのは隠しきれない妾さと高貴さを持つ雅な御方、初春様
基本的には駆逐艦=バカガキであるのは最早常識だが、この初春様は違う…っ!一説には金鰲出身の妖怪仙人と噂されているがその真偽は不明、しかし、その隠しきれぬ雅さは只者のそれではなく、この…俺ですら油断すれば膝を屈しかねない
「これはこれは初春様、わざわざ足を運ばなくとも呼び付けて貰えれば……」
「よい、妾とて基地では一艦娘にすぎぬからのぉ、テイトクに用があれば自ら足を運ぶことに不思議はあるまい?」
「ガハハハ、ご冗談を」
一人称が“妾”の時点でもう普通ではない、この御方のヤバさはオレじゃなきゃ見逃しちゃうね
「して、初春様がわざわざとは……何の用件でありましょう?」
マミー屋に和菓子のラインナップが少ない事か?それとも明石のとこで売っていたミックスゼリーが最近品薄状態な事か?
「うむ、テイトクよ………妾の妹とヤってくれぬか?」
「…………はぁ?」
「どうじゃ?」
「…………はぁ?」
え…?なに…?妾とヤってくれ?なんで?いや、違う、妾、妾の妹?え?妹?妾に妹いるの…?妾の妹…?え?ヤる…?妾の妹と…?なんで…?
混乱…っ!!そんな俺の混乱と動揺の中、秘書艦サミー子は俺の頰にアツアツのティーがなみなみと注がれたマグカップを押し付けた
「アツゥイ!!ナニすんだテメェ!!」
「さっきからティー淹れたけど飲むか聞いてたじゃないですか?モンクの前に3回も無視された私の気持ちを考えるべきです」
「そうか…」
クッ!この寒色系が……まぁいい、頰に喰らった激アツのおかげで冷静さを取り戻せたのだよ
「初春様も紅茶でいいですか?あ、ミロもありますけど?」
「ふむ、聞いた事がない飲み物じゃな、ではその…“みろ”とやらを貰おうか」
コイツ、雅な御方である初春様になんてものススメるんだ、初春様はお茶にキマってるだろーが!!
「あの………初春様、初春様の妹と言うと…?」
「うむ、見ての通り妾とて人の子、不出来とは言えやはり妹は可愛いものでな…」
見ての通り…?人の子…?
「なんじゃ?妾に何か言いたいことでもあるか?」
「い、いえ!ございません!!ございませぬ!!」
しからば命だけは!命だけはァァァァ!と誠心誠意を尽くし頭を下げ初春様に許しを乞うた俺に対し、初春様は5秒程考えて許すと手にした扇子を広げた
「それで……その、初春様の妹?とは…?」
「ん?あぁ、その話じゃったな、そう、アレじゃ、妾の妹なんじゃが、最近テイトクのコトばかり考えているようでのぉ、起きていても、寝ていても、食事をしている時も、なんと言うか………そう、惚れておる」
「えぇぇ…」
ウソだろオイ、ビックリだよオイ、いや……まぁ、たしかに?俺ぐらいのハンサムなんだからそれぐらいは普通にあるよな?うん、普通に、だってハンサムな提督なんだから、そりゃーあるよな?うん、ほら、だってアレじゃん!他所の基地とか鎮守府とかだと提督と艦娘、上司と部下、なんっーかオフィス・ラブ的なモンとか当たり前っーし、上司と部下の関係は5時までであとはアフター5な関係っーか、そーゆーのはよくあるし
むしろ!今まで俺にそーゆー話がなかったのは俺が硬派な提督だったからであり、やっぱ上司と部下ってのは一線を引いとかないとアレなワケで、俺としてはやっぱそーゆーのは良くないっーか、示しがつかないっーか…
「初春様、妹って言ってもどれなんですか?」
「む?おぉ、そうであったのぉ」
秘書艦サミー子の冷静で的確な疑問……そういやそうだ、初春様の妹って言っても何人かいるんだよな、そもそも初春様の妹って誰だ…?子日…?
「有明じゃ」
「あー…有明さん」
「有明…?誰だそいつ?」
「アレですよアレ、昔から白露姉さんが好きで好きでわざわざ軍まで追いかけて来た幼馴染系残念イケメンの」
「あー……アイツか」
そういや居たな、そんな残念イケメンが…
たしかいきなり俺にライバル宣言カマしてアデューとか言ってた…
「え?ナニ?アイツ、俺のコト好きなの?」
「まさか…あの人、昔も今も白露姉さんにゾッコン・ラブですよ」
サミー子曰く、有明は白露のアホにちょっかいだそうとしては次女の時雨様の逆鱗に触れているらしく、基地と病院を行ったり来たりする生活を送っているそうだ
「夕立姉さんと村雨姉さんにもボコられてますから、あの人」
あのバカコンビどもにボコられてなお挑み続けるTOUGHさだけは大したものだ
「あの…初春様?」
「なんじゃ?」
「その……有明クンなんですが、惚れてるんですか?俺に?」
「うむ、寝ても覚めてもテイトクを倒すコトだけを考えておる」
「あー……そっちかぁ〜」
初春様曰く、正直、ホントに妾の妹かどうか疑わしく、一時は武から身を退けと言ったものの、それでも!とひたすらにトレーニングを続けているらしく、なんでも2020夏同期会なる仲間達の協力もあり、最近メキメキと力をつけてきたのだと…
「へぇ…サミー子、知ってた?」
「えぇ、なんかアメリカ人の人に殴り方とか、殴り方とか、殴り方とか教わってるらしいですよ」
「へぇ〜…」
殴り方しか教わってねぇのかよ、その同期会のメンツはよく知らないが、どうせヘレナくんとかその辺だろ…
「それでじゃ、テイトクよ、有明とヤってくれぬか?」
「あ〜……では初春様、受けるのは構いませんが条件を有明クンに伝えて貰えますか?」
「条件とな?」
「えぇ」
ーーー
ベストコンディション…
最高の状態で試合場に立て、ならば相手する…
「…と、コレが試合を受ける条件じゃ」
提督に試合の約束を取り付け、寮の部屋に戻ってきた初春はとりあえずに子日に茶を淹れさせ、若葉と初霜にも楽にせよと促した…
「ベストコンディション!フッ!いいね!ベストコンディションか!」
有明は陽気なアメリカ人から借りたサンドバッグをバシバシ叩きつつニヤリと笑みを浮かべた…
「どうする?今からでよいか?」
「今からァ!?あ、いや……ちょっと、今はベストじゃないし…先週夕立に折られた肋骨とかまだちょっとアレで……」
「はぁ……お前、本当に妾の妹か?」