不健全鎮守府   作:犬魚

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最近おとなしくしていた緑のトゲトゲしいアレ

【登場人物】

提督(TEITOKU)
最近古鷹さんからMAD TRIGGER CREWについて3時間程アツく語られウンザリした

山風(やまかぜ)
気難しくて繊細な今風の子、五月雨姉ぇより将来性がある




提督と山風とアウェーの洗礼

秋の陽気な執務室、経費の精算をするべく領収書チェックをしてハンコを押す、提出された書類をチェックしてハンコ押す、領収書をチェックしてハンコを押す、書類をチェックしてハンコを押す、ハンコ押してハンコ押す……まるで精密なマシーンになった気分だな

 

「サミー、コーヒーくれ、缶の」

 

「ご自分でどうぞ」

 

このヤロウ、上司である俺に対して何たる不遜……だが、そんなナマイキな部下をそれでも許そう、何故なら俺は心の広い男であり、理解ある上司だからだ

 

「ったく、しゃーなしだな」

 

秘書艦サミー子から断られてしゃーなし、俺は座した椅子から雄々しく立ち上がり、冷蔵庫から買いだめしている缶コーヒーを1本取り出し…

 

「冷蔵庫ならついでに野菜●活もお願いします」

 

「この俺を使いっパとはな、だが許そう」

 

冷蔵庫から缶コーヒーのついでに紙パックの野菜●活(フルーティー味)を取り出してサミー子に投げて渡し、自分の席に戻った俺はすぐに真面目に仕事をする気になれないので今日の基地スポを広げた…

 

「ヘレナ大炎上、2回8失点KOか…」

 

へぇ〜…そりゃ大炎上だ、っーかヘレナって誰だ?そんな名前のやつウチに居たっけか…と考えつつ基地スポのエロ欄を眺めていると、執務室の重厚な扉がノックもなく開き、毛のないキモいネコを頭に乗せた緑色のアロエみたいなトゲトゲしいのがズカズカと入室して来た

 

「…遊びにきたよ」

 

「ノックをしたまえ、ノックを」

 

あと、執務室は遊びに来るところじゃあないと付け加えると、山風はごくごく自然な流れで俺の座っている席……と言うか、膝の上に着席した…

 

「山風クン、あっちにお客様ソファーあるからあっち座ってくれんかね?そこに座られると邪魔なのだよ」

 

「…イヤ」プイッ

 

「そうか」

 

このガキゃ、提督様に向かってなんたる不遜、なんたる舐めた態度……普段の俺ならガキが舐めた態度とれば問答無用の大雪山落としで背中を痛めつけるところだが…

この山風はウチの子の中でもかなり気難しくて繊細な今風の子なので下手に体罰を与えてヒキコモリにでもなったら厄介…

 

「まぁいい、ちなみに提督は今仕事中だ、遊びに付き合っている余裕はないのだよ」

 

「…じゃ、仕事終わるまで待つ」

 

「そうしてくれたまえ、ほら、あっちのソファーでそのキモーイのと遊んでたまえ」

 

「…キモくない、ほら、かわいい」

 

山風が毛のないネコを俺の顔にグイグイ押し付けてきたが、いや、やっぱキモいわ、なんか生暖かいっーか、キモい

そんな緑のトゲトゲしい髪がザクザク当たる中、とりあえずお客様ソファーに山風とキモいネコを追い払った俺は真面目に仕事をするべく書類を手に取った

 

「…それで?いつ終わるの?それ」

 

「明日か、明後日か……いや、ひょっとしたら終わらないかもしれないな」

 

かつてビジネスマンは24時間戦う事が美徳とされ、激務に対して退かない、時流に対して媚びない、家庭に対して省みないのが一流の企業戦士である証であり、ジャパニーズ・ビジネスマンのスタンダードモデルでもあった

 

ビタンッ!!(フライングネコキック)

 

「痛い!!」

 

山風の投げたネコが俺の顔面に炸裂した

 

「ネコを投げるんじゃあないよ、この子は」

 

「…提督の仕事が終わらないなら何回でも投げる」

 

「この子ったら、飼いネコに対してなんたる悪行を躊躇なく…」

 

無軌道・無慈悲・無秩序を尊ぶ事を美徳とする我が基地では決して間違いではない答え…ッ!!たしかに花マル100点と言える回答ではあるが…

 

「しかしそれはこのネコと固い信頼関係あって可能な事、見たまえ、今、このネコは山風クンに対して不信感を抱いているのだよ」

 

「…ネコ、こっちに来て」

 

山風はネコを呼ぶべく手招きする……

 

……がっ!動かず…っ!

 

ネコ!提督の執務机から動かず…っ!

なんと言う脆い信頼関係、多少お高価なネコだとしても所詮は畜生に過ぎない…っ!

 

「…こっち、来て」ポロポロ…

 

愛猫に裏切られた山風の目から涙が溢れ落ちる…っ!

ヤバいな、別に泣かすつもりなどなかったのだが…

 

「はぁ…うちの妹を泣かさないでくださいよ」

 

「や、別に泣かすつもりなどなかったのだが…」

 

秘書艦サミー子から睨まれたが俺もネコも悪くない、悪くない……悪くないよな?

 

「ハイ、提督が隠し持っていたお高価なシュークリームあげますから、ね?」

 

「ありがとう五月雨姉ぇ…」

 

「あ、オイ!それ俺が楽しみにしていたヤツ…」

 

「シュークリームぐらいでゴチャゴチャ言わないでくださいよ、チ●ポついてるんですか?」

 

「ついてますけどー?っーか女の子がチ●ポとか言うんじゃないよ」

 

クッ…!なんなんだコレは!いつの間にかこの空間はアウェー!ちょっとした当たりがアウェー判定なのだよ

 

「チッ、まぁいい、そのシュークリーム食ったら帰れよ」

 

「…イ・ヤ」プイッ!

 

俺の大事なシュークリームを犠牲にしたと言うに、悪魔的過ぎる………等価交換の原則を無視した悪魔的発想、大したトゲトゲだ

 

「そうか」

 

俺は執務机に居座る毛のないネコを撫でてみたが……

うん、なんかやっぱ生暖かくてキモいな、コイツ…


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