【登場人物】
川奈大佐と叢雲(ヨコスカ)
普通に主人公的存在、提督と五月雨と同期
右…ッ! 右…ッ! 左足刀―――!
波飛沫の陰から右………と見せかけ左の連打―――ッ!
マズい!避ける?無理!
なら被害最小限で全て受けつつ前進!
読まれてた…!?クッソ…!!
「ッシャアッ!!」
「クッ…!」
ヤバい…!ヤバいヤバいヤバい!コレ貰ったヤバ――――ウゲェ!!吐きそう、むしろ吐くだけじゃなく漏れそう
クッソー………強いなぁ~、なんなのよ?なんで私がこんな……あーもう!!
倒れろッ!!倒れろッ!!倒れろよコイツ―――!!
◇◇◇
東西演習異例の代表戦となったこの戦いもいよいよ最終局面…
改二となり性能で勝っていた叢雲だったがここまで相手の思わぬ実力に苦戦し、圧倒されかけたが持ち直した
そしてこの終盤でもはやこちらも相手も小細工は無い、こちらも相手も必死だが、やはりこの土壇場で叢雲は勝っている…ッ!
「…勝てる、いや、勝て叢雲…!」
スタートラインで躓いた、俺とお前でここまでやってきた―――!
あれから俺達は色々な作戦に参加し、力を、知恵を、付けてきた…
一度も負けるコトなく数多の勝利を積み重ね、長い時間と交渉を重ね、ようやく実現した俺とお前の“雪辱戦”…!
全てはこの時の為に―――!!
「勝て!!叢雲っ!!」
---
言われなくても―――ッ!
今、たしかに感じた!私の提督が背中を押してくれた!
勝て、って…!
「チイィ……ッ!」
コイツ、まだこんな動けるの!?ってか速い…ッ!
全速全開の高速移動でそこら中に波飛沫の柱で迷彩を作っている…!
なるほど……面白いじゃない
「ふーっ~………!」
もぐら叩き、とは言わないけど…
相手も全力、間違いなく次の攻撃で決めにくる…
よく見ろ、必ずそこにいる、必ずいる、よく見ろ、よく見ろ、目だけじゃないで、センサーも勘も研ぎ澄ませ…
一瞬で決め―――――
「…っ」
見えた…ッ!! チラっと! 青い髪…!!
水柱と飛沫の間 残像みたいに… 見えてるッ! 追える!! よく見て、よく見て、よく見て タイミングを合わせろ!
必ず決めにくる…ッ! その瞬間を !!
「……―――ッ!!」
貫いた――――ッ!!
最高のタイミングで撃った!間違いなくあの娘のドテっ腹に私の拳は突き刺さっ―――
「………は?」
…………え?髪?
髪?え?なんで髪だけ………?
落ち……散らばっていく長くて青い髪の毛… 髪?…?
「さすが叢雲ちゃんでした」
「さみ…ッ!」
ウソでしょコイツ!?まさか自分の髪切って囮に―――!!既に射程!
入ってる…ッ!
喰らった―――ッ!!
直撃ッ!拳―――!めり……
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ガラにもなく身を乗り出し、信頼する最高の相棒の勝利を願って声をあげていた…
………が、叶わなかった
痛恨の一撃を受け、海面に勢い良く叩かつきられ、2、3度海面を跳ね飛んで転がった叢雲
今のが決着の一撃だった事をこの戦いを見ていた誰もが理解していた
自身のトレードマークとも言える長い髪をバッサリと失い、大きく肩で呼吸しながらも海上に立つ駆逐艦五月雨と、海上に転がり微動だにしない駆逐艦叢雲…
演習戦闘終了のサイレンが鳴ると同時に、会場からはこの日一番であろう歓声が沸いた
「叢雲…っ!!」
サイレンが鳴る中、指揮官席を飛び出し、今、そこに倒れている叢雲のところへ急ぐ、本来ならば演習中の轟沈判定であれば中央所属の妖精スタッフが速やかに救助・回収に向かうがこればかりは誰に任せるつもりもない
彼女だけは俺が最初に手を貸してやらなければならない
傍にあった小型のボゥトに乗り、急ぎ叢雲のところへ駆けつけ彼女の身体を掬いあげると彼女はうっすらと目を覚まし…
「…………ごめん、また、負けたわ」
「あぁ、また、敵わなかった」
「…………ご」
「謝るのはなしだ、俺とお前、二人で負けた」
「……そうね」
勝利も二人のものだが、敗北も二人のものだ、俺達はそうしてやってきたし、これからもそうだ
そして、そんな俺達の姿を未だ海上に立って眺めていた青い髪の駆逐艦はフラフラと左右に揺れつつも西側の指揮官席方向へと下り始めた…
◆◇◆◇◆◇
中央司令部横須賀演習場地下通路…
「さぁーて、祭りじゃ祭りじゃあ!ゴミ屑どもをまとめて制裁祭りじゃあ!ガハハハハハ!」
そろそろ“上”の祭りも決着が付いた頃だろう…
「なんだオマエは!どっから来…」
「キサマ!たしか梶輪の…っ!!」
………この会場に集まった東西の将校の中に、上級将校である立場や権力を悪用し、企業や国家に対して黒い癒着を作り己の私腹を肥やす者達が居る
それらをまとめて潰す
あのクソオヤジの野郎、なんてコトを考えるのだろうか…
そして、その片棒を俺に担がせるのにまるで罪悪感や躊躇いがねぇ…
「地獄へ落ちろぉ〜…」
「ウゲェ!!」
しかし既に勘のいい悪人どもは気付いているらしく、こぞってこの如何にも悪人御用達みたいなこの地下通路を通って来てるところ、やはりお天道様には顔向けできない事があるらしい
「さぁ〜て………頼むぞクソオヤジ、泥はたっぷり被ってやるからな!」