不健全鎮守府   作:犬魚

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久々に帰ってきた扶桑姉妹回

【登場人物】

提督(空気読める大人)
魚より肉が好き

扶桑姉妹(不幸姉妹)
絶対王者・西村艦隊のメンバーでもある航戦姉妹
最近あまり出番が無く、日がな植物のように穏やかに生きている



提督と扶桑姉妹の秋の味覚党

「…ねぇ山城、最近やたらと鰯が多いとは思わない?」

 

「そうですね」

 

戦艦寮にある扶桑姉妹こと扶桑と山城が住む部屋…

今日も何事も無く平穏無事、本日の夕餉も終わり、心静かに姉妹がアツい茶を飲みつつ時間を過ごしていると、ふと、姉である扶桑が最近思っていた疑問をポツリと漏らした…

 

「…朝は焼いた鰯、昼に焼いた鰯、夜も焼いた鰯、鰯そのものは嫌いではないのだけど、こう鰯鰯と続くとさすがに飽きがくるものね」

 

「たしかに…姉様の仰る通り、最近はやたらと鰯を目にします」

 

扶桑曰く、サンマも少しは入荷しているらしいものの、その希少性から人気があり、サンマを食べたいならダッシュで食堂へ行く必要があると…

 

そして残念な事に、扶桑には人気の品が欲しいからとダッシュすると言う習慣が無く、いつも通りに歩いて食堂に行き、焼いた鰯をオカズにする憂き目に遭っていた

 

「…そうだわ、山城、どうせなら自分達で鰯以外のものを釣るというのはどうかしら?」

 

「釣り…?ですか」

 

もし仮に、何かの僥倖でサンマ定食を注文できたとしても、それを食べると言うことは誰かがサンマを食べる事ができないと言うこと……それはとても悲しいことであり、後味が良くないものが残る

 

だが、自分達で釣ってきたものならば誰に気兼ねすることなく美味しく食べることができる…

 

「嗚呼……なんて尊い!姉様はなんて尊いお考えを……姉様のためなら、サンマ漁船を襲うことやむなしと考えていた私が恥ずかしい…ッ!」

 

「…いいのよ山城、姉さんは山城のその気持ちだけで嬉しいわ」

 

「尊い…っ!尊すぎる…っ!そして優しすぎる…っ!純粋すぎる…っ!」

 

まさに菩薩!山城はあまりにも尊い姉の手を取り、感動、そして感謝の涙が止まらなかった…

 

◆◆◆

 

秋の消火設備点検でもするかと秘書艦の髪長い子と廊下を歩いていると、オシャレな法被を着た扶桑姉妹が執務棟の外で何かの準備をしているのが目についた…

 

「ナニやってんだアイツら?」

 

「さぁ?」

 

…なんだアレ?釣竿とクーラーボックス…?ロックじゃねーの?と考えていると、姉妹の姉の方と目が合った

 

「…あら提督、と………五月雨ちゃん、こんにちは」

 

「こんにちは」ペコォ!

 

「こんにちは、釣りですか?」

 

「…えぇ、山城と釣りに行こうと」

 

扶桑姉妹の姉の方、扶桑、常に幸の薄そうな“負”のオーラを放つまさしくキングオブネガティヴモンスターだが、それと同時に菩薩のごとき尊さを併せ持つ、まさにレジェンドオブ菩薩でもある

 

「チッ、釣りに行く前にゴミクズを目にするとは……ツキがオチたわ」

 

「うるせぇよ、もともとテメーにツキなんかねーだろーが」

 

扶桑姉妹の妹の方、山城、座右の銘は姉様以外は全て下郎、この世の分類は姉様とそれ以外に分類しているフシのある真性姉様スキーであり態度も性格も悪い

 

「…山城、いけないわ、提督にそんな失礼な口の利き方をしては……申し訳ありません提督、妹がとんだ無礼を………この罪、死んで償…」

 

扶桑は法被から取り出した出刃包丁を己の手首に当てて…

 

「大丈夫!大丈夫ですから!俺たち仲良しだから多少くだけた感じもあるんすよ!なぁオイ山城!」

 

「そうです姉様!私と提督は意外と気が合ったりするんですよ!ね!提督!」

 

俺たちのガッチリ肩を組み仲良しアピールを見て、扶桑はそうなのと言って儚げに微笑み包丁を法被の中にしまいしまいした…

 

「…そうだったのね、山城は昔から少しシャイなところがあるから……姉さんは嬉しいわ」

 

「あははは……」

 

まったく、相変わらず扶桑姉様さんは短絡的過ぎると言うか、過激派過ぎると言うか…

 

「それで?姉妹仲良く釣りに行こうと?」

 

「そうよ、最近鰯ばかりで飽きてきたしね」

 

「ふ〜ん」

 

たしかに最近食堂ではやたらと焼いた鰯ばかりを見かけるが……姉妹の話を聞くに、この鰯だらけの状況を打破すべく、鰯以外の魚を釣って来て食べようとのことらしいが…

 

「オマエら釣りとかやったコトあるのか?」

 

「ないわ」

 

「…恥ずかしながら私も」

 

無いのかよ…ッ!バカかコイツら、よくそれで鰯じゃない魚を釣るとか言ってたな、釣り舐めてんのか?釣りってのは釣るか釣られるか、人間と魚類がPRIDEをかけてんだよ、遊びでやっていいモンじゃねぇんだよ!

 

「へぇ、そうなの?じゃ、ガンバってな」

 

………がッ!!

 

ここでハッキリとバカじゃねーの?と言うほど俺も空気の読めない大人じゃあない、ここでナニか下手なコトを言ったら、じゃあオマエが釣ってみろよ!と釣りに付き合わされる可能性が75%、いや76%ぐらいだと俺の勘ピューターが弾き出している

 

「言われなくてもガンバるわよ、ド底辺」

 

「誰がド底辺だ」

 

このクソ妹がァ…ちょっと美人でおっぱいデカくなきゃ今すぐそのキレーなツラに鉄拳メリ込ませてるところだぜ

 

「あの……ちなみにお二人は釣り初心者と言うことですが、そんな初心者二人で大丈夫なんですか?」

 

オイ!サミーッッッ!!ナニ言ってんのこの子はァァァァァ!?大丈夫だよ!大丈夫にキマってんだろ?安心しろ!安心しろよ!

 

「…大丈夫か大丈夫でないか、不安がないと言えば嘘になるわね、ねぇ…?山城」

 

ほらァ!!せっかく穏便にスルーできそうな流れだったのに!姉様の顔に不安の影がさしてるじゃねーか!ヤバい流れじゃねーか!

 

「そう言われるとそうですが………だ、大丈夫です姉様!この山城、たしかに釣りは初心者ですが、釣りバ●日誌を読んだことがある最上から話を聞いたことがあります!」

 

「…そう、それなら安心ね」

 

セーフ…ッ!圧倒的セーフ…っ!生き残った、ギリギリで…っ!

 

山城の野郎は基本的に俺を嫌っている、姉妹仲良く釣りに行く流れだ、わざわざ俺を巻き込むなど決してしない…っ!

 

「そうか!そうかーッ!じゃ、ガンバってくれたまえよ!デカいの釣れるといいなー!ガハハハハ!」

 

「…ありがとうございます提督、じゃ……山城、そろそろ行きましょう…」

 

「はい姉様!」

 

扶桑姉様さんは丁寧に頭を下げて一礼し、山城は扶桑姉様さんが見ていない絶妙な角度から俺に首を掻っ切るジェスチャーを残し去って行った…

 

あの野郎ォ……いつか必ずヒィーヒィー言わせて姉様に謝らせながらオチ●ポ様に屈服させてやるわい

 

「………はぁ、っーかサミー」

 

「なんですか?」

 

「ナニがなんですか?だ、よくそんなシレッとデキるなテメー…」

 

「そうですかね?」

 

 

後日、いつものように陰鬱なオーラを醸し出しつつ食堂で焼いた鰯を食べていた扶桑姉妹に釣果はどうだったかと聞くと、はぐれイ級が一匹釣れたらしく、どうにか調理できないかと考えた結果、焼いてみると結構クサかったので海に棄てたそうな…

 

あと、潜水艦どもから生かきをバケツ一杯貰ったらしく、焼いて食べたら美味かったそうな





次回は男の中の男、球磨姉ちゃん

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