【登場人物】
早霜(見 て い た)
通称キタローくん、夕雲姉妹一のおしゃまな子らしく、ナリは小さいがどこか大人っぽさがある
基本的には姉妹には優しく、他の娘にはあまり関心がない
ただし、秋雲には憎悪を持っている
夕雲型駆逐艦、早霜の朝は早い…
午前4時44分、起床
まずは冷たい冷水で顔を洗い眠気を拭い去り、洗面所の鏡で笑顔の練習を決して欠かさない
その後、キチンと身仕度を整えて同室の姉妹である清霜と朝霜がまだ目覚めていない事を確認し、編集部から依頼のあった漫画の執筆を開始、同僚の秋雲から月刊サス●リアを定期購読してそうとディスられる見た目とは違い、彼女が描く作品はまるで銀河の星々のようにキラキラと輝くアツい王道ヒーローが颯爽登場する痛快活劇を描いている………その気になればもっと違うジャンルも描けるが、あの人はこーゆーのを好んでいる
全ては“あの人”の為に…
ーーー
午前7時、執筆を中断し、同室の清霜と朝霜を起こし、2人が朝の支度を整えると一緒にマミー屋で朝食を摂る
マミー屋で朝食を注文する際、さりげなくあの人が何を食べているのかを確認し、自分も同じものを注文する
朝食を摂り終わると清霜と朝霜は座学の授業がない日はバカな事をやりに飛び出して行く、そんなバカ2人を見送った後、自室で自分のPCを起動しまずは隠し撮り動画をLet's再生しつつGPSであの人の現在地を確認しあの人の鼓動を電波で感じる、今日もあの人は執務室に居るらしい…
『あー………ダリぃなオイ』
『首、どうかしたんですか?』
『どうにも寝違えてな、今日は首痛めてる系ハンサムなのだよ』
『へぇ』
『へぇ、ってなんだ?へぇ、って、興味なさすぎか!』
『いや、普通に興味ないんで』
………極小のマイクが集音する音声をイヤホン越しに聞きつつ昨日、授業の終わりに出された宿題をこなす、彼女にとってはこの音声こそが何ものにも代え難い至高のヒーリングミュージックに他ならない
『あ、そうそう、そう言えば……今、金剛さん基地に居ないんですよ、知ってました?』
『アァ?今、初めて聞いたわ、なんだァ?アイツ旅行にでも行ってんのか?』
『えぇ、なんでも……一撃必殺、その先にある境地を掴みにフラリと出かけたそうです』
『ふ~ん』
『帰ってきたらいの一番に提督に逢いに行くって言ってたそうです』
『そいつぁ強烈なラブコールだなオイ』
…あの人は常に命を狙われている、しかしあの人はそんな事を微塵も感じさせないが………ただ、あの人は強くなった自分の部下に自らが討たれる事を望んでいるようにも思えてならない、あの人はきっと金剛さんが自分を超えるその時を待ち望んでいるのだろう
「……」
ーーー
午前11時、日課の一つである基地施設内の散歩に出かける
施設内に危険な場所はないか、フェンスに傷がないか、積んである重量物が倒れる危険はないか、壁などに破損がないか、引っかかったり落ちたりする可能性のある危険な穴などないか、こうした危険を予め排除する事で、あの人が常に基地艦隊司令として最高のコンディションを発揮できるように心がけるのだ…
全ては“あの人”の為に…
「あ、ハヤシだ」
「ハヤシーだ」
重巡寮、さわやか寮の裏手側をチェックしていると、姉妹である清霜とその友人リベッチオが虫捕り網を持ってたむろしていたので二人は何をしていたのか尋ねると、二人は珍しい蝶を探していると言う…
「なんかムラサキ色のヤツ、ハヤシ見なかった?」
「スゲームラサキなヤツ!」
「…見てないわ」ボソボソ
「え?ナニ?聞こえなーい?」
「ハヤシ見てねーって、リベ、向こう探そうぜ!」
二人はスゲームラサキな蝶を捕まえてヘーカに自慢してやるんだーとゲラゲラ笑いながら去って行った、相変わらずおバカな子だこと…
「…?」
ふと、木を見上げると鮮やかな紫色の羽根を持つ蝶がヒラヒラと飛んできて枝に止まった
「…そう、オマエは頭がいいのね」ボソボソ
◆◆◆
午後3時、マミー屋で1人、コーヒーを飲む…
今日のオススメはマミヤ特製ティラミス“甘き死よ来ませい!”………素材、鮮度、製法に一流のこだわりを感じるゴキゲンな味だ…
そんな甘さと苦さのアンサンブルを味わいアンニュイな午後を過ごしつつ、お気に入りのあの人のphotographを眺めていると、マミー屋の扉を開き、本物のあの人がやって来た…ッ!
「まったく!夢がMORIMORIっすよ!」
「そうかぁ?」
………と、秋雲
秋雲はあの人と馴れ馴れしく並んで秋雲さんはコーヒーがいいっすねーとか言って注文すると、店内に居た私にいち早く気付いた…
「お、早霜じゃねーっすか?相変わらず暗そうな顔してるっすね」
「…どうも」ボソボソ
「ハヤシ……?あぁ、キタローくんか、キミもティーかね?」
「…はい」ボソボソ
秋雲は相席の許可も取らずに馴れ馴れしく私の居るテーブルに座り、コーヒーに角砂糖をポイポイ入れる………糖で死ねばいいのに
だが、秋雲がこのテーブルに来たことにより、自然な流れであの人もこのテーブルに同席することになった………悪かったわ秋雲、糖で死ねなんて考えて、訂正するわ、生きて、糖で苦しみなさい
「しかし今回の秋雲さんも自信作はワリとイイセンいってたと思うすんけどねー」
「オマエ流行りもの向いてねーんだよ、あと、たぶん山田ゼレフ先生の原作はオマエには難解すぎる」
「そーすかねぇー」
秋雲はあの人に定期的に自分が描いた漫画を見て様々な意見を貰っているらしく、たまにこうしてマミー屋に来て作品の方向性やこれからのジャ●プについて楽しく語り合っている…………なんて羨ましい、なんて妬ましい、なんて浅ましい、陽炎型のくせにヌケヌケと夕雲型ヅラしてあの人に近付く貴女は汚物よ、まるで便所の鼠の糞にも劣る存在、クソカス、便器に吐き出されたタンカス、ちっぽけな小娘………いえ、貴女に相応しいのは肥溜めで生まれたゴキ●リのチン●コね…
吐き気を催す邪悪とは貴女のコトよ、秋雲
「…ちなみに、どんな漫画ですか?」ボソボソ
「え?早霜、アンタ漫画とか興味あったんすか?」
「…まぁ、それなりに」ボソボソ
「そうだな、オイ秋雲、どうせならキタローくんにも見て貰えよ、客観的な意見ってのは必要だよな、なぁキタローくん?」
「…そうですね」ボソボソ
秋雲から受け取った原稿用紙、内容は占い好きなJKが100メートルの走り込みをしていると突如として異世界に飛ばされ、その世界でちょっとヤンチャな若き王子様と陰のある若き騎士たちと共に世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれて行くというファンタジーあり、ロボットあり、恋愛ありのどこかネオロマンス臭を感じさせる作品だった…
「………まぁ、絵だけは上手いと思いますよ」ボソボソ
だが絶望的に原作と画風が合っていない、いや、一応画風を原作に合わせようと頑張る努力は感じるが、どうしてもクセが抜けきれていない、ただ、この主人公の憧れの先輩そっくりな騎士の顔がベル薔薇調なのはもしかしてギャグのつもりなのだろうか…?
「ほら、キタローくんだってこう言ってるじゃねーか」
「えー…でも早霜の意見とか参考になるんすかー?この子が読んでる漫画雑誌とかどーせホ●ーMとかそんなのっすよ、秋雲さんのアツいリビドーとは真逆な存在っすよ」
「ナニがリビドーだ」
◆◆◆
午後10時、夕食と入浴を終え、同室の清霜と朝霜はベッドに転がりお腹を掻きながら就寝する…
彼女は同室の姉妹達が眠ったのを確認するとPCを起動し、執務室に備え付けたカメラと接続する…
『はー………また表紙に騙されたー』
………あの人は雑誌を執務机の引き出しに入れて棚からポテチを取り出し、さぁ、今日もお仕事頑張るぞと書類を机に置いた
『ねー!そんなのいいからゲームしよーぜ!ゲーム!マ●オゴルフしよーぜ!』
『うるせぇよ、っーかさっさと部屋に帰れよ、もう10時だぞ、妹さん、心配してるんじゃないのか?バカなお姉さんが夜遅くまで遊び歩いて、パパのキンタマおしゃぶり天国してお小遣い稼ぎしてウルトラハッピーとか甘い考えしてたら悪い大人にユメミルクスリでシャブ漬けにされて頭の中ウルトラハッピーにされて身も心もズタズタかもしれませんわー!ってな」
『熊野が?ハッ、するワケねーし、っーかどんな妄想だよ!生々しいわ!』
『生々しくない、提督だ』
『知ってるよ!』
…………彼女の一日はPCに本日のあの人の記録をあの人のデータバンクにLet's保存して電気を消し、あの人のphotographにおやすみなさいと微笑み就寝する
全ては“あの人”の為に…