【登場人物】
提督(欲の塊)
力技には力技で対抗する知性派
五月雨(青髪ロング)
大胆不敵でめんどくさがり屋さん
【禁煙四日目】
「ああああああああ!!色即是空空即是色!色即是空空即是色!!」
ガンッ!ガンッ!(マッハ頭突き)
「…あの、うるさいんでちょっと黙ってくれますか?」
執務室の壁に頭を打ち付け、己の内にあるアツい“衝動”と死闘を繰り広げている俺に対してなんてコト言うのかね、この髪長駆逐艦は…
「禁断症状ぐらいもうちょっと静かにしてくださいよ」
海軍禁煙週間も既に四日目、日を追う事に増してゆく己の内から湧き出るパワーは最早自分でも制御が効かないレヴェルへと達している…
タバコを禁じられた事で俺の“欲”は疼いて疼いて止まらねぇ、ついでに、イライラも止まらねぇ…あまりにイライラしすぎて覇王色を常時垂れ流しているおかげでクソガキどもが近寄って来なくなったが…
「………五月雨ェ」
「なんですか?」
「俺、旅に出るわ」
「はぁ…?休暇ですか?ちなみにどちらへ?」
五月雨は目に見えてウンザリした顔しているが、さすがは付き合いだけは長い俺の頼れる秘書艦様だ、既に俺の答えを予想しているのだろう……
「タ バ コ 吸 い に 行 く ん だ よ」
◆◆◆
さて、速やかに休暇の申請をしてから基地を飛び出したワケだが……とりあえず街中にはニコチンだのヤリチンだのワケわからん喫煙者抹殺マシーンが徘徊しておりタバコを吸う事はできない、おそらくこれはこの街だけではなく今やこの国のどこにも喫煙者安息の地は存在しないのだ…ッ!
ならば俺がとるべき手段はただ一つ!!
「…さて、どこに行くか」
電光掲示板に表示されたフライトスケジュールを見つつ缶コーヒーの蓋を開け、これから先、どこへ飛ぶかを考えてみる、そう…この国に安息の地がないのなら他所の国に行けばいいのだ、そこで俺は誰に気兼ねする事なく、大手を振ってタバコを吸えばいいんだよ!ガハハハ!
「もしもし、ちょっとお話し宜しいですか?」
「あん?なんだアンタら」
己の天才的ひらめきと発想に笑いが止まらんわいとゲラゲラ笑っていると、なんか憲兵隊みたいなのが声をかけてきた…
「我々は軍の喫煙取締隊の者です、アナタ海軍所属の将校ですよね?」
「そうですが?ナニか?今、休暇中なんで、プライベートなんで、そーゆーのは秘書に任せてあるんで」
「スイマセン、念の為に喫煙者かどうかチェックさせて頂けますか?いやぁ〜居るんですよねぇ、国内でタバコが吸えないからと言って国外に出ようとする人が、我々はそーゆー人達を取締り………あ!逃げたぞ!!追え!追えーッ!」
チクショウ!!ここまでやるのか…ッ!!ここまで本気だと言うのか海軍は…ッ!俺はにこやかに話しかけてきた憲兵隊の皆さんをノーモーションからのスタンディングスタートで振り切り、ダッシュで空港ロビーから飛び出し、そこらに停めてあったバイクに生命を吹き込み、マシンはその魂に応えた走りで加速した!
「チクショウ!許さねぇ、許さねぇぞ海軍!」
まさか空港が張られているとは……と言うコトは、おそらくは港も張られている!ヤツら、喫煙者をこの国から一歩も出さないつもりなのか!
「舐めやがって……!!そっちがその気だってならこっちもやってやろーじゃねーか!いつまでも喫煙者様がおとなしくしてると思うなよッ!!!」
◇◇◇
【禁煙六日目】
…提督が休暇をとってから早二日、憲兵みたいな人達が提督が基地に戻っていないかの確認をしに来たりしましたがすぐに何かの連絡を受けて足早に去って行きました…
「あ、そうそう、今朝また海軍の喫煙取締隊が襲われたらしいよ、なんとこれで三十件目だって」
「へぇ」
提督不在の執務室、今日の開発日報を持ってきた夕張さんにオレンジジュースの入ったグラスと買い置きしてるチ●コパイをテーブルに置き、テレビのスイッチを入れると三十一件目の速報テロップが流れていた…
「最初は少数だったらしいけど、なんかだんだん数増えてるみたいだね、コレ、私が思うに扇動者がいると思うなー、コレ」
夕張さんは名探偵だか刑事だかみたいに指をビッと立てて、いやぁ〜コレはかなり組織的な犯行ですよ〜とケラケラ笑ってテレビを見ている…
「あ、ところで提督は?たしか休暇中だっけ?もしかして実家にでも帰ってるのかな?」
「さぁ?」
たぶん実家のご両親が卒倒するコトやってると思いますよ、今現在
「提督の実家かぁ〜…うん、一回ぐらいご挨拶しないとねぇ、提督無しで生きられないア●ルですってキチンと挨拶するのがやっぱ大切だと思うよね、ね?五月雨ちゃん」
「どうですかね?ちなみに私と由良さんは一回同行したコトありますよ、提督の実家」
「え?ホント?初耳だよ!どんなだったの?豪農だった?」
「いえ、ワリと普通でしたよ」
ーーー
「居たぞ!
「待て!気をつけろ!アイツはSSSレートの
…取締隊どもが、まさかその程度の戦力で俺達を止められるとでも思っているのか?
「中佐、ヤツらは俺達が…」
「いや、俺がやろう」
イキり立つ
「もぎたてのパイナップルみてェ〜…」
「こ…コイツ!!」
「片手で…っ!?バケモノかよ!」
「オイオイオイィ〜?禁煙中の喫煙者がどんだけ凶暴なのかワカってねぇーのかァー?イライラしてんだよォ?なァ?イライラしてんだよォ〜…?イライラしすぎて俺の“欲”が疼いて仕方ねぇんだよォォォ!」
そうだ…“欲”が疼きすぎて浦風にパ●ズリさせて喉奥にブチ込んでケツの穴にブチ込んでそんでまた喉奥にブチ込んでまたケツにブチ込んでも俺の“欲”はおさまらねぇ…
「止めてみろよォ…俺の“欲”をよォォォォ」
◇◇◇
【禁煙最終日】
………俺達は負けた
海軍のヤツらが本気を出してきたのか、ニコチンを断たれた事で湧き出る禁断の力がついに切れたのか、意外とアッサリと負け、ある者は取締隊に捕縛され、またある者は自ら嫌煙を受け入れた
そして俺は………
「なにやってるんですか?こんなトコで」
行き場を失い、最後に帰って来たところが自分の基地………それも喫煙所とは我ながら、笑えるな
「笑ってくれて構わんよ」
喫煙所のベンチに転がる俺を見下ろす青髪ロング子は手にしていたビニール袋から俺の吸ってる銘柄のタバコの箱を取り出して俺の顔面に投げつけた
「あ痛い!?」
「もうすぐ夏ですけど、そんなトコで寝たら風邪引きますよ、一服したら自分の部屋に帰ってください」
「………どうしたんだ?コレ」
「前にママからボーイにって貰ってたんですよ、渡すの忘れてました、3年くらい」
「………つくづく卿にはジョークのセンスがないな」
「失礼な」
だが、今、コレを受け取ったところでもはや動く力すら出ない、どうやら俺はここまでらしい…
「五月雨ェ………口に入れて、火を点けてくれ…」
「え?普通にイヤですけど」
「マジかよオマエ…」
普通ここまでしてくれるなら最後にそれくらいしろよな、なんてサービス精神のないヤツなんだ………俺は最後の力を振り絞り、タバコの包装を破り、一本咥えてライターで火を…
「あ、ちょっと待ってください、あと10秒くらい」
「マジかよオマエ…」
「5、4、3、2、1……はい、どうぞ」
とりあえず、どうぞと言われたので火を点け、一週間ぶりの一服を身体中に取り入れる…っ!
「フーッ〜………美味い」
「そうですか、ふぁ………じゃ、私寝ますので」
あと、深夜に無駄な残業したので明日休みますと言い残し、青髪ロング子は喫煙所から去って行った………そうか、もう日付けが変わったか、あやつめ……なかなか粋なコトをしよるわい、今度アイスでも買って……や……ら
「………り」
こうして、海軍喫煙週間は無事終わり、俺は後日、上からなんか呼び出し喰らってワケのわからん容疑をかけらたが知らぬ存ぜぬで押し通したのはまた別の話…