【登場人物】
提督(喫煙者)
ショッピングセンターに行くと、まずは喫煙所を確認する生粋のスモーカーさん
五月雨(秘書艦)
ショッピングセンターに行くと、どうせ買い物には付き合わないので終わったら電話かメール
「五月雨ェ…」
「なんですか?」
今まで手にしたFAX用紙を執務机に置き、俺は努めて静かに、そして紳士的に我が頼れる秘書艦様に簡潔に用件を告げる…
「俺は軍を抜ける!」キリッ!
「…はぁ?」
ナニが海軍禁煙週間だ!バカじゃねぇの?一週間の間、海軍あげて禁煙し健康と環境に配慮し、人と地球に優しい海軍を目指しますだァ?オイオイオイ、優しい?優しいの意味を勘違いしておられぬか?これじゃ全喫煙者の抹殺だろ?上はいったいナニ考えてんだ?
「一週間ぐらい我慢出来ないんですか?」
「バカヤロウ、俺は我慢弱くセンチメンタルな男なんだよ、禁煙なんかしたらイライラするだろーが」
「イライラすればいいじゃないですか?」
「なんてコト言うのかね、この子は…」
「イライラする事によって身体の内から未知のパワーとか湧いてくるかもしれませんよ」
「…そうだな、そんトキは真っ先にお前をその未知のパワーで血祭りに上げて二度とこの俺に舐めた口が聞けないように永遠の隷属と忠誠を誓わせてやろう」
「それはちょっとイヤですね…」
五月雨は大して気にした様子もなく冷蔵庫からオレンジジュースの入ったペットボトルを取り出し2つのグラスに注ぎ1つを俺の前に置いた
「ありがとう」
「どういたしまして、で?どうするんですか?一応、FAXには軍の施設内は勿論の事、地域へのアツい協力体制で軍の関係者にはタバコは一切販売しない感じとのコトですが…」
「バカめ、こんなコトもあろうかと……俺にはストックしているタバコが…」
机の引き出しを開けるとそこには先週買ったストックのカートンが………
「オイ、俺のタバコ知らないか?」
「今朝早くに憲兵みたいな人が来て押収していきましたよ」
「ハアァ!?ちょ、待てよ!聞いてねーぞ!?」
「そりゃそうですよ、今言いましたから」
こやつめ、なにをシレっとしてからに…
「あと、明石さんの店からも押収してましたよ、タバコと、ついでになんかいかがわしいDVD的なものも…」
「それ俺が注文してたヤツじゃね!?巨乳ファイナルウォーズじゃね?」
なんてコトだ…ッ!!せっかく楽しみにしてたのに、巨乳ファイナルウォーズまで押収して行くとは…憲兵とはかくも非情なる存在なのか!
「………まぁいい、じゃ、俺、休暇とるわ、一週間」
「休暇とるのは構いませんが、タバコは吸えませんよ、なんか喫煙者を感知するキラーマシーン的なものがそこら辺をウヨウヨ徘徊してるらしいんで」
「なんで軍はその無駄な科学力をもっと有効に活用できんのだ」
対喫煙者用殺戮機械 ニコチンX
喫煙を感知すると即座に反応し、喫煙者に対して催涙弾等の攻撃を加え、ひるんだところに接近して手にした鈍器で殴打し、なお抵抗があるようなら2億ボルトの電撃を叩きつける喫煙者を狩る為のまさしく非情のマシーン…
かつて海軍技本部門に在籍していたらしい一人の天才がランチを採る片手間に作り上げたらしいが、その当時はさすがにやりすぎだろうとの意見から採用されず、大量生産したものの日の目を見るコトなく倉庫に眠っていたらしい…
「ちなみにニコチンXは一週間すると勝手に自爆するそうで す」
「自爆かよ!機能停止とかじゃねーのかよ!?」
作ったヤツは相当にアタマのおかしいヤツだな………だが、機能停止ではなく自爆と言う点を採用するあたりロマンと言うものをわかっているな、そのアタマのおかしい技術者は…
「ま………とりあえず一週間だな?」
「えぇ、一週間とのコトです」
「やってやろーじゃねーの?一週間だろ?一週間、まぁその程度、俺の鋼の精神力があればラクショーよ、ラクショー」
「だといいんですが…」
こうして、和やかなムードの中、俺はオレンジジュースを飲み干し、海軍喫煙週間が始まった……
【禁煙1日目】
「あ、提督じゃん、ティーッス!ナニやってん…」
「……喰らえ!その毒蛇の牙を以て!!」
グシャァッ!!(
「グヘァ!!!」
【禁煙2日目】
「ティーッス、メインヒロイン様が遊びにきま…」
「……されば愚かなる者共に鉄槌を打ち下ろせ!荒ぶる神魔の怒りを以て!!」
グシャァッ!!!(
「ドヘァァァ!!!」
【禁煙3日目】
「ヒッ…!?な、ナニ!?鈴谷今日はナニもォ…!?」
「汝が神に我が身を捧げん!!!」
グシャァッ!!!(
「ヒギィィィィ!!!」
ーーー
あー…イライラするぜ、イライラが止まらねぇ…疼くんだよォ、とにかくイライラを止めてーって俺の“欲”が疼いて止まらねぇ、今ならアレだ、金剛のヤロウに会っても半殺しに……いや、全殺しにする自信がある、とにかくイライラが止まらねぇ…
「コーヒーでも淹れましょうか?」
「あ?テメーのクソマズコーヒー飲むぐれーならぺ●シモンブラン一気飲みするわ」
「…さすがにそれは私もちょっとイラっとしますね」
禁煙3日目の執務室、俺は身体の内から湧き出る未知なるパワーではなく身体の内から湧き出るイライラと己の存在理由を賭けた壮絶な死闘を繰り広げていた…
「とりあえずイライラしてるからって人や物にあたるのは良くないですよ、ここ最近、比較的年少の子達とかテイトクが近寄り難いって言ってますし」
「フン、バカめ、提督は常に孤高の存在、近寄り難いなど当然のコトよ」
…たしかに、ここ最近アホガキどもが寄り付かん気がするな、まぁ、どうでもいいコトだが…
しかし禁煙とはこれ程までに苛烈なものとはな…ハッキリ言って予想外だ、このままではいつぞやの禁酒刑を受けたポーラみたく精神が破壊されるかもしれん…
「はい、禁煙パイポです」
「ほぉ…禁煙パイポか?」
五月雨はコンビニの袋から禁煙パイポを取り出し、俺の机に置いた…
「えぇ、それでも咥えてたら多少はマシになるんじゃないですか?」
こやつめ、ニクいコトをしおるわい…さすがは我が信の厚き秘書艦と言ったところか
「卿の心遣い感謝する、褒美は何がいい?拳か?蹴りか?」
「そうですね、私のコーヒーをクソマズと言ったコトを謝ってください」
「こやつめ!カッカッカ!こやつめ!カーッカッカッカ!まったく、卿はジョークのセンスだけは一向に伸びぬわい!」
「はぁ?」イラッ…
この後、五月雨からビンタされたが、俺は悪くない
次回は後編、タバコを吸う為に提督が走る