不健全鎮守府   作:犬魚

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マジっすか!でだいたい物事が進む雑なお話

【登場人物】

提督(自称ジャ●プ歴20年)
少年漫画にうるさい自称漫画玄人のめんどくさい大人、グチグチ文句言うわりに絵は絶望的に下手

秋雲(自称漫画家)
少年達がワクワクするアツい少年漫画を描くアツい自称漫画家、本宮ひ●し先生を愛している

狭霧(ラノベ作家)
山田ゼレフの名義でライトノベルを書いている新進気鋭のラノベ作家、デビュー作は“オレの妹がナンボのもんじゃい!”


提督と秋雲と春のマンガカツドウ

「どーすかね?」

 

「ふむ…」

 

小春に日和った春の執務室、俺は買い置きの缶コーヒーを飲みつつ秋雲が今回は自信作っすよ!マジ自信作っすよー!と、どこぞのマゾ軽巡みたいなフラグを立てながら新作の原稿を見てやってくださいよーと持ってきた原稿を読んでいた…

 

たしかに、今回の秋雲の漫画はいつも以上に気合いが入っていた………話の内容としては、聖なる力(チャクラ)と呼ばれる能力を使い、法では裁けない悪を裁くことを家業とする現代の必殺的なファミリーの話で、話が進んでゆくと聖なる力に敵対する邪なる力を使う一族が登場し、世界各地で激闘が繰り広げられると言うものだ…

 

「秋雲的にはこれならジャ●プでイケそーな気がするんすけど」

 

「まぁ、ジャ●プでイケそうではあるな」

 

ただ残念なことに秋雲よ、提督的には全然アリなのだが、今の進むべき方向を見失っているジャ●プと、現代のチャラい少年達にはこーゆー汗くさ……いや、男臭い漫画はウケない気がするのだよ、たぶん、長くて4巻で打ち切られるだろう…

 

「…まぁ、個人的には好きだが、ジャ●プには難しいかもしれんなぁ」

 

「マジっすか!?提督マジっすか!?」

 

「マジっすよ」

 

とりあえずキミの熱意を送るだけ送ってみたらどうかねソワールと言って秋雲に原稿を返し、飲み干した缶コーヒーをダストのシュートにシュートし、缶は投入口に触れることなく吸い込まれていった…

 

「地味にスゲェ!!」

 

「人事を尽くしている俺の空き缶は絶対に落ちないのだよ」

 

「マジっすかー!提督マジっすかー!」

 

まぁ、二回に一回は普通に外すけどな、人事を尽くしてもダメな時はダメなので、そーゆー時は普通に拾いに行って拾って捨てるが…

 

「そういや秋雲よ、オマエ、原作の山田ゼレフ先生はどうした?山田ゼレフ先生は?」

 

「山田…?あぁ、山田ゼレフ先生の原作のも一応あるっすよ?見るっすか?」

 

そう言って秋雲は別の大判茶封筒から原稿用紙を取り出して俺に手渡した、ただ、秋雲的には描いてみたものの、なんか違うなって感じらしいのだが…

 

「どれどれ…」

 

山田ゼレフ先生原作、秋雲作画の漫画…

話としては古代中国に似た世界に突如として召喚された主人公のJCとそのマブダチのJC、主人公は召喚された先でイケメン達と胸キュンネオロマンスを繰り広げていたが、別のところに召喚されたマブダチの方は街のゴロツキにレ●ープされ、悪いイケメン達に唆されて、ネオロマンスにキャッキャしてる主人公を激しく憎悪!あの女をメチャメチャにして!と言わんばかりにブチギレ、空気読めない主人公はなんでや!うちら大親友やんか!みたいなコト言ってさらにブチギレ、さらにイケメンも交じっているので愛憎渦巻くドロリッチぶりのネオロマンスアドベンチャー……

 

「…重いな」

 

「えぇ、我ながら描いてて思ったっす」

 

作画的には少女漫画寄りに描いてみたとのコトだが、まぁ、それが当たりだろう……コイツ本来の絵柄は、秋雲が敬愛する本宮ひ●志風な絵柄になるしな

…しかし山田ゼレフ先生はどこか病んでいるのだろうか?これほどまでに爽快感を感じず、むしろ、読むと気が重くなる内容はなかなか出来るコトじゃあない…

 

「しかしさすがは新進気鋭のラノベ作家、山田ゼレフ先生だ…今までの秋雲にない知性を感じるのだよ」

 

「ちょっと秋雲さんには知性高すぎて描いてて意味わかんねーなコレってなったっすけど」

 

「たしかに、山田ゼレフ先生にはもうちょっと秋雲のレヴェルに合わせた原作を書いて貰う必要があるな」

 

「マジっすか提督!マジっすかー!」

 

「よし、今からマミー屋に行ってミーティングすっか!ミーティング!五月雨、山田ゼレフ先生に至急連絡を取れ!」

 

俺は執務机をバシバシと叩き、冷静で的確な指示を己の机でクロスワードパズルを解いていた五月雨に伝えると、五月雨は面倒くさそうに顔を上げ“そもそも山田ゼレフって誰ですか?”と冷静で的確なカウンターを放ってきた…

 

「バカお前、アレだよアレ!ちょっと前にウチに来たなんか幸薄そうな森のエルフみてーなヤツだよ」

 

「………あぁ、狭霧さんですか」

 

「そう!それなのだよ」

 

五月雨はハイハイ狭霧さんですね、狭霧さんとか言いながら電話機を手にとってボタンをポチポチと押し始めた

 

「カーッ!ミーティングっすか!この秋雲!なんか元気とやる気がMORIMORIと湧いてきたっすよー!」

 

「だろぉ?よっしゃ秋雲!秋雲組も呼んでこい!秋雲組も!マミー屋で好きなモン食っていいぞ!1人1000円まで!ガハハハハ!」

 

「ヒュー!提督ボテっ腹ーッ!アヒャヒャヒャ!」

 

◆◆◆

 

甘いモン食ってエネルギーを充填するこだわりの店、マミーヤ……思わずゴクリ!となっちまいそうなビシバシボディの店主、間宮が作るこだわりの甘いモンは常に最高の味を提供し続けている…

 

「さて…どうやら揃っているらしいな」

 

秋雲と一旦別れ、便所で最高のビッグ・ベンを放ってからマミーヤへ行くと、既に秋雲と秋雲組の面子、そして新進気鋭のライトノベル作家、山田ゼレフ先生ことサギ…?サギーくんが座っていた…

 

「では、始めようか…秋雲の漫画について大いに語る会-春の陣2018 天翔-を」

 

「ウェーイ!テイトク!ウェーイ!」

 

「は…はぁ…?」

 

俺はとりあえず空いているサギーくんの隣に座り、テーブルの上に並んだティーとケーキ的なものを見て、私の分は?と尋ねると、サギーくんは曖昧な笑みを浮かべ私のでよければと言ったので丁重にお断りした

 

「さて、では今回も秋雲の足りない脳ミソの為に忌憚のない活発な意見交換をしようと思う」

 

「みんな!この秋雲の為にありがとう!こんな秋雲にありがとう…っ!」

 

秋雲はアツい涙を流してアツく集まったメンバー達に頭を下げた

 

「まぁまぁ秋雲さん、私は好きですよ?秋雲さんの漫画」

 

無能アシスタント集団秋雲組の1人、夕雲、主にモブキャラなどを担当!ただし画風がベル薔薇チック!

 

「巻雲も好きですよ、秋雲の力強い絵!」

 

無能アシスタント集団秋雲組の1人、巻雲、主にトーンなどを担当!やたらと点描トーンを多用する!

 

「そうです!秋雲の躍動感溢れる絵はなかなかデキることじゃありませんよ!」

 

無能アシスタント集団秋雲組の1人、風雲、モブ!背景!トーン!ペン入れ!ベタ塗り!ホワイト!消しゴム!効果線!秋雲組唯一の有能アシスタントで秋雲より面白い漫画が描けるのに秋雲の漫画に心酔するちょっと残念な子!

 

「ありがとう…っ!!みんな!ありがとう…っ!」

 

秋雲は秋雲組のナイスガッツ・バカどもとガッシリとスクラムを組み!秋雲組フォイオー!フォイオー!とアツく声を上げる、実に感動的な光景なのだよ……コイツらなら、コイツらにならいつかきっとジャ●プのカンバン漫画を創り出す事が出来るだろう…

 

「そうは思わないかね?山田ゼレフ先生」

 

「え…?何がですか?」

 

山田ゼレフ先生ことサギーくんは、この熱意にドン引きしているようだが……まぁ、先生にもいずれわかる日がくるだろう

 

「ところで山田ゼレフ先生、そちらは…?」

 

「え?あ、コレですか?」

 

サギーくんの膝元に置かれた大判茶封筒……なるほど、さすがは先生だ、もう新しい原作を用意しているとは…

 

「えっ…と、コレは今度出版社に出す予定の…」

 

「オマエらァ!!山田ゼレフ先生がさっそく秋雲の為に胸ワクワクで夢がとびっきりな新作を書いてくれたぞォー!!」

 

「マジっすか!山田ゼレフ先生!マジっすか!」

 

「まぁまぁ…」

 

「さすがオレタチの山田ゼレフ先生!史上最悪の黒ラノベ作家と恐れられた悪魔の中の悪魔だぜーッ!」

 

「まったく!山田ゼレフ先生ほど読者の命を軽んじている作家はいないわね…!」

 

ゼーレフ!ゼーレフ!ゼーレフ!と山田ゼレフ先生コールの響くマミーヤ………今、まさに秋雲組と山田ゼレフ先生の心が一つに!そう、剣と魔法は一つになるようにガッシリと重なったのだよ…

 

「フッ………そんなアツかりしオマエ達に、俺も感動したよ、秋雲と秋雲組、そして山田ゼレフ先生よ、今日は予算は無しだァ!好きなもの食べろォ!」

 

「マジっすか!?提督!マジっすか!?」

 

この時代では何もできないと思っていたが、俺にもただ一つやれる事があった、それは秋雲やサギーくん達、未来ある子……オマエらに好きな物を食わせる事!

 

「あぁ、何も心配しなくていい!全ての勘定を払ってやる!」

 

ーーー

 

………全ての財力(チカラ)を使い果たした俺は1人、もう閉店時間となったマミーヤの椅子に座っていた…

 

「さぁ〜て、閉店閉店〜…って、ゲッ!提督…ッ!まだ居たんですか…?」

 

「どうしたの?伊良湖ちゃん」

 

「あ、いや……まだ提督が居たんだなって…」

 

「ふ〜ん………チッ!閉店時間だよ!早く出て行けェ!!」

 

非情なるキング、間宮に蹴り飛ばされ、俺は店の外に転がった…


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