【登場人物】
提督(201)
大本営から貰ったお試しセットはなんか微妙に曲がった
五月雨(58)
ほぼ専業秘書艦
「そういやこないだよぉー、月刊海軍読んでたらよぉー…なんかケッコンカッコカリ特集ってのがあってよぉー」
「ふ〜ん、ノワっち、醤油頂戴」
一日三食、朝昼晩に考え抜かれた栄養バランスに優れた食事を提供する間宮食堂…この日、食堂で食事を摂っていた誰かが何気なく言ったこの言葉…ケッコンカッコカリ
所謂、K・K・K(ケッコン・カッコ・カリ)と呼ばれるこの制度は、通常到達する最高練度である99と言う壁をブチ破り、可能性のドアのロックをこじ開けて限界突破!更なる修羅の域を求める者御用達の制度である…
「なにそれ?流行ってんの?」
「知らね」
「っーかノワっち、醤油頂戴って!」
そしてこの制度、練度99に到達した者は誰でも申請可能、専用のKKKセットに封入されている指輪を装着するだけ!痛くない!安心!簡単!お手軽!大本営への面倒な手続き不要!直属の上司からの承認があれば今日からキミもスペシャルな存在に!
「あ〜…そういや明石屋に売ってたわ、それっぽいの、なんかスゲー前に見た」
「ふ〜ん、あ〜…そういや私も前に見た、なんかダンボールの下に積んであったわ、たぶんアレ賞味期限とかヤバいわ」
「ノワっち!醤油!」
………直属の上司、つまりはその艦隊を指揮する提督の承認を必要とするこの制度、そのケッコンと言う嫌がらせ感溢れる名称と相まって微妙に特別感を持つ者が多く、大本営としてはせっかく明石酒保経由で流通させてるんだからYOU!もっとガンガン渡しちゃいなYO!お試しで配ったヤツだけで一人なんてケチなコト言わないでSA!ハーレム王に!俺はなるーッ!ぐらい言っちゃないYO!との考えらしい…
「っーかウチのテイトク、なんでそのKKDとかYKKだかしてねーの?」
「さぁ?ホモだからじゃね?」
「え?マジで?私テイトクがスゲーいい顔して小学生って最高だな…って言ってたって聞いたよ」
「や、ホモでしょ?あの眼鏡はホモ、ハッキリわかんだよ」
「っーかチ●ポついてんのか?あのオッサン、いや……まさかオッサン?いや、オッサンなのか?」
「まるでオッサン博士だなですね」
「立て野分オラァ!!タイマンじゃあ!!」
◆◆◆
「…と、ゆーワケで、当基地所属の皆さんの疑惑に答える意味もありまして色々と調査をしてきました」
「ナニがとゆーワケだ」
寒風が吹き荒れる屋外からビュービューと俺の風を感じる冬の執務室、今日も相変わらず白と青の寒色系駆逐艦の五月雨は手にした書類を俺の机に置いた
「っーかナニ提督様に黙ってシツレーな調査してんだテメーは、舐めてんのか?あ?舐めてんのか?この青髪ロングは?あ?ケンカ売ってんのか?あ?」
「とりあえず、皆さんには仮に提督からケッコンカッコカリ、略してKKKを申し込まれると想定したアンケート的なもの答えていただきました」
「シカトすんな!シカト!」
「最も多かったアンケート結果は“やはり提督はホモ、ハッキリわかんだね”でした」
「やめてくれ、マジで、その回答は俺に効く」
オイオイオイ…マジか、っーかマジか、ちょっと待てよ、俺だって傷つくんだよ?えぇ…?ちょ、マジかよアイツら、俺そんなふうに見られてんの?
「やめてくれ」
「次に多かったのは、オブラートに包んだ言い方をするとガチロリコンのペド野郎ですね」
「誰がガチロリコンのペド野郎だ、っーかオブラートに包んでそれか?なぁオイ?それは本当にオブラートに包んであるのか?」
「包んでますよ、包まない感じで言い変えましょうか?」
「いや………いい、やめておく」
この青髪ロング子、可愛い顔してとんでもない事を平然と吐きおるわい
「あ、一応、好意的な回答も何点かありましたよ」
「あるのかよ、好意的な回答が」
「えぇ、例えばですね……あ、コレなんてどうですか?」
【ケッコン…?フフッ、まぁ、こんな世界早く足を洗ってボルドーに帰って夫婦でワイン農家も悪くないわね R】
「プライバシーに配慮して実名は伏せてあります」
「…それ伏せてんのか?っーか実名以外で正直心当たりがありまくりなんだが」
っーかあの自称最強戦艦、ケッコンカッコカリの意味理解してんのか?っーかなんで俺までボルドー行き確定なんだよ
「あとはそうですね、あ、コレもなかなか好意的です」
【ケッコンか……なるほど、良い響きだ、そうだな、これを機に祖国に戻り、共に女王陛下の騎士として大英帝…(中略)…誇り高き血統、そして我らがロイヤル・ダイナスティの再興!そうだ!それがいい!きっと陛下もお喜びになる! A】
「プライバシーに配慮して実名は…」
「伏せてねぇ!!ナニも伏せられてねぇよ!コレ完全にアイツだろ!赤い髪の女だろォ!?」
ナニ考えてんだあの残念女騎士は……ナニがロイヤル・ダイナスティだよあの田舎騎士が、国に帰ってビール麦でも作ってろっーの
「あとは…あ、コレなんか超好意的ですよ、モテモテですね」
「ナニがモテモテだ、どうせまたロクなのじゃねーんだろ?」
【同志提督もようやく革命の旗を掲げる覚悟を決めたか、長く諜報活動に専念してきたがいよいよと言うワケだな同志よ! революция】
「プライバシーに…」
「いい加減にしろよコノヤロォォォォォ!!っーかさっきからなんだ!?なんで外人枠ばっかなんだよ!おかしいだろ!?」
「たまたまですよ、たまたま」
ナニ澄ました顔してシレッとたまたまとか言ってんたこの青髪ロング子は、どう考えても悪意しか感じねーぞ
「たまたま、変な人は海外艦に多いってだけです」
「変な人とかゆーなッ!!ナニか!?俺に好意的なのは変な人限定なのか!?」
「あと、パスタの国の人が好意的な回答ですけど…」
「ハッ?どうせあの魔女みてーな戦艦だろ?どうせコイツにスパゲティを食わせてやりたいんですがいいですかねー?とか書いてんだろ?いい、いい、聞かなくていい」
「はぁ…?そうですか」
クッ!どいつもこいつも舐めやがって、ナニがローマだ、休日みてーな名前しやがって!
「はぁ………もうちょいマトモなのないのか?マトモなの」
「マトモですか………あ、コレなんか良いですね、深い愛情を感じますよ、ほら」
「深い愛情ねぇ…」
五月雨から手渡されたアンケート用紙を見た俺に衝撃が走る…ッ!!
【好き好き好き好き好き好き好き愛してます愛してます愛していますいつも貴方の事を考えています貴方の事を目で追っています貴方の匂いを貴方の空気を感じています何気なく私の前を歩く姿を見るだけでもう幸せ過ぎて夜も眠れません貴方の事を考えない日も時間もありません片時も忘れる事なく貴方の事を好きでいますいつもいつもいつもいつもいつもいつも貴方の事を好きです誰よりも何よりも好きです貴方の為になら誰であっても殺してみせます貴方が居てくれるなら何であっても壊してみせます貴方が笑ってくれるだけで私は死んでしまう貴方か触れるだけでもう私は全てを許せてしまいます本当に本当に本当に本当に本当に本当に好きで好きで好きで好きで好き好き好き】
「ギャアアアアアァァァァァ!!」
ヒッ!?ヒイイィィィ!!なんだコレェェェ!?こ、こわ…ッ!怖いわ!!
「ハー…ハー……怖過ぎるわッ!!なんだコレ!?」
「深いですよね」
「深過ぎるわ!っーかどんなタチ悪いイヤがらせなんだよ…怖過ぎるわ!ったく」
まったく、アンケートを逆手にとんでもないイヤガラセを仕掛けてくるとは……いったいどこのどいつだよ
「ハァ………もういいわ、とりあえずわかった」
「そうですか、とりあえずこの用紙は渡しておきますから暇な時にでも読んでみてください」
「へいへい…」
五月雨から受け取った用紙の束を机の引き出しにしまい、俺は湯飲みを手にすると既に中身がないコトに気付いた
「オイ、お…」
「アツいお茶ですね」
「お、おぅ…」
チッ、こーゆートコがムカつくんだよなこの青髪ロング子は…