不健全鎮守府   作:犬魚

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たぶん!と言ったのだよ、たぶん!と

【登場人物】

提督(193)
たまに“牙を突き立てろ”と謎の電話がかかってくる

長門(15)
握力×体重×スピード=破壊力

陸奥(6)
陸奥には長門の…知らぬ技がある


提督と長門と運転する免許

「なぁ、陸奥よ」

 

「なに?」

 

主に戦艦の者達が住む戦艦寮の一室、長門と陸奥の部屋…

特にやる事もない陸奥は五月雨と貸し借りしあった合法ショタボーイ課長とヤンチャ新入社員が深夜のオフィスで“今日もオレ達の残業が始まる…っ!”な感じの本を読みながらダラダラとしていると、日課の汗臭いバーベルトレーニングから帰ってきた長門が声をかけてきた…

 

「この長門、実は車を購入しようと思ってな、この…ハイ●ースと言う車なんだが」

 

「ふ〜ん………いいんじゃない?」

 

長門は中古車雑誌のページをめくり、ほら!コレだコレ!と陸奥に見せるものの、陸奥は興味なさげにテーブルのポテチを一つ手に取り口に放り込む

 

「やはり車は大きくないとな!うむ!コレならアレだ、いつでも駆逐艦のエンジェルス達を集団で乗せることだって出来るしな!」

 

「ふ〜ん………なるほどね」

 

「だろ?フフッ、さすがはこのビッグセブン!我ながら目のつけどころが違う」

 

「ふ〜ん………すごいすごい」

 

「フッ、そう褒めるなよ陸奥、まぁアレだな!むしろ何故今までこの長門はこの画期的な案を思いつかなかったのか…」

 

「ふ〜ん………そうね、アナタは悪くないわ」

 

陸奥は五月雨から借りた本を読みながらポテチを食べつつ、うるせぇなコイツと思いながらワリとテキトーな返事をして実姉の話を聞き流していたが、ふと、ある重要なコトに気付いた

 

「ところで長門…」

 

「なんだ?」

 

「アナタ、運転免許持ってるの?」

 

「…運転免許?」

 

◆◆◆

 

「と言うワケでな…」

 

「ナニがと言うワケでなだ」

 

季節感など1mmも感じさせない匠の造ったコンクリート打ちっぱなしの執務室、たまには真面目に仕事でもするかと書類を眺めていたら、突如としてやって来た長門のアホンダラのくだらない話を聞かされ、俺はもうウンザリだよ

 

「そこでだ、同志提督よ、この長門に運転免許と言うものはくれないか?」

 

「教習所行け、教習所に」

 

「ハッハッハ、そうケチケチするな提督よ!さぁ!早くこう…ちゃちゃっと書いてくれ!」

 

「できるか!っーか運転免許の発行なんか提督の業務じゃねーだよ!海軍舐めてんのかテメーは!」

 

「なん………だと?」

 

長門はウソだろ承●郎みたいな顔をしているが、コイツ、マジで知らないのか…?バカだバカだと思ってはいたが、まさかここまでバカだったとは…

 

「ま…待て待て!ステイ!ステイだ提督だ!」

 

「ナニがステイだ、犬か」

 

「陸奥は…?陸奥は持っていたぞ!ほら!アイツはたまに駆逐艦のエンジェルス達を連れて街に買い物に………駆逐艦のエンジェルス達を連れて!!クッ!陸奥め!なんて羨ましい!」

 

「本音ッ!本音が何もオブラートされてねぇよ!」

 

ちなみに陸奥は普通に入隊前に免許取ってたらしく、ただ、車は持ってないので車を使う場合はもっぱらレンタカーで済ませているスタイリッシュ都会派スタイルだ

 

「とりあえずそんなに免許欲しけりゃ教習所にでも行けよ」

 

「なんだ?その強襲所とやらに行って免許下さいと言ったら貰えるものなのか?」

 

「貰えねーよ、教習の意味を考えろ」

 

「…フッ、この長門、強襲には些か自信があるぞ」

 

「スマン、俺が悪かった」

 

俺は秘書机でクロスワードパズルに興じていた五月雨にティーを淹れてくれと頼み、執務室の壁に吊るしてあるホワイトボードに大きく“教習所”と書いた

 

「…なんだ、そっちの教習か、フッ、同志提督ともあろう男が、人が悪い」

 

「俺は悪くない、あと、同志じゃねーよ」

 

「で?その教習所で何をすれば免許が貰えるのだ?何人くらい倒せばいい?」

 

「何事も暴力で解決しようとすんなァ!!教習所で運転の技術やら交通ルールをベンキョーすんだよ!ベンキョー!」

 

「……………面倒だな」

 

ダメだコイツ、コイツは間違いなく免許取らせたらダメな類のヤツだ

 

「もっとこう……てっとり早いのはないのか?」

 

「まぁ…直接、試験場に行くって手もなくはないが…難易度は高いぞ」

 

「ほぉ…死拳場か、フフッ…なるほど、それは難易度が高そうだ」

 

たぶん、何か勘違いしているであろう不敵な笑み浮かべる長門のバカの勘違いを正すべく、俺はホワイトボードに“試験場”と大きく書き込んだ

 

「………なんだ、つまらん」

 

「何がつまらんだ、物事全て暴力で解決出来ると思うなよ」

 

「フッ、この長門、欲しいものは全て己の力で手に入れる主義だからな!」

 

ダメだコイツ、暴力が支配する良い時代でもないと社会適応性に大きな問題がある、おそらくはコイツなら札束がケツ拭く紙にもならねー時代になっても十分にやっていけるだろう…

 

「お茶です」

 

「うむ」

 

五月雨から受け取った湯呑みの中身をグイッと飲み干し、俺は長門のバカの鍛え抜かれた鋼鉄の6-packを見てため息を吐いた

 

「フーッ〜…諦めろ」

 

「何故だ!?」

 

「何故だもクソもあるかァ!テメーのその鋼鉄の6pack-core wonderにでも聞いてみろやァ!」

 

「鋼鉄のしっく…?なんかよくわからんが、とにかくこの長門は諦めんぞ!教習所も試験場もダメだと言うならば仕方あるまい………同志、お前の免許を奪うまでよ!」

 

「アホか!?」

 

この後、他人の免許を奪ったところで何の意味もない事を俺と五月雨の2人がかりで懇切丁寧に説明し、一応納得した長門にどうしても欲しいなら陸奥が今穿いてるパンツ持って来いと言うと、長門はよし!すぐ戻るから待っていろ!と勢い勇んで執務室から飛び出して行った…

 

…後日、基地の裏にある雑木林で冷たくなった長門が発見された、死因は不明、ただ、その顔はどこか満ち足りたものだったらしく、おそらくは陸奥に“四門”を開けさせたのだろう…




次回こそクリスマス回、今年も前後編

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