【登場人物】
提督(183)
嫌いなものは、ガキとケダモノとハネっ返りの強い女
明石(13)
嫌いなものは、カード払い
特に急ぎの仕事もない秋の日、菓子パンと缶コーヒーでも買って談話室で大魔王を倒す為にアツき冒険にでも旅立とうと考え、とりあえず明石の店に寄ってみると、明石の足元にハァハァ言ってる白黒のケダモノが居た…
「なんだコイツ?」
「グラーフさんが飼ってる犬らしいですよ」
「ふ~ん」
そういや前に寮の前でレーベきゅんとマックスきゅんが餌かなんかやってた気がするな、たしかいつぞやからグラーフの横に居て、レーベきゅんが“それはグラーフの犬か?”と聞いたらグラーフは“ふむ、私の犬に見えるのか?”と言っていた事から付いた名前はグラーフ・ツェッペリン犬とかなんとか…
「で?なんでそのグラーフ・ツェッペリン犬がここに居るんだ?残飯でも食いに来てんのか?」
「さぁ?ウチには残飯なんてないんですけど…」
「じゃあアレだな、お前を獣姦しに来たんだろ」
「冗談じゃないですよ、私にも選ぶ権利ありますよ」
「モテモテだな淫乱ピンク、子供は何匹出産予定だ?」
「淫乱ピンクじゃないです、あと、子供は出来れば男の子2人ですね、兄のおさがりを弟に使い回せるのが理想です」
さすがは工作艦明石、安心の将来設計プランを既に立てているとは……大したヤツだ
「で?飼い主はどうした?飼い主は?」
「さぁ?なんかよくわかんないですけど、この犬だけみたいですよ」
「放し飼いか、気に入らんな」
「まぁ、犬が嫌いな人からしたら公の場で放し飼いなんて狂気の行動ですしね」
自分や家族が噛まれないからアカの他人も噛まないとか無根拠に信じているアホンダラは愛犬家ではないと提督的には思うね、首輪や紐がカワイソーと思うのは結構だが、そーゆーのは自分のナワバリの中でのみ実践してもらいたいね
「まぁいい、飼い主を見かけたら股間を蹴りあげてくれるわ」
「女の子の股間を蹴るのはどんなものかと………あ、そーだ、コイツ菓子パン食べますかね?菓子パン、賞味期限切れたやつですけど」
「さぁ?食うんじゃね?」
「ちょうどさっき、賞味期限切れたやつ見つけて後でおやつにでもしようと思ってたんですよ」
明石はレジカウンターの裏に回り、なにやら下に置いていたらしい箱から袋に入った菓子パンを取り出した
「よぉ~しよしよしよし!このパンが欲しいですか~?」
明石は犬をよぉ~しよしよしよしよぉ~し!カワイイですねぇ~!とまるで愛犬家の如くワシワシと撫でる、まぁ、犬の方はなんかイヤそうだが…
「はい、じゃ、お手」
ガブリシャス!(かみつき)
グラーフ・ツェッペリン犬のかみつき、明石の右手は大ダメージをうけた
「ウッギャアアアアアア!!噛んだァァァァァァ!!コイツ噛みやがったァァァァァァ!!」
「バカじゃねぇの?」
「このド畜生が!蹴り殺してやりましょーか!?」
「やめておけ明石、お前では勝てない」
「クッ…!バカにして…ッ!」
見た目老犬とは言え、この犬は万能なる魔界生まれの血を吸う上級魔界貴族と噂されているグラーフの飼い犬だ、実はただの野良犬ではなく、とんでもない魔界ハウンドの可能性は捨てきれないだろう…
「やめておけ」
「クッ!しかし……この明石にもPRIDEと言うものがあります、たかが犬っころ一匹に遅れをとったとあっては私は前に進めません!そう!この明石にはこの国の流通・経済を裏から支配する“明石キングダム”を作り上げ、王となって君臨しバスタブにドル札いっぱいで満たしてゲラゲラ笑うとゆー黄金のような夢があるんです!」
クズ…っ!コイツ、本物の!根っからの!クズ…っ!救えない…っ!
「…だが気に入った、その“覚悟”…ッ!」
「フッ、さすがは提督、アナタならわかってくれると信じていました」
俺達はまるでスーパーロボットのようにガッチリとアツい握手をかわし、俺は明石の手から賞味期限の切れたパンを取った
「その右手じゃギターも弾けないだろう?」
「提督…」
「後は俺に任せるがいい、さぁ、このパンを食うがいい」
俺は賞味期限の切れたパンをグラーフ・ツェッペリン犬の鼻先にグイグイと押し付け……
ガブリシャス!(かみつき)
「ウッギャアアアアアア!!噛んだァァァァァァ!!この犬、俺を噛みやがったァァァァァァ!!」
「やっぱり!?」
「やっぱりじゃねぇぇぇぇ!?クソッ!離せこのド畜生が!蹴り殺してくれるわーッ!」
このクソ犬っころがァ!この俺をコケにしやがって…
明石に続き、俺の右手も繊細なギターテクが使用不能になり、俺達はとりあえず血がドクドクと流れる右手を心臓より高い位置にかざしてみた
「クッ!どうやら賞味期限切れのパンはお好みではないらしい」
「そのようですね、犬のくせにグルメなヤツです…」
「大したヤツだ」
「えぇ」
同じ駄犬でも時津風のヤツはすぐに拾い食いしてお腹を壊している姿をよく見かけるが、さすがは万能なる魔界の支配者、グラーフの飼い犬となると犬としてのレヴェルが違うと言うコトか…
俺達が魔界ハウンド、グラーフ・ツェッペリン犬に戦慄の冷や汗を流していると、飼い主ではないドイツからの刺客が明石の店へとやって来た
「コンニチハー」
「あ、居た」
「レーベきゅん、マックスきゅん……」
戦慄のドイツJr.!!レーベリヒトなんちゃらクンとマックスなんちゃらクン……
「こんにちはなのだよ」
「いらっしゃいませ」
「…ねぇマックス、なんでAdmiralとアカシは血を流してるんだろう…?」ヒソヒソ
「…さぁ?」ヒソヒソ
俺達鮮血のブラッドブラザーズを見て二人はなにやらヒソヒソ話をしているみたいだが……おそらくはツレションにでも行こうと相談でもしているのだろうと高度な推察をしていると、グラーフ・ツェッペリン犬が立ち上がり、のそのそとマックスきゅんの足元へと移動した
「よしよし、ダメじゃない、勝手に出歩いたら」
「寮に帰って餌にしよう、グラーフが鶏肉を買って来てるよ」
レーベきゅんはグラーフ・ツェッペリン犬の頭を撫で、それじゃ失礼しますと俺達に頭を下げ、グラーフ・ツェッペリン犬を連れて去って行った……
「…」
「…」
「明石」
「なんですか?」
「絆創膏とかないか?」
「ありますよ、あ、キズスプレー的なアレもありますよ、780円」
「金取るのかよ」
「取りますよ」
この野郎、なんて金に汚いヤツだ…
「だが許そう」
「ありがとうございます、780円です」
しかし俺の右手を心臓より高い位置に挙げたままなので財布を取る為にポッケに手を突っ込むコトができない…っ!仕方ないな…
「明石」
「なんですか?」
「右のポッケに財布入ってるから自分で取って自分で抜け」
「えー…私も右手がアレなんで面倒なんですけどー」
「ゴチャゴチャ言ってるんじゃないよこの淫乱ピンクが」
「淫乱ピンクじゃないです、清純派ピンクです」
明石は左手を俺のポケットに突っ込もうとしたがイマイチうまくいかず、とりあえず俺の正面にしゃがんで体勢を安定させて再びトライした
「ちょ!あんま動かないでくださいよ」
「動いてねーよ、失礼な野郎だな」
ナニモタモタしてんだコイツは、早く抜けってのな…………ん?
「………なにやってるの?」
明石の店の扉を開き、毛のないキモい猫を抱えた改白露型の緑のやつがやって来た
「よぉ、チビスケェ…」
「…チビスケゆーな、山風……それよりテイトクと、明石さん、なに……やってるの?」
緑チビこと山風は心なしか驚愕しているようにも見えるが………まぁ、コイツはいつでもビビっちまってるみたいな顔してるか
「ご覧の通り、明石に(財布を)抜かせているのだが?」
「へ………へぇ…」
「オイ、ダラダラすんなよ、早くしろ」
「うっさいですね、ってかどんだけパンパンなんですか?(財布が)溜めすぎですよ(小銭を)」
「………し、失礼しま、失礼しました!」
山風は珍しく慌てたようにさっさと店から出て行ってしまった、買い物しに来たんじゃなかったのか?最近の子は気まぐれでよくわからんな…