【登場人物】
提督(152)
大佐、上にヘコヘコする事に躊躇いがないクソメガネ
吉野中将
中将、上にヘコヘコする事に躊躇いがあるどころか噛み付いてグルグル回る髭眼帯
最高級でエグゼクティブなおもてなしは駅を降りた時から始まる、常に上質を求める我々は決してお客様の期待を裏切らない事を胸に抱き、最高をお届けするのだ…
「タクシーでも呼ぼうか?」
「いや、なんかあちらさんから迎えの車が駅まで来てくれるらしいよ」
「へぇ」
鈍行電車を降り、駅を出るとあまり車通りのない駅前ロータリーに1台のムースピンクパールの可愛いらしい軽自動車が走って来た
「あ、もしかしてアレかな?」
「ははは…まさか、提督、自分の階級を忘れているのかい?海軍の中将だよ?不動産屋のアパート紹介じゃあるまいし、監査のお迎えに軽自動車を寄越すようなアホな将校が…」
時雨くんがないない、それはないと言っていると、件の可愛いらしい軽自動車が停車し、運転席から見覚えのある眼鏡の女性が降りてきた
「あ、お待たせしました、え〜…大坂鎮守府の吉野中将様でいらっしゃいますか?」
「え?あ、はい……え〜、君は練習巡洋艦の香取、さん?」
「はい、どうぞどうぞ、狭い車で申し訳ありませんが、どうぞ」
「あ、はい…」
エレガントなようで妙に気さくな雰囲気を醸し出す香取ーヌ先生に促され、軽自動車の後部座席に座る提督と時雨、なるほど、たしかにこぢんまりとしているが別段そこまで狭いワケでもない、自分達を乗せた車は何事もなく発進した…
「提督、提督」ヒソヒソ
「なにかな?」
なにやら小声で話しかけてきた時雨にイヤな予感を覚えつつも意見は聞いてみる
「…これはもう、死刑でいいんじゃないかな?」ヒソヒソ
「言わない!そんなコト言わないの!ほらアレだよ!ほら、迎えに出す予定の車が急なトラブルで出せなくなったとか…」ヒソヒソ
「そうかな…」ヒソヒソ
「そうだよ………たぶん」ヒソヒソ
正直、提督にも自信はない………そして、この吉野がさっきから気になっているコトが1つある、それは、助手席にチラっと見えるスーパーのレジ袋的な何か…なんだろう?これはまるで買い物ついでにお母さんに駅まで迎えに行って貰う的な…
「まるでスーパーに買い物に行くお母さんがついでに子供を迎えに行くみたいなノリなんじゃないかと…」ヒソヒソ
「言わない!時雨くん!そーゆーのは思ってても言わない!」ヒソヒソ
「あ、音楽でもかけましょうか?」
運転する香取ーヌ先生はなんとなく居づらい車内に気を遣ってくれたのか、左手で音楽の再生ボタンを操作し、スピーカーから音楽が流れ出した…
燃やせ燃やせ燃やせ炎上盤上大炎上!UTAGEが始まる魔界のUTAGE!100万獄のmillion!カチンときたぜオマエはkillon!GUY-SYU一ッッッッ蝕ゥゥゥゥ!アアアアアーッ!KAGAKAGAKAGAKAGAKAGAKAGAKAGAKAGAKAGAKAGAKAGAKAGAァァァァァァ!!
「…」
「…」
…えっと、なんだコレ?
とりあえず、提督と時雨はこの可愛いらしい軽自動車に絶望的に合ってないカーサウンドを聴きつつ、件の問題基地へと向かった…
◆◆◆◆◆
「ハッハッハ、お待ちしておりましたよ中将殿、ハッハッハ」
「どうも、大坂鎮守府を預かる吉野三郎中将です」
「ハッハッハ」
俺は最高のスマイルで握手をかわし、中将殿にどうぞどうぞ座って下さいと着席を促した、ついにやって来た監査の男、相当ヤバいヤツとは事前に聞いてはいたが………なんだコイツヤベェよ!?髭で眼帯とか武将どころか猛将じゃねーかッ!自分の目を食べちゃって更に大アバレしちゃいそうな羅漢じゃねーかァァァ!ウチはこんなヤバいのに睨まれてたのかァァァァァ!
「ハッハッハ、五月雨クン、中将殿と秘書艦殿にティーを、極上のティーを淹れてやってくれ」
「はい」
ヤベェ、マジヤベェよ、コイツは1つ選択を間違えれば即切腹コマンドで切腹を言い渡されかねない、相手は大佐から中将にブッ飛び昇進とかする猛将伝だ、とにかく落ち着いて対処しなければ…
ただでさえ、中将殿のお迎えの車に軽をよこしたワケだし、既にキレていてもおかしくはないが……まぁそれは仕方ない、まさかDQNカーとかヤン車をお迎えに向かわせるワケにもいかなかった苦肉の策ッ!
「とりあえずこちらの方で準備しておいた書類です」
「あぁ、どうも…」
書類上に不備はない、ウチはいたって健全営業だ、潜水艦だって無理なし安心の4交替、長期休暇ありのホワイトぶりだからな
「でもまぁ、書類的なものは後で構いませんよ、出来れば基地の様子を見て回ったり所属している艦娘にお話をさせて頂ければと…」
「ハッハッハ、大丈夫ですよぉ」
やはりきたか!自分の目で直に確かめてみるタイプの監査ッ!大丈夫、そう、大丈夫だ、ここまでは想定内だ
「コーヒーをどうぞ」
「あ、どうも」
「ありがとう」
五月雨ェェェェェェ!!!オマエなんでコーヒー淹れたのォォォォォ!!俺ティーを!極上のティーって言ったろォォォォォ!!
吉野中将と同行秘書艦殿の前に置かれた豊潤な香りのする黒い液体、俺は五月雨に笑顔の視線を向けると五月雨は自信アリ!と言った具合に親指をグッと上げた、どっからその自信がくるんだよ!バカか!?自分の殺人兵器を理解してねぇよコイツ!
ーーー
「…いただきます」
秘書艦らしい五月雨くんの淹れたコーヒーを啜る
………口に含んだ瞬間、口内に広がる絶妙な不快感、絶望感と嫌悪感を混ぜ合わせ、更に悪いところだけをあえて抽出したようなデストリップ、一瞬、毒殺かと疑ってしまいそうになったがコレはアレだ、そう、単純に不味いんだ…
もし、このコーヒーを毎日飲まされでもしたら確実にノイローゼになるだろう…そして、そのコーヒーをどうしてそんな誇らしげな佇まいでこの子は人に勧める事ができるのか…
「…」
「…ふぅ」
一流のスポーツプレーヤーとなると、一瞬のアイコンタクトでチームメイトと意思の疎通が可能になると聞く、時雨くんは“もう全員死刑でいいんじゃないかな?”と言っているが吉野的にはきっと悪意はない、悪意はないんだと努めて平静に落ち着くように諭した
「…とりあえず、基地の中を見せて頂いても?」
「えぇイエスです、イエスです中将閣下!イエスです!」
ここに居たらおかわりを勧められる可能性がある、早めに退散させて貰おう…
◇◇◇◇◇
辺境の地にある基地だけに、敷地の面積はそこそこらしく、色々見て回るとさすがに時間がかかりそうなのでまずは所属している艦娘が居そうな場所へ行こうと執務棟から外に出た提督と時雨…
「KAGAKAGAKAGA〜」
「もしもし?時雨くん、もしかしてそれ、気に入ったの?」
「…なんだろうね、妙に頭に残るよね」
たしかに、なんて曲だったんだろう?もしかしたら誰かCDとか持ってるかもしれないし、帰ったら誰か持ってそうな娘に聞いてみよう…
「ヘイヘーイ!バッターカカシよー!」
「ヘーイ!ABU、今のはボールとバットが5フィートは離れてたぜー!」
「HAHAHA!ダンスならお遊戯会でやりなー」
外に出てすぐに、グラウンド的な場所で十数人の艦娘達が野球みたいな事をやっていた、ってか…口悪いな
「ハッハッハ、彼女達はスポーツで汗を流しているのですよ」
大佐曰く、アレはバッターとピッチャーのタイマン勝負でバッターは外野まで打てば勝ち、ピッチャーは三振か内野で打ち取れば勝ちと言うワンナウト勝負らしい
「なるほど…」
口は悪いけどスポーツで汗を流している姿を見ると意外とみんな根は良い娘で健全なのだろう
「あー!打たれちまったー!」
「ヘイ!今のはインハイだろ!バカじゃねーのか!」
「ったく…しゃーねぇな、大損だぜ!」
どうやら今のは勝負はバッターが勝ったらしく、ギャラリーの汚い野次と、財布から取り出される紙幣………ん?紙幣?
「…って!!賭博じゃないか!?」
全然健全じゃなかった!?あの口の悪さに相応しい不健全ぶりだったよ!?
「お、テイトクじゃねーの?」
「ナニその武将みたいなの?タケダシンゲン?」
「バァカ、オマエ、眼帯してっからアレだよ!えー…ほら、アレ、パーリィのやつ」
「あー…なんだっけ?え〜、あ!アレだアレ、ケンシン・マエダだよ!ケンシン・マエダ!」
誰だよケンシン・マエダって……ってか、ホントガラ悪いな、艦娘にはある程度個体差があるのは知ってるけど…これはヒドい
「バカかオマエら、この御方は監査に来られた中将様だ、挨拶せんか、挨拶」
ーーー
場所を移し、次なる場所は体育館…
ここでも数人の艦娘達が室内スポーツに汗を流していた…
「キター!舞風のスリー!」
「まったく落ちねぇ!今ので何本連続だー!」
室内ではくちくかんの子達がバスケットをしているらしく、なかなか目まぐるしい攻防が行なわれていた
「大佐殿」
「ハッ!なんでありましょうか中将閣下!」
「コレ、賭け試合じゃないですよね?」
「ハッ!賭けているのは己のプライドとチームの勝利だけであります!」
さすがに賭け野球を見たばかりなので健全かどうかがまず疑わしいが、試合内容と、くちくかんの子が一生懸命に汗を流す姿を疑うのは気が引けるか…
「バスケットか…」
「ナニ?時雨くん興味あるの?」
「まったくないと言えば嘘になるね、それに、見ていると少し身体を動かしたい気分にもなるよ」
「ふむ…」
「あ、なんでしたらちょっとゲームに出てみます?」
大佐は時雨に気を遣ってくれたのか、ちょっと遊んでみるかと提案してくれた、まぁ、こっちとしては時雨がいいなら別に構わないけど…
「いいのかい?」
「えぇ!モチロン!いいですとも!」
そう言って大佐はチームの監督をしているらしい瑞穂とゲームをしている子達を集めてなにやら話を始めた
ーーー
「いいか?ウチの時雨様じゃないから、いい感じにアレしてやれよ?気持ち良くプレーして貰うんだ」
「ヘイヘイ、わかったわかった」
「コラ!江風!提督になんて口の利き方してるの!」
「ヒッ!ご…ごめン!ネーちゃン!ぶたないで!」
中将殿の秘書艦にはチーム瑞穂に入ってプレーして貰い、いい感じにアレして好印象を与えなければ…
とりあえず、準備完了した中将殿の秘書艦を含め、俺は中将殿のいる席へと戻り、新たにゲームはスタートした
「…まずは速攻か」
ジャンプボールを制し、まずは江風が時雨の守備範囲へと切り込んで……
「!」
時雨の遥か上を往くレーンアップからの超々高度から防御不能の一撃がゴールに突き刺さった!!ま、まさかあの野郎……
「入ってるわね、ゾーンに」
いつの間にやらやって来た陸奥が俺と中将殿に有難い解説をしてくれた
ってかあのバカがァァァァァ!!なんでいきなり全開なんだよ!いい感じにアレしろって言ったじゃねぇかァァァァァ!!
「えー…」
中将ドン引きしてるじゃねぇかァァァァァ!ナニ考えてんだあのバカは!?バカか?バカなのか!?バカなんだよ!そうだよ!アイツバカだったよチクショウ!
「なるほど…」
ただ、コート上の秘書艦時雨は何やら面白いものを見たみたいな様子で笑っている、なんだ…?今ので大丈夫なのか?ならいいんだが…
「っしゃ!このまま一気にイクぜェ!」
江風のバカは再びボールを手にバカ全開のフルドライヴで敵陣へと切り込み、秘書艦時雨を抜き去…
パシッ!!
「なっ!?」
江風が抜けない…ッ!?っーかボールカットされただと!?嘘だろ…ゾーンに入ってたんだぞ!?
「調子に乗りすぎは良くないな…」
ボールを手にした秘書艦時雨は悠然とコート上を進み、ブロックを抜き去り何事もなくゴールを奪った
「どうやら彼女も持っているようだね…僕と同じエン●ラー・アイ、いや………ベ●アル・アイを」
いつの間にやらやって来たらしいウチの時雨様が有難い解説をしてくれた、っーかなんだそれ!?
「えー…うちの秘書艦そんなの持ってるとか聞いてないんですけどー」
中将殿も違う意味でドン引きだよ
「提督、ベンチに伝えてくれ、僕が行こう、あの眼に対抗出来るのは僕ぐらいだろう」
「え?あ、うん、出るの?あー…うん、いいじゃね?」
こうして、エン●ラー・アイVSベリ●ル・アイの頂上決戦が始まり、ちょっと身体を動かすでは済まないアツいエクストラゲームが展開された…
次回は後編
倶楽部HO-SHOWが牙を剥く