【登場人物】
提督(140)
大人であることを自覚的に武器にしたがるが、如何せん、威力が貧弱な武器
早霜(4)
エリート駆逐艦、夕雲型の17番、同世代のキヨシやアサシに比べておませな思考を持っており、遊び球無しのキレのあるドストレートが武器
「…あかんな」
「そうですね」ボソボソ
エレベーターに閉じ込められ早1時間弱、非常ボタンの連打と階数ボタンの特殊コマンド押しに飽きた俺は無駄に疲れたので床に腰を下ろしていた
「はぁ…早く復旧しねぇかなぁ~」
「そうですね」ボソボソ
正直、煙草が吸いたいのだがこの密室、1人なら気兼ねなく火を点けるがキタローくんも居るのでそう言うワケにもいかない
…さて、何故俺とキタローくんがエレベーターに閉じ込められているのか?話はだいたい1時間程前に遡る…
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そろそろ夏物の白が欲しくなって来た今日この頃、俺は街のデパートの紳士服コーナーへと来ていた
「清汗素材か…」
あまり汗がダラダラと出るタイプではないが、暑いものは暑い、本来なら夏はパンツ一丁で生きていたいが、俺は変態ではないのであまり刺激的な格好で基地内をうろつくワケにもいかず、かと言って執務室で布面積を減らしても五月雨が露骨にイヤな顔しやがる、と言うか、アイツは人の格好にイヤな顔する前にあの暑苦しい髪をなんとかして欲しいものだ
俺は札に書かれたサイズを確認し、さっさと勘定を済ませた
「よし、これでこの夏はモテモテ待ったなしだな」
シャツを数枚購入し、後は地下にでも行って五月雨のクソにデパ地下スイーツでも買って帰ってご機嫌でもとってやるかと考えた俺はエレベーター前へ行き、下行きのボタンを押した
「ったく、早く来いよコノヤロー」
待つこと30秒弱、上の階からエレベーターがやって来て扉が開いたので中に入ると、上からの先客が1人立っていた
「む?」
「あ…」
上の書店で買い物をしたらしい紙袋を手に下げたどこかで見たような顔……なんか前髪長い、え~と、名前は~…
「たしか君は………キタローくん、だったかね?」
「…どうも」ボソボソ
そうそう、スーパーエリート駆逐艦、夕雲型の子だったな、今日は休暇を取ってデパートでお買い物に来たらしく、普段の私学のJSみたいな制服と違い、オシャレな私服を着ていた
「キタローくんも買い物かね?」
「…はい、書籍を少々」ボソボソ
「ふ~ん」
相変わらず何を言ってるか聞き取り辛いな、まぁどうでもいいが…
ガクンッ!!!!
「ん?」
「…なんでしょうか?」ボソボソ
なにやらエレベーターが変な感じに停止し、照明が薄暗くなってしまった
「おいおいマジか」
「…停電か何かでしょうか?」ボソボソ
「マジかよオイ」
エレベーターはあきらかに止まっているようなので、俺はコンソールに付いている非常ボタンを押し、マイクに向かって話かけてみた
「もしもーし?停電かコラ?勝手に止まってるんじゃねーよ、もしもーし?聞いてますかー?」
しーん……
「…通じてなさそうですね」ボソボソ
「参ったなこりゃ」
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そして話は現在へと戻る…
「おーい、出して下さいよ!ねぇ!」
しかし暑苦しいな、たぶん停電なのだろうが密室な上に空調も切れてるから段々暑苦しくなってきた
「…あの、提督」ボソボソ
「なにかね?」
「…携帯電話で助けを呼ぶのはどうでしょうか?」ボソボソ
さすがはキタローくんだ、この状況下において最も的確であり、外部との連絡をとる為に確実性の高い手段を提案してくれた、だがキタローくんよ、提督は大人だからそんな方法は45分前には気付いていたよ
「残念ながら、実は提督の携帯はバッテリーがキレているのだよ」
「…なるほど」ボソボソ
「ちなみにキタローくんは携帯とか持ってないのかね?」
「…普段あまり使わないので自室に置いたままで」ボソボソ
「そうか」
万策尽き果てた…ッ!まぁ無いものは仕方ない、とりあえず大人しく復旧するのを待つしかないか…
「はぁ」
「…」
何よりも苦しいのは、このキタローくんと一緒に居ることなんだよなぁ、この子は基本的にシャイガールみたいだから何を話していいのか難しい、かと言って、黙ったままでいるとなんか無視してるみたいで感じ悪いヤツみたいに思われるのもアレだな………よし、ここは大人として上司部下のコミニュケーション戦術Ⅲでいくか!
「とりあえず、しりとりでもするかね?」
「…しりとりですか?構いませんが」ボソボソ
「よし、じゃ俺からな、まず最初はシムシュシュシューのユだ!」
「………ユニコーン」ボソボソ
終了ッッッ!!!可能性の獣が俺と言う古い血を容赦無く断ちに来たよ!開幕ビームマ●ナムで瞬殺だよ
「よ…よし!2回戦!2回戦目いこーか、次はキタローくんから始めたまえ!」
「…私からですか?では………早霜のモで」ボソボソ
「モか、ふむ…モル●ンレーテ?」
「………天剣絶刀ガ●ダムヘブンズソード」ボソボソ
まさかこの見るからに内気で暗そうな子の口から天剣絶刀ガン●ムヘブンズソードとか言う単語がスラスラと飛び出るとか提督予想外だよ!
…そんなワケで、俺とキタローくんはダラダラとしりとりをしながら小一時間ばかり過ごすと停電が復旧したのか、エレベーターがゴキゲンな駆動音とエギゾーストを鳴らして動き出し、俺達は無事にエレベーターから生還を果たした
「あ~…やっと出れたなぁ」
「…そうですね」ボソボソ
「さて、俺は今から事務所にエレベーターに閉じ込められた件について責任者にネチネチと文句つけてくるが…キタローくんも来るかね?」
「…いえ、私は帰ります、少々汗をかきすぎたので…」ボソボソ
俺もあのクソ暑苦しい密室に居たせいで汗臭い気もするが、たしかに、キタローくん位の多感な時期の難しい年頃の子となるとそれを気にしてしまうのだろう
「わかった、気をつけて帰りたまえよ」
「はい、ありがとうございます」ボソボソ
◇◇◇
六月○日、晴れ
今日は休暇をとってデパートに作画資料の本を買いに行ったらなんとエレベーターで提督と運命的な鉢合わせをした、いきなり過ぎて吐きそうになった、でも耐えた
エレベーターと言う密室に二人きりで乗り合わせると言う奇跡的状況だけで胸がレッドゾーンを振り切っていたが神は更なるギフトを与えてくれた、なんと停電でエレベーターが停止し、提督と二人きりでエレベーター内に閉じ込められたのだ、二人きりで!正直、吐きそうになった、でも耐えた
私の目の前で提督はボタンを連打したりノックしてもしもーしとマイクに話かけたりしている御姿を見ているだけでもう下から大洪水になりかけたが………耐えた
エレベーターが復旧するまでの間、提督と楽しくしりとりをした、提督が私にしりとり言葉を投げかけてくるだけで軽くイッてしまった、しりとりとは言え、提督が私に…!私だけ…!私だけを見て!私に話かけてくれている!正直、何度イッたかよく覚えてないが十は軽く超えている、むしろ、今も提督の御顔と御声と匂いを思い出すだけでイキそう、う゛っ!………ハァ…ハァ…
「ハヤシー!メシ食いに行こうぜェ!メシ!」
「今日はカレーにメンチカツ載ってるらしいって聞いたー」
いつものようにノックなしで扉を開き、姉妹である清霜と朝霜のおバカな子供達が部屋に入ってきたのでノートを閉じた
「…そう」ボソボソ
「なに書いてんのー?まさか宿題!?」
「マジか!?アタイやってねぇよ!香取ーヌに殺されるッ!」
「…違う、日記よ」ボソボソ
「ふ~ん、まぁいいや、メシ食いに行こーぜ!」
「メンチカツだよ!メンチカツ!最高のオカズだよ!」
…最高のオカズならもう手にしてるわ、私には必要ないものだし、この子達にあげようかな…
次回か次々回から節目の度にやってくる前後編“提督の花嫁編”です