【登場人物】
提督(107)
辛党、サディスト
秋雲(4)
甘党、パシフィスト
早霜(2)
どちらでもいい、それが貴方のお好みなら
時津風(5)
グルメ、とりあえず匂いを嗅ぐ
ハー!ハー!ハァ……ハァ…今日は、提督と同じパン…っ!提督と同じ味!ハァ…ハァんん、この味が……ンン!提督と同じ!私と!提督が同じ!ハー~はあぁん、ンンクっ!甘い、あゥ…クリームの濃厚な甘さとっ!あ!ぁ…トロけるような甘さ、この甘さが…提督っ!ンン!いつもとは違ンンっ!あっ!あ!濃密で…ハー…ハァハァ…んんっ!!
「…ごちそうさま」ボソボソ
明石さんのお店で買ったクリームパンの袋をゴミ箱に捨て、私はベンチから立ち上がった、普段、金曜日以外はカレーパン派の提督がクリームパンを買っている事に少し驚いたがたまにはそんな日もあるのだろう、提督も辛みだけではなく甘みを求め日もある、大事な日課である提督と同じ物を口に入れて提督と同じ意識を共有する儀式を終えた私は走り込みでもしようと外に出る事にした
◆◆◆
「…そんで、明石さんの店行ったら珍しくクリームパン売り切れててなかったんすよ」
「ふ~ん」
特に急ぎの仕事もない晴天の午後、自販機に缶コーヒーを買いに行くと同じくジュースを買いに来たらしい秋雲とベンチに座って話をしていた
「コレだろ?俺は朝買ったぞ、後でおやつに食べようと思ってな」
「マジっすか」
「マジだ」
「それ、この秋雲に譲ってくれねーっすか?」
「やだよ」
「いいじゃないすか!私、明石さんトコで売ってるギトギトのクリームパンじゃないと頭に糖分いかないんすよー!原稿進まないんすよー!」
秋雲は俺の袖を掴んでグイグイと引っ張った
「えぇい!離せ!離さんかこの下郎め!」
「いいじゃないすか、この秋雲を助けると思って!ね?」
「マミーヤのトコにも他に甘いモン売ってるだろ、マミーヤのトコで買えよ」
「ダメっす、間宮さんのトコのはしっとり感があって上品な甘さなんすよ、私は合成着色料がふんだんに使われた科学的な甘さじゃないとしっくりこないんすよ」
たしかに、変に上品なモノではない下々の者御用達の味と言うものは我々にとってなくてはならないモノだ、庶民にとって合成着色料とはある意味オフクロの味とも言えるだろう
「その熱意や良し!心意気や良し!」
「わかって頂けたっすか?」
「だがダメだ」
「わかって頂けてねーしッ!!」
「丁度いい、お前の目の前でコイツを食してやろう…」
「なんたるサディスト!なんたるサディシズム!」
俺はクリームパンの袋を破り、中身を取り出してみせる
「ククク…」
「一口!せめて一口でいいからくださいっす!」
「一口か、そうだな……よかろう」
「マジっすか!?提督マジ天使っす!」
俺はクリームパンを千切ってアヘ顔寸前にハァハァ息をする秋雲に渡してやった
「あざーす………って!!コレ、クリームの部分ないんすけどォ!」
「ないよ?当たり前じゃない」
「なんたるドS!なんたるサドT!」
「バカめ、俺はただお前の苦しむ顔が見たいだけよ」
俺は千切ったパンから僅かに見えるクリームの部分をレロレロと舐めると秋雲が俺の袖を力強く引っ張った
「ファーックス!!」
「あ!テメー!コラ邪魔すんなよ!」
「クリーム!クリーム!よこせェ!クリームくれよォ!クリーム!」
こ…コイツ!クリームジャンキーかッ!?渡すまいとする俺、かじりつこうとする秋雲、俺達の間にアツい火花が散る
「よこせェ!!」
「やめろォ!!」
ボトッ!!
「あ」
「あ」
しまった!!クリームパンが床にッ!だがルール上はまだ大丈夫だ、3秒以内ならセーフと神話の時代から決まっている!
「貰ったァ!!」
「僕のだぞ!!」
俺達はほぼ同時に床に落ちたクリームパンに手を伸ばした………がッ!
クリームパンは俺達の手ではなく、一瞬の隙を突いて現れた野犬がカッ攫っていた
「ガフッ!ガフッ!」
「あ!時津風っす!」
「あ!テメーコラ!それ俺のだぞ!」
時津風は俺達を一瞥し、クリームパンをペロリと一口で飲み込んだ
「あまい……うまい……」クッチャクッチャ
「あ~ぁ」
「このド畜生がァ!蹴り入れてくれる!」
俺のド畜生がキックをヒラリとかわし、時津風は俺の足に喰らいついた
「グルルルル!!ガァーッ!!」
「あ、痛ッ!コイツ噛んだ!噛みやがったァァァ!!」
◆◆◆
走り込みを終え、冷たい飲み物でも買おうと自販機に立ち寄った…
提督と……秋雲だ、何故か2人とも疲れた様子でベンチでうなだれている
「こんにちは」ボソボソ
「ん…?あぁ、キタローくんか」
うなだれてる姿、ややレア
「提督、マミーヤ行かないっすか?マミーヤ、チョコパ食いましょ、チョコパ」
「そうだな、マミーヤ行くか…キタローくんもついでにどうかね?」
「いいんですか?」ボソボソ
……………秋雲邪魔だな、消えてくれないかな、今すぐ