不健全鎮守府   作:犬魚

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提督が持つ謎のスキルが遺憾なく発動した結果の回

【登場人物】

提督(102)
部下とのコミュニケーションを適度に図る大人

早霜
2つのとんでもない正体


提督と早霜とコールオンミー

自販機で缶コーヒーを買おうと考え、自販機の設置している場所に来ると夕雲型っぽい服を着た駆逐艦が同じく自販機にジュースを買いに来ていた

 

「む、君はたしか…」

 

誰だっけかなコイツ?たしかキヨシと同期ぐらいだったような…待て待て、ちゃんと覚えてるよ俺は、ファミリーの名前を覚えているのは当たり前だ、みんな俺の大事な“家族”だぜ

 

「え~…キタローくん?」

 

「早霜です」ボソボソ

 

「え?ハヤ…ハヤシ?」

 

「早霜です」ボソボソ

 

夕雲型のよくわからないが妙に小柄で前髪の長い奴、早霜、そうそう、そんな名前だったな、勿論知ってたよ?

 

「ここで会ったのも何かの縁だ、提督が奢ってやろう、何がいい?」

 

「では…缶コーヒーで」ボソボソ

 

「缶コーヒーな、缶コーヒー、微糖でいいか?」

 

「無糖で」ボソボソ

 

大抵の駆逐艦のバカガキどもはバカの一つ覚えみたいにオレンジジュースと言うのだが…なんだコイツ?缶コーヒーだけでも珍しいのに、しかも無糖だと?なるほど、小柄な割に大人である事をアピールしたい難しい年頃か…

俺はご所望通りの無糖のボタンを押し、出てきた缶を渡してやった

 

「ありがとうございます」ボソボソ

 

「ん?あぁ、まぁ気にするな」

 

キタローくんはベンチに座ると缶の蓋を空けてチビチビと飲みだしたので、とりあえず俺もそれに習ってベンチに座って飲む事にした

 

「キタローくんはアレかね?最近元気しとるかね?」

 

「えぇ、まぁ…」ボソボソ

 

「そうか、明日は晴れらしいぞ」

 

「そうですか」ボソボソ

 

だ…駄目だァァァァァ!会話が続かねぇぇぇ!!もう最後の手段である天気の話しちゃったよ!もう話題がねぇよ!なんだコイツ!コミュ障か?これがいわゆるコミュ障ってヤツなのか!?

いや、待て待て、落ち着け、まずは落ち着いて素数を数えよう、2…3…5…7、よし!落ち着いた!

 

「キタローくんは~…なんか趣味とかないのかね?」

 

「趣味ですか…?」ボソボソ

 

「そう!趣味!」

 

「趣味かどうかはわかりませんが…漫画は好きですね」ボソボソ

 

「漫画!いいね漫画!提督も漫画好きだよ!ちなみにキタローくんどんな漫画を読むのかね?やっぱり水木し●る?」

 

「…あ、いえ、読む方ではなく描く方で…」ボソボソ

 

「なんとォ!?」

 

意外だな、秋雲以外にも漫画描く趣味が他にもいたのか、しかもこの見るからに暗そうな少女が…う~む、人は見かけに、いや、漫画描くのに暗いも明るいもないか

 

「…読んでみますか?」ボソボソ

 

そう言ってキタローくんはどこからともなく取り出した大判茶封筒から原稿用紙を取り出した

 

「あ、あぁ…是非」

 

このコミュ障女が一体どんな漫画を描いているのかは非常に気になるな

 

パターン①ギャグ漫画

パターン②ホラー漫画

パターン③少女漫画

 

…おそらくはこの内のどれかと提督はみたね!提督的には①にマルをつけたいところだが…

 

‐‐‐

 

俺は缶コーヒーと原稿用紙をベンチの上に置き、一息入れて正直な感想を述べる

 

「……コレ、メチャメチャ面白いんですけど?」

 

「そうですか」ボソボソ

 

絵も話も商業誌でカンバン張っていてもおかしくないレベルだ、躍動感溢れる絵と魅力的なキャラクター、そして次のページが気になってしまう話の構成ッ!コレだよ!今のジ●ンプに必要な天才は!コレに比べたら秋雲の漫画なんぞチンカスじゃねーか!

 

「オマ…オマエすげーな、コレもうプロレベルじゃねーの?」

 

「まぁ…一応、プロですから」ボソボソ

 

「は?」

 

「…一応、団地妻エージという名前で何度か連載を頂きました」ボソボソ

 

「え?マジ?」

 

「マジです」ボソボソ

 

「え…?なんで普通に連載やらないの?」

 

「編集部の方からは軍を辞めてこっち一本でやらないかとは誘われてるんですけど…私、本職は艦娘なので」ボソボソ

 

マジかよコイツ……しかし団地妻エージか、なんかどっかで聞いた名前のような…

 

「まぁ、秋雲が聞いたら怒り狂ってフルネルソンするだろうな」

 

「だと思います」ボソボソ

 

「まぁ、退役したくなったらいつでも言ってくれ、提督的には止めないから」

 

これほどの才能をここで埋もれさせるのはあまりにも酷!今の低迷する漫画界への多大なる損失だろう

 

「提督が居る間は絶対に退役しません」ボソボソ

 

「は?」

 

「いえ…なんでも」ボソボソ

 

「…ま、よくわからんがわかった、これからもボチボチでいいから連載とかしてくれよ?楽しみにしている」

 

「………はい」

 

俺は空き缶をゴミ箱に入れ、キタローくんにじゃあなと言って執務室へと戻った

 

◆◇◆

 

ハァ…ハァ…ハーハー!んんっ!嗚呼!ハァん…緊張したぁ~…提督っ!提督っ!面接以来?出撃以来?提督に話しかけられたぁ!しかもキタ…キタローって!愛称までぇぇ、ハァ…ん、ハァ…ハァ…!提督と!同じ!缶コーヒー!缶コーヒー!買い続けて!提督と同じ味!同じ!提督の味っ!無糖!甘み無しでッ!ハー…ハー…んくぅ!私の漫画、ハァ…ハァ…提督は漫画好きって聞いたから頑張って描いた漫画!好きって!私の漫画好き!私の好き!メチャメチャにしたいって!提督が一枚一枚丁寧に!でも興奮しながら原稿を捲る横顔っ!嗚呼!コーフンしてッ!それで私もコーフンして!ハァ…ハァ…はぁぁぁん!!

 

「キヨシなんにする、アタイはオレンジジュース」

 

「私もー!あ、ハヤシだ、ナニやってんの?」

 

朝霜と清霜か……フッ、相変わらずバカでヒマそうで悩みがなさそう

 

「別に…」ボソボソ

 

「ん?オイ、キヨシ、なんかゴミ箱いっぱいみてーだな、捨てに行くか」

 

「アサシかっけー!マジエコロジー!」

 

「ヘヘッ…よせよ、兵が見てるぜ」


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