不健全鎮守府   作:犬魚

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全3回の2回目

【登場人物】

天海《アマミ》中佐
大本営直轄第五特務所属の特務中佐、非の打ち所が無く、ルックスもイケメン
艦隊司令の適性は無いので妖精さんは見えないし聞こえない


提督暗殺編 中編

受話器を電話機本体の上に戻し、買い置きの缶コーヒーを冷蔵庫から取り出して一口含む

 

「五月雨ェ」

 

「なんですか?」

 

「お前明日から休暇な、旅行とか行って来たらどうだ?楽しいぞ」

 

「…はぁ?」

 

◆◆◆

 

海軍には派閥がある、大きく分類分けすればタカ派とハト派の二つ、強硬派と保守派みたいなもので、将校として軍に属している限り、だいたいどちらか寄りになり、上の政権闘争が下の現場指揮に介入してくるのは当たり前、人事異動などは現場ではなく全て上の都合が絡んでいると考えていい

 

「天海です、よろしく」

 

「どうも」

 

大本営直轄、第五特務部なる部署からやって来た天海中佐はなかなかのイケメンで、人当たりもいい、見慣れない人物だと思って駆逐艦がメンチ切っても爽やかに微笑み返しできるイケメン特有の余裕もある

 

「それで?アレですかね?わざわざ来られたのは辞令の件で?」

 

「まぁ、それが半分ですね」

 

「もう半分は?」

 

「それはちょっと…」

 

「あぁ、差し支えあるならお聞きしません、なんと言っても特務殿ですしな」

 

「ハハハ…」

 

一口に特務と言っても色々あり、所属している派閥や関連している人物で内情も毛色も大きく異なる、噂やゴシップの範囲だが深海棲艦を人為的に造りだしてるところや人道倫理一切無視の人体実験に精を出してる悪魔の研究機関も秘密裏に存在する、ゴールデンタイムのミステリー特番でよく見る話だ

 

天海中佐の第五特務はどちらかと言えばハト派、情報調査が強い部署らしく、暗諜の面もある

 

「で、まずはその辞令の件ですが…」

 

「はぁ?まぁ行けと言われたら行かざるを得ないかと…」

 

「断りませんか?」

 

「………は?」

 

ナニ言ってんだコイツ?

 

「この人事には高度な政治的事情がありましてね、出来れば断って頂けると助かる人も居るもので」

 

「ちょっと待て、なんでたかが窓際一人の異動に高度な政治的事情が絡むんだよ?」

 

いかん、素が出た…まぁいいか、階級的に一応、俺の方が上だし

 

「まぁ、知っての通り上層部は常に陣取り合戦で忙しいものですから」

 

「…煙草いいか?」

 

「どうぞ」

 

胸ポケットから取り出した煙草に火を点けて肺に紫煙を吸い込む

 

「フーッ~…それで?俺がその特務に異動になると誰かの白い駒が黒に裏返るのか?」

 

「まぁ、平たく言ってしまえばそうなります」

 

「なるほどなぁ~」

 

「お願いできませんかね?」

 

「これ、断ったらどうなるんだ?」

 

「そうですねぇ」

 

天海中佐は参ったなぁといった感じで手を後ろ頭を掻いてみる、とりあえずいきなり懐の拳銃が火を噴くってのは無いらしい

 

「ヒットマンでも来るんじゃないですか?」

 

「爽やかに穏やかじゃないコトゆーな!なんだよヒットマンって!?」

 

「誰かの子飼いの関連会社の下請けのさらに関連の取引先の孫請けの構成員じゃないですかね?」

 

「ヤ●ザかよ!?」

 

「まぁ、異動が決まった後日にイ●ンモールとかに買い物に行ったらファンシーショップでヌイグルミ見てると射殺の可能性はありますね」

 

「そこまで把握してんならなんとかしろよ第五特務ッ!?」

 

「ハハハ…無理ですよ、出来れば死んで貰った方がこっちは楽ですし」

 

この野郎、笑顔でなんて事言いやがる…ッ!

 

「フーッ~…天海中佐よォ、悪いがこっちも面子ってのがあるんだ、正式な辞令を蹴るってのは大将殿の顔を潰しちまう、俺が泥食うのは構わねぇが、この件に色々と便宜を図ってる大将殿にまで泥かけるワケにはいかねぇ」

 

「なるほど…」

 

「俺は異動しない、大将殿に現状からの迷惑がかからない、そんなウルトラCがあるならその話は呑んでも構わない」

 

「ふむ…」

 

「あと、出来れば昇進はしたい!」

 

「強欲ですか、貴方は」

 

天海中佐はわかりました、考えてみますと言って執務室を後にした

 

◇◇◇

 

部署に定時連絡を入れ、電話機を胸元に仕舞う

 

「ふぅ」

 

彼の異動で利する者、害ある者、様々な思惑が入り交じっているようだ

 

「さて、どうしたものですかね」

 

上が意図的にゴタゴタしている為、正式な辞令が降りるにはあと五日はある…

 

そもそも、この辞令自体が撒き餌のような物で上ではそれを含めた高度な交渉が静かな牽制と共に行われている

 

おそらく辞令は取り下げられるだろう…

個人的にはこのまま座して状況を待ちたいところだが、急先鋒は“事故”を望んでいる

 

「あまり気は進みませんけどね」

 

あちらを立てればこちらが立たないでは困る、彼には少々イヤな顔されるかもしれませんが、こっちも仕事があり、面子がある

 

◆◆◆

 

明石の店で煙草と缶コーヒーを買い、廊下を歩いていると相変わらずキモい生物を抱えたチビスケが掲示板の前で立っていた

 

「よぉチビスケェ…」

 

「…チビスケゆーな、山風」

 

「掲示板になんかあるのか?」

 

そういや今度プロレスがどうのこうの熊野のバカが言ってた気がするが…

 

「…今度、日曜日に、授業があるって」

 

「ふ~ん、脱ゆとりってヤツか?」

 

「…知らない、なんかペットボトルでミサイル作るとか、なんとか…」

 

ペットボトルロケットって聞いた事はあるが、そうか…ペットボトルでミサイル作れるのか

 

「暇だし見に行ってみるか」

 

「…ホント?」

 

「男の子はロケットとかミサイルが好きだしな」

 

たまには香取先生の熱血指導を授業参観するのも悪くない

 

「…ちゃんと見に来てね」




次回は後編

裏切りの銃口が火を噴くですって!

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