【登場人物】
山風(4)
改白露型の緑のやつ、台車の扱いが上手い
明石(6)
野望の工作艦、夕張といい、この基地に居る個体は何かがおかしい
寒い寒いとは言いながらも煙草は吸わねばならないスモーカー、自販機で缶コーヒーを買い、喫煙所で煙草を吸っていると、段ボール箱を台車に載せた山風が廊下を歩いていた
「よぉ、なにやってんだオマエ?」
「…あ、提督」
「なんだその箱?」
「…明石さん、のお店の商品…だって、倉庫に取り行くアルバイトしてる、1回500円」
あの野郎、安価で済むガキの小遣いで経費削減か…まぁ誰が損するワケでもないし、目は瞑ってやるか
ガタ…ガタ…
「ん?」
「…なに?」
「なんかその箱、今、なんか動かなかった?」
「…動いてる、運んでる時も、たまに、変な声もする」
怪しさ満点の謎の段ボール、明石のヤツ、まさか変なクリーチャーでも取り扱ってるんじゃないだろうな
「ちょっと開けてみるか」
「え゛?…でも、明石さん、から決して…誰にも触らせたらダメって…特に、提督には…」
「構わん、提督権限だ」
あの野郎、怪し過ぎだろ…特に俺には見られてはマズいとか完全に黒じゃねーか
俺は段ボール箱に貼られたガムテープを剥がし、中身を確認すると…
『ニ゛ャー』
「…」
「…なにコレ?」
山風は段ボール箱の中身、オシャレなケージに入った毛の無い猫のようなものが入ったケージを持ち上げてみせる
「キモいな」
「…猫?」
「猫だな、たしか毛のない猫とかいう珍種だ」
「…ふ~ん」
なんだったっけかな?たしかスフィンクスとかそんな名前の珍種だったような…っーか大丈夫かコレ?ワシントン条約とかに引っかかる感じの生物じゃねぇだろうな?
「しかし実物は初めて見たが……キモいな」
「…そう?」
山風は珍しそうに珍種猫に興味を示している、まぁ、猫と言われても近所の野良猫とは品種どころか違う生命体にも見えるしな
「しかし明石の野郎、アイドルグッズどころかペット・ショップまで始めやがったのか…」
「…明石さん、のお店、ペット売ってるの?」
「知らん、まぁ本人問いただせばいいだけの話だ」
◆◆◆
「ありがとうございましたー」
ちょっとお高い熱帯魚の餌が入ったビニール袋を手に、古鷹さんがご機嫌な様子で店を後にする
最近手を出したペット販売の効果はなかなか上々だ、ペットとは一度飼い始めるとその世話をする為に何度となくペット専用の商品を買い求めに来る魔性の存在、そして、ちょっと専門的な知識を囁けば普段は固く閉ざされている財布も可愛いペットの為ならば仕方ないかとどいつもこいつも財布の紐を緩める
特に、他人とは違うちょっとお高いブランドペットを買った人間はなおさらッ!ペットへかけた金額の高さこそが同じブランドペット仲間達に対するステイタスになるッ!
「フフフ…」
バカの一つ覚えみたいに真面目に商売する余所の明石チェーンとこの明石は違う!フフフ…笑いが止まらんわい!ゆくゆくはワシントン条約に引っかかる希少種・珍種も取扱い、この明石こそが全国の明石チェーンの全てを掌握し、この国の流通を支配する帝王になる日は近いッ!!
「ハハハ…ハァーッハッッハッハ!」
そういやおつかいに出した山風ちゃん帰って来ないな…どこで道草食ってんだろ?
ガラッ!!
「…ただいま」
「あ、山風ちゃん遅いよぉ~、オネーサン心配しちゃったじゃな~い?外寒かったでしょ?あったかいミルクココア飲む?」
私は大事な商品をちゃんと持って来てくれた山風ちゃんに笑顔で保温器に入れてあったミルクココアの缶を差し出し…
「あぁ、飲むぜ、ただし…明石、お前が、上の口からだがな」
ゴゴゴゴゴゴゴ!!
「ゲェーッ!!お、おまっ!!」
提督はアツアツに加熱されたミルクココアのプルトップをスタイリッシュに開け、そのまま中身を私の口に流し込んだ
「お゛ぶっ!?あば!あづ!あばばばばばばっ!アバァー!!」
「オイオイオイ、吐くんじゃねぇよ、全部飲むんだよォ!オラァ!」
「げほっ……ぶほっ!!な…なんでテイトクがッ!?」
「あ?煙草吸ってたら途中でコイツに会ってな、あまりにも怪しいんで中身を改めさせて貰った」
「…ごめんなさい」
クッ!!なんてツイてない!いや、やはり安い金で雇ったキッズではこんなものか!
「で?なんだこのキモい猫は?売り物か?」
「売り物ですけどぉ?」
別に法には触れていない、ここは正直に話すのがベスト!最良の選択!
「基地内で動物販売してんじゃねーよ、っーかペット売る資格持ってんのかテメー?」
「え?動物売るのに資格いるんですか?」
「いるよ、国家資格じゃねーけどな」
…ヤバい、持ってない
私の頰に冷たい汗が伝う、それ見た提督はポケットから携帯電話を取り出した
「もしもし?ケイサツですか?」
「ちょ!ちょ!待って!待ってください!ケイサツやめて!ケイサツ!」
「うるせぇなこの違法ブリーダーが、ちょっと檻の中で反省してこいよ、っーか他になんかあるなら全部喋ってキレーな身体になって来い」
「スイマセン!出来心なんですぅ!今は反省してますぅ!!」ポロポロ
クッ!!まさか資格が必要だったとは!なんと言う失態!失念!致命的ッ!致命的ミス!
「…これ売り物じゃないんだ」
山風ちゃんはケージに入ったスフィンクスを見ながら溜め息をついている、もしかして欲しかったかな?
「明石、販売はダメだが個人的な譲渡ならいいじゃあないか?」
「譲渡ですか…?ハッ!?」
コイツ!!なんてコトを考えやがる!?この男、今までの件については問わない、だからこのスフィンクスを無料で!無償で!タダで引き渡せと言っているッ!なんて悪魔的ッ!まさに悪魔の発想ッ!
「でもそれ……ケッコーな仕入れ価格が」
「あ、もしもし?ケイサツですか?」
「わかった!!わかりましたよ!!あげますよそれェ!!」
やられたッ!!クソッ!クソッ!クソッたれェェェ!!
「山風」
「…なに?」
「明石がそいつオマエにやるってよ」
「…ホント!?いいの?」
「………遠慮なくどーぞ」
「…やった」
…クッ、私のスフィンクスが!販売価格55万が!
「良かったなぁ、ちゃんと世話するんだぞ」
「…うん」ニコッ