【完結】*君がいるから*   作:ラジラルク

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Epilogue.次の未来へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなー、今日はありがとう! この後もまだまだ続くから、ロックに盛り上げてねー!」

 

 

 

 

 そう言って二万人のお客さんたちが振るペンライトに応えるように、私は何度も何度も観客席に手を振ってステージを後にした。

 完全に舞台袖へと隠れた私を出迎えてくれたのはみくだった。私たちは何も言わずに見つめ合ったまま、お互いにただただ立ち尽くす。背中から聞こえてくる観客席からの声が次第に小さいくなり、完全に聞こえなくなってしまった。真っ暗な舞台袖で、ただただ静かに見つめ合う私たち。

 私の間にはどれくらいの時間が流れたのだろうか。とても長い時間のようにも感じれば、ほんの数秒の時間にも思える。

 

 

 

 

「みくっ!」

 

「李衣菜ちゃん!」

 

 

 

 

 そして私たち二人は全く同じタイミングで目の前にいる大切なパートナーの名を叫ぶと、そのまま力強く抱き締め合った。気が付けば私の瞳からは涙が零れていた。懐かしいからか、それとも嬉しいからか、理由は分からないが何故だが次から次へと瞳から溢れ出る涙が止まらないのだ。それはみくも同じだったようで、私を抱き締める手がほんの少しだけ強まったと思うと、私の肩に当たったみくの頬から何やら温かい滴のような感触が伝わって来た。

 

 私たちは何も言わないまま、そうやって泣きながら抱き締め合っていた。アスタリスクが解散してからの半年間で私はまだまだみくに伝えきれていないことが沢山あった。本当はもっともっとみくに感謝しているのに、何度でも「ありがとう」と伝えたいのに、私は何も口にできずににただただ泣くことしかできなかった。

 でも私たちはこれで良いのかもしれない。例えちゃんとした言葉にして伝えなくても、こうやっているだけでみくには私の想いが伝わっているような気がするのだ。きっとそれはみくも同じで、こうやって何も言わずにただみくを抱き締めているだけで何となくではあるがみくの想いが分かるような気がする。

 

 

 

 

 

――きっと私と同じことを想ってるんだろうな。

 

 

 

 

 そうやって私たちは、暗い舞台袖で暫く何も言わずにただただ泣きながらお互いを抱き締め合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――Epilogue.次の未来へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからすぐに卯月ちゃんの感動的なステージがあって、舞台女優に転向し益々パワフルになった未央ちゃんの元気な歌声が響くステージがあって、そうやって続く元シンデレラたちの舞台を私たちはずっと手を繋いだまま見守っていた。

 

 

 

 

 

「さっきの“Twilight Sky”だっけ? 凄く良かったよ。しかもギター弾けるようになってたんだね」

 

「あー、うん。まだ基礎的なことしか出来ないけどね。Twilight Skyでどうしてもギターを使いたかったから二週間だけ練習してたんだ。なつきちに教えてもらって」

 

「ギター弾ける李衣菜ちゃんなんて、全然にわかロックじゃない……」

 

「いや、もともと私はにわかじゃないし」

 

 

 

 

 そんな風に私たちは手を繋いだまま他愛もない会話をしていた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、李衣菜ちゃん。これから何がしたい?」

 

 

 

 

 みくが私にそう問いかけたのは、私たちシンデレラプロジェクトの最後を飾る凛ちゃんがステージに現れた時だった。今はソロとして活動している凛ちゃんはシンデレラプロジェクト初期の頃とはまるで別人のように自身の才能を開花させ、今は“大ブレイク中の歌姫”と呼ばれトップアイドルの一人に名を連ねている。今年から始まった単独での全国ツアーも各会場を満員に埋め尽くし、音楽番組は勿論ラジオやCM、雑誌などでほぼ毎日何かしらのメディアで凛ちゃんを見ているような気がするほどに、今は売れっ子アイドルとして各方面に引っ張りだこになっているのだ。なかなか多忙な毎日を送っているらしいが、それでも凛ちゃんは「やっと見つけた夢中になれることだから、キツイけど楽しいよ」とほんの少しだけ柔らかくなった表情で私に話してくれた。

 

 隣に立つみくは私ではなく、キラキラと光るステージだけを真っすぐに見つめている。私もみくの視線の先の凛ちゃんへと視線を戻した。

 

 

 

 

「う~ん、特にはないかも」

 

 

 

 

 自分に向き合えるようになってTwilight Skyを完成させて、私はようやく一人のアイドルとしてスタート地点に立てた気がする。だからこれから何がしたいとか、どうなりたいっていう具体的な目標はまだ決まっていなかったのだ。

 そういうみくは? と私は聞き返してみる。みくは暫く無言のまま凛ちゃんのステージを見つめ、満面の笑みで私の方へと顔を向けた。

 

 

 

 

「私は、また李衣菜ちゃんと一緒にお仕事がしたいな」

 

「みく……」

 

 

 

 

 その前にまずは声優としてデビューを決めなくちゃいけないんだけどね、なんて言いながら苦笑いをするみく。そんな姿を見て、やっぱりみくは凄いな、なんて思ってしまう。今復活ライブで自分のステージが終わったのに、もう次の目標まで立てているんだから。

 こういう常に前を向き続ける姿勢がホントにみくらしくて、思わず私は笑ってしまった。

 

 

 

 

「そうだね、絶対いつかまた一緒に仕事しようよ。みくなら絶対すぐにデビューも決まるって」

 

「うんっ! 二人で越えて見せようね。会社のしがらみとか、アイドルと声優という壁とか、そういうの全部乗り越えてさ!」

 

 

 

 

 それは私が久しぶりに感じた、今でも忘れそうになっていたあの頃の感覚だった。

 みくと一緒ならば私は何処へだって飛んでいける気がする――……。それはあの頃にずっと私たち二人が持っていた根拠も何もないけどそう信じて止まない不思議な自信だ。

 例えどんなに難しいことだって、今の私たちなら越えていける。そんな懐かしい気持ちに私は浸っていた。

 

 

 

 

「私ね、ずっとみくに言いたいことがあったんだ」

 

 

 

 

 武内プロデューサーの送別会があったあの日、私は最後までみくに伝えることができず、ようやく決意を決めて始発電車に乗って女子寮に向かった時にはもうみくはいなかった。

 

 

――私は私で頑張るから。だからみくも頑張って。

 

 なんでたったこれだけの台詞があの時言えなかったのだろう。あの時ちゃんと言えば私たちの距離は開かなかったかもしれないのに。

 私はこの半年間、そう思うとずっと後悔し続けていた。何処で何をしているのか分からないみくの姿がずっと脳裏から離れなかったのだ。

 

 でもこうしてみくと再会して話して変わったみくも変わらなかったみくも改めて見ることが出来て、今の私はあの頃とは違う言葉を伝えたいと思う。

 

 

 

 

「私も頑張るからさ、みくも頑張って。これからも一緒に頑張ろうよ」

 

 

 

 

 例え私たちがそれぞれ違う道に進むことになったとしても、アスタリスクが解散したとしても、私はみくと一緒に頑張っていきたい。

 

 

 私はいつも頑張ってるみくを想ってるよ。

 そしてそんなみくに負けないように私も頑張るから、これからは違う道を歩むことになったとしてもお互い高め合って頑張ろうよ。

 

 

 

 私の心の声が聞こえたのか、私の言葉の真意に気付いたのか、みくは笑顔で私を観ると何度も何度も力強く頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 凛ちゃんの舞台が終わり、私たち十四人の元シンデレラたちは最後に並んでステージに立つことができた。

 アイドルに舞台女優、OLと一児の母、ファッションモデルに女子アナ、そして声優。みんなで同じ夢に向かって頑張っていたあの頃とは違い、選んだ道も今目指している夢もバラバラになってしまった十四人の元シンデレラたち。もうこれから私たちはあの頃のように皆で同じ夢に向かって走ることは二度とない。そして私だけではなく他の十三人も薄々勘付いていたのだろう、これがシンデレラプロジェクトの十四人全員が揃ってステージに立つ最後の機会だと言うことに。

 

 ステージに並んでバラバラの衣装で肩を組んで『Star!!』を歌う十四人の元シンデレラたちには様々な感情が入り混じっていた。寂しいような、だけど新たな旅立ちにワクワクするような、言葉では言い表せない様々な想いがステージ上で交錯する。

 気が付けば私たちは皆泣いていた。何の準備もしていなかったからアカペラで歌うことになった私たちの『Star!!』は皆の鼻声交じりな声のせいか、今まで何度も歌ってきた『Star!!』の中で一番下手くそで聴くに堪えない曲になってしまっていたかもしれない。だけど今までのどの『Star!!』よりも皆の想いが詰まっていた。

 

 

 二度と同じ夢に向かって走ることのない私たちは、明日からまた皆バラバラの道で生きていくことになる。

 だけど例えシンデレラプロジェクトが解散してしまったとしても、私たちの中に芽生えた絆は消えることは絶対にないのだと、鼻声まりで『Star!!』を歌う皆を見渡して私はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 いつかみくと一緒にまた仕事をすること、もっともっと私が憧れるロックなアイドルに近付くこと、そして私がアイドル活動を通して何をしたいのかを見つける事……。

 私の夢はこれからもまだまだ続いていく。その過程で何度も壁にぶつかって苦悩することもあるだろう。だけど私たちなら大丈夫――……。

 

 

 

 ふと、そのタイミングで私は隣で肩を組んで一緒に『Star!!』を歌っていたみくと目が合った。

 

 

 

 私たちはお互い涙でぐしゃぐしゃになった顔を見て笑った。そして同じ言葉をお互い相手に伝えるようにして口にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“君がいるから!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 復活ライブから二週間弱が経過し、美波ちゃんが計画した復活ライブの打ち上げの前日。私は東京のとあるホテルの前に立っていた。

 思わず首が痛くなってしまうほど空に向かって伸びた豪奢なホテル。今までまるでこんなホテルとは無縁の人生を送っていた私は、その存在感に思わず後ずさりしてしまいそうになってしまっていた。

 私が何故こんな豪奢なビルにやって来たのか。キッカケは昨日の夜に私のスマートフォンにかかってきた一本の電話だった。

 

 

 

 

「後川さん、急な話だけど明日の昼十四時に○○ホテルに来てくれない? 大事な話があるの」

 

 

 

 

 私に電話をかけてきたのは養成所の先生だった。ただそうとだけ言われ、半ば強引に行くことを約束させられると詳しい話は何もされずに電話はすぐに切られてしまった。

 何故養成所ではなくホテルなのか、大事な話と何なのか、分からないことだらけの私だったが、とりあえずスマートフォンのマップ機能を頼りに電話で言われた場所にやって来たのだ。

 

 

 何度見ても何かの間違いではないかと疑ってしまうほどのビルの前で私は唖然としたまま立ち尽くしていたが、約束の十四時になったため、私は一度だけ緊張を解すように息を飲むと重い足取りでホテルのエントランスへと向かった。

 エントランスの前に居たドアマンがさりげなくドアを開けてくれて、私はホテルの中に入った。思わず履いているスニーカーが沈んでしまいそうな錯覚に陥るほどの柔らかな赤い絨毯、ガラス張りの窓から見える中庭はまるで模型ではないかと疑ってしまうほど綺麗に作り込まれている。

 思わず呆然と足を止めて立ち尽くしていた私のポケットが揺れた。スマートフォンの画面には養成所の先生の名前が表示されている。

 

 

 

 

「後川さん、右よ右」

 

 

 

 

 電話越しの先生の声を聴いて私はすぐさま右を向いた。少し離れたラウンジでスマートフォンを耳に当てながら私に向かって手を振っている人影が見える。私に向かって手を振る先生の隣には誰かがいるようで、男性のスーツの後姿が見えた。

 とりあえず電話を切って、ぎこちない機械のように足を動かす。そして先生たちの居るラウンジに辿り着いた時、思わず口を両手で覆い無言の悲鳴を上げてしまった。

 

 

 

 

「そんなに怯えなくてもいいだろう……」

 

 

 

 

 少しだけ不貞腐れたようなスーツ姿の男性。その隣に座る先生は私たちを見て笑っている。

 

 

 

 

「まぁまぁ、後川さん、座ってちょうだい。この人が貴女に話があるらしいの」

 

「は、はい……」

 

 

 

 

 先生の声で私は固まった身体を動かし、二人に向かい合うようにしてソファに腰を下ろす。そんな私を真っすぐに射抜くような瞳で見つめるスーツの男性。

 その男性は私が最後に受けたオーディションの監督だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 改めて受け取った名刺と監督の表情を何度も交互に伺う。監督の相変わらずな威圧的な雰囲気のせいで、ふかふかのソファに腰を下ろした私の身体はとてもじゃないがソファの座り心地を味合う余裕など持ち合わせていなかった。

 不自然に背筋を伸ばす私。そんな私を呆れたように監督は黙って見つめている。

 

 

 

 

「それで、お話って……」

 

 

 

 

 恐る恐る、震える口調で私は聞いてみた。

 監督は私の言葉を待ってたと言わんばかりに、鞄から一枚の紙を取り出す。それを一度だけ自身の眼で流し読みするかのようにして眺めると、ゆっくりと私の前に差し出した。

 

 

 

 

「遅くなりましたが先日のオーディションの選考結果です」

 

「え……?」

 

 

 

 

 監督の言葉に心臓が止まりそうになってしまった。ゆっくりと私の前に差し出された紙に視線を落とすとそこには少し大きな文字で『採用通知』と書かれている。何度も何度も瞬きをして、目を擦って、でも私の瞳に映る文字は全く変わっていなかった。

 それは私が喉から手が出るほど求めていた採用通知だったのだ。鼻がつーんとすると同時に目頭が熱くなる。今でも信じられない現実に、私は思わず両手で口元を抑えてしまった。

 

 

 

 

「是非よろしくお願いします、後川未来さん。いや……、前川みくさん」

 

「ど、どうしてその事を……」

 

 

 

 

 思わず私は監督の隣に座る先生を見る。先生は穏やかな表情で私を見つめていた。

 

 

 

 

「それでは本題に入りましょうか」

 

 

 

 

 先生の言葉に監督は静かに頷いた。

 それから監督は私にオーディションから今日までに何があったのかを教えてくれた。監督の話では、オーディションが終わった時点で満場一致で私の採用が決まっていたが、私にはすぐに連絡せずに色々と審議する必要があったらしい。

 

 「オーディション時の君の演技は素晴らしかった。だけど、君はまだ若い。若い子に有りがちなムラを私たちは気にしていたんだ」

 

 監督はそう言うと私が初めて監督に会って怒られて帰らせられた日のことを話してくれた。あの時の演技をしたのも私、そしてオーディションの時の演技をしたのも私なのだと。ようするにどっちが本当の私なのか分からず、私の本当の実力というものをあのオーディションだけでは見抜けなかったということだったのだ。

 毎週決まった日にちにオンエアがあるテレビ放送のアニメでは収録の待ったが効かず、先週は良かったけど今週はダメ――……、なんてことは許されない。どんなことがあっても毎回自分の実力を発揮し、最大限の演技をすること、これは声優において最も必要な能力だと言っても過言ではないほど大切なことなのだ。ただ若い声優になると経験がどうしても足りず、自分の持っている能力がその日の気分や体調で上手く発揮できないことがよくあるらしい。

 案の定私も全くの無名声優だった。だからこそ、いきなりアニメの主役に抜擢するにはあまりにもリスクが大きすぎたのだ。

 

 

 それから監督は何度も何度も審議を重ね、私の通う養成所に連絡を入れることにした。そこである程度事情を察した先生が全て話し、監督は私が本当はシンデレラプロジェクトの前川みくであり、オーディションの二週間後にシンデレラプロジェクトの復活ライブに出ることを初めて聞いたらしい。

 その話を聞いて監督は復活ライブでの私のパフォーマンスを見て、正式に採用するかどうかを決めることにしたのだ。

 

 

 

 

「二万人の前で歌うことに比べたらアニメの収録なんか簡単だろう」

 

「ま、まぁ確かに……」

 

 

 

 

 急遽関係者席を確保してもらい、監督は私の復活ライブでのパフォーマンスを見に来ることとなった。そしてシンデレラプロジェクトの復活ライブを見た結果、監督は私を認め正式に冬から始まるアニメの主役として抜擢することを決めてくれたのだ。

 

 

 

 

「あと、前川さんには主題歌も担当してもらおうと思っています」

 

「え、わ、私が歌っていいんですか!?」

 

「復活ライブであれだけの歌を歌えたんだから大丈夫よ」

 

 

 

 

 驚きのあまり声が裏返ってしまった私。先生はそんな私を見て笑いながら優しくそう付け加えてくれた。

 あの時、逃げ出さずに勇気を持ってシンデレラプロジェクトの復活ライブに参加して良かった。夢を諦めずに走り続けて本当に良かった。結果的に逃げずに立ち向かったあのシンデレラプロジェクトの復活ライブが私の運命を大きく左右したのだ。

 

 

――あぁ、ようやく私は声優としてデビューできるのか。

 

 

 何度何度も諦めようと思って、その度に色んな人から激励してもらって、ようやく私はデビューを掴み取ることができた。胸の奥から何か熱いものが込み上げてきて、私を支えてくれた沢山の人の顔が脳裏に浮かんだ。私に声優の世界を教えてくれて挑戦するチャンスを与えてくれた武内プロデューサー、弱気になる度に私を励まして時にはキツイ言葉もかけてくれた菜々ちゃん、我が儘で頑固な娘の挑戦を認めて応援してくれたお母さんに私の事を応援してくれる地元の同級生たち、養成所の先生、そしていつも私の少し先を歩く李衣菜ちゃん――……。

 独りでは絶対に挫けていた。沢山の人の支えがあったからこそ、私はこうしてようやく夢を叶えることができたのだ。

 

 

 

 

「ホントにオーディションでの君の演技は素晴らしかった。よく頑張ったな」

 

 

 

 

 今までの姿からは想像が出来ないような優しい声で監督は笑うと、私に右手を差し伸べてくれた。その手を握った私は、遂に堪えきれずに涙を流してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1年後、東京某所。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまーって、千早ちゃん! 今日はもう帰ってきてたんだね」

 

 

 

 

 古びたビルのドアの鈍い音を鳴らしながら事務所へと入って来た天海春香。すぐにソファに座って小さなテレビをジッと見ていた如月千早を見つけると駆け寄っていく。

 

 

 

 

「今日は萩原さんと一緒に受けた夕方の取材で最後だったから」

 

「春香ちゃん、おかえりなさい。良かったら春香ちゃんもお茶飲みませんか?」

 

「あ、飲む飲む。いつもありがとー」

 

 

 

 

 天海春香は鞄を如月千早が座っているソファの横に置くと、ほんの少しだけ背伸びをして壁に掛けられた予定がギッシリと書かれているホワイトボードを確認する。ホワイトボードの如月千早の行には小さな文字で「月間ミュージック取材」とだけ書かれいた。

 そのタイミングでトレイに湯呑を三つ並べた萩原雪歩がやって来て、三人は並ぶようにソファに腰を下ろした。

 

 

 

 

「あ、この子たちって……」

 

 

 

 

 何気なく見ていたテレビに見覚えのある姿が映り、天海春香は独り事のように呟くと思わず隣に座る如月千早へと視線を向けた。その視線に気が付いたのか、如月千早は天海春香を見て静かに笑う。

 

 

 

 

「この子ですか? 千早ちゃんが言ってたシンデレラプロジェクトの子って」

 

「そう。前に話した多田さんよ」

 

「最近は結構テレビで見かけるよね」

 

 

 

 

 そんな感じの他愛もない会話をしながら三人は並んで小さなブラウン管のテレビを見つめていた。暫くして萩原雪歩が何かを思い出したかのように手を叩く。そして首を傾げると覗き込むようにして問いかけた。

 

 

 

 

「そう言えばずっと思ってたんですけど、千早ちゃんがこうして他社のアイドルの子を気にかけるって珍しいですよね」

 

「確かにー。千早ちゃん、この多田さんって子と何かあったの?」

 

 

 

 

 萩原雪歩に続き、天海春香も如月千早の顔を覗き込む。

 両脇の二人に覗き込まれるような形になって、思わず如月千早は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

「そうね、何かあったってわけではないけど……。多田さんが昔の私と少し似てたのよ」

 

「えっ、多田さんと千早ちゃんが?」

 

「あんまりそんな感じはしませんけど……」

 

 

 

 

 よく分からない、といった様子で首を傾げる二人はテレビに映る多田李衣菜の姿とその多田李衣菜の映像を見つめる如月千早を交互に見つめている。

 そんな二人の視線を気にもせずに、如月千早はテレビの中の多田李衣菜を見ていた。テレビの中の多田李衣菜は輝かしいまでの笑顔を浮かべ、迷いのない瞳でハキハキとインタビュアーの質問に答えている。

 

 

 

 

(ホントに最初に会った頃に比べたら見間違えるくらい良い表情になったじゃない)

 

 

 

 

 心の中でそう呟くと静かにほほ笑む。三人しかいない小さな事務所にはブラウン管から聞こえる音だけが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“待望の人気コミック、遂にアニメ化! 今日は放送直前スペシャルというわけで主役の声優を務める今大ブレイク中の期待の新人声優、前川みくさんと主題歌を担当するロックシンガーこと多田李衣菜さんのお二人にスタジオに来てもらっています!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






くぅ~闇飲まw

これにて完結です!


前作から引き続き読んでくださっていた方、今作から読み始め前作も読んでくださった方、沢山の人に読んでもらえて本当に感謝しています。

一応あとがきもいつか書くつもりです。そのあとがきに前回同様、作中では説明不足だった場面の解説などをやっていけたらと思います。

読んでくださった皆さんのおかげで無事完結まで走ることができました。
二ヶ月という僅かな時間ではありましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました!  
誤字脱字なども多く拙い文章の作品ではあったかと思いますが、少しでも皆さんの記憶の中に残る作品になれたのであれば光栄です。


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