伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

65 / 80
第六十話 老いと義理

 さて、リュウラセンの塔、道路を越えて二人はソウリュウシティに到着した。

 その塔で、エリカはテッシードをナットレイに進化させることに成功する。

 当人は最初驚いてはいたが、やはり馴染みなので捨てる真似はしなかった。

 

―ソウリュウシティ

 

 古来からの歴史と伝統を守る由緒正しき町。

 過去と未来が絡む町として高名だが、未来に関する事物はどうやら別世界にあるようだ。

 内国のドラゴン使いが集まる街がフスベならば、ソウリュウはそのイッシュ版に相当するといえよう。ここは、イッシュにおけるドラゴン使いの地位を確立させたシャガの住まう街である。

 さて、そのジムリーダーのシャガはこの街の名士で、且つ市長だ。市政に携わる一方で世界で一二を争う実力を持つとも巷で囁かれるジムリーダーでもある。

 

―5月2日 午前11時 ソウリュウシティ―

 

 ゲートをくぐり、ソウリュウの街並みが目の前に広がるとエリカはほうと感嘆の息を吐く。

 

「まあなんと宜しい街なのでしょう……。エンジュとはまた違う枯淡(こたん)の美を彷彿とさせる所ですわねぇ」

 

 レッドにとってはあまりにも高尚に過ぎる世界なので、彼は適当に流しながら言う。

 

「あー確かに落ち着くところだな……。さてと、いよいよか」

「ええ、本当の正念場……。心して行きましょう」

 

 という訳で二人はポケモンセンターで回復させた後、いよいよジムに向かう。

 

―ソウリュウジム―

 

 中はとても荘重な雰囲気が漂う内装なジムだ。

 恐らく、天井まではもの凄く高いんだろうなあ……等とレッドが思っているとガイドーが話しかけてくる。

 

「やーやーお二人さん! ようこそ、ソウリュウシティジムへ! イッシュ最強とも目されるお方に挑戦に来たお二人に、おいしい水っす!」

 

 ガイドーはさも当然のようにおいしいみずを二人に手渡す。

 

「随分何というか……、力入ってそうなジムですね」

 

 レッドが感想を漏らす。

 

「そっすね。ここはシャガさんが、自らがドラゴン使いである事を誇示せんが為か否か……、この大きな龍の石像に乗って挑戦者はどんどん上に行くんっす!」

「え!?」

 

 相変わらず無茶苦茶なシステムだな……とレッドは思った。

 

「驚くなんて今更っすよー。それで、この石像で上に上がっていき、トレーナーを破り続けて、最後にシャガさんが相手するという仕組みというわけっすねー」

 

 絶対死人出るだろ等とレッドは思ったが、そんな事言っていても始まらない為二人は振り落とされる危機に恐れながら上がる。そして、シャガと対峙するのだった。

 

―最上階―

 

 到着すると、シャガは老人とは思えない程のがっしりとした恰幅の良い男性で、レッドはまずそれに驚く。

 ヤナギはそれこそ柳のようにほっそりとした体形だっただけに尚更である。

 さて、そうこうしていると、シャガが重々しい声調で出迎える。

 

「よくぞ参られた。私がソウリュウポケモンジム、ジムリーダーのシャガである」

 

 その一言で、レッドは他とは違う何かを感じ取った。

 それはヤナギと対峙した時と似てはいるが、どこか丁寧さ等が残っている、そのような感触である。

 

「市長として、街の為に尽力し、トレーナーとしてただ強さを追い求めるうちに、いつの間にやら蒼龍、龍帝……、色々なあだ名がついてしまったが、心だけはさほど変わっておらぬつもりだ」

 

 シャガはヤナギとは違ってそこまで畏怖や力強さなどは感じない。しかし、その代りに純粋であるが故の正当な恐怖をレッドは感じていた。

 なるほど、ヤナギと並ぶのも分かる気がするなどとレッドは思う。

 

「さて、君たちがイッシュに来ると聞いて以来、いつも以上に修行に明け暮れたが……、それに値するほどのトレーナーかどうか試させて頂こう。アイリスや二年前のかのトレーナーの如く、篤い心を持ったトレーナーであってくれ……!」

 

 するとシャガはクリムガンとチルタリスを繰り出した。それに対しレッドはカメックス、エリカはユキノオーを繰り出す。

 当然、フィールドには霰が降り注ぐ。

 

「カメックス! 吹雪!」

 

 指示が下るとカメックスは砲塔より大量の雪を噴出させる。

 チルタリスは一撃で倒れる。が、クリムガンは何とか耐えきった。

 

「クリムガン。ユキノオーにドラゴンテール」

 

 シャガがそう静かに指示する。すると、ユキノオーはクリムガンの太い尻尾によって弾き飛ばされ、ボールに戻る。

 

「も、戻ってしまいました……。止むをえませんわ、おいでなさい、ダーテング!」

「行け、サザンドラ」

 

 シャガは三つ首の怪獣の如きポケモンを出す。

 サザンドラは出ると、雄たけびをあげて周囲を威嚇する。

 

「強そう……、でもだからといって怖気づいたりはしない! カメックス! 吹雪だ」

「サザンドラ、ダーテングに大文字」

 

 サザンドラの放った大文字はダーテングに直撃し、真っ赤な火だるまとなって一撃で倒れる。

 そして、二回目の吹雪が二匹に襲いかかり、クリムガンは倒れ、サザンドラはなんとか生き残る。

 

「……、やはり、一筋縄ではいきそうにないな」

「ええ、左様な様子で……」

 

 二人は確信めいた視線をシャガに向ける。

 

「聞いた通りな実力はありそうだ……。確かに、この二人の前では本腰入れねば……危うい」

 

 シャガのその口調はどこかまだ余裕が残っている風である。

 

「宜しい、ならばこれを御覧に入れよう。行け、オノノクス」

 

 シャガはそう言うと、背が高く、如何にも龍である事を物語っているポケモンを出した。オノノクスも同じく雄たけびを上げ、強さを誇示する。

 

「御覧に入れる……? どういう事でしょう」

 

 エリカが疑問に思っていると、シャガは次にこの一言を放つ。

 

「オノノクス、サザンドラ。双龍の誓いだ」

 

 指示が下ると、二匹の龍は地鳴らさんがばかりの咆哮を上げ、サザンドラからは青色の、オノノクスからは赤色の波導が発生する。そして、二つの波動は磁石が引き合うかのように互いに近づき、やがて衝突し結合する。

 それが終わると、波動は消滅する。

 

「双龍の誓い……?」

「……、ドラゴン使いとして永年の経験を積み、研鑽しきった者のみが習得出来る技だ。さて、二人はこれに耐えきれるだろうか……、サザンドラ! カメックスに龍の波導だ」

 

 サザンドラは三つの口から灰色の波動を放出する。

 灰色の波導はあっという間にカメックスを貫通して通り過ぎる。

 本来、龍の波導は等倍のはずだが……、カメックスはひとたまりもないとばかりに一撃で倒れてしまった。

 その後、オノノクスの逆鱗等によって二人のポケモンは蹂躙され、シャガのポケモンに多少の打撃は与えはしたものの敗北を喫する事となった。

 こうしてレッドは、ヤナギ戦以来の雪辱を蒙る事となる。

 

 最後のポケモン、カビゴンが成す術も無く倒れると、レッドは目の前の現実が信じられず俯いてしまう。

 エリカは心配そうな目線を向けている中、シャガはポケモンを戻すと二人に語りかけ始める。

 

「……、つまらぬ」

 

 シャガの第一声に二人は顔をシャガの方に向ける。

 

「私が何か月も修行してきたのはこんな二人と戦うために来たのではない」

「それって……、どういう事です?」

 

 レッドはシャガに尋ねる。

 

「二人とも本気を出しきっておらぬだろう」

「え?」

「あれが本気だと言うのであるならば、内国のトレーナーと言うのはそれほどに程度が低いという事になるぞ」

 

 シャガが言うと、エリカは即座に返す。

 

「何を仰せになるのですか。内国が起源だという事を忘れて……」

 

 エリカが言い切る前にシャガは続ける。

 

「青は藍より出でて藍より青しというであろう。イッシュが内国のレベルを追い越す事は考えられない訳ではない。しかし、内国のトップトレーナーがこの程度の実力な筈がない!」

「……、だったら」

 

 シャガの発言にレッドは静かなる反発をする。

 

「次こそは本物の実力を……、内国のトップトレーナーというのが如何ほどのものか御覧に入れますよ」

 

 レッドは決心に燃える目つきでシャガを見ながら言う。

 

「うむ、その意気よ。次回こそはこのシャガが満足する戦いを頼んだぞ」

 

 その後も少し話をして、二人は地に降り立つ。

 ジムを出ようとするとガイドーが話しかけてきた。

 

「いやー、まさかお二人が負けるだなんて……」

 

 ガイド―は口を開けて大いに驚いているようである。

 

「捲土重来はきっと果たして見せますわ! ね、貴方」

「お、おう! そうだな」

 

 レッドは捲土重来の意味を知るはずもなかったが、話筋から大意はそれなりに伝わった。その為、流されるかのように同調したのだ。

 

「ところで……、あの技凄かっすよね」

「双龍の誓いですか……。最早相性の壁をも破壊しかねない技ですわね」

 

 エリカが同調する。そしてレッドも、波動が現れ直後にカメックスが倒れた事を想起しながら同じことを思ってうんうんと頷く。

 

「もしかして蒼龍のあだ名って……」

 

 そしてレッドはそのことに感付く。勘が冴えているようだ。

 

「ご賢察。実は蒼龍のあだ名って、まだシャガさんがあの技を覚えたての頃に見境なく使いまくっていた時にそれを目の当たりにしたトレーナーは悉く顔面”蒼”白となって散っていく……、故に蒼龍という異名がついた訳っす」

「なるほど……」

 

 レッドと同じようにエリカも頷く。何とも微笑ましくも恐ろしい所以(ゆえん)であると共に、その時のトレーナーが不憫で仕方ないとレッドはつくづく思った。

 

 その後二人はガイドーと別れ、ジムを出る。

 出て暫くすると一人の紺色の髪をした少女がレッドの腹部に突っ込んできた。

 痛みを覚えながら彼は下を見ると、見覚えのある少女がそこに居た。

 

「いたた……、あ! ヒウンの時の……」

 

 少女はレッドの腹部より離れると顔を見て言った。

 レッドも思い出しかけたが、エリカがすぐに思い出したようで

 

「貴方、アイリスさんですよ。ヒウンの時道案内をして頂いた……」

 

 その誘導で漸く彼はアイリスの事を思い出し

 

「あぁ……、君か」

 

 と静かに返す。

 

「君か……って。なんかえらそー! まあいっか、お久しぶりーエリカお姉ちゃんにレッドお兄ちゃん!」

 

 アイリスはかわいらしい笑顔を浮かべながらそう言う。確かに覚えていたようである。

 エリカが返礼したのち、アイリスが話し始める。

 

「おにーちゃん達がこの街に居るってことは、シャガおじーちゃんと戦ってきたってことだよね?」

「……、ああ、そうだ」

 

 レッドは無愛想な口ぶりでそう返す。

 

「で、そんな調子だと負けちゃったのかな?」

 

 アイリスはニやけ気味の表情で二人に尋ねる。

 こんな子どもに見透かされるのは癪だと思ったレッドは

 

「ち……違う」

 

 と答える。が、アイリスでは無くエリカが

 

「貴方……、すぐに発覚する嘘をつくのはお止めになられたら如何です?」

 

 と耳打ちしてきた。

 エリカの予測が当たったか否か、アイリスはすぐに

 

「わぁ! 凄い! じゃあおじーちゃんに勝った証のレジェントバッジを……」

「俺が悪かった。そうだよ、負けたんだよ」

 

 レッドはエリカの言葉の意味をすぐに察して、アイリスに平に謝る。

 

「おにーちゃん嘘ついちゃダメだってばー! あたしも本気のおじーちゃんには一度も勝ったことないから気持ちは分かるけどさ」

 

 アイリスは爽やかな笑顔で全てを許してくれたようだ。

 

「……。アイリスさんは何度もあの技を見たことがあられるのですか?」

 

 エリカはアイリスに疑問の視線を向けながら尋ねる。

 

「あの技って……、双龍の誓いの事かな?」

 

 エリカは黙って頷く。

 

「そりゃあもう何度あの技に泣かされたかわかんない位にね! だってあの技の何が凄いって……」

 

 アイリスはその後双龍の誓いの効果について教えてくれた。

 双龍の誓いは基本的にサザンドラとオノノクスの能力を大幅に上げる能力である事。

 基本的に残り偶数匹でないと効果は無く、残り六匹だとオノノクスが攻撃一段階、サザンドラが特攻一段階上昇。四匹だとオノノクスが攻撃二段階、サザンドラが特攻二段階上昇。

 残り二匹はアイリス自身見たことないから知らないらしい。

 そして、この技でターンを消費する事はなく、体力を代償としている。

 発動ターンのみではあるが、一致技の掛け率が二倍(つまり1.5×2=3)になるという。オノノクスの逆鱗等と言うのは、道具の効果もあって威力が1000を超える事もあるそうだ。

 ……という事をアイリス本人から教わった。

 

「なるほど……、勉強になりました。有難う」

 

 レッドはアイリスに謝意を示して深く礼をする。

 

「いいっていいって。ヒウンのプラズマ団潰してくれたし! それに、二段階でのあの技を発動しているって事は相当二人の事見込んでるんだよ!」

「そうなんですか?」

 

 エリカの尋ねにアイリスはまた笑顔で首を縦に振って言う。

 

「うん! そもそもこの技自体、最初の頃使いすぎた反省もあって本気を出すと決めた相手にしか見せないし……、それの一個踏み込んだ段階の者も見せてくれるってことは本気でたたかわなくっちゃ! ってシャガおじーちゃんを奮い立たせたという事なんだよ!」

「なるほど……」

「だ・か・ら、この技の事を教えたんだから修行して帰ってきた時は絶対おじーちゃんに勝ってね! アイリスとのお約束!」

 

 その後、アイリスが小指を出したのでレッドとエリカは順番に指切りげんまんをした。エリカがしている時は児童と保母のような感じでどこか微笑ましいとレッドは思う。

 

「さて修行と言ってもどこに行けば……」

「確か、ここから東の方向に道なりに行くとサザナミっていう街に着くんだけど、そこからマリンチューブっていう海底トンネルを通っていくとセイガイハシティっていう街に着いて、そこにもジムがあるから、そこ行ってみてよ!」

「海底トンネルですか……」

 

 エリカはその言葉に関心を持ったようだ。

 

「そうそう! 一週間前に開業したばかりなんだけど、もうすっごいの! 水族館みたいな感じでトンネルの外側には多くの水ポケモンが泳いでるところが見れるんだ! すっごく綺麗だったなー」

 

 アイリスはそういうと、恍惚の表情を浮かべる。

 

「それは中々面白そうな場所ですわね」

 

 エリカはその風聞が気に入った様子である。

 

「うん。きっと二人とも気に入るよ絶対! さて、それじゃあたしはシャガおじーちゃんの所に……」

 

 アイリスがそういうと、アイリスの背後より荘重な声がする。

 

「アイリス!」

 

 声の主はシャガであった。シャガはアイリスを見るとすぐにアイリスの所に向かう。

 

「あ、おじーちゃん!」

「全く時間になっても来ぬから何しているのかと思えば……、うん? ああ、君たちか」

 

 シャガはレッドとエリカに気付くと、その方向に向き直る。

 

「アイリスの面倒を見てくれていたのか……。感謝する」

 

 少し違うなとレッドは思ったが、面倒なのでシャガに同調する。

 

「おじーちゃん、あたしねーこのおにーちゃんおねーちゃんとお話ししてたんだ!」

「そのくらい見れば分かる。さて修行に行くぞ、アイリス」

 

 シャガの言葉に疑問を持ったレッドはすぐに尋ねる。

 

「待ってください。修行って……俺に勝つための修行だったら俺に勝ったんならもう必要ないのでは?」

「……、何を言う。君たちが修行し終えた後、それでも負けぬように鍛錬を重ねるために修行をするのだ。アイリスもチャンピオンとして戦うとき、君たちに負けぬ程の力をつけるために一緒にやらせているという寸法だ」

 

 その言葉にレッドの心中には感心と同時に恐怖が襲い掛かる。

 

「そうですか」

「期待しておるぞ……、レッド、エリカよ。次こそは奥義を見せられると良いな」

 

 そう言うとシャガはアイリスと共に立ち去るのだった。

 もう双龍の誓いという技を見せているのに奥義とは一体何なのか。等と言う疑問を持ちながら、二人は更に旅を続ける。

 

 カゴメタウンや数本の道路を通り過ぎ、二人はサザナミタウンに着く。

 因みにカゴメタウンでアララギ博士とベルに会い、ジャイアントホールの話をされ、二人はそれとなく聞くのだった。

 どうやら、プラズマ団がその関連で臭い動きをしているらしく、博士たちやチェレンは目を光らせている様子である。

 プラズマ団にも警戒しながら、二人はサザナミに到着する。

 

 

―5月24日 午前10時 サザナミタウン―

 

 海の濤声(とうせい)が美しき町、サザナミ。

 まだまだシーズンオフなので、それ程賑わっていない為か砂浜は静寂(しじま)に包まれている。

 そんな海に何かを感じたのか、この町に着くと二人はすぐに海に向かう。

 

「はぁ……、中々に趣深い所ですわね。貴方」

「ああ……、お前の言ってた枯淡の美ってまさか……、こういう事か?」

 

 レッドはエリカにそう尋ねる。

 

「当たらずとも遠からずですが……、中々に情趣の感が分かってまいりましたわね貴方。嬉しい限りですわ」

 

 そういうと、エリカは本当にうれしそうに微笑む。なんと美しい笑顔なんだとレッドは心底思いながらレッドは呟き始める。

 

「にしてもやはり泳げないのが辛いなー。どうもマサラで育っちまったから海見るとジャバジャバ入りたくなるし」

「なるほど……、マサラは太平洋に面していますものね」

 

 エリカはうんうんと納得している。

 

「そういやエリカ泳げたっけ?」

「あら嫌だ……、ムロで泳げないと申し上げたではありませんか」

 

 そんな半年以上も前の事などレッドは覚えているはずもなく

 

「ありゃそうだったっけ……。にしても残念だなー……」

「何がです?」

「エリカの水……じゃなくて一緒に泳げないのがさ」

 

 レッドはうっかり本音を言いそうになったが、慌てて取り繕う。

 

「貴方、嘘つくのが下手でございますわね……。そんな事を言われましてもこればかりは天性なので」

「つっても自転車は克服出来たんだろ?」

 

 レッドはからかい半分にエリカに言う。

 言われるとエリカは頬を赤く染めながら、

 

「そ……それはそれです! 水泳ばかりは大の苦手でして……」

「ふうん……、勉強、武道、料理、掃除……なんでも出来るお前がねえ」

 

 レッドは軽く笑いながらそうエリカを冗談半分にからかい続ける。

 

「貴方だって、勉強は出来ませんでしょう? それと同じですわ。天は二物を与えてくれないもの……」

 

 エリカが言い掛けると後ろより聞き覚えのある声が横槍に入る。

 

「天から百物ぐらい貰っているような人が良く言うわね」

 

 その声に二人は後ろを向く。そして呆れた様な声を出した主は金髪のロングヘアに黒い服を着た女性……、そうポケモンリーグ副理事長兼シンオウリーグチャンピオンのシロナであった。

 

「シロナさん……」

 

 レッドは心の中で拍手を送りながら彼女の名前を言う。

 

「シロナさん! これはこれはお久しぶりです」

 

 エリカは会釈程度に頭を下げる。

 

「うん。選挙以来ね」

「それにしてもシロナさん。貴女はどうしてここに?」

 

 レッドは疑問を抱きながら彼女にそう尋ねる。

 

「一つは趣味ね。イッシュにも海底遺跡だとか古代の城とか色々と面白そうな遺跡があるし」

「一つは……という事はもう一つあるのですか?」

 

 エリカの尋ねにシロナは、深く頷きながら

 

「ご明察。実は理事長から一か月くらいイッシュで悪の組織の生態を調べてこい! とか言われて出張を申しつけられたのね。ま、本当は3週間なんだけど……」

 

 もう一週間はごねたのか……等とレッドは思いつつシロナの話を続けて聞く。

 

「それで何か成果はございましたか?」

 

 エリカは期待の表情を浮かべながらシロナに尋ねる。

 

「ホドモエの旧プラズマ団の人たちにあたしじゃちょっとまずいから、他の人を遣いに出して話を伺わせにいったり、あたし自身も色々と調べ回ったりしたんだけど……」

「あ、ホドモエの旧プラズマ団なら俺たちも会いましたよ!」

 

 レッドはシロナに明るい口調でそう言った。

 

「そう。だったら話は早いわ。それで、二人の天才科学者が大きく関わっているという話なんだけど……、おぼろげながら正体が浮かび始めてきたのね」

「え!?」

 

 二人は驚きの表情を隠せない様子である。

 

「ただ、やはり団員たちの証言とかをつぎはぎして集成したデータに基づくから信憑性にはやや欠けるけれど……、どうもアクロマっていう科学者が怪しいのよね」

「アクロマさんが!?」

 

 エリカが目を見開かせてシロナに問う。

 

「あら、知ってるの……。それで、あたしもそのアクロマって人をずっと探していたんだけどね。どうも見つからなくて……。だから本当かどうかは分かりかねるのよ」

 

 シロナはそう付け加えた。疲れ気味の表情からも相当に探したんだろうという事は読み取れる。

 

「さ……左様ですか」

「もう一人の科学者に関しては全く分からずじまいよ。もしかしたらサカキとかゲーチス以上の黒幕かもしれないわね……その相棒さんは」

「黒幕……」

 

 レッドは固唾を飲みながらその見えない黒幕に畏怖する。

 

「ま、あたしももう少しは残るし、詳細が分かったらじきに二人にも知らせるわ。だからライブキャスターの番号、教えてくれる?」

 

 こうして二人はシロナの携帯番号を登録する。

 その後も少し話をして、二人はシロナと別れた。

 そして、レッドとエリカはマリンチューブの長い通り道を抜けてセイガイハに到着する。

 

―セイガイハシティ

 

 海。とにかく海が多い町。

 温暖な気候で、人々は皆活発に過ごしている。

 家などは海の上に木で作られた土台の上に建てられていることが多く、人々はそこで暮らしている。

 尚、海、開放的、温暖等などの好条件でリア……恋人たちの格好のデートスポットにもなっている。

 ジムリーダーのシズイ等と言うのは生粋のセイガイハ人で、海と一体化してるのではないかと囁かれるほどの海好きである。

 信じられない事に最後のジムリーダーだが、事実上形骸化しており、シャガに挑むための前哨戦として使われることが関の山だったりする。勿論、本人は全く気にしないというかどうでもいい。

 

―5月27日 午後1時 セイガイハジム―

 

 海に飛び込んでいったシズイを探しだし、なんやかんやあって二人はシズイの前にたどりつく。

 このジムはハスの葉のような物に乗っかってそれに従って動くという仕様のジムで、レッドはなんと安全なんだと胸を撫で下ろす。

 

「おお! さっそく来たかい! おはんら、強そうやね! ほな、始めましょか」

 

 何とも気の抜けた口調でシズイはバトルを始める。

 シズイはブルンゲルとママンボウを、レッドはピカチュウを、エリカはナットレイを繰り出す。

 

「ナットレイ、ブルンゲルにパワーウィップです!」

「ブルンゲル! 溶けぃ!」

 

 ブルンゲルは水に溶けて防御力を大きく上げる。

 そのため、ナットレイが放った大きな刀の如き蔓を以てしても半分ほどしか減少しない。

 

「ピカチュウ! フォローに回れ。ブルンゲルに10万ボルトだ!」

 

 ピカチュウは大きい電力を湛えて、その電撃をブルンゲルに発射する。

 電撃は見事直撃してブルンゲルはまるで空中の城が落ちるかのように倒れる。

 

「ほう、おはんら、おいの見立て通り強いの! ではこれならどうたい! 行け! アバゴーラ!」

 

 アバゴーラは出てくると、手をはたかせながら鳴き声を上げる。

 

「フフ……、四倍と思しきポケモンを出すとは……飛んで火に入る夏の虫とは斯くの事! ナットレイ、アバゴーラにパワーウィップですわ」

 

 しかし、アバゴーラの防御は存外高く、ギリギリ耐えきる。

 

「いかんのう……、アバゴーラ! 地震たい! ママンボウ、願い事をせい!」

 

 アバゴーラの地震は、たとえ不一致といえどピカチュウを戦闘不能にするには十分だった。地震の衝撃に耐えきれず、ピカチュウは倒れる。

 

「ちい……。行け、フシギバナ!」

 

……

 

 こうしてレッドは一体、エリカも一体を失い、残ったポケモンの体力は黄色と凡勝を収める。

 

「これはぶったまげた! おはんつよそーではなく、めっさ強いんじゃな!」

 

 先ほどからシズイの言動が不思議に感じていたのかエリカは思い切ったような事を尋ねる。

 

「あの……、もしかして私たちの事ご存知で無いのですか?」

「おいは海男じゃからな! あまり外の事はよー分からんのじゃ! やからおはんらの事は全く知らんたい」

 

 シズイはキッパリとした口調で言う。

 

「な、なるほど……」

 

 エリカは納得と当惑の表情で引き下がる。

 

「さて、あんまりぶったまげとったから忘れてたが、バッジを渡さなダメじゃな! ほれ、ウェーブバッジ、持っていけい!」

 

 こうしてレッドとエリカは7つ目のバッジを手に入れる。

 その後、色々と励まされてシズイは海にへと還って行った……。

 

―ジム入り口付近―

 

「よー分からん人たい……」

 

 レッドはあまりにもあっという間の事だったのでついそう呟いてしまう。

 

「中々自由なお方でしたわね……」

 

 そう話し合っているとガイドーが話しかけてくる。

 

「やあやあお二人さん! 勝ったみたいっすけど……、そっすねお二人はこれからですもんね!」

「ええ!」

「うむ」

 

 ガイドーの言葉に二人は自信を以て答える。

 

「ところで……、シャガさんに比べてシズイさんの強さ、如何でした?」

 

 ガイドーに聞かれるとレッドは

 

「確かに強いですけど……確かにシャガさんと比べると弱いかもですね。あれで8番目というのは肩身が狭いでしょうねぇ」

 

 と答える。

 

「それ、実は最初から懸念されていたことで……、あのですね、昨年ぐらいからソウリュウの北がリーグだったんですけど、そこの道がふさがれてしまったんですね」

「ほう」

 

 レッドとエリカはガイドーの話を聞く。

 

「それで、イッシュリーグの慣例としてはリーグに一番近い場所を8番目のジムとするというのがあってですね……。それでこの街に白羽の矢が立ったんです」

「白羽の矢ですか」

「それで、セイガイハの誰がリーダーをやるかって話になってその時のチャンピオンだったアデクさんが旅している時に目星をつけていたのがシズイさんだったんですよ」

「へえ……」

 

 二人は相槌をうちながら更に聞き続ける。

 

「アデクさんは、シズイさんに頼み込んで、セイガイハジムの設立を要請したんす。シズイさん最初はうんと言わなかったんですけど、『チャンピオンさんが何度もおいなんかに頼んどる。なら、やるしかないけん』と言って承諾した訳です」

「ふうん……、中々お優しい方なのですね」

「それで、やはり自分がさっき言ったような事をほかの人に言われた時、シズイさんは『そんなの関係ない。おいは、おいの信念に従うてやっとるのみよ。おい以外にやれる奴はおらんし、チャンピオンがすげ変わろうと、おいはやるなと言われるまで約束を破る気は無いけん』と答えたそうです」

 

 そこまで聞くと二人は感嘆の息を吐いて

 

「義と信条にお篤いお方だった訳ですか……」

「ただの海男かと思いきや……恐るべし」

 

 とシズイを見直した様子である。

 

「その話を聞いた後、同じことを聞く人は居なくなったようっす。お二人もこれからの参考にされては如何でしょう?」

「結婚生活においても、信念というものは大事ですものね」

「ああ、そうだな」

 

 レッドは遠い目をしながら答える。

 

 その後、二人は捲土重来を果たさんが為に、ソウリュウシティにへと向かうのだった……。

 

―第六十話 老いと義理 終―

 

 

 

 




次回はリベンジ戦です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。