伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚 作:OTZ
―4月30日 午前11時 ポケモンリーグ チャンピオンの間―
イッシュのポケモンリーグも、内国と同様一月に一回は定例会を行っている。
この日も同じく、イッシュの8人のジムリーダーが一堂に会して集まっていた。
チャンピオンのアイリスが無論議長を務めるが、詰まったときにはシャガがアイコンタクトなりジェスチャーなりをとって補佐してあげている。
さて、事務的な事柄が終わるとあとは情報交換と称した雑談である。
先月、先々月に続きレッドの話題で持ちきりだ。
「あの二人ほんっと強いよねー」
まず、ホミカがそれを切り出す。
続いてチェレンが
「まさか僕のムーランドを数撃で倒すとはね……、本当恐れ入るよ」
等などのレッドの武勇伝らしきものを聞き、シャガは荘重な口調で言う。
「フフフ……。そうか、この蒼龍のシャガ。漸く本気を出す時が来たか」
「大抵のトレーナーだったら止めますけど……、レッドさん相手だったら本気を出しても……いやあの夫婦を前にしたらいくらシャガさんでも本気をださなくては危ないです」
チェレンは忠告半分にシャガに言う。
「チェレン程のトレーナーが言うのならば、恐らく本当の事だろうな。よし、行くぞアイリス。今日も修行だ」
「はーいおじいちゃん! あ、皆ー今日は帰っていいよーお疲れ様ー」
そう言ってアイリスはシャガに連れられるかのように出て行った。
「ふう……、アイリスちゃん、チャンピオンになってもあんまり変わってないわね」
カミツレは呆れたかのように言う。
「そうかな……、段々とチャンピオンの顔つきにはなってきてると思いますけど」
フウロがそうカミツレに言い返す。しかしその声にはいつもほどの元気がない。
それに感づいたのか、カミツレは
「ねえ……、フウロ。今日、午後空いてる?」
「確か今日はジムは任せて行ったから……。一応空いてますけど」
フウロとカミツレは先輩後輩の仲である。
カミツレは5年前にフウロがジムリーダーになった時から教育係として接してきたが、いつの間にナギ以上の友達となっていた。
「そう。じゃあさ、久々にライモンに来ない?」
「うーん……ちょっと気分がのらなくて」
フウロはそう言って断ろうとするが、カミツレは強引そうに
「気分がのらなくても行くの! ほら、あたし普段仕事ばっかりであんまりミュージカルとかフットボールとか見る機会無くて、一人で行くのもなんだかなーって思ってさ。こういう貴重なオフの日は羽伸ばしたいじゃない?」
「そういう事なら行きますけど……」
という訳でフウロはカミツレに引っ張られるようにしてライモンシティへと向かい、カミツレと一緒に各施設を回った。
カミツレはお忍びというのもあって服装をかなり地味な方面に変えて、髪もストレートなロングに直したりとしている。フウロも外出向けにリーグの更衣室で着替えている。
しかし、カミツレに関してはやはり有名人なので各地でパパラッチの追っかけがあったりしたが上手く追い払ったりしてなんとかやり過ごしながら時をすごした。
そして、フットボール観戦の帰り、最後にカミツレは行きつけの喫茶店で個室を借りる。
―午後6時 ライモンシティ 喫茶店―
個室の中はアンティーク調の木机。
机の左右には焦げ茶色の3人掛けソファが2つある。
ラウンジと同様に、中にも静かなクラシックの曲がかかり落ち着いた雰囲気である。
カミツレは紅茶を、フウロはウーロン茶を頼んで向かい合って席に着く。
「へえ……、カミツレさんってこういう所好みなんですか……」
「ここ最近出来たところでね。時々、ファッションショーの設計とか落ち着いて考えたい時はここに来るのよ。集中したいときに使いたいからこういう雰囲気じゃないとね」
「なるほど……」
その後、フウロの会話が途切れる。
1分ほどの沈黙の後、カミツレが踏み切った。
「……、それで何があったの?」
「へ……、何がってなんですか?」
フウロは本当に分かっていない様子である。
カミツレは気にかかっていたことを尋ねる。
「だから、どうしてそんなに元気がないの?」
「げ、元気ですよ! さっきだって精いっぱい応援してましたよ?」
フウロは少し動揺した風だが、そう言い返した。
「まあ確かにスポーツ観戦の時とかは元気だったけど……。何年アンタを見てきてると思ってるの?」
「うう……」
「もしかして、私にもいえないようなふしだらな秘密が……」
カミツレは冗談半分な口調でフウロに話す。が、フウロはそれを聞いた途端に真っ赤になる。
「……、まさか。本当なの?」
「……、あの、誰も他に聞いてる人居ませんよね」
フウロは念を押すかのようにカミツレに尋ねる。その目は潤んでいた。
「大丈夫。ここは私の馴染みの店。パパラッチとかはまず来ないし、ここは会員制で、しかも紹介制だから簡単には入れないわ。それにここは個室で、防音もされているから余程の事が無ければ周りには聞こえないし」
そう言ってカミツレはフウロを安心させようとした。
「そうですか……。じゃあ」
フウロはカミツレに全てを話した。
レッドが自分に対して浮気をしてきた事から何から何まで全てだ。
カミツレは最初は慎重に聞いていたが、段々と青筋が見え始め、全て聞き終ると流石の彼女も激昂して
「ふざけた話だわ! 自分からフウロに言い寄っておいて、いざ心変わりしたら直接話もせずにフウロを捨てたって事でしょ!?」
カミツレは机を叩き、乗り出すように席を立つ。
紅茶が少しだけこぼれたので、フウロは拭きながら宥める。
「ちょ、カミツレさん落ち着いて……」
「落ち着いてられるわけないわ! フウロ、レッドは今何処に居るの? 一言ガツンと言ってこなくちゃ……あとエリカさんにも事の次第を」
「だから、落ち着いてください!」
フウロはカミツレの発言を突き放すかのように声を出す。
「……。フウロ、あんたはどうなのよ」
フウロの宥めで少し気分を落ち着かせたのか、カミツレは先ほどより冷静さを取り戻した声で尋ねる。
「あたしは……その」
カミツレの問いに、フウロは表情を曇らせ、口ごもる。
「ヤリ捨てされて、あんたは黙っていられるの? 体だけ貰ったらすぐにポイだなんて……まともな人、ましてやポケモンマスターを目指すような人がしていい事じゃないでしょ」
カミツレは更に追い打ちをかける。
「確かに……レッド君がした事はやっちゃいけない事……それぐらいはあたしも分かってます」
「だったら!」
「でも……、あたし、レッド君とエリカさんの仲を取り持つ……って約束しちゃったから……」
「約束? そんなのどうだっていいじゃない! 最低の形で反故にされて、それでもまだ後生大事にもってるだなんて……」
カミツレはまたヒートアップし始めている。
「相手が破ったからって、こっちも破っていいなんて法は無いですよ……。寧ろ、最終的にはレッド君とエリカさんの仲が元に戻って良かったかな。って思い始めたんです」
「そんなの偽りよ! ……それにエリカさんが一番可哀想じゃない。この件を知らずにずっとレッドと一緒に旅するだなんて……」
「……、たとえこの偽りをエリカさんの前で暴いたところで誰が得するのですか」
フウロの言葉に、カミツレはハッとした表情になる。
「レッド君は醜態を暴かれてショックを受けるし、何よりエリカさんが悲しんで……最悪の場合は別れてしまうかもしれない……。あれだけ仲の良い……例えエリカさんが一方的にだとしても、心底惚れている人の悪行を話すだなんて……あたしには出来ないです」
「……」
「それに、あたし……最初はすっごく悲しかったんですけど……、後々分かってきたんですよ。……あたしなんかエリカさんに勝てるわけがないって」
「そんな事ないと思うけど」
カミツレは即座にフォローを入れる。
「ううん。あたしよりもずっと綺麗だし、可愛いし……頭もいいし、料理だって凄く得意だし、家事は完璧にこなすしで……、何一つあたしが勝てる事なんて無い。そんな人に取って代わる事なんて出来る訳ないよねー……って」
「勝てるところが一つも……ねぇ」
カミツレはフウロの胸元に注目するが、口には出さないことにしたようである。
「そこからあたしが無理やり奪ったところでレッド君が嫌って思うだろうし……ここはもう忘れて、いつも通り過ごした方がお互いにとって最良の策なのかなって思う事にしたんです」
フウロの言葉を最後まで聞くと、カミツレは一つ大きなため息をつき
「全く……、とんだお人好しね……。でも、そうね、フウロがそう思うんだったらあたしが何かしても仕方ないわ」
カミツレがそういうと、フウロはこくりと一回だけ頷く。
「ここで話したことは誰にも言わないでください」
「……、分かった」
そういうと、カミツレがフウロの方に小指を突き出す。
「?」
「何で首をかしげるのよ……指きりよ指切り! 内国だと結構流行っている約束をする時の風習でね、ちょっと子どもっぽいけどこういうのも良いでしょ?」
フウロはそう言われるとクスリと笑って
「……、そうですね」
と、フウロの方も小指を出してカミツレの指と絡める。
そして、カミツレが指切りをする時の詞を言う。
「I promise cross my heart and hope to die.」
一応、イッシュ人は全員イッシュ語(現実で言うアメリカ英語)を母国語として習得しているため、フウロは理解した。しかし、母国語とはいっても内国の言葉がかなり流入しているため、イッシュ語と内国語(現実で言う日本語)の使用比率は6:4ぐらいだという。
10秒ほど小指を絡めたのち、二人は指を離す。
「うん。これで良し!」
「……、何だか全部話したらスッキリしました! 明日からはなんとか元気出していけそうです」
フウロはいつも通りの口調でそう言った。
カミツレは頬を緩ませ、安心した表情になって
「うんうん。やっぱり落ち込んでいるフウロはらしくないよ。私も、他のジムリーダーも、フキヨセの人もみーんなあんたのふっ飛んでるくらいの笑顔が好きなんだから」
「それって……チェレン君もかな」
フウロは思案深げな表情を、カミツレに向ける。
「はあ? どうしてそこでチェレン……ってあんた、まさか」
「べ、別にそういうんじゃないですから!」
フウロは頬を紅潮させて否定する。
「ははー……、全くレッドの次はチェレン……あんたひょっとして年下好き?」
「だーかーらー、違いますー!」
こうして、女二人のガールズトークは夜更けまで続くのであった……。
―4月11日 午後10時 フキヨセシティ ポケモンセンター―
さて、所と時戻る事数週間前。
レッドがエリカに気持ちを戻して、レッドが風呂に入っている時の事。
エリカは自分のベッドに腰掛けて『荘子』の写本を読んでいた。
そんなエリカと向かい合ったところに居るのがヒトモシとピカチュウで、いよいよストレンジャーハウスで見たことをエリカに話す事にしたのだ。
『よし、行こう』
ヒトモシがまず、ピカチュウに言う。
しかしピカチュウは不安そうに
『うう……、本当に大丈夫なの?』
『私の言うとおりにすれば問題ない……はず』
『はずってなんだよ!』
ピカチュウはヒトモシにそう突っ込みを入れる。
『……、ええい、とにかく行かなきゃ始まらない!』
といってヒトモシはベッドから飛び降り、エリカの足元に近づく。
『あ……ちょ、待ってってば!』
ピカチュウはヒトモシに糸を引かれているかのようについていった。
『エリカさん!』
ヒトモシの鳴き声に、エリカは気付き、写本を傍らに置く。
「あら、どうされたのです?」
『え……えっとですね。レッドがそのフウロさんと粗相を……』
ピカチュウはしどろもどろに言う。
『バカ』
『え?』
ピカチュウが横を向くまでもなく、ヒトモシはシャドーパンチを脳天に喰らわす。
ピカチュウは倒れかけた後、すぐに体勢を立て直し
『痛いなあ! 何すんだよ!』
と怒りを露わにするが
『言葉じゃ何言っても通じないって言ったでしょ。ジェスチャージェスチャー』
ヒトモシは冷ややかな視線をピカチュウに向ける。
『あ、そうか』
という訳で、ピカチュウが自作のレッドのお面を被る。ハッキリ言って出来は幼稚園児の工作並みだが二匹なりの本気である。
そして、ヒトモシはフウロのお面を被る。
「あら、お遊戯ですか?」
エリカは興味を示した。が、ここで事件が起こる。
お面は紙で出来ているので、ヒトモシの炎に反応してすぐに燃えてしまったのだ。
出火した現場を見たエリカは保母のように接する。
「まあ大変! ハスボー、水鉄砲です」
流石にルンパッパは波乗り等しか覚えていないので、まずいと判断したのかホウエンで捕まえたハスボーをエリカは繰り出し、水鉄砲でなんとかした。
抜群のタイプである水技を喰らって、ヒトモシはぐったりする。
『うう……』
『おい何やってるんだよ!』
ピカチュウはヒトモシを助け起こす。ゴーストなのにどうして捕まえられるのかは置いておこう。
『しょうが……ない、ピカチュウ、奥の手』
ヒトモシはピカチュウに息も絶え絶えの声でそう指示する。
『奥の手って……いいの?』
エリカは叱る以前に不思議そうな目線で2匹を見る。
『ここまでやってしまった以上……、何もしないまま終わる訳にはいかない……、伝わるかどうかはともかく……、やって』
ヒトモシはそう言うと少し赤くなる。
『わ……分かった』
ピカチュウはヒトモシに口づけをする。
それも30秒くらいの長いキスだ。
「まあ……」
エリカは感嘆の声をあげる。
キタか? とピカチュウは思ったが、エリカは
「白雪姫のワンシーンですね! ヒトモシがカタリーナ姫で、ピカチュウが王子様……、そしてリンゴをハスボーの水鉄砲にみせかけて……、王子が仮死状態の姫をキスで生き返らせる……中々考えましたわね」
エリカは非常に感心しているが、ピカチュウは必死に首を振って違うという事を訴えるが、彼女は最早目のうちに収める事すらしない。完全にメルヘンに時めく乙女である。
「なるほど……、ポケモンの可能性は確かに無限大ですわ。アクロマさんの言う事もよく理解できる気がいたします」
ピカチュウとヒトモシはダメだこれは……と諦めて、一まずは退散することにする。
その後、2匹はエリカから色々とグリムやアンデルセン童話等を聞かされたという事は想像に難くない。
―4月14日 午後8時 ネジ山―
フキヨセからセッカに向かう道中。レッドとエリカはここで休憩を取った。全ての手持ちをきちんと範囲を決めて息抜きをさせている。
一方的ないじめを避けるために、エリカのポケモンとレッドのポケモンは食事以外の時は一緒にならない。
さて、晩御飯を済ませるとそれぞれのポケモンが遊びだす。ピカチュウはある決断をして、レッドのポケモンの首領格であるカメックスに話しかける。
『ねえ、カメックス』
『おう、どうした』
カメックスは野太い声で応じる。
『皆を集めてくれないかな?』
『別に構わないが……、何があったんだ急に』
カメックスは不思議そうな表情を向ける。
『皆に伝えておきたいことがあるんだ……レッドについて』
『マスターの事でか……。分かった、そういう事なら』
という訳でレッドからは少し離れた位置で総勢50匹程の手持ちが輪っかになったように集まる。
カメックスが上方の中央に鎮座し、その左右にリザードンとフシギバナという最古参。ピカチュウはフシギバナの隣に居る。
そこからは適当に並ぶ。ヒトモシは新入りという事でカメックスの向かいに居る。
並び終わると、カメックスが第一声を発する。
『お前らよく集まってくれた。今日はピカチュウから何か話したいことがあるらしいぞ』
という訳で、全部のポケモンの視線がピカチュウに集まる。
ピカチュウは少し緊張しながら話し出す。
『皆、よく聞いて。エリカさんとレッドが交際していることはもうみんな分かっている事だと思うけど……』
『前置きはいいから早くしろよー』
『そーだそーだ、おにごっこの続きやりてーんだよ』
ラッタやコイルなどのまず使われない連中から文句が出る。
カメックスはそれを
『……、それで……、落ち着いて聞いてほしいんだけどさ、その、レッドがフウロさんっていう女のジムリーダーの人と……えっちしてた』
ピカチュウは真っ赤になりながらもすべてを言い切る。
その言葉で一気にポケモンたちは紛糾する。
あまりの大声で、エリカに膝枕してもらって寝ていたレッドは目を覚ます。
「おい、何だなんだ」
レッドはそう言って上体を起こす。
「きっと、おやつの取り合いかなにかでしょう。微笑ましいですわね」
「……、そうか」
そう言ってレッドはまたエリカの膝の上で眠りにつく。レッドはピカチュウにあらかじめ来ないように(ジェスチャーで)言われている。
『ちょっと! どういう事!? エリカさんを裏切ったって事?』
ピジョットはメスなので尚更そういう事に敏感である。
『うちらのマスターがそんなふしだらな人だったなんて! もうついていけない……』
ニドクインがそう言ってがっかりする。
とまあ、喧々諤々の状況が続くが、カメックスはドスの効いた大声で
『黙りやがれ!!』
と大喝一声で周りのポケモンは沈黙する。
『ピカチュウが嘘をつく理由も無いだろうから……。それは信じるとして、お前らはなんなんだ、レッドが浮気をしたと知れたらすぐに辞めるのか』
フシギバナが漸く口を開く。
『そうですぞ。先生よりもフウロという御方を取ったのは信じ難いが……』
リザードンはそれに続く。先生と言うのはエリカを指し、リザードンの問題の出所はほとんどエリカから出ているので、リザードンはそう慕っているのだ。
『で、でも……』
やはりラッタやゴーリキー辺りがしどろもどろの反発をする。
『お前らは、マスターから受けた恩を忘れたのか!』
カメックスはそう言って僅かな反論をも封じる。フシギバナに次ぐ古参の意見はやはり強しだ。
『僕は、マスターにトキワの森で拾われる前はうじうじとしててみっともないポケモンだったけど……マスターについていってそれなりに強いポケモンになれた』
『そう、ピカチュウと同じように俺も、マスターに出会う前は弱いゼニガメだったが、今となっちゃマスターの功績に泥を塗らない程度の活躍は出来るポケモンになれた』
第一線で活躍しているポケモンなのにこの謙遜振りである。他のポケモンたちは皆押し黙ってしまう。
『それはお前らも同じだろう。そして、マスターだって人間だ。過ちを犯すことだってある……、だがそんな事があろうと、今までと同じようにマスターの指示を聞いたり、尽くしたりするのが……俺たち手持ちの出来る事じゃないのか!』
『だが、カメックスよ。この事は先生に言った方が……』
リザードンの提案に対し、カメックスは
『
『し……しかし』
カメックスの発言にリザードンは抗おうとするが、フシギバナが言う。
『そうだぞ。そもそもこの事をエリカさんに言ったところで信じる訳がない。ピカチュウの伝聞でしか証拠が無いというのに……』
フシギバナがそういうと、リザードンは渋々引き下がった。
『うむ。それに下手に言って姐さんを傷つけたくないしな……。良いな皆!』
カメックスの言葉に、全ての手持ちは黙ってうなずく。
こうして、手持ち同士の会議は終わる。
翌朝、レッドが手持ちを戻すとやけに皆親しげに接するので、レッドは怪訝に思ったが気にしない事にした。
―4月18日 午後1時 セッカシティ―
セッカシティに着き、ハチクが居ないかどうか町の人に尋ねると今日は偶然にも居る日という事ですぐに旧ジムに向かう。
―旧セッカジム―
つるつるっと氷の床を越えて、ハチクの前にたどり着く。
「……、む、来たか……」
ハチクは物々しい口調で喋る。
「貴方がハチクさんですか……。うーん写真の通りなかなかの着こなしですわね」「それはそうと、俺たち、戦いに来たんです!」
しかし、ハチクはそれに対し難色そうな表情を見せ、
「……、私に挑みに来たというのか。残念だがそれはお断りさせてもらおう」
ときっぱりと断られた。
「ええ!? どうしてですか?」
エリカは大いに驚いた表情で言う。
「私はもうリーダーを引退した身……。ここには様子見と精神統一で来てるに過ぎないのだ……。それにだ」
レッドとエリカはハチクの次の発言に注目する。
「君たちとは、戦ってはならない。そのような予感がするのだ」
「何ですかそれ!」
レッドは即座に突っ込む。
「……、説明できるものではない。役者の演技がどれほど素晴らしいと口には出来てもそれを完全に体現する事は不可能なように……、この感覚はそう易々と表現できるものではないのだ」
ハチクはそう言ってひたすらに固辞する姿勢である。
「で……でも、俺たちは貴方と戦うためにここまで」
「ご足労かけたのは悪いと思っている。だが、私の勘が戦ってはならないと警鐘を鳴らしているのだ……。本能に逆らって戦ったところで、良い戦果は得られぬ」
「……」
そこまで言われると反論が出来なくなったので、二人は納得しなさげに帰る事にした。
すると、ハチクが呼び止める。
「待たれよ」
「?」
二人が振り返ると、ハチクは言う。
「二人は鍛えるために来たのだろう。ならばこの街の北にリュウラセンの塔という場所がある……、私の代わりと言ってはアレだが、行ってみなさい」
「有難うございます」
エリカだけが頭を下げて、二人はジムを出る。
―ジムの外―
「なんなんだよ、戦っちゃいけない予感がする……って」
レッドはそう不満を垂れる。
「いくら不満を露わにしたところでハチクさんは戦ってくれませんわ。ここはハチクさんの言うとおり、リュウラセンの塔に向かいましょう」
という訳で二人はリュウラセンの塔でポケモンを鍛え、巨魁の待つ街、ソウリュウシティにへと向かうのだった。
―第五十九話 冷たい予感 終―
ご都合主義?レッド守られ過ぎ死ねカス?
そう決断を下すにはまだ尚早じゃないですかねぇ……読者さん。
最終話にも行ってないというのに……。
次回はソウリュウ編+αです。
え? ヒトモシはシャドーパンチ覚えない? 野暮なことは言わないでくださいな。突っ込み専用で出来るんですよ多分。
因みに、キュレムについては水面下で調べていることになっています。