伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第五十八話 歴史は動く〈下〉

―2月21日 午後0時10分頃 飛行機内―

 

「俺……フウロさんの事、好きです!」

「えっ……?」

 

 フウロは突然の告白に目を丸くする。

 しかし、すぐに元のすっきりとした顔に戻り

 

「うん、あたしもだよ!」

「えっ!?」

 

 レッドはまさかの返答に、驚きを隠せなかった。

 ピカチュウとヒトモシは後ろで起こっている事には気づかず、空を眺めて談笑し続けている、

 

「……えっ、友達としてだよね? だったら普通にレッド君の事、好きだよ。話してて飽きないし、そういう反応とか見てて面白いし」

「ぐっ……」

 

 レッドは反論するよりも先に、フウロの虚を突いた発言に頭が真っ白になっていたのでその場で更に何か言おうという気にはなれずに終わる。

 そして、搭乗から40分弱で、レッドとフウロはヤマジタウンに着く。

 その後は色々と接待のような物を受け、午後3時ごろからヤマジを出発する。

 町もそうだったが、砂嵐が常に吹き荒れている地域だ。ピカチュウはともかく、ヒトモシは辛そうだったのですぐに戻す。

 そして、そんな天候と格闘しながら二人はストレンジャーハウスに入る。

 

 

―午後3時35分 ストレンジャーハウス 玄関―

 

 中に入ると、如何にもホラー映画に出てきそうな屋敷である。

 目の前には大きな階段があり、その他にもいろいろな装飾がある。

 ハクタイの洋館を彷彿とはさせるが、雰囲気が異なるのは恐らくレッドの気のせいではないだろう。

 

「うわ……」

 

 レッドがまず一言漏らす。

 フウロが何か言うかと思ったが、フウロ当人は何も喋らない。

 不思議に思ったレッドがフウロに話しかける。

 

「あのー」

「ワッ……な、何……かな?」

 

 フウロはひきつった笑顔でレッドに応える。

 よく見ると顔は青ざめ、冷や汗をかき全身が震えている。

 

「いや……あの、大丈夫ですか?」

「そ、そんな事ないって! 武者震いだよ武者震い!」

「もしかしてお化け怖いとか……」

「違うってば! あたしはお化けが怖いから震えてるんじゃなくて、なんだか不気味な雰囲気がしておっそろしーなー……なんて」

 

 フウロは何とか言いつくろったかのような表情をするが

 

「いや、それ単に怖いって言葉を不気味に置き換え」

「さ、さーてと! 行くよレッド君! 早く除霊でもなんでもしてこんな屋敷でて……」

 

 フウロは勇み足とばかりに前へ進む。

 すると、植木鉢と思しき物がカタカタと震えているかのように動く。

 

「キヤーッ! 動いたーー!」

 

 フウロは絹を裂くような大声を発する。

 埒があかなそうなので、レッドはヒトモシを出す。

 

「ヒトモシ」

 

 そう言うとヒトモシはくるっとレッドの方向に目を向ける。

 

「ここは、なんだかお化けとか幽霊とかが多くいるみたいでな……、ピカチュウと一緒に調べてくれないか?」

 

 レッドはゴースト同士ならば勝手が早そうだと案じて、ヒトモシを頼る事にしたのだ。

 ヒトモシは快諾したとばかりにピカチュウの所へ歩き、引っ張り出すかのように左の方向へと消え去る。

 

「はーっ……、あ、あれ? レッド君、ピカチュウは?」

「調査しろって、ヒトモシに行って一緒に行かせました」

「そっか。じゃ、あたしたちは違う所を調査しましょ!」

「いやでもフウロさん」

「しましょ!」

 

 フウロはこういう時になると強情になる傾向があるようだ。

 片意地張るフウロに、レッドは心動かしつつ、その片意地に付き合う事にした。

 

―3時間後―

 

 屋敷を駆けずり回っていると、真っ黒な夢……等と呟く幽体の少女に出会う。

 フウロはあまりの事に失神しかけたが、レッドがなんとか気を持ち直させる。

 その少女の導きに従うかのように、階段を上がったり下がったりしていると、入った時はふさがっていた記憶のある、奥の部屋が通れるようになっていた。

 その後、中に入ると三日月で虹色に輝く羽を拾うと、またその少女は現れその羽根についての話をすると、ふっと消えていくのだった……。

 最後に橋の上でと言っていたので、恐らくもうあの女の子は出てこないだろう。そう思ったレッドはほうと胸をなで下ろす。

 

「うう……」

 

 フウロは未だに怖いのか全身が震えている。

 

「フウロさん、大丈夫ですよあの幽体の女の子はもう出てきませんから」

「別にそういうのじゃ……ないもん」

 

 とフウロは未だに片意地を張って言いながらも、いつもの覇気が無い。

 これ以上この話をしても仕方ないと思い、レッドは別の話をする。

 

「にしてもあいつら何処に行ったんだ」

 

 レッドはそう言うとふうと息をつき、探そうとドアを開ける。

 すると、偶然にもヒトモシとピカチュウがやってきていた。

 

「ピッカ!」

 

 ピカチュウはレッドを見ると片手を上げて意気揚揚に挨拶をしてくる。

 

「ピッカ! じゃない! どこ行ってたんだよ」

「ピカピー」

 

 ピカチュウはそう言うと、後ろに持っていた何個かの道具を前にコロコロと出す。

 レッドはなんでもなおしとのろいのお札はすぐに分かったが、もう一つの紫色に光る石がよく分からない。

 

「物拾っていたのか……、なんだこれ」

 

 レッドはその石を手に取る。

 

「それ、闇の石だよ」

 

 フウロはいつの間にかレッドの背後を取り、レッドの耳元にそう囁く。

 

「ワッ! びっくりしたー……」

 

 レッドはビクッと肩を震わせて、石を落としそうになるがなんとか留める。

 

「えへへ、何か突然気が緩んでね。それでちょっと背後が無防備だったから驚かしちゃった! ごめんね」

 

 フウロは愛嬌ある様子で謝る。そんな風に謝られて拒否する男は居ないだろうとレッドはつくづく思った。

 

「ハハハ……いいんですよ。にしても闇の石……? 雷の石とかと似たようなものですか」

「おー、鋭いね! そうだよ、闇の石だからゴーストとか悪タイプ系統に使えるよ。ナギさんが大分前にヤミカラスに使っていた記憶があるからさ。君のポケモンだったら……」

 

 フウロはヒトモシに目を向ける。ヒトモシは突然視線を向けられて驚いたのか、おどおどしている。

 

「ヒトモシ……。そうそう! 四天王にシキミさんっていうちょっとオカルティックな子が居るんだけど、その人によればヒトモシの進化形のランプラーってポケモンに使うとシャンデラっていう凄く強いポケモンになるらしいよ!」

 

 フウロは途端に明るい口調で話し始める。

 

「俺の見立ては間違いでは無かったか……」

 

 レッドは静かな声で呟く。

 

「え?」

「いえいえ何でも。そうですか。じゃあ検討しておきます」

 

 こうしてレッドはピカチュウより三つの道具を貰い受けた。

 気付けば外はすっかり暗くなっている。

 

「もう夜だ……」

「今日はここに泊まるしかないですね……。ここはお化けとか幽霊は来なさそうですし」

「えー……」

 

 フウロは不満な顔を見せる。やはり、怪しい雰囲気がするのが嫌なのだろうかとレッドは思う。

 

「いや、大丈夫ですって、この部屋の中だったら多分何も来ないでしょうし、来たとしても俺のポケモンでどうにかします」

「そーじゃなくて……、あたし、男の子と二人っきりで泊まるの初めて……なんだけど」

 

 フウロはそう言うと、頬を赤くする。これまでも何度か赤くなってはいたが、今度のは少し違う気がしたのはレッドの気のせいではないだろう。

 頬を赤らめながら俯き、内股になり、左手を右手で掴み、かなり恥ずかしそうだ。

 

「ブッ……、だ、大丈夫ですよ、べ、別に変な事したりはしませんから」

 

 と言いながら、レッドはフウロの肢体をちらちらと見る。

 湧き上がる情欲を押さえながら、レッドはフウロの出方を伺う。

 

「ふう……、そうだよね。レッド君、エリカさんがいるもんね。まさかあたしにそんな事……する訳ないか」

 

 フウロは半ば無理をしているかのように笑顔を作る。

 まだ寝るには早いので、レッドとフウロは談笑したり等などとして、夜を過ごすのだった。

 

 

―午後10時―

 

 レッドはフウロと話しているうちに段々とその妖艶な肢体に見とれていく。

 前話していた時はエリカも居たし、それなりに自制が働いていたが、今度は二人きりだ、自然と発情が進む。

 そういう訳でレッドはある行動に出る。

 

「ピカチュウ、ヒトモシ……、ちょっと廊下に出て遊んで来い」

 

 二匹は不思議そうな目をするが、従った方がいいだろうという事でさっさと出て行く。

 

「? どうして下がらせたの?」

「いや……、ヒトモシは暗い空間の方が好きそうだし、ピカチュウはそのお目付けってことで」

「ふーん……」

 

 と言うと、フウロはポケットから携帯を取り出し時間を見る。

 

「もうこんな時間かあ……、じゃ、あたし歯磨いてくる」

 

 この部屋の奥には洗面台がある。

 フウロは立ち上がると、後ろを向き、歯ブラシを取り出すためにカバンに向かう。

 レッドはカバンに向かっている時、フウロの背後から精いっぱい抱きつく。

 その時、レッド自身にフウロの腰あたりの柔らかい感覚が来る。

 その感触に彼は更に気分を高揚させる。

 

「ひゃあ!」

 

 フウロは当たり前だが、突如抱きつかれて狼狽している様子だ。前かがみになっているところを狙われレッドに掬い上げられたので、丁度フウロの体は弓のような形になる。

 

「ちょ……レッド君……な、何……?」

「……」

 

 レッドはしばらくの間、沈黙を守ったまま柔肌の体温を感じ続ける。

 

「やめてよ……、あたしたち別にそういう関係じゃな」

 

 フウロがそういって、腕の束縛から逃れようとすると、途端にレッドは

 

「好きだ」

 

 と、フウロの耳元に囁く。

 

「!」

 

 フウロはその言葉を聞くと、目を見開かせる。

 

「好きなんだ……俺、フウロさんの事」

 

 レッドは続いて同じことを言う。

 

「何言ってるの……、レッド君には、エリカさんが」

 

 フウロの反論に、レッドは反射のように答える。

 

「エリカよりも……ずっと好きなんです!」

「っ……!」

「フウロさんは、俺の事」

「嘘だよ……」

 

 フウロは、床に悲しげな目を向けながらそういう。

 

「え?」

「だって、レッド君はエリカさんの事、好きなんだもん……」

「別にエリカの事が嫌いになったわけじゃない……、でも、俺、気付いたんです。フウロさん事、エリカよりもっと……もっと好きなんだって!」

「だからそれが嘘なんだってば!!」

 

 フウロはいつになく大きな声でそれを否定する。

 

「……、どうしてそう思うんですか」

「……」

 

 フウロはレッドに質問に対して口ごもる。

 

「ヒウンの時も、ライモンの時も、どうしてそんなに俺がエリカが好きだというのか分かるのか訊いたとき、貴女はいつもそれっぽい事言ってごまかしていたけど……、どうしてそこまで俺の気持ちを否定するんですか」

「だって……だって……」

 

 フウロはどうしようもなさげに、レッドの言葉を否定し続ける。

 

「フウロさん!」

 

 レッドは束縛を解き、今度はフウロを立たせて肩をしっかり掴んで詰問する。

 フウロはそうなると、観念したかのようにぽつりと話しはじめる。

 

「『俺は……、エリカを愛している』」

 

 レッドはフウロが話し始めると、肩にかけていた手を放し、フウロの話を聞く。

 

「『他の誰にも流されたりはしない』……、そう、あの真夜中のポケモンセンターで言っていた……」

 

 レッドは一瞬何のことか分からなかったが、すぐにヒオウギのポケモンセンターで言った事だと思いだした。

 そう、エリカに跨られて、(ねや)を過ごしていたあの日である……。

 

「見てたんですか」

「……。だから、エリカさんとレッド君は強く結びついてるんだなあってあたしは心の底から思ったの」

「……」

「今、レッド君はちょっとエリカさんとすれ違って冷めちゃっているだけ……。それで相談に乗って話しているうちにあたしの事が好きになってしまったんだとしても……、それは嘘、嘘の恋心だよ」

「違う! 嘘じゃないんだ! 俺は本当に……」

「……、あたしは最初から最後まで貴方達の恋仲をサポートする……、それ以上でもそれ以下でもないの……。分かったら二度とあたしの事が好きだとか……そんな事言わないで」

 

 フウロは、そう言うと寂しげに後ろを向いてバックの中身を探る。

 

「……、あ。あったあった。それじゃーレッド君、あたし先に磨いてるから」

 

 フウロは無理に明るくし、レッドに正面を向けながら話す。

 

「じゃあ……」

「っ」

「どうすれば信じてくれるんですか」

 

 レッドは半ば必死な目でフウロに訴えかける。

 

「……、どうしたって……あたしはべ、別に……レッド君の事好きってわけじ」

「……エリカと別れる」

 

 レッドの提案にフウロは目を丸くする。

 

「……え?」

「エリカと付き合い続けているから……、フウロさんは嘘を嘘と思い続けている……。だったらその嘘の基を取り払えばいい」

「ちょっと待ってよ! ……本気なの? 旅は、旅はどうするの!?」

「そんなの……どうだっていい! フウロさんとつき合えるなら……!」

「……」

 

 フウロは頬を紅潮させながら、答えに窮する。

 

「フウロさんは、俺の事嫌いなの?」

「……。嫌いじゃないけど……」

「嫌いじゃない……? そんな曖昧な返答嫌だよ!」

「……」

「じゃあ、好きか嫌いかで言ったら」

「……」

「なんで……なんで答えてくれないんだよっ! フウロさんはエリカに遠慮してるの? 俺は今エリカと別れるって言った……。これは俺が自分の気持ちに素直になったからこの決断を下したんだよ? なのにどうしてフウロさんは素直になってくれないんですか?」

 

 レッドの詰問に対し、フウロは俯きを止めて、キッと正面を向いて言う。

 

「好き……」

「えっ?」

 

 レッドはフウロの返答に対し、思わず聞き返す。

 

「好きだよ……っ! ヒオウギで救ってくれた時から……ずっと気になっていて……、でもあたしエリカさんに遠慮していたから……、あくまで友達として付き合っていこうって……、だからレッド君がエリカさんについて尋ねてきたときは相談に乗ってあげた。……でも、レッド君が自分の気持ちに素直になってくれるのならあたしも素直になるよ。レッド君……君の事が、好き」

 

 フウロはそういうと、恥ずかしさの余り顔から火炎放射でも出そうな勢いな表情になる。

 

「フウロさん……」

 

 レッドはそういうとフウロを抱擁し、その体勢のまま床に倒れこんだ。

 

「ちょ……レッド君!?」

「俺……フウロさんとしたいんだ……いいだろ?」

「したいって……ダメだよ! あたしたちまだそういう事しちゃいけな……」

 

 フウロはそういってレッドを押しのけようとするが

 

「フウロさん……言っていたよね……、結婚したらこれぐらい仲の良い夫婦になりたいなーって……」

 

 レッドは、ライモンで言っていたフウロの発言を持ち出して言い返す。

 

「そ……それは夫婦だからっていう話で……、あたしたち結婚してるわけじゃないし、それ以前に結婚する前にこういう事しちゃいけないって……」

「甘いよ……、エリカとは何回もこういう事してるんだ……。だからこれぐらい……って言うのなら1回や2回しなくちゃダメなんだよ……」

 

 そういうと、レッドはフウロに反論させる隙も与えずにフウロに口づけをした……。

 

 

―その頃 廊下―

 

 追い出されたピカチュウやヒトモシは屋敷に居たポケモンたちと仲良くなって一緒に遊んでいる。

 ラッタやゴルバット等とだるまさんがころんだや、かくれんぼ等をして一通り疲れた後、話をし続けている。

 しかし、大分時間がたったのでピカチュウは

 

『ごめん、ちょっとレッドの様子見てくるよ』

 

 とヒトモシに言いひょこひょことレッドの居る部屋に向かう。

 

『行ってらっしゃーい』

 

 ヒトモシはちっちゃい手をあげてピカチュウを送り出す。

 

―部屋の前―

 

 ピカチュウはドアを開けようと飛び上がって、ドアノブを下げて少しだけ開ける。

 そして入ろうとすると、そこでは衝撃の事が行われていた。

 レッドがフウロの上に覆い被さってキスしていたのだ。

 

『……え?』

 

 ピカチュウはその光景を見てただただ絶句するほか無かった。

 その後は入るのに気まずさを感じ、数十分、一時間と時間が過ぎていく。

 

―午後11時 同所―

 

 二人はベッドに戦場を移し、まぐおうている。

 

「ハァ……ハァ……フウロさん、俺もう我慢できないよ……」

「っ……したいんだったら……ゴム……つけて」

 

 フウロは熱っぽい吐息を漏らしながらそう言う。

 

「えっ?」

「あたし……処女だけど……、レッド君にだったら……いいよ、あげても」

「ほ……本当に?」

「嫌だったら……最初から拒んでるって……。……早くして」

 

 レッドは気分を大いに高揚させながら、リュックの中を探す。

 そうだ、旅立ちする直前に母さんから貰ったんだ。そう思ったレッドはリュックの奥底を探し、漸く見つけ出す……。

 

―ドアの外―

 

『はわわ……凄いや……』

 

 ピカチュウはひたすらに初めてみる人間の(ニャー)をじっと見つめる。

 そんな風に見入っていると、背後から声がした。

 

『何が?』

『わっ、ヒトモシ!』

 

 ピカチュウは突如登場したヒトモシに狼狽する。

 あたふたとしていると。怪訝に思ったのかすぐにヒトモシは部屋の光の元を見る。

 

『ほうほう……』

 

 ヒトモシは興味深げに中を見た後

 

『戻ってこないから何をしてるのかと思いきや……御伽のご観閲ですか』

 

 彼女は呆れた目線をピカチュウに送る。

 

『うう……』

 

 ピカチュウはみっともない所を見られてしょぼくれている。

 

『ねえ、これ僕たち行った方がいいかな?』

『ダメだって』

『え?』

 

 ピカチュウはヒトモシのまさかの反応に目をパチクリさせる。

 

『考えてもみてよ。もしここで私たちが入ってギャーピー言ったところで言葉の通じないマスターには心労を負わせるだけ……ここは終わるまで静観した方が良い』

『……、そうだね』

 

 ピカチュウは個人的な興味もあってか、二人の夜伽を見守る事にした……。

 

―午前2時 同所 部屋―

 

 その後、レッドとフウロは何度も体を重ね、レッドはめでたく(ニャー)卒業を果たす。

 二人は布団を被って、まるでどこぞの映画のワンシーンのようにピロートークをしていた。

 

「フウロ……凄かったよ」

 

 レッドはいつの間にやら彼女気取りになってフウロの事を呼び捨てにしていた。

 

「うう……、そんな事言わないでよ……」

 

 フウロはそういうと、赤かった頬を更に赤くする。

 

「フウロさんは……どう?」

「どうなんて言われても……知らないっ」

 

 そういってフウロはシーツを引っ張りレッドとは反対方向に仰向けになる。

 

「フッ……そう」

「……、途中、エリカさんから電話来てたみたいだけど」

「いいんだよ……、俺はそれよりもフウロとこうしてた方が……幸せだから」

「レッド君……」

「フウロ……大好きだ」

「あたしも……」

 

 そういって二人はもう一度キスをして、眠りにつく。

 

―部屋の外―

 

『終わった……みたいだね』

『そうね……』

 

 ヒトモシとピカチュウはそういうと暫く黙ったのち、ピカチュウが切り出す。

 

『どうしよう……』

『どうするも……、エリカさんに言ったほうがいい』

『え!?』

 

 ピカチュウはヒトモシの提案に驚いている。

 

『だってマスターに言えと言ったところで正直に話すとは思えないし……そもそも通じないだろうから』

『で、でもレッドはエリカさんにちゃんと言うって』

『お子様……。そんな単純な思考だから進化させてもらえないの』

 

 ヒトモシは嘲ったようにピカチュウに言う。

 

『な……、違うもん! レッドは可愛いと思っているから進化させてくれない』

 

 ピカチュウの反論に対して、ヒトモシは冷たくあしらって

 

『分かった分かった……。とにかく、エリカ……って人がどんな人かは分からないけど……、マスターはこの件を隠し通すつもりかもしれない』

『……』

『でも、知らせないままだとエリカって人が可哀想……、だから言うだけ言った方が良い』

『でも……、僕らじゃ言葉が通じない』

『大丈夫、私の言うとおりにして』

『ヒトモシの……言うとおり?』

 

 ピカチュウはそういうと、ヒトモシはこくりと頷く。

 

 

―4月11日 午後1時 フキヨセシティ カーゴサービス― 

 

 それから一か月半後、エリカが用事を済ませたので戻ってくるという報せが入り、レッドはカーゴサービスに居る。

 フウロはこの日、ヤマジに用事があると言うのでアララギやベルと一緒に行ってしまった。

 あれからフウロとはどうなったかといえば、あれ以来は会うのがきまづくなり週に一回程度会っては軽く話す程度で終わってしまう。

 レッドは何度もエリカが帰ってきたらちゃんと話すとフウロに言っている。

 さて、いよいよ一か月半ぶりにエリカがレッドの元に戻るので、レッドは奥の出入り口を気にし続ける。

 

 そして、午後1時、いよいよエリカがゲートを過ぎレッドの目の前に姿を現す。

 一か月半ぶりとはいえ、やはりその姿は解語の花というべき美しさである。

 エリカはレッドを見かけるや否や、荷物を放って走ってレッドの胸に飛び込む。

 

「貴方ぁーー!」

「エリカ……、っておい! キツいってば!」

 

 エリカは非常に強い力でレッドを抱きしめたため、いくら強靭なレッドと言えど少し耐え難かった。

 

「ハッ……、申し訳ございません」

 

 そう言うとエリカは途端に引き下がって平に謝る。

 

「ハァ……、全くお前は相変わらずだな」

「貴方も特にお変わり……」

 

 エリカが言いながら、レッドの顔を見ると途中まで言ったところで黙って見つめる。

 

「……」

「な、何だよ。なんか俺の顔についてるか?」

「いえ、どうしてか前よりもお顔がテカテカされてるなーと思いましたので」

 

 レッドはその言葉がグサりと胸に突き刺さる。肯綮(こうけい)(あた)るとはこの事だ。

 

「ハァ……、全く、公衆の面前で妬かせるわね……お二人さん」

 

 エリカの後ろからナギがやって来た。

 

「あれ、レッドさん、フウロは?」

「ああ、フウロ……じゃなくてフウロさんならアララギ博士とベルっていう助手と一緒にヤマジにまで行きましたよ」

 

 ナギは一瞬眉を(ひそ)めたが、すぐに平然とした表情に戻り

 

「そう。じゃあ、私はヒワマキに戻るわ。じゃね二人とも」

 

 と言ってナギは搭乗口の方へと戻っていく。

 その後二人はポケモンセンターへと向かう。

 

―午後3時 フキヨセシティ ポケモンセンター―

 

 二人はチェックインの時間を待ち、漸く中に入る。

 色々と諸事を済ませた後、レッドはエリカを呼ぶ。

 

「なあエリカ」

「はい?」

「どうしてこんなに遅くなったんだ? お前電話でナツキさんの入院は三週間とか言ってたし……」

 

 レッドはまずそれが気になっていたので尋ねる。

 エリカは少し間を置くと、小さな声で話し始める。

 

「……、練習、してたんです」

「練習?」

「ええ、貴方、私と一緒にツーリングしたいって……仰られていましたから」

 

 確かに手をよく見ると肉刺(まめ)ができている。

 

「……え!?」

「私……、貴方の望む事は出来るだけ叶えてあげたい……。そう思って、下問を恥じない心持でサイクリングロードでジムの方々等に教わりながら、何とか乗れるように努力致しましたわ」

 

 エリカは頬を紅潮させながら言う。

 レッドはその言葉で心に銃弾を撃ち込まれた心情になる。

 

「あと一つは……これです」

 

 エリカはレッドの目の前に一枚の紙を見せる。

 上には茶色のような帯のマーク、そしてその下には……

 

「こ……これって」

「婚姻届。ですわ」

「俺、まだ16なんだけど……」

 

 レッドは言い返そうとするが、エリカはすぐに

 

「ええ、分かってますわ。ですから、今貴方に書いていただいて……18歳の誕生日に入籍するのです!」

 

 エリカは気分を高揚させているのか、いつもより声の調子が明るい。

 そして下を見るともう妻の欄にはエリカについての情報が書き込まれている。

 

「エリカ……」

 

 なんとも健気なエリカを見て、レッドは再びエリカに気持ちを戻す。そう、フウロの事などまるで忘却の彼方に捨て去ったかのように。

 

「私、今から心の中でだけでも貴方と本当の夫婦になりたいと思っておりますから……。貴方、書いて」

 

 エリカが言い終わる前にレッドはエリカを抱きしめる。

 

「エリカ……好きだっ!」

「は……はい」

「世界の誰よりも……好きなんだ!!」

 

 そういうと、エリカを強く抱きしめる。

 当惑気味にエリカはなったが、すぐにレッドの気持ちを受け止め。

 

「はい、私も……愛しておりますわ。レッドさん……」

 

 その後、(ニャー)をしたがいつも通り途中で邪魔が入るのだった……。

 どうしてエリカとの時だけ邪魔が入るんだろう……レッドはそんな事を思い始めている。

 

 そして、エリカが風呂に入っている時、気分が高鳴っていたレッドはライブキャスターを起動し、フウロ相手にメールを打ち込む。

 何かを忘れているかと思いきや、フウロの事を忘れていたのだ。

 そしてレッドは自身の事も書かれた婚姻届を写真にとり、それを添付して『ごめん』とだけ打ち込んで、送信ボタンを押した……。

 

―午後9時 ヤマジタウン 飛行場宿舎 221号室―

 

 宿舎内に居たフウロは、メールが来たのを知るや否やすぐに携帯の液晶を見る。

 そして、見ると

 

「嘘……っ……レッドくぅん……」

 

 その後三日間、フウロは宿舎の中で泣き続けたという……。

 

―第五十七話 歴史は動く〈下〉 終―

 

 

 

 

 

 




アウトっぽかったら、感想で指摘してください。適宜対処します。
『』←は、ポケモンの発言です。
次回は後日談+セッカ編です。


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