伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第五十話 梟の目覚め

 レッドとエリカは、最初の三匹を受け取る為、フウロの導きの下ヒオウギシティに向かう事にした、 

 

―ヒオウギシティ 

 イッシュ地方南西部にある都市。

 ポケモンセンターやジム、トレーナースクール等があるという一通りの施設が整っている街。

 名所は南西部の道路を見渡せるヒオウギ見晴台である。

 ジムリーダーのチェレンは今年よりシッポウシティのアロエに変わってジムリーダーとなった。

 

―1月27日 午後3時 ヒオウギシティ―

 ヒオウギに着くと、フウロは大きく伸びをして、

「はいっ、ここがヒオウギシティです。最近開発された街と聞きましたが中々良い街ですね!」

 都市化が進んでる割には、緑が多く、空気も澄んでいる。

「自然と文化が良い具合に融合してますわ。子どもが伸び伸びと過ごせそうです」

 と、エリカは簡潔に評す。都市アドバイザーにも手を出すつもりだろうか。

 レッドは用事を思い出し、ベルを探す。

 そうこうしていると、少し離れている所で騒ぎが起こる事にレッドが気付く。

「あら、何の騒ぎでしょうか……?」

 彼が、声の元に目をやるとそこには黒づくめの……、しかしロケット団とはまた違う格好の集団が街の入り口で狼藉を働こうとしていた。

「おうおうお前ら! ポケモン引き渡せ! 渡さないなら痛い目見るぞ!」

 その集団を見たフウロが、

「あ……あれはプラズマ団です!」

 明らかに狼狽しながら答える。

 フウロが驚いていると、すかさず横から眼鏡をかけた華奢(きゃしゃ)で賢そうな青年が出てくる。

「やれやれ、またメンドーな連中が……」

「あれ……チェレン君!?」

 少年を見たフウロが、目を見開かせながら話しかけていた。

「フウロさん……、お久しぶりです」

 チェレンと呼ばれた男は、フウロに一礼する。

「定例会で毎回顔は合わせていたけど……。本当、おっきくなったねー」

 フウロは、よしよしと頭を撫でる。

 チェレンは少し顔を赤くしながら、

「あの……、僕もう一応ジムリーダーなので」

 フウロはそれに対し、闊達な調子で

「ごめんごめん。どうもトレーナーとして頑張っていた頃の貴方の印象が強くてね……」

 どうにも掴めないので、レッドがフウロに一体この人は誰なのかを尋ねる。

 すると、フウロは答える前に、青年の方が

「お初にお目にかかります。ヒオウギジムリーダーのチェレンです」

 簡潔に自己紹介をすると、レッドとエリカに深々と一礼する。

 それに付け加えてフウロが

「この子二年前までトレーナーでね……」

 と続けようとするが、頭を上げたチェレンが

「フウロさん。あまり長く話している場合じゃないですよ! 街の入り口の方まで」

「そうだね。ここで鉢合わせしたのも何かの縁かもしれないし……。片付けにいきますか。お二人はどうしますか?」

 フウロが尋ねてきたのでレッドは

「俺もついていきます。どういう組織か見てみたいので」

 エリカもそれに同調する。

 と言う訳で四人は、プラズマ団の所まで移動することとした。

 

―入口付近―

 プラズマ団が蔓延(はびこ)っている場所まで行くと、プラズマ団はいよいよ町の中心部にまで突撃を敢行しようとしていた。

 しかし、チェレンがそれを止めるために喝破する。

「待て!」

「げっ! ジムリーダーだ!」

 どうやら、プラズマ団の方にジムリーダーの情報は流れているようだ。

 リーダーの登場に、下っ端の団員たちは士気が減退し始めている様子だ、

 しかし、下っ端の中を割って二人の男が前に出る。

「全く、ざわついて何事かと思えば……」

 水色の髪をした青年が始めに喋り、

「雑魚が楯突いてきただけですか」

 青緑の髪と、黒い帽子を被った青年が続く。

 道を開けられている事を察すれば、二人とも幹部クラスなのだろう。

「プラズマ団ね……。復活しつつあるとは仄聞(そくぶん)してたけど、まさかここまで来れるほど勢力を盛り返しているとはね……」

「それは褒めて頂いてると受け取って宜しいのでしょうかね?」

 帽子の青年が皮肉気味に答える。

「さぁね。好きに受取りなよ」

 チェレンも同じように嘲るようにして返す。

「ジムリーダーの評価など、我々にはどうでも良い事ですがね」

 と、水色の髪の青年は答えた。

「それはご(もっと)も。でもね、礼を守らずに僕の取り仕切る街に狼藉を働こうとする輩は……」

 チェレンは、静かにモンスターボールを持った右手を構えて

「例え神仏であろうと許さない! 行け、ムーランド!」

「あたしも支援するよ!」

 フウロがそう提案する。

「結構です! この町で起こった事は僕だけでなんとかしないと……」

 チェレンは冷たく突き放したが、

「全くー、そういう所全く変わってないね! 困ったときはお互い様だよ!」

 フウロはその何倍も明るい様子で返す。

 チェレンは少し困った表情をした後、吹っ切れた調子で

「はぁ……、勝手にしてくださいよ。じゃあ」

「勝手にするよー」

 フウロはバトルの為に、チェレンの横まで移動する。そして、スワンナを繰り出す。

 レッドとエリカが続いて支援の提案をするが

「いえいえ、これはイッシュの問題です。他地方の方の手を煩わせるわけには……」

「そうですか……」

 まぁ。所詮、悪の組織の幹部クラスだし助太刀は要らないかとレッドは思い、それでこれ以上突っ込むのは止めにした。あくまで傍観に徹することにしたのだ。

「役者は揃いましたか……、早く雑魚を掃討しなければ。行け、ヘルガー!」

「行け、ゴルバッド!」

――――――――――――――――――――――――

「う……、嘘!?」

「こ、こんなバカな!!」

 レッドの予想に反し、二人は敗北を喫した。

 序盤こそ押していたが、段々と力の差が露呈し始め最終的には総崩れとなってしまった。

「だから言ったではないですか……。”雑魚”が楯突いてきたぐらいでなにを騒いでいるのだと」

 水色の髪の幹部が冷酷に言う。

「何も根拠なく言うとでも思ったのでしょうかねぇ……、つくづく愚かな人たちです」

 帽子の幹部がそれに続く。

 レッド当人も驚きを隠せなかった。まさか、一般トレーナーでは歯が立たないレベルの強さを持ったジムリーダーがトレーナーですらない幹部如きに負けるとは……。と思ったからだ。

「あれだけ散々法螺吹いておいてこの体たらくですか」

 帽子の幹部が更に言う。

 チェレンは、抵抗を試みんと彼らに反論する。

「だからと言って貴方がたのしている行動が正しいというわけでは」

 しかし、水色の髪の幹部はチェレンに詰め寄り

「全く……」

 と言った刹那、すぐさまチェレンを蹴り飛ばす。

 華奢なチェレンにケリは相当に効いたのか、体は宙を少しだけ舞い、やがて遠くの路地を擦る。

「チェレン君!」

 フウロがすぐに蹴り飛ばされたチェレンの所まで駆け寄る。

 しかし、チェレンに反応はない。

「負けて、それで上っ面の綺麗事をのたまわれると虫唾(むしず)が走るのでね……。どんなに高邁(こうまい)で崇高な思想があろうと、実力が無くば滅んでいくだけ。負け犬は負け犬らしく、勝者の道理に従えば良いのですよ」

 と、水色の髪の幹部は冷笑しながら言った。

 幹部のようだが、首領の貫録さえ滲み出ているのは恐らく気のせいではないだろう。

「こ……こんな事……、まともな人間の言うことじゃない……!!」

 フウロは怒りに打ち震えているのか、声が震え、普段の調子とは違う様子だ。

「人間でない……ですか。上等です。我々、プラズマ団の計画は……いや、ここでいっても面白くありませんね」

 等と水色の髪の幹部は続ける。

 そうこうしていると、帽子の幹部が良い事を思いついたと言わんばかりに

「それにしても、この女……、中々に上玉ですね。サカキ様の蒐集(しゅうしゅう)に加えるのも一興ではないでしょうか」

 と、フウロの方を見ながら言う。

「それは上策かもしれませんね……。おい、連れて行きなさい」

 水色の髪の幹部は下っ端をあごで使うかのように指示する。

 無論、下っ端たちは指示に従い、数人で囲んで連れ去ろうとする。

「大人しくしろ!」

「嫌っ、放して!」

 こんな応酬が続いて、レッドは思わずリザードンを繰り出し、

「リザードン、火炎放射!」

 と、指示する。

 リザードンの炎は下っ端たちの制服に火をつけ、逃げ惑わす。

 やがて他の下っ端に消火されたが、取り敢えずフウロの周りから追い払う事に成功する。

「レ……レッド……さん」

 フウロは、背中を見せたレッドにそう言った。恐らく当惑しているのだろう。

「やはり貴方がたは我々を阻みますか……、レッド……そしてエリカ女史」

 水色の髪の幹部は外道でありながら一応の礼は心得ているらしい。

 そして、レッドは二人の幹部に対しチェレンに対する理不尽な暴力と、フウロを無理に連行しようとした事に対する強い怒りをも込めて

「当然。ポケモンマスターにならんとする者として、こんな悪行許すわけにはいかない!」

 エリカもそれに同調して、

「私も同意見ですわ。この街が貴方たちの下賤な色に染まってしまうのは宜しくありません」

 と返す。返答の質が異なるがレッドは気にしないことにした。

「ふう……なるべく貴方達との直接対決は避けたくはあったのですが……。止むを得ません、我々に抗うのであれば、排除するのみです。ランス!」

「ハッ!」

 どうやらあの、帽子の幹部はランスと言うらしい。そして多分、もう一人の幹部の方が立場は上そうだ。ボスに次ぐナンバー2なのだろうか。等とレッドは思考を広げている。

「行け、ヘルガー!」

「行け、マタドガス!」

――――――――――――――――――――――――――――

 こうして、レッドは2体、エリカは1体を失いはしたが勝利を収めた。

「……、ジムリーダーには勝てても、最強の夫婦には勝てなんだか……」

 水色の髪の青年はそう言って敗北を認めた様子である。

「まずい事になりましたよ……、ここは一度退いた方が」

「そうですね……、ここは戦略的撤退という事で。お前達! 撤退しますよ!」

 水色の髪の幹部がそう下っ端に指示すると、すぐに街のあちこちに居た下っ端たちは撤収を開始した。まるで軍隊のようだ。

「待ってください!」

 エリカが続いて引こうとした撤退を指示した幹部を呼び止める。

「何でしょうか」

 幹部は引き始めた足を止め、エリカの方に向き直る。

「一つお伺いしてもいいでしょうか」

「……、勝者の権利として一つだけ答えてあげましょう。何ですか?」

「あの……、もしかして貴方たちはエンジュ戦乱の時に居たロケット団の方たちでしょうか」

 エリカが尋ねると、アポロは鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情をした後、

「……、直に……分かる日が来ますよ」

 と言って、アポロはランスと大勢の下っ端たちに混ざって撤退していく……。

 こうしてプラズマ団はヒオウギから手を引いて、街に平和が戻る。

 

 

 黒い集団が遥か彼方へと消え去り、綺麗になった街の出口を見てレッドは

「たく、漸く居なくなったか……。この地方も厄介な連中がいるな……」

「……」

 レッドの後ろに居るエリカは無反応だ。何かを考え込んでいる様子である。

 そんな事を言ってると、二人の間に居たフウロが、レッドの方を向いて

「あの……、レッドさん! 有難うございました!」

 と言い、深々と頭を下げた。

「いやいや、咄嗟にやった事だし……。どうもああいう連中は昔から好かない性分でね」

 と冷静にいっても実のところ、結構嬉しかったりするのがレッドの本音だ。

「それにしてもチェレン君、大丈夫かな」

 フウロが案じていると、当人がフラフラではあるが

「つつ……、この通り、平気ですよ」

 と気丈そうに返す。地面に触れたせいか服が少し汚れている。白いワイシャツが台無しだ。

「だ……大丈夫ですの?」

 いつの間に我に返っていたエリカが、チェレンを心配した。

「こう見えても、一度はイッシュを回った経験があるのでね……、体は頑丈な自信があるんですよ。さてと、ポケモンセンターで回復させてジムに行きましょうか」

 と言ってチェレンが先陣を切ろうとすると、高い声が4人の辺りに響く。

「あっ、レッドさん! エリカさん!」

 声の主は、鶯色の帽子を被り、赤ふちの眼鏡をかけた少女だった。その少女は二人を呼びかけ、駆け寄ってくる。

「あれ、ベル?」

「ベルちゃん?」

 チェレンとフウロがまず勘付いた。

「あ! チェレンだー! 久しぶりだねぇ」

 ベルと呼ばれた少女はまずチェレンに飛びついた。旧知の仲なのだろうかとレッドは思う。

「いやお前、三日前も会っただろ。調査とか何とかでさ」

「あれー? そうだったっけ……。フウロさんは久しぶりですよねぇ」

 ベルは救いを求めるかのような目線を、フウロに向ける。

「うん。ベルちゃんは確か数か月くらい前にアララギ博士と一緒にフキヨセに来てたよね」

 そうですよねーと相槌を打って、ベルは安堵の表情になる。

 レッドはベルに対して、どこか抜けている印象を受けている。

「貴女がベルって人ですか?」

 レッドは、ベル本人に尋ねる。

「そーです! アララギ博士の助手をしています。二人とも、ヒオウギに着いたっていうから待っていたんですけど、待てど暮らせど来ないものですから、こっちから来てみたら……」

「待てよ、お前、あの騒ぎ知らないのか?」

 チェレンは驚いたかのような口調でベルに話す。

「あの騒ぎって何? ずっと見晴らし台に居たからわかんないよぉ」

「……、なるほどね。しょうがないメンドーだけど、かいつまんで話すぞ」

 チェレンは、ベルに自分がぶっ飛ばされた事以外は全部、騒ぎについて話した。かいつまんだのは都合の悪い部分だったというのは突っ込まない事にしようとレッドは胸の奥にしまいこんだ。

「ふぇ、怖いねぇ」 

「で、お前何しに来たの?」

 三日前にあった事すら忘れられていたことを少し根に持っているのか、チェレンはぶっきらぼうな口調でベルに尋ねている。

「そうだそうだ! 博士の依頼で、お二人にイッシュのポケモンをお渡しに参りました!」

「そ、そりゃどうも」

 レッドは、ベルの明るい口調に少し気圧されながらも毅然と答える。

「イッシュのポケモンは中々に貴重ですわ……。で、中身はなんですの?」

「はい! えーっと少し待っててくださいね」

 ベルはバックから長い筒状のショーウィンドウらしきものを取り出す。そして、それを持ち上げて、自動で透明な上蓋がしまいこまれて、取り出せる状態にし、二人に見えるようにする。

 最近はハイテク化が進んでいるなとレッドはふと思った。

 中には最早恒例の、三つのモンスターボールが入っている。

「右から草ポケモンのツタージャ。真ん中は水ポケモンのミジュマル。左は炎ポケモンのポカブです!」

「この前は水だったしなぁ。ポカブで!」

「やはりここは草使いとして……、ツタージャでお願いいたします」

 二人とも存外早く決定した。思考時間およそ1分だ。

 ベルは先ほどの透明ケースをしまって、

「はい! お二人とも決まりましたね」

「これでイッシュの準備も万端……っと! まずは最初のジム。えっと、チェレンさんでしたっけ宜しくお願いします!」

 チェレンは、あららと言わんばかりの様子で、眼鏡を少し上げて、

「名前ぐらいしっかり覚えてくださいよ……。さて、そうですね! でもまずはポケモンセンターに」

 と言ってチェレンが準備を進めようとすると、フウロが

「待って! あたしもその……加わってもいいかな?」

 と提案する。

「はい?」

 チェレンは何を言われたか分からなかったのか、聞き返している。

「だからー、タッグバトル! あたしとチェレン君が組んで、一気にバッジ二つあげちゃおうよ!」

「いやあの、負け前提で話するの止めませんか? 立場ってものがあるんですけど」

 チェレンは焦り気味でフウロに注意する。

「だってさっきの戦い見てればどっちが勝つかは一目瞭然じゃない」

「フウロさん……。いやもう何でもないです」

 チェレンは最早何かをいう気力も無いようだ。フウロにベル。天然キャラ二人の相手は相当に精神を削らされるものなのだろうか……。などとレッドは考えている。

「ふぇぇ……、伝説の夫婦vs現役ジムリーダー×2! そうそう見れない世紀の対決がぁ……」

 ベルは、何かを含んだような言い方をしている。

「別に中に入って観戦してもいいよー?」

「いやそれ決めるの僕なんですけ……全然聞く気ないや」

 チェレンは完全にフウロのペースにもってかれている。

「いえ、そういう問題で無く、私アララギ博士から呼び戻しが掛かってるんですよぉ……。待ちきれずにここまで下ったのもそのせいで……」

 ベルは残念そうな表情と口ぶりで話している。

「そっか。それじゃ仕方ないね……」

 と言ってフウロはため息をつく。どこか落胆して落ち込んでいる様子だ。

 そんな憂いのある姿にレッドはさらに心奪われていくのだ……。

 

 こうして、ベルと別れ、四人はポケモンセンターで回復させる。

 そして、レッドとエリカはイッシュ初のジム戦に挑むのだ……。

 

―第五十話 梟の目覚め 終―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




水色の髪=アポロ。
帽子の青年=ランス

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