伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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今回はvs四天王の残り+ワタル戦。そして、内国の地を旅立つまでを扱います。
割と長いですよー、結構詰め込んでるので……。

その為、全体的に戦闘は短めです。ご了承を。このSSは元々バトルに主眼を置いてないので……。


第四十八話 鹿島立ち

―1月21日 午後3時30分 ポケモンリーグ キョウの部屋―

 キョウはスカタンクとドグロッグ。レッドはカメックス。エリカはキノガッサを繰り出す。

「スカタンク、カメックスにどくどく」

 スカタンクは、菊門から猛毒を放出する。しかしカメックスは掠める程度で済み、何とか毒の洗礼を受けずに済んだ。

「カメックス、スカタンクにハイドロポンプ!」

「キノガッサ! ドグロッグにきのこの胞子です!」

 当然のごとく、ドグロッグに、胞子の芳香が向かう。そして、ドグロッグはぱたりと眠りこいた。

 そして、カメックスの放った水流はスカタンクに直撃する。そして、水流は直撃したまま壁にまで、轟音と共に当たる。それと共に、黒い巨体は無残にも一撃で倒れた。

「……ファファファ! ここまで来るだけの事はあるでござるな。そうだ、拙者はその強さを求めてきた……」

 手持ちが倒れたというのに、キョウは高笑いしている。

「どうして……手持ちがやられたのに笑っていられるんですか」

 キョウは一度天を仰ぎ、

「忍びなぞ、常に死と隣り合わせでござる。いちいち手持ちの生死など構ってはおれん、それに……」

「それに?」

 レッドは次を促した。

「四年も会わぬうちに、四天王のポケモンをものの数分で倒す程にまで腕を上げる……、拙者も色々なトレーナーを見てきたでござる。その中で……最強には及ばぬが、間違いなく五本の指には入る実力ぞ」

「その口ぶりですと、レッドさんが最強ではないと仰せになりたいのですか?」

 エリカは、突如キョウに尋ねた。

「拙者はお主等よりも何年も、何十年も長く生きた故な。レッドよりも強いトレーナーは居る事にいるでござる」

 レッドはそれを聞いて、すぐに誰か言うように尋ねてみたが……、

「拙者に勝てたら教えて進ぜよう。さあ続きをするでござる! 行け、ベトベトン!」

……

 こうして、レッドは2体失い、エリカは全滅。残ったカメックスはHP黄色ゲージと、際どい勝利を収める。

「うむ、やりおったな……。もてる力全てをお主達に使ったつもりだが……、それで勝てぬというのなら鍛錬をさらに重ねるのみよ」

 キョウが締めようとしたところで、レッドは勝者の権利として尋ねてみた。

「あの……、それで俺よりも強いトレーナー……って?」

 キョウはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情で、レッドに返す。

「少なくとも二人居るでござる。拙者がまだ幼い……一介の見習いだった時分の話よ。一人は流れ者で忍術の修行をして、僅か10年で並みいる上忍を押しのけてチョウジ屈指の忍びとなった方。もう一人はそのご友人だ」

 エリカはその情報を聞き、何かに引っ掛かったようでキョウに尋ねる。

「それってもしかして……、ヤナギさんの事ですか?」

「おお、その通りだ。ヤナギ殿がまだ忍術の修行する前の話……、確かカントーとジョウト両方を旅している最中とか言ってたな……。それでたまたまご友人が同じ町に来てたというから勝負をしていた訳だ」

 二人はキョウの話に聞き入っている。

「その強さは半端ではなかった……。バトルが終わったときには周りの木々はほぼへし折られていたし、地面などめくれ上がっておったでござる。子どもながらあれはすごいと思うたな……」

 話が見えてこないので、しびれを切らしたレッドはキョウに詰め寄る。

「そ……それがどうして、俺より強いという結果に終わるのです?」

 レッドの尋ねに、キョウは現実に戻ったかのような口ぶりで、

「本物の達人というのは、自分が達人という事さえも忘れて没頭するものでござる。今思えば、二人とも、本気ではあったがどこかしらに童心が見え隠れしていた。純粋に勝負を楽しむ、路傍で戦う短パン小僧の如き心が……な」

 しかし、レッドは未だに分からぬ風だ。改めてキョウに尋ねる。

「だから、それのどこが」

「貴方、それはつまり……」

 エリカは分かっているようなので、夫に分からそうとする。しかし、

「良い女史。その答えは自分で見つけさせるもの……。レッドよ、お主の力は絶大。力のみでいえば、我らの頂点に立つチャンピオンをも圧する事が出来るやもしれぬ。負けた拙者が言うのが烏滸がましいことは分かっておる。しかし、お主にはまだ心構えが成りきっておらぬ。頂に上らんとする強き者としての心構えが足りぬでござる」

 その後も少し話して、キョウの次へと向かう。

 レッドは、キョウから言われた後、反芻して考えはしたものの結局何のことか分からずじまいであった……。

 

―シバの部屋―

 部屋の中は妙に熱かった。当然である。なぜなら、傍らでマグマらしきものが沸騰し続けているからだ。

「な……、何ですかこれ……」

 エリカは、熱にやられているのか、いつもより声調が弱い。

 か弱い彼女も可愛いなぁ等と思っていると、シバが話しかけてくる。

「ここは精神の修練の為に周囲にマグマを置いている!」

 シバは相変わらずの上半身裸だ。容貌魁偉(かいい)と形容すべきその鍛え抜かれた肉体は、まさに豪傑と呼ぶべきだろう。

「シバさん!」

「うむ、タンバ以来だな。レッド……そしてエリカさん」

 シバはエリカの事をさんづけで呼んでいる。少しだけキョウとは年齢差を感じた。

「あの時は汚いものを見せつけてしまい申し訳なかった……」

 レッドはそれで、タンバの時に見てしまった(くそみそテクニック)な現場を思い出す。吐いてしまいそうになったが、直前でなんとか押し戻す。

「いえいえ、ま、まあそういう世界もあ、あ、ありますからね!」

 レッドはしどろもどろに、冷や汗をかきながら答える。

「何ですの? その、汚いも」

「何でもないよ!」

 そういえばエリカは、あの現場を見てなかったんだ……。思い出したレッドは必死にエリカの発言を制する。

「さ……左様ですか」

 レッドの大いに焦りながらの制し方に何かを察したのか、エリカは引き下がった。

「あ、あの、四年ぶりですね。戦うの」

 レッドは焦りながら話題を切り替えようとした。

「そうだな……、思えばあの頃俺はまだノン」

 またそっち系の話に戻そうとしたので、レッドは更に話を変えようと試みる。

「あ、あのっ、そろそろ勝負しません!?」

「そうだな。だがその前に自己紹介だ」

 知り合いの自己紹介なんかいらねえよ! と突っ込もうと思ったが、話が進まなくなりそうなので、シバに任せることにした。

「俺は三人目の四天王。シバ! 俺は、シジマさんやトウキ等と共に互いを研鑽し合い、俺、そして俺の手持ち達共に可能性を信じ、限界まで鍛え続けている」

 その傍らであんなこともしてるのか……。てことは何、シジマさんはともかく、トウキさんはまさか……(ニャー)!? などとレッドは思っている。

「そうして、鍛え抜かれたいわば名刀の如き強さを持った俺たちに勝てると思うか?」

 シバの問いかけに対し、エリカが答える。

「貴方たちが名刀の強さを持つというのなら、私たちはアイギスの如き盾で対抗致しますわ! そして」

 シバがポカーンとしていたので、レッドがエリカに呆れ気味の視線を送りつつ、後ろ手で背中を叩いて、引いてるぞ。と合図する。まあレッド当人も分かっていないのだが……。

「し……失礼いたしました。では、白楯(しらたて)の如き……」

「そういう問題じゃねえんだよ。もう黙ってくれ……頼むから……」

 切実な目でエリカに言い掛ける。承知したのか、エリカはそれ以上何かをいう事はなかった。

「……、ハハハっ! 相変わらずだな。エリカさん……。それにしても二人のその目に怯えは微塵も見当たらないな。それでこそ俺とやり合うに相応しい! では、俺たちの力、とくと味わうがよい! ウー! ハーッ!」

 

 シバはカポエラーとハリテヤマを。レッドはリザードン、エリカはワタッコを繰り出す。

「カポエラー! ワタッコにインファイト! ハリテヤマ! ビルドアップ!」

「ワタッコ! 日本晴れです!」

 フィールドが日照り状態になる。

「ここは先手必勝だ! リザードン、ハリテヤマにエアスラッシュ!」

 リザードンは、口内で生成した空気の刃をハリテヤマに喰らわす。タイプ一致の上に、効果は抜群だ! 無論、一撃で倒れた。

「まだまだぁ! こんなものじゃ、俺たちのハイパーパワーは挫けぬよ! 行け、サワムラー!」

 サワムラーは出てくると、自慢の長い脚をシュッシュと伸縮させる。威嚇しているようだ。

「同じこと……、リザードン! サワムラーにもう一回エアスラッシュ!」

 しかし、リザードンの攻撃は惜しくもサワムラーの右足を通り過ぎるに終わってしまう。

「好機! サワムラー! ワタッコにブレイズキック!」

 サワムラーの炎を纏った脚は、ワタッコに命中。そして長い脚であるが故か、思いっきり壁まで叩きつけられた。

 これが普通ならば、所詮は威力不足の不一致で片づけられるが、運悪くも日照り状態。しかも急所にあたってしまう。最悪のコンボが重なり、ワタッコは先ほどのインファイトも重なり、倒れた。

「……、流石は四天王。あらゆるタイプに対抗できるよう準備を怠っておりませんのね……」

 エリカは少しだけ悔しそうに言う。

「この位で感心しては困るな! まだ戦いは始まったばかりだ! カポエラー、リザードンにインファイト」

……

 こうして、レッドは二匹失い、エリカも二匹失う。残ったポケモンの体力は赤ゲージと土壇場で何とか勝利を収める。

「どうしたことだ……! 俺の……俺たちの軍団が敗れるとは……。負けた俺に何も語る資格は無い! 先に進み、四天王最強の人物と戦うと良い!」

 そういうと、シバは後ろを向き、仁王立ちをする。その様はさしずめ呂布と言ったところか。先に進めと言われたので、いよいよ四天王最後の戦いに臨む。

 

―カリンの部屋―

 先ほどの暑苦しかったシバの部屋とは一風変わって、今度は暗色系のインテリアをふんだんに使った落ち着いた……しかしどこか背筋がうすら寒くなる雰囲気の部屋である。

「ようこそ、四天王最後のお部屋へ!」

 その大人びた、なんとも扇情的な服装の女性は、歓迎して二人を迎え入れる。

 そして、そういう女性に人一倍敏感なお年頃のレッドは、その姿に目を奪われる。

「あ、ど、どうも! こんばんは」

 エリカは普段から清楚な服装を心掛けているため、スカートは常にロングスカート。上は二の腕の出ない袖つき、ノースリーブは以ての外……等などと露出度の低い形をしている。

 それはそれでレッドは嬉しがったりするのだが……。

 その為、このようなセクシーな服装には滅法弱いのがこの男だ。鼻の下が嫌でも伸びる。

「貴方ー、まだお昼ですよ~」

 と、言いながらエリカは、気持ちが浮き始めているレッドを諌める。そういう意味も含んでいるのか、履いている雪駄で軽くレッドの足を踏みつける。

「いてっ……、こ、こんにちはー」

「フフ、いいご夫婦ね。こうして見ていると本当、ただの年頃のカップルにしか見えないわよ……」

 吐息をしながらカリンは言う。恐らく、他意はなさげだ。

「いやいや、それほどでも」

 レッドはまたも照れながら、手を後頭部に回す。

 エリカは、愛想笑いをしているがその裏の意がそれとなく読み取れたので、あまり長いことやるのは止めにした。

「さてと、自己紹介しようかしら。あたくしは最後の四天王のカリン! 貴方たちが伝説の夫婦であるレッドにエリカね……。噂は散々聞いているけど、なかなか楽しませてくれそうな目をしてるじゃない……! あたくしが愛してやまないのは悪タイプ! ワイルドでタフな……、そんな任侠とも言うべきタイプ。素敵でしょ?」

 素敵でしょ? 等と言われても悪タイプといったら、文字通り悪いイメージが強いので返答に窮していると、エリカが答える。

「素敵ですねー、しかし、任侠というのは少ないながらも良い部分があるが故の言葉です。本物の悪というのは任侠という言葉すら一笑に付すべき大悪人ですわ」

 エリカはやはり、悪という存在を嫌っている。こんな事をエリカが言うと、カリンは高笑いをする。

「アハハハっ! 面白いわね。これは楽しい戦いになりそうだわ……。では、始めましょ!」

 

 カリンはマニューラとドンカラス。レッドはカメックスを、エリカはキノガッサを繰り出す。

「マニューラ! キノガッサに冷凍パンチよ」

 マニューラはその尋常ならざる敏捷(びんしょう)さを活かした身のこなしで、鮮やかにキノガッサに冷凍パンチを喰らわす。

 先手必勝の代名詞と言えるマニューラは、その言葉通りの効果を発揮する為か否か、高い攻撃力をも具有している。そして、まるで当然のように、キノガッサは一撃で倒れた。

「……、流石は最後の四天王。格が違いますわ」

「光栄ね。でも。これぐらいで怖気ついてたら詰まらないわ、もっと楽しませなさいよ! ドンカラス! カメックスにつじぎり!」

 ドンカラスは、カメックスのもとに突撃する。そして、刀扇と化した翼で次々と切りつける。甲羅との摩擦音がフィールドに響く。

 斬り終わると、ドンカラスは思い切りカメックスを突き放し、定位置に戻る。そして、カメックスはやはり壁に叩きつけられる。

 効果が普通といえども、あのドンカラス。その上タイプ一致だ。威力不足とはいえHPの三分の一が削れた。

「カメックス! ドンカラスに吹雪!」

 吹雪はギリギリのところで、ドンカラスを逸らしてしまった。

「チッ……、やっこさん、こりゃかなりの猛者だ……!」

 レッドは少しだけ冷や汗をかいている。

「あら、まさか戦意喪失でもした?」

 カリンは微かに笑いながら尋ねる。

「まさか、むしろ燃え盛りますよ。攻め落とす城は……、堅固であればあるほど落とし甲斐があるってもんです!」

「いい度胸ね! 本当、いい坊やね! マニューラ、カメックスにけたぐり!」

 ここで、エリカが替えのポケモンを繰り出す。

「おいでなさい、ユキノオー!」

 天候があられになる。

「ナイスだエリカ! カメックス! もう一回吹雪!」

……

 こうして、レッドは2体失い、エリカは全滅。その上、残ったリザードンは赤ゲージ。と、四天王最終戦らしい辛勝を収めた。

「強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。真に強いトレーナーであるなら、好きなポケモンで勝ち上がれるように頑張るべき」

 カリンの名言は、若干変わったはいたが改めて聞くと深いものがある。レッドにもラジオで耳に入っていた故に、それとなく感じ入っている。

「いいわね貴方達。大事なことが分かっているわ……。さて、チャンピオンの下へ行きなさい。貴方たちの事、首を長くして待ってるわよ。さっき様子見に行ったら、あの赤い髪セットしてて、あとマント着替えてたわね」

 うわあ、エリカ来るから格好つけようとしてんじゃん……とレッドは内心思ったが突っ込むのは止めた。

「相当に気合入ってますね」

 しかし何にも返さないのもあれなので、一応返すだけ返しておく。

「そーね。どうもワタルさん、貴方達が最後のバッジ取ったという知らせ入ってからずっとそわそわしてて……」

 もう確定だ。どうみても確定だ! 等とレッドは思う。

 その後、もう少し経ってワタルの下へと向かった。

 

―ワタルの部屋―

 流石にチャンピオンの部屋ともなると豪壮だ。

 龍を(かたど)った内装に、数々の歯車が音を立てながら回る。

 長い直進の道を通ると、いよいよチャンピオンであるワタルがおでましになる。

 心なしかいつもより凛々しく見える。赤い髪はワックスを付けたのか光り輝いており、マントも完全におニューだ。埃ひとつついていない。

「よく戻ってきたね……、二人とも」

 ワタルの方から話しかけてきた。

「何だか、すっごい遠回りした感じが……」

 レッドは皮肉交じりのことを言う。

「まーまー、漸くイッシュへの渡航許可が取れたよ」

「本当ですか!?」

 レッドより、むしろエリカのが嬉しそうだ。新しい世界に行くことが余程うれしいのだろう。箱入り娘だったらしいだけに尚更か……。

「僕、嘘はつかないさ。ただ、その前に勝負だ! 君たちがこの一か月、カントーで何を得たか、何を見てきたか! それをこのカントーのチャンピオン……そしてフスベ最強のドラゴン使いとして。刮目(かつもく)して見させてもらおう」

 こうして、内国最後の決戦の幕が切って落とされた。

 

 ワタルはボーマンダとギャラドス、レッドはピカチュウ、エリカはルンパッパを繰り出す。

「ルンパッパ、雨乞いです!」

 フィールドに雨が降り注ぐ。

「ピカチュウ、ギャラドスに雷」

 4倍効果に加えてタイプ一致の雷が下る。無論、ギャラドスは一撃で倒れる。

「力押しだ! ボーマンダ、ピカチュウにドラゴンクローだ!」

 ボーマンダは、猛烈な勢いでピカチュウに襲いかかる。そして鋭利な爪で弾き飛ばされたピカチュウは宙を舞い、遥か遠くに吹っ飛ばされた。流石ボーマンダだ。

 ピカチュウは一撃で倒れた。

「……、行け、カメックス! ボーマンダに冷凍ビーム」

 カメックスの放った氷の筋はボーマンダをしっかり捉える。不一致とはいえ、四倍のダメージ。致命傷とはならなかったが、三分の二程削れた。

「行け、チルタリス! カメックスに龍の息吹だ!」

……

 エリカは全滅、レッドはリザードン、ワタルもリザードンを残している。

「ここまで僕を追い詰めるとは、流石、4地方を巡ってきただけの事はあるね」

「褒めるのはまだ早いですよ、まだ決着はついちゃいないです」

 レッドはにやりと微笑みながら言う。

「喋りもさまになってきたねぇ……。これからが本当の勝負だ! どっちのリザードンが強いか、ここで証明しよう。リザードン! エアスラッシュ!」

「リザードン! 龍の波動!」

 対ワタル戦の為にエアスラッシュの代わりに先ほど覚えさせた龍の波動を、リザードンに用いる。

 互いの攻撃は、痛烈な一撃とはなったが、流石に致命傷には成り得なかった。

「ここで終わりにしよう……、リザードン! 破壊光線!」

 ワタルは、一か八かの賭けに出てきた。もしこの攻撃でリザードンが倒れない。そんなことが起これば、反動の影響で、自らの敗北は決定的になるからだろう。

「賭けに出ましたね……。ではこっちも賭けに出ましょうか……。リザードン、オーバーヒート!」

 現在の天候は、少し前の散り際にやられたエリカのダーテングによる日本晴れ状態。それに加えてタイプ一致、サンパワーの特性による1.5倍。

 レッドはこの莫大な威力が、いま一つの相性を覆す事を信じたのだ。

 そして、互いのリザードンは指示が下るや否やすぐに技に即した行動をとる。

 白い暁光の如き光線と、真紅の燃え盛る太い炎の束。互いの攻撃は交差し、それぞれのポケモンに直撃する。

 煙があたりを包み、しばらくの間互いのポケモンが見えなくなる。一分ほど経過し、煙が晴れると満身創痍でありながら両体とも立っていた。

「ど……、どういう事だ……。あんな一撃を喰らってもまだ立ち続けている……?」

 まず口を開いたのはワタルである。

「どうやら、互いのリザードンはまだ戦意が残っているようですね……」

「そのようだね……。ポケモンの意に出来るだけ応えることが僕らトレーナーの責務。でも、これ以上無理にやれば死にかねない。互いにこれを最後としよう……。異存はないね?」

「え、しかし反動は?」

 破壊光線は、当然のごとく1ターンの反動がつく。

「それも含めての最後さ。もし、君のリザードンの攻撃を喰らっても倒れなければ、僕が止めを刺すよ」

 最後の一言はどこか冷徹に聞こえた。

「異存は?」

 ワタルは明瞭な声でレッドに問いかけをする。

「無い!」

 レッドはそう強く言い放つ。

「リザードン! エアスラッシュだ」

 リザードンは、レッドの指示が下ると最後の力を振り絞る。そして、細長い槍の如き空気の刃を、反動で足場の定まらないワタルのリザードンに放つ。

 空気の刃は投槍兵の放った槍の如く確実にリザードンを射抜いた。

 射抜かれたリザードンは、一度仁王立ちをしたかと思うと、その巨体を地につける。リザードンは倒れた。

 そして、レッドのリザードンもサンパワーの影響でワタルのリザードンが倒れてから数十秒後に自らの体を地べたに預けた。

 

「やれやれ……。僕もまだまだだね。おめでとう、レッド君、エリカ君。君たちが新たなるカントーのリーグチャンピオンだ!」

 ワタルは、晴れやかな表情で新チャンピオン誕生を祝う。尤もリーグに残る気はさらさら当人たちにはないので、結局ワタルのままなのだが……。

「有難うございます!」

「さて、これから色々と話さなきゃいけないことがあるんだけど……。まずは殿堂入りの儀を済ませよう。話はそれからだ」

 という訳で二人は殿堂入りの儀式を済ませて、ワタルの案内に従ってリーグ内の広場に戻った。

 

―同日 午後7時 ポケモンリーグ 広場―

 三人は広場に戻り、適当なソファに座ってイッシュ地方に行く際の話することになった。

「という訳で、漸く昨日渡航許可を貰えたから、許可証を渡すよ」 

 と言ってワタルは二枚のパスポートに似た許可証を手渡す。IDカード形式になっており、写真が貼付されている。

「有難うございます。それで、イッシュにはどのようにして行くのでしょう?」

 エリカがワタルに尋ねる。

「ヒワマキシティにまで行ってもらう」

「ヒワマキ!? ずいぶん遠くないですか?」

 レッドはまずそのことに驚いた。

「仕方ないんだよ。人を乗っける旅客機が用意できるのも、滑走路があるのも内国にはヒワマキ以外にはないからね……。ああ、ちゃんとナギ君には話つけてあるから心配しないで」

「なるほど……、何か心に留めておいた方がいい事はありますか?」

 エリカは更に尋ねる。

「そうだねぇ……、プラズマ団という組織があっちの地方にある。二年前にある少年が一回潰したらしいんだけど、今になってまた復活の兆しが見え始めているらしい。カツラさんからの報告だと、ロケット団もイッシュで復活したとかしないとか……。何もなければいいけどね」

 ワタルは神妙な表情で話す。

「そうですか……、気を付けておきます」

「君たちほどの力があれば大丈夫だよ。何も案ずることはない。さてと、最後の地方頑張るのも結構だけど、楽しんできなよ! 健闘を祈っている」

 そういってワタルはマントを翻しながら、何処ぞへと立ち去って行くのであった。

「そうか……、本当に最後なんだよな……」

 レッドは今までの旅を思い起こしながらそんなことを言う。

「とはいえ、感傷に浸ってばかりはいられませんわ。最後であるからこそ、有終の美を飾るべく気張らなければ」

 時々、エリカは自分より全然別のところで闘っているという気がする。とレッドは思った。

「そうだな。さてと、明日は移動だ……。今冬だから、ホウエンも丁度いい気温なんだろうな」

 その後も少し談笑して、二人はリーグで宿泊。そして5日かけてヒワマキへと空を飛ぶで移動した。

 

―1月26日 午後2時 ヒワマキシティー

 5日の移動を経て、二人はヒワマキシティに到着した。

「相変わらず空気の美味しいところです」

 エリカは着いてすぐに深呼吸をし、そう言った。

「思った通り、丁度いい具合に涼しいな……。にしてもエリカの言うとおり、本当空気が美味しいね。マサラを思い出すよ」

「田舎というのは時に良いと思えるものです。さてと、ナギさんがポケモンセンターの前に居ると聞いたのですが……」

 あの後ワタルから連絡が入り、ナギがヒワマキのポケモンセンターの前で待っているという事だったが……。

「あ、来た来た! お久しぶりね。二人とも」

 ナギが二人の横からコツコツと歩きながらやって来た。

 相変わらずのスラッとした体。そして、エリカとは違って少し熟れている感じにレッドは目を奪われそうになったが、話だけはしっかりしようと試みる。

「どうもー、半年ぶりですね」

「早いものね。半年前私に勝って、今や内国から出て更なる新天地に行こうとしてる訳か……」

「いやいやそんな大層なものじゃ……」

 レッドは少し照れ気味に対応する。

「今思うとあの時……船で貴方たちに対して酷いことを言った自分が小さく見えるわ……。重ね重ね、本当に申し訳ないことをしたわ。ごめんなさい」

 ナギは未だに船での失言を悔いているのか、浅く頭を下げる。

「いえいえ、あれはあれで私に木に隠れているだけだという事に気付かせてくれたのです」

 エリカはそうフォローした。

「ならば良いけど……。さて、滑走路のある航空大に行きましょうか」

 こうして、二人は航空大へと向かった。

 

―同日 午後3時30分 ヒワマキ航空大学 待合室―

 ヒワマキ航空大学は、全国で二つある航空大学の一つ。(もう一つは行き先のフキヨセ航空大学)

 2000m超えの滑走路が数本用意されており、学生は数百人を擁するホウエン屈指の大学である。

 待合室の窓からは、第一滑走路を臨める。二人はあの滑走路を使ってイッシュへと旅立つ。

 航空機の整備が終わり、ナギが再び、待合室の椅子で待っていた二人の前に現れた。

「パイロットを紹介するわ。私と、フキヨセシティジムリーダーのフウロよ」

 ナギに紹介されると、フウロと紹介された人物は、こつこつと待合室に現れた。

「初めまして! あたしが今回、パイロットを務めさせて頂くフウロです! 宜しくお願いします!」

 フウロは、爽やかに挨拶する。

 レッドはその豊満な肉体に加え、露出度の高い衣装を相まって釘づけになった。

「そんな敬語ばかり使わなくていいのよ……。一人は年下。もう一人は同業者なんだから……」

 ナギは、フウロの緊張をほぐそうとしたのか、そんなことを言う。

「いえ、最早全国を時めくお二人の前で粗相をしでかしては……」

 よく見ると彼女は冷や汗をかいている。余程に緊張しているのだろう。そんなけなげな姿にレッドは更に胸を締め付ける。

「ほんと、そういう生真面目なところ変わらないわね……、時には肩の力抜くのも大事よ?」

「こ、これは、性分なもので……」

 フウロは終始声が異様に高く、早口だ。ここからも緊張している事が見て取れる。

「さてと、これからいよいよ向かうんだけど……。トイレ大丈夫? 数日はかかる長旅になるわよ」

 ナギが尋ねる。

「はい、もう行って参りました」

 エリカはそう快活に答える。

「レッドさんは?」

 フウロが尋ねる。

「……」

 レッドは、フウロに合って以来呆然としている。

 こんな健康的な色っぽさを持った子がいたのか……、なんか性格も良いし。と、完全にレッドはフウロに気を奪われている。

「レッドさん?」

 フウロは、返答のないレッドに対し、困ったような表情をして更に尋ねる。

「!……は、はい大丈夫です」

 レッドは漸く現実に戻って、そう返答した。

 エリカはレッドの不審に気付いたのか、どこか怪訝(けげん)な表情をしている。

「そ、じゃあ向かいますか!」

 という訳で四人は飛行機に向かうのだ。

 

―道中―

 四人は徒歩で飛行機まで向かう。

「思ったんですけど、この飛行機でどこに向かうんですか?」

 レッドは前を歩いていたフウロに尋ねた。

「あたしとナギさんが交替交替で操縦しながら、フキヨセシティに向かうよ!」

 フウロはまるでお姉さんのような口調で、レッドに話す。

「何で俺には敬語じゃな」

「あわ……、ごめんね。どうも、年下の子と敬語で話すのは慣れてなくて……」

 フウロはレッドに謝る。

「いやいや大丈夫です」

 むしろそっちのほうが妄想の余地が広がって……等とやはりレッドは思春期だ。

「気を遣ってもらったみたいで悪いね……」

 フウロはどこかしおらしい口調になっている。

「そういえば……フキヨセシティって、フウロさんが……ジムリーダーを務めて……いる街でしだっけ?」

 レッドはしどろもどろながらもフウロに尋ねる。

「そうだよー、着いたら是非真っ先に挑戦してよ! 貴方たちの力、知りたいし」

 フウロは流れるような口調で話す。

 そんな調子で話していると、二人より先行して歩いていたナギがレッドに喚起する。

「はいはいそこでイチャついているお二人さん! 特にレッドさん、貴方はエリカさん寂しがらしちゃいけないでしょ!」

「いいんですよ別に……」

 エリカは確かに寂しそうな表情をしている。どこか儚げで美しい……。

「す、すみません……、ごめんなエリカ……」

 そんなこんなで、二人は飛行機に搭乗した。

 

―機内―

「これが貴方達の乗る飛行機よ!」

 ナギが自慢げに見せたその飛行機は、小さいながらもそれなりに立派な内装であった。赤絨毯の床に、ふかふかのリクライニングシートだ。

「これは、中々……」

 レッドは感心しながら言う。その後すぐに最前列のエリカの隣に座った。

「来賓を迎える為にも拵えているものだからね」

「整備はあたしがしました!」

 フウロは、自らの胸を叩いて自信に満ち溢れた表情で言った。

「この前みたいに、機関室のネジが緩んでて……みたいな事ないわよね?」

 ナギは笑いながら言う。

「無いですよ!コックピットから尾翼まで、津々浦々しっかりと点検しました!」

 フウロは少し意地っ張りに言う。

「そ、一応信用はしておくわ」

 ナギは相変わらずの冷たさだ。

「どうして全幅の信頼を置いてくれないんですか!」

「私たちは、乗客の命を預かっているのよ? 一度の失敗も許されるものではないんだから……、これから2000回失敗しないというなら信頼置いてあげてもいいわよ」

 ナギにはSの素質がありそうだ。そんな事をレッドは思った。

「うう……」

 フウロはしょんぼりとしてしまった。

「あ、そうそう! わかってると思いますけど、シートベルトをちゃんとつけてくださいね!」

 フウロは、気を紛らわす為か否か乗客に注意を喚起する。

「あのー、付け方が……」

 この世界では、船や鉄道を使うことはあっても、飛行機や自動車などの乗り物にはまず乗ることがない。その為シートベルトの使い方を知らない人が多い。

「それはですね」

 フウロはすぐに、レッドの座席に赴いてベルトの付け方を手取り足取り教えてあげた。

 一方のエリカはどこかうらやましそうな視線をフウロに注いでいる。

「準備はいいわね! それじゃあすぐに出発するわよ、フウロ!」

「はいっ!」

 こうして、1月26日 午後4時22分 小型の機体は内国の地を飛び去った……。

 

―第四十八話 鹿島立ち 終―

 

 

 

 

 

 

 

 




漸くカントー編終わりやしたー!

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