伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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今回は、vsグリーン戦です。
あと、今更ながら一人称と三人称混じってますが、俺が出てきたら一人称だとかで判別してください。
なるべくわかりやすくはするよう努力はするので……。分かりづらければご指摘を。


第四十五話 赤緑の天王山

―1月17日 午前11時 トキワシティ ポケモンセンター前―

 レッドとエリカは、カントー最後のジムリーダー、グリーンに挑む為、二度目のトキワシティにへと舞い降りた。

 そのジムに向かう道中の事。

「いよいよカントー最後のジムか……、内国とかいうくくりでいうなら本当に最後になるわけだな」

「そうですわね……」

 エリカは珍しい事に、到着してから……いや、グレン島より飛び立った時から言葉に覇気が無い。まるで抜け殻のような生返事を繰り返しているばかりである。

 朝の時など、普段は朝一番で「貴方ー、朝ですよー!」と、愛らしく清らかな声で起こしてくれた。しかし、今日ばかりは何故か俺の方が早く起き、逆にエリカを起こす……。その前に少し性的ないたずらしたというのは内緒だが。

「おいおい、今日お前どうしたんだ?」

「……、お構いなく。少し、調子がすぐれないだけなので……」

 と、エリカは額に手を垂直になるように当てながら、か細い声で答える。

「……、むう。そうか。無理はするなよ」

 彼はエリカ以外の女性と付き合ったことが一回としてない。なので、女性がこのように不機嫌な時にどうすれば良いか最良の術を知らないのだ。その為、彼は放っておく以外に出来る事はないと思うに至る。

 そんな気まずい雰囲気の中、二人はジムの前にたどり着くのであった。

 

―午前11時20分 トキワジム前―

 さて、そんなこんなでジムにたどり着いたレッドとエリカ。

 レッドが「よし!」と言って、勇み盛んにジムに入ろうとしたところ、エリカがレッドの袖を引っ張る。

「……、なんだよ。どうした?」

 引っ張られたレッドが、後ろを振り向くと、そこには黒き頭があった。

「ごめんなさい! 私、どうしてもグリーンさんと戦うのは……」

 エリカは間、髪を容れずに言ってきた上に、深々と頭を下げている。恐らく最敬礼の角度だろう。レッドは、少し驚きはしたが、すぐに言葉の意味を察した。

「……、そうか、そんなに嫌か……」

 実をいうと、グレン島にエリカと共に上陸し、グリーンと出会った時。その頃からこうなる予感はしていた。エリカのグリーン嫌いは相当なものであることは、重々承知していたからだ。

「私の我がまま……、そんな事は分かっております。しかし、それ以上に、グリーンさんと戦うのは……」

 やはり、自らを死姦するとまで言っていたオーキドの血を引くグリーンに会うのは、俺が思っている以上に辛い事なのだろう。と思ったレッドは、

「分かった。そんなに嫌なら、ジムの外で待ってろ。お前の気持ちは十分に察する……、でもお前、バッジはどうするんだ?」

「ジムリーダーは、所属地方の全バッジを持っているのと同等の実力を有する。とリーグ法32条に規定されているので、どうという事はありませんわ」

 エリカは毅然と答えた。しかし、レッドにはじゃあお前何で今まで、一緒にバッジ取ってきたんだ? という疑問がわいたが、敢えて突っ込む真似はしなかった。

「そか……、いやでも外に一人にしておくと、変な虫が寄ってきかねないしな……。やっぱ中で待ってろ」

 と言う訳で、レッドはエリカと共に中に入る。

 

―ジム内―

 ジムの中は、フウランのジムを彷彿とさせる進行パネル方式のジムであった。

「貴方、どうかお気をつけて」

 エリカはいつにも増して、レッドを気にかけているようだ。

「なに、グリーン如き、すぐに片付けるさ。じゃな。お前はこの入り口付近に居てくれ。じゃ、俺は行く……」

 そう言うと、レッドはエリカに背を向け、いざ近くに居るエリートトレーナーに勝負を仕掛けんとした。

「貴方」

 彼女は、行こうとするレッドに話しかける。

「ん?」

 レッドが振り返ると、エリカは雪駄(せった)(かかと)を少し上げ、彼に口づけをする。

 十秒ぐらいすると、彼女の方から唇を離し

「ご武運を!」

 そう言って、彼女はいつもの爽やかな笑顔になる。

「……、おう!」

 こうして、今度こそレッドは戦地にへと臨んだ。心が弾んだのは言うまでもない。

 

 暫くして、レッドはグリーンの目の前にたどり着いた。

「……、俺の目の前でいちゃつくなんざ、いー度胸じゃないか、レッド君」

 グリーンの第一声は、いつもの通り、憎たらしいものであった。

「見てたのか」

「たかだか数百メートルしか離れてねぇのに、見えてないと思う方がどうかしてるさ。もしかしてこれは、俺にまざまざと、愛し合っている事を強調せんが為の、エリカさんの策略か?」

 グリーンはそう、笑いながら尋ねる。

「……、さあな! 本人に聞けよ」

 彼はそう、唾でも吐かんばかりの切り捨てぶりで言った。

「それは嫌味か? 俺がエリカさんから嫌われている事……、知らない訳じゃないだろう?」

「何でそんな事、お前が知っているんだ」

 レッドは、それが疑問だったので、尋ねてみる。

「フン、カントーのジムリーダー……、いや今やジョウトの連中ですら知っている事だ。悪事千里を走ると言ってな……。悪い噂話はすぐ耳に入っちまうもんだ。お前も気を付けろよ」

 グリーンは相変わらずの軽い調子で話す。こちらから見てると冗談か本気か見分けがつかないぐらいだ。

「お前、変わったな……。昔はそんな疑心暗鬼な奴じゃなかったろう……?」

「最早、”親友”にすら、変わったと言われたか……。こちとら、例の事件から評判だだ下がりでよ! 風の噂じゃ理事長が俺を解雇しようかとか企んでるらしいぜ。俺に負けたくせに何をほざいてやがんだあの、童貞野郎が……!」

 ワタルが童貞である事は最早、周知の事実であるらしい。

「おっと、辛気臭い話ばかりで悪かったな……、変わった変わったといくら言われようとなぁ……、10歳の頃から何年もやってきたトレーナーとしての根性だけは変わってねえつもりだ」

「!」

 レッドはその言葉で、今一度姿勢を正させた。

「その証拠に、今、俺はお前と戦いたくて仕方ねえ……、リーグでも俺に勝てる奴は未だに一人としていない……。今一度、どっちがカントー……いや世界で一番強いのか、決めようじゃねえか!」

 レッドはその言葉に、四年前、グリーンと戦った時の事を思い出す。そう、セキエイリーグの最上階、チャンピオンの間での出来事を……。

「……ああ!」

 こうして、カントー最後のジム戦……いや、四年越しでの最強のライバル同士の戦いが開幕する。

 

「行け、ピジョット!」

「行け、ピカチュウ!」

「単純な野郎だな! ピジョット、影分身!」

 ピジョットはそそくさに、自らの分身を作る。

「ピカチュウ、十万ボルトだ!」

「ピーカー!」

 ピカチュウは、10万ボルトの電流を、ピジョットに送電すると試みるも、失敗する。

「チッ……、所詮命中95か……」

「だから、単純だと言ったんだよ! ピジョット! もう一度影分身!」

 ピジョットはまたも分身を作る。まるで忍者のようである。鳥のくせに。

「ピカチュウ! もう一回10万ボルト!」

 しかし、またも10万ボルトは外れる。

「ははっ! どうした! ピカチュウという電気タイプを使いながら、一発で仕留められない伝説のトレーナーさんよ! ピジョット! そろそろ仕置きしてやれ! 恩返しだ!」

「慢心はいけないぜ……、ピカチュウ! こっちも意味が違う気がするが、仕置きだ! 雷を食らせろ!」

 ピカチュウは、最大出力での電力を、ピジョットは最大のご恩返しをする為に突撃するのである。

 そして、ピカチュウも三分の二が削れる大ダメージを喰らったが、ピジョットは無論、即死である。

「先制は、まずお前か……、ま、花の一つや二つもたしてやらにゃ、格好つかねぇからな」

 相変わらずの嫌味ぶりにレッドは辟易するが、いつもの事なのでそれほど食って掛かる気にはなれなかった。

「行け、ドサイドン!」

 ドサイドンは、どっしりと恰幅のある格好で登場する。さすがはあのサイドンの進化形だ。貫禄と威厳が半端ではない。プロテクターが更に凶悪度を増させている気がしないでもない。

「ピカッ……」

 ピカチュウは、その姿に怯える他なかった。

「……。こいつは無理だな……、戻れ、ピカチュウ! 行け、フシギバナ!」

 フシギバナもドサイドンに勝るとも劣らない格好で登場する。

「フシギバナ! ドサイドンにソーラービームだ!」

 フシギバナは光を吸収している。

「バカな奴……、ドサイドン! 地震だ!」

 地が、大きく震える。ドサイドンであるせいか、更に大きく揺れているような……、そんな事をレッドは思っている。

 一方、フシギバナが喰らったダメージは並大抵のものではない。体力が三分の二失われてしまった。エリカによる日本晴れ援助のありがたみを、ひしひしと感じたのは言うまでもない。

 しかし、レッドは俄かにニヤついた。

「フシギバナ! ソーラービームだ!」

「太陽光線、とくと喰らええええ!」

 フシギバナの放った光線は、確実にドサイドンを射抜いた。

「!」

 グリーンは、事の重大さに気づいたようだ。ただでさえ四倍なのに、タイプ一致に加え、新緑の効果発動。いくらドサイドンといえど、耐え切れるものではなかった。

 ドサイドンは、ゆっくりとその巨体を地につけ、またも地を揺らした。

「……、せっかくハードロックの特性を持つドサイドンを繰り出したっつーのによ……」

 グリーンはそういうと、豊かな茶髪の頭をポリポリ掻いた。

「相性はそんな簡単に、乗り越えられるもんじゃないぜ……」

 レッドは、帽子を目深に被りながら言った。

「……、それもそうだな。じゃー、てめえの言う事に従ってやるよ。行け、ウインディ!」

 レッドはその発言でニヤリと微笑み、

「お前も同じぐらい単純な野郎だな! 戻れ、フシギバナ、行け、カメックス!」

「……、そうだな。だが、ちったぁ意味考えろよ」

 グリーンのその発言に、レッドはキョトンとする。……、しかし、すぐに意味を察した。

「ウインディ! カメックスに雷のキバだ!」

 ウインディは猛烈な勢いで、電撃をまとったキバで、カメックスに噛みつく……いや、食らいつくの方が適当な表現かもしれない。

 カメックスは、半分近くHPを失う。いかに不一致といえど、ウインディの物理は強力である。

「……、相性は簡単に乗り越えられない……つったろ? カメックス、ウインディにハイドロポンプだ!」

 カメックスの猛き水流は、見事にウインディを捉える。本来ならば、一撃で仕留められたところだったが……。

「な……、立っているだと!?」

 ウインディはふらふらながらも何とか立っている。

「気合のタスキ、だ。お前のやる事なんざハナからお見通しなんだよ! ウインディ! もういっちょ、雷のキバ!」

 今度の雷のキバは、運悪くも急所に当たってしまった。

「すみません……、ご主人……」

 カメックスは、ウインディの前に倒れるのであった。

「クソ……、だがまだ手はある! 行け、ラプラス!」

「ずっと、エサをぶらさげるとでも思ったか? つくづく甘いな。戻れ、ウインディ、行け、ナッシー!」

 ナッシーは相変わらずの三兄弟(?)である。悠々と立つ大木は、どこか意地らしい。

「甘い? それはこっちのセリフだぞ! ラプラス! ナッシーに吹雪だ!」

 吹雪は見事に直撃し、ナッシーは敢え無く倒れた。

「……、行け、カイリキー」

……

 こうして、リザードン、カビゴンの二体を残すも、体力は黄色ゲージとの辛勝でグリーンを下した。

「チッ……、嘘だろ……、四年間……こいつに勝つ為に死に物狂いで修行したのに……!」

 グリーンは大いに項垂れる。

「ワタルさん相手に息巻くだけの事はあったよ……、でも負けは負けだろうが! バッジを渡せ」

 レッドは、珍しく声を荒げてバッジを要求した。

「……、ゴールドとかいうガキは、再戦の時ボコボコに出来たのに……。まぁ、確かにお前の言う通りだな。しょうがねえ、くれてやる。ほらよ、グリーンバッジだ! さっさと受け取れよ」

 そう言ってグリーンはポケットからグリーンバッジを二個取り出し、手渡す。

「何で二個なんだよ。エリカは戦ってねえぞ」

「うるせえ。俺の気持ちだとでも伝えてくれ……」

 そう言うと、グリーンは恥ずかしくなったのか顔だけ後ろに反らした。

「お前らしくないな……、そんなに好きだったのか」

「恋人のてめえにあまり仔細は語りたくない。語り草にされるのがオチだしな。だが、これだけは言える。俺が今まで出会った中で……唯一本気で、心から惚れた相手……だとな」

 それが一番の語り草なんだがなあと、レッドは思ったが口に出すと、バッジを持ってかれそうな気がしたので言うのは思い止める。

「それはそうと、なんでお前、研究所が売り払われることに抵抗しなかったんだ。お前にとっても思い出の場所だろうが」

 レッドは、語調を強くして、グリーンに問い質す。

「思い出の場所……? お前にとっちゃそうかもな。だがな、俺にとっては忌々しい場である他ねえんだよ。だから、研究員の人の為にも賃料は払い続けたが、貸主が返せっつうから、これ以上の義理は無い。そう思ったから放っておいただけさ」

 グリーンは冷淡に言った。

「……、ナナミさんは何も言わなかったのか」

「姉ちゃんは、俺がチャンピオンになってからはあんまり口出ししてこなくなってな。俺の意に従ったよ」

 グリーンはまたも冷淡に続けた。

「冷血だな」

「何と言われようが構わねえよ。もう慣れたしな。だがな、お前、俺の立場だったらどうすんだよ、残すのか?」

「……!!」

 そう尋ねられると、レッドは黙るしか無い。

「……、感情だけで、他人の家に口出しするもんじゃねえよ。レッド、お前さ、シロガネ山で確かに強くなった事は認めるが、元来のコミュニケーション障害ぶりに拍車がかかったんじゃねえのか?」

 その言葉は深く、レッドの胸に突き刺さった。

「前々から思っていたんだけどさ、お前って感情ありきで動くよな。そんなんじゃ、いつかエリカさんにも嫌われるぞ……。気をつけろよな。ああいう女は、熱中すれば盲目を疑うまでにのめり込むが、一旦捨てたら、棺桶に安置された死体の如くに、永久に冷めゆくのみだ」

 その後も少しグリーンと話をして、別れた。

 

―ジムの外―

 エリカに会い、二人はジムの外へ出る。

「どうされました? お顔に元気がありませんが……」

 エリカは、レッドの調子を気にかけているようだ。

「いやなに……、戦い疲れただけだよ。あぁ、あとほらジムバッジ。グリーンから俺の気持ちだとよ」

 そう言って彼は、エリカの手のひらにグリーンバッジを乗せた。

 しかし、エリカはすぐさま、バシッと地表に叩き付ける。

「要りませんわ! そんな……、気持ちでバッジを渡すなんて、ジムリーダーとしてのプライドが欠片もない人……そんな気持ちなど受け取れるわけないではありませんか」

 エリカはあっさりと切り捨てる。しかもすっきりとした笑顔で言うのだからまた恐ろしい。なるほど、棺桶に安置された死体の如く……とはこの事かとグリーンの言葉を腑に落とす。18股している人間のいう事は(けだ)し、真をついているかもしれない。

 そんな事を思っていると、レッドのポケッチが鳴り響く。

「誰だろう……、あ、ダイゴさん!」

「レッド君! 挨拶している場合じゃないんだ! すぐにヤマブキのポケモンセンターに来てくれ! 話をしなければならないことがある」

 それだけで、ダイゴの通話は切れる。

「一方的だなぁ……」

「非常に緊迫しておりましたわね……、行ってみた方が宜しいのでは?」

 と、エリカはレッドに提言する。

「そうだな……、せっかく連絡くれたんだし、行ってみよう」

 と言う訳で二人は急いでヤマブキシティへ、リザードンに乗って向かうのである。

 

―午後3時 ヤマブキシティ ポケモンセンター―

 ポケモンセンターにつくと、二人はダイゴの案内で、密室へと通された。

「よく来てくれた……」

 ダイゴはまずその事で安心ているようであり、深く息をつく。

「調査して頂き、有難うございます。それで、一体……?」

 レッドがまず切り出し、二人はダイゴの言葉に耳を傾ける。

「これから話すことは関係者以外には他言無用だ。いいかい……、落ち着いて聞いてほしい……、ロケット団が、復活した。それも、前よりも大規模な組織として」

 二人はその言葉に、仰天する他無かった……。

 

 

 

―第四十五話 赤緑の天王山 終―


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