伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第四十三話 溺愛と狂気は紙一重

―1月15日 午後2時20分 ヤマブキジム―

 まず、ナツメはエーフィとバリヤードを、レッドはカメックスを、エリカはユキノオーを繰り出した。

 ユキノオーのゆきふらしによって、辺りにあられが降り始める。

「カメックス、吹雪!」

「ユキノオー、根を張りなさい」

 ユキノオーは根を張り、カメックスは砲塔より、猛烈な雪と風を噴出する。

 あられという天候も相()ってか、いつもより強く吹いているようにも見える。

「バリヤード、カメックスに雷」

 バリヤードは、天井付近に雲を作り、雷を下らせる。

 しかし、いくら電気技でも屈指の威力を誇るとはいえ、所詮は不一致。カメックスはHPの半分を失いはしたがなんとか耐えきったようだ。

「エーフィ、瞑想」

 エーフィは行儀よく座り、目をつむって精神を集中させている。

 少し遅れて、カメックスの吹雪が二体に直撃する。バリヤード、エーフィーの形が分らなくなるほどの豪雪である。

「……、仕留めたか?」

「いや、この程度では無理でしょう……」

 カメックスの思案通り、二体とも、三分の一、もしくは半分ぐらいしか減っていなさそうだ。

「ユキノオー、エーフィにウッドハンマーです! はよう仕留めなくば……」

「バリヤード、リフレクター」

 バリヤードの方が先制し、不思議な力で、見えない壁を形成する。

「オラの村の薪さ、ぐらえ!」

 よって、ユキノオー渾身の一撃も、リフレクターによって減殺されてしまった。

「エーフィ、もう一度、瞑想……」

 エーフィは、またも行儀よく、目をつむっている。なんだか可愛く思えてきてしまったが、レッドはその思いに負けることなく、情を排し、冷徹に指示する。

「カメックス、エーフィにハイドロポンプ!」

 特防が二段階上がっているという、不利な状況。しかしレッドはハイドロポンプの威力に全てを賭けた。

 しかし、カメックスの放った水流は惜しくもあたらず、最悪な状況となってしまった。

「……、好機ね……、エーフィ、フーディンにバトンタッチよ!」

 エーフィはすぐにボールへ戻り、ナツメはフーディンを繰り出した。

「最悪だ……、途轍もない特攻に、堅牢な特防……、化け物を生み出しちまった……」

 レッドは早めにエーフィを片付けなかった事を大いに後悔する。しかし、エリカは落ち込む彼をなんとかする為にこの状況を打開せんと、賭けに出た。

「……、どんなに特防が強くなろうと、フーディンの防御が脆弱であることは変わりませんわ! ユキノオー、フーディンにウッドハンマーです! 一撃で仕留めなさい!」

 運よく、二回目のウッドハンマーは急所に当たり、フーディンは倒れた。

「好事魔多し……、私の超能力通りに上手く事は運ばないものね。しかし……、一つ忘れてるわね。バリヤード、カメックスに雷」

 バリヤードは、上空に雲を作り、再びカメックスに雷を下らせる。流石に二撃は耐え切れず、カメックスは倒れた。

「これぐらいはまだまだ……、行け、カビゴン!」

「行きなさい、エルレイド、カビゴンにインファイト!」

 エルレイドは身を構え、

「御意」

 とだけ言って、素早くカビゴンに突撃する。

 流石に、タイプ一致の攻撃は耐え切れず、一撃でカビゴンは倒された。

「あと一匹か……」

「怖気づいたかしら?」

 ナツメは悪戯っぽくフッと笑ってみせた。

「何を言います……、ここで一気に押し返すのがチャンピオンの意地ってもんだ! 行け、リザードン!」

「流石は貴方ですわ……、しかし、天敵は早う取り除かないと。ユキノオー、吹雪」

 ユキノオーの猛烈な吹雪によって、バリヤードは凍えて倒れたが、エルレイドはなんとか耐えきる。

……

 こうして、レッドは2体、エリカは2体失い、残ったポケモンの体力は黄色ゲージと辛勝に終わる。

「……、あと一歩及ばずね。しかし、本気状態の私に勝つとはやはり、伝説の夫婦の看板に偽りなし……、私の予測を上回る強さに感服したわ。そして私に勝った証として、このゴールドバッジ、貴方たちにあげるわ」

 ナツメはゴールドバッジを二人に手渡した、

「有難うございます!」

 エリカのお辞儀の角度はまず狂いが無い。目視の限りで言えば大体30度である。最敬礼は45度らしいので、深すぎず浅すぎずと、見事に調整している様を見て、レッドはなんとなく感心していると、ナツメが口を開く

「貴方たちの強さを私は予測しきれなかった……、でもね、そんな不正確な超能力ながら言わせてもらうけど」

 何だろうと、二人はナツメの言動を注視する。すると、

「エリカ、レッドには十分注意しなさいよ。私からはそれだけ」

 彼女はその一言に納得できなかったのかすぐに反発する。

「い、意味が分かりませんわ。貴女が超能力者という事は違いない事実……、ですが、どうして貴女みたいな部外者に勧告されなければいけないのですか!」

「勧告……? そんな大それたものじゃないわよ。私は単に私の元恋人のエリカを心配した……」

「え!?」

 レッドは突然目を見開く。そんな……、聞いてないぞと思うに至る。

「ナ……、ナツメさん。私たちがその……、そういう関係にあった事は内密にして頂きたいと何度も申し上げ……」

 エリカは、ナツメの不意な告白に当惑しながら言う。

「それは、永久不変の愛を誓うと、あんたが約束したからこその契りよ……、ただそんな事は現実的に有り得ないとどこかしらで分かっていたから、自然消滅で恋が終わった時も……、責める真似はしなかったし、あんたがレッドと旅するという知らせが入った時も、堪えた……」

 ナツメが言い終わると、エリカがすぐに次を促すような事を言う。

「ならば、どうして、唐突に斯様な事をされるのです? 確かに約束を破ってしまった責は私にありますが……」

 エリカが言い切る前に、ナツメは小さくも、途切れ途切れながらも。ハッキリとした声で言う。

「……、この際だからハッキリ言うわ。未来が、見えてしまったのよ。勿論、エリカじゃなく、レッドが浮気してしまう未来を……ね」

「え……えええ!?」

 一番に驚いたのはレッドである。

「ふ……ふざけたことを……! どうして俺が最愛のエリカを差し置いて」

 レッドは声を荒げて反論するが、ナツメは冷徹に切り返す。

「鍛えられて熱くなった鉄が、どんどん冷めていくように、エリカと私の恋が長く続かなかったように、蜜月とは長く続かないものよ。殊に、貴方たちのように衝動的な恋の場合は……ね」

 ナツメはそう言うと、深く息をつく。

「どうしてそんな……」

 レッドが二の句を継げようとするが、エリカがレッドの胸を手で制し口を開く。

「ナツメさん……、ご忠告どうも有難うございました」

 そうとだけ言って、エリカはスタスタとジムを後にする。

「……」

 レッドは、心中激昂していたが、これ以上ここに居ても仕方ないと悟り、ワープ台に向かおうとする。

 ワープをする直前、ナツメはレッドに向かって、

「……、もしも、エリカを泣かす真似をしたら……、世界の誰もが貴方を許しても、私だけは決して許しはしないからね」

 と言い、レッドは即座に

「そんな真似……、する訳ないじゃ無いですか……」

「あの子は……、私に似て孤独な子よ。だからこそ、理想を高く持って、一生暮らせる伴侶を探している。レッドに対してどう思ってるかは、敢えて貴方には言わないけれど、ただ一つレッドに対して確固たる理想が実現している事を信頼し続けて、レッドの事を恋し続けている。その事を忘れないで欲しいわね」

 レッドは目から鱗の思いがした。

「確固たる理想……?」

 とにかく口をついて出た言葉がそれだ。一体俺に対してどういう理想を抱いているのか気になって仕方が無いからだ。

「……それが何かを悟り、守り続けることがレッドの、エリカの伴侶としての使命よ。それが分らずば、破局は必定よ」

 それだけを聞いて、レッドは伴侶の元へと戻った。

 

―ジムの外―

 彼女はジムの外に居た。

「お、やあレッド君! 久しぶりだね」

 誰かと話していると思いきや、例の選挙で議長を務めていたダイゴである。

「ダイゴさん……、こちらこそ、あのヤマブキには何用で来られたのです?」

 レッドはそれとなく来た事情を尋ねてみた。

「何、シルフカンパニーに少し用があってね……。しかしどうした事か商談で来たと言ったのに、一階より上は通してくれないんだよね。どうも不審じゃないかい?」

 確かに。等と彼が思っていると、エリカが続いて話す。

「そういえば先ほど、黒づくめの人が視界内に入ったのですが……」

「まさかロケット団が……、うーむ有り得ないと信じたいところだが……」

 言い終わると、ダイゴはシルフカンパニーをどこか遠い目で見つめる。

「せっかくカントーに来たんだし、理事の権限で少し調査してみるか。もし何かあれば伝えようか?」

 彼はそう提案する。

「確かに気になりますもんね……、じゃあ俺のポケッチに連絡してください」

 レッドは快諾したが、エリカは気にかかったのか

「そんな……、お仕事大丈夫なのですか?」

「何、チャンピオンクビになって以来こっちも暇を持て余していてね。たまには理事らしい仕事でもしてみようと思っただけさ。それに取引先だし……」

 エリカはその一言で大いに納得したようである。

「ああそうそう、これ内密にね。僕、一応ホウエンの人間だからさ。変に介入したことがバレると、いろいろ大変なんだ。そこのところ宜しくね」

「分かりました」

 レッドは了承の返事をする。

 その後も少し話をして、ダイゴと別れた。

 

―午後8時30分 ヤマブキシティ ポケモンセンター 個室―

 二人はその後ヤマブキシティを散策し、夜ポケモンセンターで宿泊する。

 夕食を済まし、風呂に入った後、小さめのポケモンを出し、エリカは化粧台のイスに座り、レッドはベッドに座って談笑していた。

「お前、よくナツメさんからあんなこと言われて堪えられたな」

 レッドは、ナツメの一件を思い出して、感心しながらそう言った。

「……、ナツメさん、時々超能力を使ったか疑わしい発言をするのです。本人曰く、超能力は私怨が入っていると外れる確率が大きくなると申しておりました。もしナツメさんが、貴方に私を取られて恨んでいらっしゃるとするならば、あれとて虚言の一種ですわ」

 とエリカはバッサリと、ナツメの発言を否定する。

「お前、本当シビアだよな……、よく親友をそう易々と斬り捨てられるもんだよ」

 レッドは皮肉半分に、エリカをそう評する。

「是々非々。良いところは良い。悪いところは悪い。親友だから故に盲目になってはなりません。むしろ、そういう所を言い合えてこそ刎頸の交わり。たとえ親友に首を刎ねられようと許せる仲になれると言うものです」

「そこまで行ったら行きすぎな気もするがな……、それはそうと、お前、あの予言信じてるのか……?」

 レッドは、ずっと気になっていたことを、腹を決めて尋ねてみた。

 エリカは間を置かずにこう答える。

「もし……、そんな事が有り得たのならば……、私は不倫相手を容赦なく切り捨てますわ。無論、ナギサでミカンさんに私がしたのと同様に……」

 正直に言うと、この時のエリカの目は本気そのもの。そして実際に行動に移しているだけに説得力は言うまでもなく、ある。

「だって……、貴方は悪くありませんもの……、全てはレッドさんを誑かした、女のせい……、二度と貴方に近づく真似をしないよう徹底的に始末するのが、妻としての責務ではありませんか?」

 流石のレッドもこれには身の毛をよだたせざるを得なかった。初めてエリカに愛してもらって嬉しいというよりも、恐怖が勝った瞬間が、今である。

「もっとも、私が貴方を擁護するのは接吻まで……、もし私以外の女性と……同衾(どうきん)しようものなら、貴方の事は決して許しませんわ。それだけは覚えておいてくださいね」

 エリカはそういうと、スッキリしたのか爽やかに微笑んでみせる。レッドには同衾の意味など分かるはずもなかったが、聞ける雰囲気ではなかったので突っ込むのはやめにした。

「さて、次はカツラさんですわね。ふたご島でしたわよね?」

 エリカは話題を切り替え、彼もそれに同調する。

「そ……そうだな。さて、セキチク方面は噴火で行き止まりらしいし……、マサラ経由で行くか」

「それが良策ですわ。さて、マサラという事は義母様にご挨拶しないと……」

 エリカは早くも、母親に会う事を案じているようである、

「おい、今度は泊まらないぞ。あくまであいさつ程度にしとけよ。着いたらすぐにグレン……じゃねえや、ふたご島に行くから」

 彼がそう注釈すると、

「わ、分かってますわ。しかし、グレン島を通るのでしたら慰霊がてら寄りませんこと? 私、噴火して以来一度もグレン島には赴いていないもので……」

 なるほどと納得したレッドは、

「そーだな。つか、ふたご島までもかなり時間かかりそうだし……、いい中継ポイントだ。ポケモンセンターはあるんだよね?」

 レッドは、ラジオで言っていたわずかな記憶を頼りに、エリカに尋ねる。

「ええ。さて、そうと決まれば早うに歯を磨いて寝ますか」

 という訳で、二人はじきに床につく。同衾などは無論していない。

 

 二人は起きた後、朝食を済まし、ヤマブキシティから空を飛ぶで、マサラタウンへと向かった。

―1月16日 午前11時 マサラタウン―

「うーん、やっぱここに来ると落ち着くわ……」

 レッドは到着一番、リザードンを戻して深呼吸すると、そう言った。

「さてと、義母様にご挨拶を……」

「いや……、待て、やはり男として二度も三度も約束を破るわけにはいかん。母さんにはポケモンマスターになるまで会わないと、固く約束を交わしてるんだ。エリカ、悪いがご挨拶は俺の事が成就した後にしてくれ」

 と、レッドは申し訳なさげに言ってみせる。

「……、分かりましたわ。貴方がそこまで仰せになるのであれば、私も自粛いたします」

 という訳で、二人の足はレッドの家の方向ではなく、海の方向へと向ける。その道中、ある事に彼は気が付く。

「……、あ、あれ? ポケモン研究所は?」

 彼は、オーキドポケモン研究所があった場所に思わず、歩きだす。

 そう、建物そのものがそっくり無くなってしまっているのだ。

 レッドが落胆している傍らで、彼女は柵に画鋲で刺さっている張り紙に気が付く。

「あら、こんな場所に張り紙が……」

 張り紙には要約すると、『当該建物は、賃貸借契約の更新を貸主が、別荘建設の正当事由で拒絶したところ、催告期間内に借主からの申し出が無かった為に当該建物を撤去いたしました』

 と書かれている。

「つまり、この研究所は、博士がいなくなったから廃墟同然になっていた……という事か?」

 とレッドはエリカに尋ねる。

「普通、借りた土地を返せと言われれば、代わりのない限り反発してもおかしくはありませんわ……、つまり、その可能性は非常に高いですわね」

「マジかよ……。グリーンやナナミさんとかは、反抗しても良かったんじゃないのか……」

 レッドは若干苛立ちを見せつつ、そう言う。

「あのお二人は研究者になるという意思が無かった以上、この研究所は不要になった。もしくは、大罪を犯した祖父の研究所を見たくなかったという理由で敢えて放っておいたのかもしれませんわ」

 と、エリカは推測する。

「にしても、俺の思い出の建物が……、こうも簡単に取り壊されてしまうとはな……。まぁ、止むを得まい。それも時代の流れ……ってやつだな」

 そう言い、レッドは歯がゆい思いを残しつつも、躰を反転させて、また海にへと向かう。エリカもそれに続くのであった。

 

―1月17日 午前10時 グレン島―

 二日がかりで二人はグレン島へとたどり着いた。が、そこは最早二人が最後に見た時のような、勢い盛んで、賑わっていたグレン島ではなく、火砕流や火山灰等で埋め尽くされた、土の塊である。

「……!」

 ポケモンセンターのほかに建物はなく、目の前には大きな自然の壁が出来上がっている。変わり果てたグレン島を目の当たりにした二人は暫く絶句するほか無かった。

「……、ニュースで何度か目にはしましたが……、こうして実際に来てみると、やはり胸にくるものがありますわ」

 そうエリカが言うと、レッドは同調して

「そうだな……、カツラさんよく、生き残れたもんだよ」

 そう言うや否や、背後より聞き慣れた声がする。

「よぉ。レッド! 久しぶりだな」

 振り返ると、そこには旧友であるグリーンが、いつもの快活な調子で、階段より上がった高台の上に立っていた。

「グリーン……」

 レッドはそう一言呟き、エリカは引き笑いをしている。

 

―第四十三話 溺愛と狂気は紙一重 終―


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