伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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今回はアンズ戦です。
今回は少し短め……5500字といつもよりは1000字程少なめにございます。


第四十二話 紫衣の鼬

―1月11日 午後4時 セキチクシティ―

 鏡開きが終わり、いよいよ正月特有のまったりとした雰囲気は完全に一掃され、日常に戻りつつあったその日。レッドとエリカはセキチクシティに到着した。

「セキチク……相変わらず微妙な立ちい」

 レッドが言い終わる前にエリカが遮る。

「何を仰せになるのですか。半蔵の再来と恐れられし現代の忍び・キョウさんのお膝元ですわよ! もっとも、今のジムリーダーは、その娘さんのアンズさんという方ですけど」

 彼は、彼女の発言からアンズという人物を頭の中で探してみた。

「……、あ、選挙の時うたた寝してて、お前に何回か起こされていた子ね……」

「何ですかそのイメージ……」

 彼女は少しだけ、呆れたかのような表情を見せるが、すぐに思い出したかのように補足の説明をした。

「アンズさんは、キョウさんの娘と名乗るに相応しい程の力があるそうで……、彼女の二つ名は『紫衣(しえ)(いたち)』。鼬は肉食獣としても有名ですわ。ですから、あんまり呆けていると、痛い目に遭うかもしれないですわね」

 彼女がそう言ってくすりと笑う傍らで、レッドはお構いなしとばかりに先に進み、

「なーにがイタチだよ……、今日日忍者なんて流行るわけもない……、ジムに行くぞ」

「……、そうですか。分かりました、参りましょう」

 こうして、エリカはレッドを追いかけるように従い、セキチクジムに向かった。

 

―セキチクジム―

「な、なんだこれ……」

 目の前には、数多くの紫色の忍者服を着たジムトレーナーが居る。

「アンズさんが一杯いますわね……、顔すら巧妙に手を入れているとは……、これは一人ひとりしらみつぶしに」

 とエリカが言っている傍らで、どこからともなく四つ菱の手裏剣が飛んできた。

 その手裏剣は、矢よりも速いスピードで、レッドの頬をひゅうとかすめ壁に突き刺さった。

「!?」

 あまりの一瞬の出来事に、レッドは目を白黒にする。

「貴方! 大丈夫ですか? 怪我されたところ等は……」

 彼の頬から血が噴き出た訳でもないのに、彼女は大げさに心配する。愛い奴だ。とレッドは思うのである。

「なんとかな……、しかしなんなんだ今のは……」

 壁に突き刺さったままの手裏剣を見つめていると、後ろから鋭くも若い女の声がした。

「その手裏剣は、一種の挑戦状よ!」

 レッドが振り返ると、いつの間にか目の前に痩せぎすの少女が立っている。

「アンズさん……、お久しぶりですわ。しかし、あのような距離を一秒……いやそれよりも少ない時間で来るとは、流石は忍びと言ったところでしょうか」

「あのようなって?」

 レッドは彼女に、距離について尋ねてみた。

「ジムの中心部から、目にも止まらない速さでここまで来たのですよ……、確か見えない壁があったはずですから、飛んできたんでしょうけどね」

 ジムの中心部からここまではざっと数百メートルはある。

 レッドは頬をしぼませて驚嘆する。恐ろしい、これが忍者というものか……と心から感じ入ったようだ。

「あはは! どーもどーも。さて、あたいとあんた達とは初めて戦う訳だけど……、レッドだっけ? あんたの事は何回か父上から話聞いてるよ! ジムリーダーをしてきたなかで一番強かったってね!」

 レッドは右手を頭の後ろにやり、

「いやいや、キョウさんからそんな評価貰っていたなんて」

 彼が言い終わる前に、アンズは更につづけ、

「だから、あたいを探させるなんて、まどろっこしい事はさせずに、来たらすぐに勝負しかける! 先手必勝が忍びの基礎だという父上の教え通り、まずは手裏剣で先手をとったわけよ!」

 そう言って、アンズは腕組みをして得意げになった。

 少し意味が違う気がしたが、敢えて突っ込むのはやめにした。

「という訳で、あんた達二人をくだして、あたいは父上に近づくわ! 父上譲りの忍びの戦い方、とくと見てちょーだい! さて、ここじゃなんだから、中央部にいこ! 壁に気を付けてねー」

 こうして、二人はアンズの先導で、アンズの居た中央の所にまで向かうのである。

 

―ジム中央―

「では、早速、行くよー、行け、クロバット! ドグロッグ!」

「行け、カメックス!」

「おいでなさい、ラフレシア!」

 こうして、お互いのポケモンが揃い、5つ目のジム戦が始まった。

「クロバット! ラフレシアにブレイブバード!」

「了解!」

 クロバットは、風と化したかのような速度でラフレシアに突撃する。

「ラフレシア! 避け……」

 エリカの指示空しく、ラフレシアはクロバットの餌食になった、あっという間にラフレシアの体を貫き、適当なところで四つの羽を使って体を軽やかに翻し、元の位置に戻る。敵ながらその様はまさに、格好良しと言う他無い。

 無論、ラフレシアは倒れた。

「カメックス、ラフレシアの(かたき)を取れ! 吹雪だ!」

「ドグロッグ! みがわり!」

 ドグロッグはすいとんの術を使って、どこぞにへと消え、小さな人形が残った。

 レッドは静かに舌打ちをした。そして、カメックスは、砲塔から大量の雪と風を噴射し、クロバットを凍えさせ、やがて倒す。

「これぐらいは想定内よ! 行け! モルフォン!」

「おいでなさい、キノガッサ!」

 キノガッサはアップをしている!

「好機ね……、モルフォン! キノガッサにサイコキネシス! ドグロッグ! カメックスに気合パンチ!」

 モルフォンは頻りに念波をキノガッサに送る。キノガッサはHPにして三分の二を失うほどの大ダメージを喰らった。

「オルァ!!」

 ドグロッグの気合の籠った拳は、カメックスの堅い甲羅の腹に直撃し、やがて思い切り遠くに吹っ飛ばされた。しかし、HPの四分の一だけ残してなんとか耐えきる。

「カメックス! 大丈夫か!」

「うぃっす、何とか」

 カメックスは気丈そうに振る舞うがフラフラである。レッドの頬を冷や汗がつたるが、回復道具は使えない、情を押し殺して、カメックスに指示する。

「カメックス! ドグロッグにハイドロポン……」

 指示を出し切る直前、隣に居たエリカが、声を出した。

「貴方! それはダメです! ドグロッグを見てください! 非常にカサカサしてそうな肌でしょう?」

 レッドは、ドグロッグの肌を、遠目ながらも見てみる。なるほど大げさに表現すれば、旱魃(かんばつ)した大地のように、肌が乾燥している……。恐らくこのドグロッグは特性『かんそうはだ』……。と、彼は断じ、

「カメックス、悪い、ドグロッグに冷凍ビームだ!」

「キノガッサ、モルフォンにストーンエッジ!」

 キノガッサの猛き岩投げによって、モルフォンは倒れた。

……。

 

 こうして、レッドは1匹、エリカは2匹を失い、残ったポケモンもHPが半分という形で勝利した。

「うーん、やっぱり一度はあたいの父上を倒した男、そして妻ね! 負けを認め、そしてあたいに勝った証として、このピンクバッジ、持ってって!」

 レッドとエリカは、5つ目のバッジを手に入れた。

「ありがとうございます!」

 エリカは深々とお辞儀をする。

「よーく考えてみれば、あんた達って……、これまで何十人ものジムリーダーとかチャンピオン倒して、ここにきているんだよね……、あはは、負けて当然かぁ……」

 と、少しだけアンズはいじけている。

「いえいえ、そんな事はありませんわ。貴女はキョウさんの娘と名乗るにふさわしい実力を持っていらっしゃいます。忍びの修行の傍らで、ここまで強くなれるなんて、なかなか出来ない事ですわ」

 エリカはアンズを励ます。エリカの口調や目からして恐らく本当の事を言っているのだろう。

「いや! 文武両道を地で行く貴女にはまだまだ敵わない……、もっともっと修行して、いつか出藍の誉れを果たして見せるわ!」

 エリカは、何と頼もしい事を言うのでしょうと言いたげな、感慨深げな顔をしている。

「さてと、レッド! もし次戦う事があったら絶対に負けないから……、そしてあたいの父上にも負けないようにね! リーグでいつ来るか一日千秋の思いで待ってるみたいだから、ならべく早くいってあげなさいよ! もし、あたいの父上をがっかりさせる真似をしたら……」

 アンズは、果てしない殺気をレッドに送っている。このまま逆らえば手裏剣で首と胴体がひきちぎれてしまう気がしたので、

「わ……分かった! なるべく早く向かうさ、そしてキョウさんをも唸らせる実力で勝ってみせるよ!」

 彼が勇ましくそういうと、アンズは晴れやかな顔になって

「それなら、安心ね! さてと、父上の晩御飯のお弁当手伝わなきゃ……」

「あら、届けてあげていらっしゃるのですか?」

 エリカは、単純な質問をする。

「そー! 母上とあたいが作って、四六時中リーグにいる父上に届けてるの」

「つくづく、親思いな子ですわね。キョウさんもさぞかしいい娘を持ったとお思いになられている事でしょう」

 彼女はうんうんと頷き、アンズを褒めている。

 こうして、その後も少し話をして二人はセキチクジムを出た。

 

―ジムの外―

「全く、いまどき珍しいよな……ああいう、いわゆるファザコンっつうの……、なんだかハヤトを思い出すな」

 レッドは、特に他意が無い様子でアンズをそう評す。

「そのお二人が言い争っているところ、タマムシデパートでお見かけしましたわ……」

 エリカは思い出したかのように、そう言う。彼は少し興味を持ち、尋ねる。

「ほう、どんな様子だった?」

「少し遠い場所に居たのでよく内容は聞こえませんでしたが……、まさに一触即発といったところですわね。ゴールドさんが調停に入り、事なきを得ておりましたが」

 彼女は淡々とした口調で話す。

「へぇ……その場にゴールドがねぇ……、さて、それはそうと次はナツメさんかぁ……気が進まない」

「あら、どうしてです?」

 エリカは、明らかに表情を暗くしていた夫を気遣うかのような口調で尋ねる。

「なんか怖いんだよな、あの人……、ずば抜けた超能力者っていうから、何もかも見透かされてるのかと思うと身の毛もよだつわ」

 と、レッドはナツメに対する感情を吐露した。

「あの方、かのヤマブキ大の首席卒業生だそうですわ」

 彼女のその一言に彼は愕然とし、

「え!? あの”ある意味”世界最難関大学として名高いヤマブキ大学!?」

 ヤマブキ大学は、エスパーを育成する超能力専門大学。先天的な才能が無ければ入学すらままならない上に、入れたとしても世界中から鬼才の集う中でのしのぎ合いに巻き込まれるという。奇人変人揃い踏みで、一般人が入ったら一日で退学するだろうといわれている等奇怪な噂の絶えない大学だ。しかし、卒業出来た暁には、エスパーを名乗ることが許され、安定した収入が約束されるという。全国に散らばるサイキッカーはこの大学及び分校の学生である。

「……、ええそうですわ。あの大学の卒業生は8割がた精神病を患っているなどという噂がありますが、それは横において……、とにかくその大学をナツメさんは出られておられます。しかし私は面白いお方だと思います。セキエイでも話した通り、唯一カント―で堅い話ができるジムリーダーの方ですし」

 レッドはまたも、頭のよい人の考えることはよく分からぬと考え込むのであった。

「しかし、そうですか……、またナツメさんと会える……、少しだけ心躍りますわ」

 エリカは、かなりの笑顔となっている。レッドはそんな彼女を見て引き笑いになりつつ、

「ええい、でも今日はもう夕方だ。セキチクで休んで、明日、ヤマブキに行こう」

 そういう訳で、二人はセキチクにて一泊するのであった……。

 

―1月15日 午後2時 ヤマブキシティ―

 タマムシが商業的な首都ならば、ヤマブキは政治的な首都。それも過言ではなく、ヤマブキシティには官庁街が立ち並び、議事堂もあるなど全国の政治の中枢を担っている場所だ。

 レッドはゲートを抜けると、まずはヤマブキに林立する高層ビル群に圧巻される。

「う、うおぉ……、タマムシとはまた違う意味で大都会だな」

 そう言うと、エリカはすかさず、

「ま、まぁヤマブキは、全国の政治を一手に担う場所にしてビジネス街ですもの……、しかし繁栄度では決してヤマブキごときには引けを取りませんわ!」

 と、彼女は半ば必死にタマムシを取り繕っている。聞いても居ないのに、あんなに必死になるとは……などと彼がエリカを愛おしく思い、

「ハハ、大丈夫さ。誰でもそんな事は分かってるって……、あれ、なんか黒づくめの人影が見えたような」

 レッドは、その人影が目端に映ったところに目をやる。

「まさか、気のせいでございましょう、ロケット団及びオーキド団は貴方の手で壊滅したではありませんか……」

 と、エリカは儚げに言う。

 その口調から思い出したくないんだなぁという事を悟り、それ以上の追及を諦めた。

「そ……そうだな。よし、じゃあジムに行くか!」

 そういう訳で、二人の足はジムにへと向かうのであった。

 

―ヤマブキジム―

 ワープにワープを重ね、リーダーのナツメの所にたどり着いた。すらっとスレンダーでエリカよりも高身長な、その(からだ)を見て、相変わらず美人だなぁとレッドはふと思う。

「やっぱり……来たわね! 貴方たちの来る予感は三年前から……っていうのは冗談よ。よく来たわね、レッド……そして、エリカ」

 やさしめの口調だが、目は笑っていない。やはりかなり怖い……。と、レッドは堅い表情になる。いつ念力で吹っ飛ばされるか知れたものではないからだ。

「ナツメさん、夫が引いておりますわ。もっと表情をほぐされては」

 レッドの表情がおびえていたことに気付いていたのか、彼女はナツメに態度の軟化を、柔らかい口調で要請した。

「……、あんたの要求なら仕方ないわね。ごめんなさいね、レッド。さて、あんた達夫婦が……、一体どこまで、強くなってきたか、今一度見せてもらうわ」

 こうして、カントー6つ目のジム戦が始まるのである。

 

―第四十二話 紫衣の鼬 終―


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