伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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今回はvsタケシ戦です。


第三十八話 聖夜とにばみの町

 マサラタウンを出発したレッドとエリカ。

 二人が最初のジムリーダー・タケシの居るニビシティを目指している最中、トキワシティに寄り道することにした。

 

―12月21日 午後4時 トキワシティ―

「へぇ……、俺が来ないうちに変わったなあ。なんか」

 レッド最初の所感はそれであった。

「ええ、最近はトレーナーハウスという腕試しの場が出来たそうですわ」

「ほう」

 レッドは少し興味を示す。

「私も詳しくは知らないのですが……、トレーナーの社交場としての機能と、対戦施設として機能しているそうですわ。行ってみますか?」

「うーむ……、どうもミナモの時のトラウマがなぁ……」

 レッドは、ミナモシティのファンクラブにおける軟禁にも等しい、質問責めを受けたことを思い出し、態度を委縮させる。

「左様ですか……、さてポケモンセンターに参りましょうか。本日は冬至ですわよ」

「おお、もうそんな日か……。どうりで辺りが暗いなぁと思ったら。今日の晩御飯はカボチャの煮物とかか?」

 レッドは晩御飯について尋ねる。

「そうですわね。しかし、南瓜(かぼちゃ)だけですと栄養が偏りましょう。寒鰤や大根なども仕入れておきましょうかね……」

 エリカは、寒さに(かじか)む手に、白い息をふうと吹きかけながらそう答える。

「だけど、その前に一応ジム訪ねてみるか……、グリーンの顔ぐらい見ておきたい」

「あの、私も参らなくてはなりませんか?」

 エリカは表情を歪ませて尋ねた。相当に嫌そうである。

「あー……、じゃあお前はジムの前とかで待っててくれよ」

「承知いたしました」

 そういう訳で二人はトキワジムに向かった。

 

―トキワジム前―

「おお……、君は確か三年前にも会ったの」

 ジム前に居たおじさんが話しかける。

「え?……、まさか俺が一番最初にトキワに来た時に居た……?」

 レッドは記憶の糸を辿りながら言う。

「そうじゃ。しかし残念だの。ここにリーダーはおらんよ」

「え? 本当ですか?」

 レッドは驚いた声で言った。

「うむ。残念だったの。しかしどうしてトキワのジムリーダーは安住という言葉を知らぬのかのう……」

 そう言っておじさんは去っていった。

「うーん……じゃああいつ、何処にいるんだ?」

「ポケギアで、電話しては如何でしょう?」

 エリカはそれとなく提案する。

「いや、あいつはおじさんの言う通り、安住という事をしないからなぁ……、きっと聞いたところで、俺らが行く頃にはどうせいないだろうさ。しゃあない、出直すか」

 そう言って、レッドはグリーンの捜索を諦めた。

 

 こうして二人は、冬至の日をトキワシティで過ごすのであった。

 そしてその後も冒険を続け、トキワの森を越えてニビシティに到着する。

 

―12月24日 午前9時 ニビシティ―

 12月24日は、周知のとおり、聖夜前日の日である。

 クリスマスは、ナザレ村のイエスが聖母マリアから生まれた日とされている日で、キリスト教徒にとっては大事な日である事も周知である。しかし、キリスト教圏からは遠く離れたここカント―地方でも、モミの木、所謂(いわゆる)クリスマスツリーがベツレヘムの星を筆頭にして、ベル等で飾り付けられており、街中が子どもや家族連れ、リアじ……恋人達で賑わう日となっていた。

 無論、ニビシティも例外ではなかった。そんな中二人は到着したのである。

 

 レッドは内心、雀躍(じゃくやく)としていた。

 なにしろ、今年は隣に女性を侍らせているのだ。去年は、シロガネ山でラジオの讃美歌をバックにして手持ち達と祝っていたが、今年は女性が隣にいるのだ。レッドにとって嬉しくないハズがない。世の男たちにとって至高にして羨望の的となるシチュエーションで、迎えることができたのである。

 さて、そんな最中、エリカはクリスマスで湧きあがる街中を見て、顔を(しか)めていた。

「どしたエリカ?」

「……、私、クリスマスって大嫌いなんですよね」

 エリカは小さな声で言った。

「それまたどうして?」

「実体のない行事の典型ではないですか……、確かに日本は神道という多神教の宗教で、ほかの土地の神様には寛容である事は承知です。しかし、最近の人たちはどうして宗教行事に参加しない上に無宗教ですのに、こういう行事だけはしっかり祝うのか……、私には理解いたしかねます」

 レッドは、エリカらしい意見だなぁと頷いている。

「あと、私にはどうも西洋行事……殊に斯様な商業色の強い行事は好めないのです。バレンタインも然り……ですわ」

「なるほどねぇ……、さてじゃあ、ニビジム行く?」

 レッドは話を切り替えた。

「そうですわね。あちらまでクリスマス一色になっていなければ宜しいのですが……」

 と、いう事で二人はニビジムへ向かった。

 

―ニビジム―

「おお、よく来たなレッド。選挙以来だな」

 リーダーのタケシは朗らかに出迎えてくれた。

「こちらこそ」

「ここは、落ち着いておりますわね……、外が騒がしいだけに、なお宜しいですわ」

 エリカは安堵したような声をしている。

「外は聖夜だなんだと、浮かれているけど、ジムリーダーたるものそんなものに浮かれてなんかいられないからな!」

 タケシは腰に手を当てて、威張った格好をする。エリカに褒められて気をよくしてるのだろう。

 無理しやがってとレッドは心中で思った。

「さて、三・四年で、レッドがどれだけ強くなったか、そして、約一年の旅でエリカさんはどのように成長していったか、この固い岩ポケモン達の前で証明してもらおうか!」

 タケシはボールを構える。

「来るぞ」

「ええ、わかっていますわ」

 こうして、カント―二巡目、初のジム戦が幕を開けた。

 

「行け、カブトプス! オムスター!」

「我が名はカブトプス! 鎌で断ち切ってやろうぞ!」

「古代からやってきたーよ」

 タケシに続いて、二人が手持ちを出す。

「行け! フシギバナ!」

「おいでなさい! ワタッコ」

「ワタッコ、日本晴れ!」

 ワタッコは、日を照らす。

「フシギバナ! ソーラービー」

「甘いぞ! オムスター、雨乞い! カブトプス! ワタッコにシザークロス!」

 オムスターが雨を降らし、カブトプスの特性・すいすいが発動し、二倍となった素早さでワタッコを切りつけにかかる。

「千切れろ」

 カブトプスの上げた刃は、正確にワタッコの体に交差する。

「痛いっ!」

 ワタッコは二分の一まで減った。所詮は等倍である。

「ちぃ……、一ターン無駄にする羽目になったか……」

「……!」

 フシギバナは、少なくなった光を懸命に集めている。

「戻りなさい、ワタッコ。行きなさい、ユキノオー!」

 あられが降り始める。

「好機! オムスター、吹雪!」

「当たるけど、当たってちょ!」

 辺りが俄かにふぶいたが、フシギバナはなんとか耐える……が、

「カブトプス! フシギバナにアクアジェット!」

「突撃ぃ!」

 その声と共に、自らの水流と共にフシギバナに突撃した。

「……、悪い、レッド……」

 遂に耐え切れなくなり、フシギバナは倒れる。

「……! 少し見くびりすぎた……、行け、カメックス!」

 カメックスは揚々と出てきた。

「ぬんっ!」

 相当な張り切りようだ。

「エリカ……ユキノオー……悪いな。カメックス、地震!」

「地よ! 震えよ!」

 大地が震え、三匹のポケモンはダメージを食らった。

 カブトプス、オムスターは倒れた。

「……! 馬鹿な……! 強すぎる!」

 タケシは、地震のあまりの威力に驚愕している。

「命の珠……、本当に強いな」

「……、そういう事か。仕方ないな……、行け、ゴローニャ! ジーランス!」

「劣化ドサイドンと言われようと構わない!」

「……、眠いのう」

「ユキノオー! ジーランスにウッドハンマーです!」

「おらが村の薪を喰らえ!」

 ユキノオーは大木の薪を、ジーランスに叩き付けた。

「痛いのう」

 ジーランスは倒れた。

「カメックス! ゴローニャに波乗り!」

「ららららーららー(以下略」

 ゴローニャの眼前に津波が襲う。

「ゴローニャ、カメックスにストーンエッジ!」

 先制のツメが発動した。

「ゴツゴツでしねえ!」

 カメックスの体を、鋭い岩が下から打ち抜いてく。

「いでええええ!」

 カメックスは、半分減った。

………

 こうして、レッドは1体失い、エリカは完勝で勝利した。

「うん、やはり強くなっているな! 改めてこのグレーバッジを渡そう」

「有難うございます!」

「いやー……、思い出すなぁ……、初めてもらった時のあの感覚」

 レッドはバッジを高く掲げて、ジムの照明に反射させた。

「本当に嬉しそうだったよな……、思えばあの時、ここまで強くなるとは思わなかったなぁ」

 タケシはそう当時を述懐する。

「あら、左様だったのですか……。タケシさん、最初戦ったときどのような感想を持ちました?」

 エリカはそれとなく尋ねていた。

「そうだな……、確かに強かった記憶はあるな。まぁ手持ちがフシギダネだった事もあるのかもしれないけどな」

「へぇ……」

「そういえばこのジム、三年前からそんなに変わってないっすよね」

 レッドは首をめぐらせて、そう言った。

「そうだな。まぁそんなに変えることもないか……って感じで過ごしてたし。それはそうと、ここから先のあと7つのジム……、アンズさんはともかくとして、一度お前が戦った人ばかりだろ?」

「はい」

 タケシは、レッドの目をしっかりと見て、続ける。

「決して、最初に挑んだときと同じ風に考えちゃダメだ。俺と戦った時もあやうかった時があったろ?」

「そ……そういえば、本来一撃で倒されそうなフシギバナを倒してましたし……」

 レッドは戦った時のことを思い出し、そう言った。

「そういう事だ……、決して油断しないように……な。まぁお前ならきっと行けるさ」

 タケシは頬を緩ませて、レッドを励ました。

「有難うございます」

 レッドが締めくくろうとした、その時

「ところでタケシさん。今日はどうされるのです?」

 エリカはタケシに、つかぬ事を尋ねている。

「そうだなぁ……、ジム内でパーティでもやろうかと思っている。野郎だけでな!」

 レッドはそれとなく勝ち誇った表情をしている。

「へぇ……それはそれは楽しそうですね」

 と、レッドは言った。

「なんだレッド、参加したいのか?」

 タケシは快活に笑いながら尋ねる。

「いや……、先を急いでいるので」

「フッ……そうか。レッド、彼女作れたぐらいで浮かれちゃあいけない。エリカさんは理想が高い……、それを崩す真似をすれば速攻で手を切られかねないぞ」

 と、彼はレッドに忠告した。

「……、左様ですか。心に留めておきます」

 レッドの内心は、悔しいんだろうな。という風にしか思っていない。

 傍にいたエリカは、敢えて言わないのか、だんまりとしている。

 

 こうして二人はニビジムを出た。

 

 聖夜前日をニビで過ごした二人は、次のジムがあるハナダシティを目指し、3日かけて、おつきみ山に到着した。

―12月28日 午前11時 おつきみ山―

「コイキング売ってたおじさん……、まだいたのか」

 レッドはポケモンセンターでの出来事を思い起こしていた。

「あれ、明らかに高額ですよ……コイキングに500円だなんて」

「まあいいじゃない。レベル20まで育てれば、ギャラドスになるんだし」

 そんなことを話していると、どこからか呼ぶ声がした。

「待てよ」

 ザッ。という音とともにその声の主は現れる。その少年は赤毛が特徴の少年……、シルバーである。

「……! お前は確か」

 レッドは、その特徴ある外見からすぐに誰かを思い出せた。

「シルバーさん……」

 エリカにシルバーと言われたその男は、少し驚いたような表情を見せ、

「フン、覚えていたか……」

 と、相変わらずの高飛車な態度をとった。

「……、何だまたやられに来たのか?」

 レッドは帽子を目深(まぶか)に被り、相手の態度相応の言動をする。

 その一方、シルバーはそれ程気にせずに続ける。

「俺はあの時、レッドから逃げて以来、俺には何が足りないのか……、ポケモンと共に懸命に考えてきた」

「ほう」

 レッドは少しだけ関心を払う。

「それで見つけ出した答え、お前にみしてやる……。そしてレッドを倒した後は、ゴールドを探し出して、下し、俺は最強のポケモントレーナーとして君臨する! 行け、ゲンガー!」

「……、難儀な奴。行け、リザードン!」

 

「ゲンガー、シャドーボール!」

「影玉ぁ!」

 ゲンガーが黒く、影で出来た球を作り出し、素早くリザードンに叩き込む。

「リザードン! エアスラッシュ!」

「空気の刃にて、死ね」

 リザードンは空気で出来た、一つの刃をフッと吐き出す。

 双方の攻撃は同時に当たり、リザードンは三分の一程減ったが、ゲンガーは早くも赤ゲージだ。

「やはりゲンガーは脆いね……」

「……」

 レッドの言葉に、シルバーは何も答えなかった。

「ケリをつけよう……、リザードン、大文字!」

「問題、大内義隆が切腹した政変の名前は?」

 リザードンは恒例の問題を出した。

「しらね」

 ゲンガーはそう即答する。

「大文字の変だぁ!(正解は大寧寺の変)罰だ、これでも喰らえ!」

 リザードンは一つの巨大な炎球を放つ、そしてそれはゲンガーと指呼の間との距離になると、「大」の文字に変化する。

 そして、「大」の文字になり、シルバーの頬をも橙色に照らした瞬間、シルバーは静かに指示する。

「ゲンガー、道連れだ」

 その直後、ゲンガーに大文字が直撃。そして、ゲンガーの亡霊がすぐさまリザードンに憑りつき、瀕死に至らしめた。

「……!」

 リザードンは倒れた。

「……、ちったぁ考えるようになったんだな」

 レッドはそうシルバーを、少しほめる。

「フン、こんなもので済むと思ってるのか? 戻れ、ゲンガー。行け、クロバット!」

「屈指の素早さというもの、見せて進ぜよう」

 クロバットはそう息巻きながら出てくる。

「一匹倒したぐらいでいい気になりやがって……、行け、ピカチュウ!」

「ピカー!」

 ピカチュウは勢いよく出てきた。

「クロバット、どくどく!」

「余の毒、喰らうと良い」

 そうしてクロバットは、四つの羽から猛毒を繰り出した。

「かわせ!」

「ピカッ!」

 ピカチュウは毒の洗礼を、自慢の小回りの利いた俊敏かつ、即応した動きでことごとく避けた。

「よし、ピカチュウ! ボルテッカーだ!」

 指示された瞬間、ピカチュウは厖大(ぼうだい)な電力を体に(たた)え、猪突猛進にクロバットの中心に突撃する。

「!?」

 クロバットは、あまりの電塊の早さに応えることが出来ず、ただ受ける以外に出来ることはなく、そのまま洞窟の岩壁まで突っ込んだピカチュウの体諸共に叩き付けられる。

 ピカチュウは無論、反動でそれなりのダメージを受けたが、クロバットの体は完全な消し炭と化した。

「……、これが……噂に聞きし、ボルテッカーの威力……!」

 シルバーは少しだけ足を竦ませた。

「どうした、怖気づいたか……?」

「フン……、少し驚いただけさ。戻れ、クロバット。行け、レアコイル!」

――――――――

「四体撃破……、成る程、言うだけのことはあるな。だが、所詮は俺に負けてるなぁ! 散々息巻いたシルバー君よぉ!」

「負けは負けだ……、素直にそれは認めるよ」

 シルバーはそう項垂れつつも、しっかりと答える。

「……、まぁこの前みたいに負けても、すぐに逃げ出さない姿勢は評価する。……、お前、ポケモンの扱い、良くなったんだな」

「は?」

 シルバーは何を言われているのか分からない顔をした。

「ご存知無いのですか? あのクロバットというポケモン……、懐いていなければ進化致しませんわ」

 エリカはシルバーにそう説明する。

「そ……そうだったのか。いつの間にそんなに俺のこと……こいつらは……」

「そういう事だ。強くなったことの原因はそれもあるだろうな。まぁ今ならゴールドに挑んでもなかなかにいい勝負が出来ると思うぞ」

 レッドはシルバーをそう評す。一方のシルバーは、俯き加減に

「……、例えゴールドを倒せたとしても……、今レッドに勝てなかった時点で、俺は最強のトレーナーではない」

「それで?」

 レッドが次を促すと、シルバーは目をいからせてレッドを見、

「次に会った時こそ、お前を倒して……最強のトレーナーになる」

 そういって、シルバーは立ち去ろうとした。しかし、

「シルバーさん」

 エリカが呼び止める。シルバーは何も言わずに止まった。エリカもレッドの後ろに居る、その位置のまま続ける。

「ゴールドさん、恐らく現在は……、ジョウト地方のどこかにおりますわ。……、今の貴方の強さ、是非とも見せて御上げなさい」

 そうエリカが言い切ると、今度こそシルバーは立ち去って行くのであった。

 

こうして、おつきみ山で大晦日を迎え、ハナダシティに到着するのである。

 

―第三十八話 聖夜とにばみの町 終―




次回はvsカスミ。もしかしたらマチスも入るかな……?
乞うご期待。


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