伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第二十七話 時は現在(いま)

―11月18日 午後3時10分 ミオシティ 市街―

 

 一ヶ月ぶりにやってきたミオシティは比較的温暖なせいか雪はほぼ溶けており、路地に少しだけ寄せてある程度であった。

 二人はつい朝までいたカンナギとの差を実感しつつポケモンセンターで回復を済ませる。

 

「いよいよトウガンさんか」

「シンオウもいよいよ大詰めですわね! トウガンさんは相当に手強いようですし気を引き締めなくては」

「そうだな……。うん。がんばろう」

 

 そうこう話しているとシロナとトウガンが跳ね橋の近くで話しているのをみかけた。

 見かけるとわりあいはやくシロナが二人に話しかける。

 

「やっほー! お久しぶり……というほどでもないかな? こんにちわレッドさん、エリカさん」

「こちらこそ」

「おお! そういえばもうバッジを5つ集めたのだったな。ということは次は私の番か」

 

 トウガンはにこやかに笑いながら言う。

 

「はい。ようやくシンオウで一番強いジムリーダーとも噂されるトウガンさんと戦えると思うととても気が奮い立ちます! どうか宜しくお願いします」

「なあにこちらもやっと二人と戦えると思えば久々に本腰を入れて構えられるというものだ! 宜しく頼むぞ、レッドくん」

 

 トウガンに握手を求められ、そのままレッドは返した。

 

「そういえばシロナさんはどうしてこちらに?」

「この間、エリカさんがあたしにトウガンさんが全国各地の山の岩石年代を調べているって言ってたでしょ? その結果が出たらしいから見せて頂こうかとミオに来たんだけどそしたらばったり会ってね」

 

 エリカは納得したようにうなずいた。

 

「えっ……ああ。そういえばそうでしたよね」

「あたしは別にどっちが先でも構わないけど……。どうする?」

「お二人が先に会われていたんですし、そちらの用事を先にしてください」

 

 レッドは残念な思いを胸におさめつつ、二人にいった。

 

「そ。悪いわね。じゃあ、ついでだから二人も聞いていってよ」

 

 四人はトウガンの導きでミオ大学のトウガンの研究室に赴いた。

 

―午後3時30分 ミオ大学 トウガン教授研究室―

 

 トウガン自身が大学を休んでいるせいか研究室には誰もおらず長い間不在にしていたせいもあるのか埃も目立っていた。

 しかし道中では何人か学生に声をかけられておりやはりそれなりの知名度はあるようだった。

 

「すまんな。散らかっていて。まあ適当なところに座ってくれ」

 

 指示に従い三人はトウガンと向かい合う形で席につく。

 トウガンは研究に使ったパソコンや顕微鏡などの機材の山から調査結果をまとめたと思われるフォルダを二人のまえにおいた。

 

「難しい話をしても仕方がないのでハッキリ言うと……。やはりというか信じられないというか全てが一致した。えんとつ山、シロガネ山、その他いくつかの山々も調べた結果このテンガン山で採取された岩石と同一かつ同時期に生成されたと思われるものが発見された」

「そうでしたか……!!」

 

 シロナは実に嬉しそうな表情である。

 

「ということは……カムイ・ヌイナの伝承が歴史的事実であるということですか?」

「状況証拠ではあるがな。ただシロナ女史のもつ史料やら出土品と照らし合わせて矛盾がなければ学者の立場としては否定するのは難しくなるな」

「もう一回家に戻って精査はしてみるけどこれで本当にあの伝承は事実であったと裏付けられたようなものね。これはまさに歴史的な大発見よ。何しろ今までお話の中にしかいないとされたポケモンが現実世界に影響を及ぼしていたと学術的な証拠を以て証明されるわけなのだから」

「まあそういうことになるが……シロナ女史。この事は伏せておいたほうがいいと思うのだが」

 

 トウガンは難色を示している。

 

「あら? どうしてです?」

「確か電話では349人の人間が吹き飛ばされ、史料で疑わしいものを総計すると211人が現代に至るまでに確認されている……と言っていたな」

「はい」

「もしそれら全員がそうだったとすれば現在から未来にかけては138人がこれから出現していくことになるわけだ……。もしそんなことが公になれば彼らの未来は見世物同様になるのが目に見えてる」

「確かにそういうことになるリスクはあります。しかしこれを伏せれば彼らは現代と自らのいた時代とのギャップに苦しみ続けることになるんですよ? カムイヌイナで記憶をなくすかどうかはまちまちなようですが無くしていればその原因がわからず誰にも理解されないまま死んでいくことにもなりかねないんです」

「しかしそれでも公となって半永久的に好奇の目に晒されるよりかは幾ばくかは良いと思うが。それに加えて現代に生きる我々の心構えも……」

 

 シロナとトウガンの論争は30分ほど続き平行線のまま終わった。

 トウガンは研究所の片付けと大学の所用をすませてから行くと言い、三人は大学をでた。

 

―午後4時40分 ミオシティ 市街―

 

「ふう……」

 

 シロナはトウガンとの論争を終えて一息ついている。

 

「シロナさん。結局どうされるのですか?」

 

 エリカが尋ねる。

 

「トウガンさんの言うことは尤もだけれどね……。あたしも学者の端くれよ? 究明したことを黙って見過ごすわけにはいかないの」

「左様ですわね……。私はあいにくどちらも専攻外ですから口をはさみませんでしたが個人としてはシロナさんに賛成したいです。後のことばかり考えていては何もできなくなることもありますしまずは社会に提言することが学問を志すものとしては大事に思います」

「そう。嬉しいこと言ってくれるわね。ところで」

 

 シロナが言葉の調子を変える。やや重めの声色である。

 

「選挙の話は聞いてるかしら?」

「はい。ダイゴさんからそれなりには……」

「ああ……前理事長ね。何か変なこと言ってなかった?」

 

 エリカはしばし口に出そうか逡巡した様子が見受けられたが、間をおいてダイゴの家で聞いた話をそのまま伝えた。

 

「フフ……。さすがはデボンの御曹司ね。情報だけはしっかり握ってるわ」

「もしかして事実なのですか?」

 

 シロナはやや間をおいて言う。

 

「リーグの為よ。前理事長の言う通り”彼ら”の支持を得るのは並大抵のことではとても覚束ないのよ。政府の介入を回避するには力技だけでは足りないのよ。使える手段は使わないと」

「そんな……シロナさんは決して黒いことはなさらないと思っていましたのに」

「失望させてごめんなさい。でもね。これはまだ私に力が足りないからこうせざるを得ないだけなの。理事長となった暁には全ての関係を清算し、不偏不党で清廉潔白なリーグを創ってみせるわ。それだけは……どうか信じてちょうだい」

 

 やや距離をおいて歩いていたレッドがあくびをする。

 

「あら。貴方……すみません少々お話が難しすぎましたわね」

「いやいいんだけどさ……。お、ジムが見えてきた」

 

 レッドの言う通り、前方にはポケモンジムが姿を現していた。

 

「本当ね。観戦していきたいところだけどリーグに戻って選挙の準備しなきゃいけないしあたしはそろそろ失礼するわ。じゃ、お二人さん。がんばってね」

 

 シロナは二人の挨拶をきいた後、トゲキッスにのって東の方向に飛び去っていった。あたりはすっかり暗くなり日は沈みつつあった。

 

―午後5時30分 ミオシティ ポケモンジム―

 

 ジムについてから10分ほどでトウガンが戻り、リーダーの部屋へむかった。

 

「グハハハハハ! 大学では無様なところをみせてしまったな。だが勝負となれば話は別! こうてつ島で鍛えに鍛えた私のポケモンたちを貫けるものなら、貫いてみるといい! 行け、トリデプス! ジバコイル!」

 

 エリカはワタッコを、レッドはリザードンを繰り出した。

 

「ワタッコ。日本晴れ」

 

 ワタッコは元気よく舞い、フィールドを晴れにした。

 

「よし、リザードン! トリデプスにだいも」

「トリデプス。砂嵐だ」

 

 晴れになったフィールドは一転、砂が舞う景色となった。

 どうやらせんせいのツメが発動したようだ。

 

「チッ……! 構うな! ジバコイルに問大文字だ!」

「物理学において、現在説明されている4つの力を一つにまとめて宇宙に存在した一つの力を説明しようと試みる理論をなんという?」

 

 砂嵐の向こうから返答はない。

 

「はい時間切れ! 正解は大統一理論でした!!」

 

 と言いながらリザードンは力一杯の炎の塊を吐き出す。大の字となって広がったが、ジバコイルは存外大きなダメージが入らず、半分が残った。

 

「な……なんでこんなに硬いんだ」

「甘く見てもらっては困るな。木の実で炎技が半減できることくらい予想がつかなくてはなぁ! ジバコイル! リザードンにチャージビーム!」

 

 リザードンに見事命中したが、威力不足のためリザードンは体力を多く残して立っている。

 

「ワタッコ。ジバコイルにやどりぎのタネ」

 

 ワタッコはジバコイルに種を植え付ける。天候を変えてもイタチごっこになるのが目に見えてるので持久戦にもちこむようだ。

 

「リザードン! もう一度ジバコイルに大文……」

「貴方。リザードンは一旦戻したほうが」

 

 エリカの忠告が入る。

 

「ジバコイルはリザードンにとって厄介な敵だ。出来ることならはやく片付けてしまいたい」

 

 といってレッドは即座に提言を退けた。

 

「リザードン! 大文字だ!」

 

 リザードンは二度巨大な炎の塊をジバコイルに向けて放つ。

 

「ジバコイル。10万ボルト」

 

 塊がフィールドの半分をいったところでジバコイルは磁石に電力を集中しはじめる。

 炎の塊はジバコイルが体を傾けることでそれていった。そしてカウンターとばかりに10万ボルトの電流がリザードンに浴びせられる。

 チャージビームに加えて特攻が一段階上がった10万ボルトに耐えきれるはずがなく倒れた。

 

「チッ……。行け、ピカチュウ!」

 

 レッドは次善の策としてピカチュウを繰り出す。

 

「トリデプス。ワタッコにどくどくを」

 

 ワタッコの持久戦術を無効化するためトウガンはどくどくをまいた。

 

「ピカチュウ。ジバコイルにボルテッカーだ!!」

 

 電撃を纏ったピカチュウの全力の突撃はジバコイルの体力を削るには十分だった。残りの体力は2割ほどである。

 

「ワタッコ。トリデプスからギガドレイン!」

 

 エリカは猛毒の減少分を補うためギガドレインで吸い取っている。トリデプスの体力は三割ほど減少した。

 

「トリデプス。ワタッコに火炎放射」

 

 エリカは完全に不意をつかれたような表情となった。不一致の上火力不足の為大したダメージにはならなかったが心理的なダメージにはなった。

 

「ジバコイル! ワタッコにラスターカノンだ」

 

 ジバコイルは光を一点集中させてワタッコにぶつける。火炎放射の減少もあって受けきれずに沈黙する。

 

「おいでなさい、キノガッサ」

「ピカチュウ。トリデプスにかみなりだ!」

 

 ピカチュウは雷を撃ったが、顔面の盾で受け流されてしまった。

 

「ジバコイル。キノガッサにラスターカノン!」

 

 キノガッサはラスターカノンの直撃を食らう。特攻が一段階上がっている効果は大きく相性が等倍といえども体力はわずか1割しか残らなかった。

 

「トリデプス! いわなだれだ!」

 

 キノガッサは持ち前の俊敏さで避けたが、ピカチュウはあと一歩のところで洗礼をくらう。タイプ一致といえども等倍で火力が足りないため一回では倒れなかった。

 

「……」

 

 レッドはしばし黙考した後に指示を下す。

 

「ピカチュウ。もう一回だ! もう……」

 

 ピカチュウは電撃を出そうとするが、キノガッサが肩をつついた。

 何やらヒソヒソと耳打ちをしている。ピカチュウはうなずく。

 

「キノガッサ。トリデプスにインファイト!」

 

 トリデプスに痛烈な拳が次から次へと降りかかる。

 四倍弱点といえど顔面の盾をもってよく耐えた。

 

「トリデプス! 背後を……」

 

 トウガンが指示した時にはもう遅かった。

 ピカチュウは見事に彼の背後にしがみついている。

 彼がピカチュウと目を合わせた瞬間、機を得たとばかりに大きな稲妻が下った。

 トリデプスは完全に不意を突かれた形になり、倒れた。

 

「グハハハ。やるではないか。こうでなくてはな! 行け、ドータクン!」

 

――

 

 レッドは2体、エリカは全滅したがどうにか辛勝した。

 

「うむ。久々に全力で戦えた。マインバッジだ。受け取ると良い」

「ありがとうございます」

 

 二人はバッジを受け取った。これでいよいよシンオウものこり2つである。

 それから二言三言話して二人はジムを後にした。

 

「……」

 

 トウガンは考え込んでいる。

 

「リーダー? どうしました?」

 

 トウガンの様子を不思議に思ったのかジムトレーナーが話しかける。

 

「負けといて言うのもなんだが……思ったほどじゃあなかったな」

 

 そうとだけ言うとトウガンはようやくその場から去っていった。

 

―午後9時 ミオシティ ポケモンセンター―

 

 ジム戦を終えると二人はポケモンセンターで回復を行い、今日はこの街で一泊することにした。

 夕食を終えて一息ついているとエリカのポケギアに電話がかかってきた。どうやらヒカリのようだ。

 世間話の後にヒカリが続ける。

 

「それで、ナナカマド博士にレッドさんがバンギラスと戦ったことを伝えるとかなり興味深げに聞いてきまして……」

「そうですか。博士がなにか?」

「なんでもその件について詳しく本人から話を聞きたいから都合のいい日に研究所まで来てほしいんだそうです」

「ほう……。わかりました夫には宜しくつたえておきますわ。それにしても一体……」

 

 エリカ当人も不思議なようである。

 

「さあ……。博士はあまりペラペラと喋らない人だから分からないです」

「そうですか。まあ博士のことですし信頼におけますわ。できるだけ早い内にお伺いしますね」

 

 それからも十分程勉強を教えたりしてヒカリとの通話はきれた。

 やがてレッドが風呂から出てきた為彼女は要件を伝えた。

 

「博士が? 俺はいいけど……。一体そんな話がどうしたんだろう」

「博士のことですから恐らくポケモンの研究にでも活用するのでしょう。明日にでも伺いたいところですわね」

 

 こうしてヒカリともう一度通話を行い明日マサゴへ向かうことになった。

 

―11月19日 午前9時 マサゴタウン ナナカマドポケモン研究所前―

 

 研究所にたどりつくともうひとり意外な人物に会った。

 

「あれ。レッドさんにエリカさん。お二人も呼ばれていたんですか?」

 

 ゴールドであった。思いもしなかったため二人とも当惑している表情だ。

 

「そうだ。ゴールドはなんでよばれたんだ?」

「僕は単に研究者として聞きたいことがあるから良ければ来て欲しいって感じでしたけど」

「左様ですか……。どちらにしてもナナカマド博士の研究に関することらしいですわね。興味深いです」

 

 三人は話しながら研究所に入る。

 研究所にはヒカリもいた。話を聞くとどうやら図鑑の様子をみてもらっていたようだ。

 

「うむ。忙しいところ呼び出してすまなかった」

 

 ナナカマドは世間話もそこそこに神妙な面持ちで言った。

 

「いえ。それよりも俺たちに用事って一体なんでしょう?」

 

 レッドがナナカマドに尋ねる。

 

「うむ……とにかく二人にはそれぞれこれまで。特に全国を旅する前についてどういうポケモンと戦ってきたかを教えてほしいのだ」

「え?」

「記憶の限りで構わない。印象に残っている戦いについて特に詳しく聞きたい」

 

 ナナカマドの眼光は二人の目を確実に射抜いているかの如く鋭い。まさに研究者の眼である。

 

「構いませんけど……一体どうしてです?」

 

 ゴールドが言った後、ナナカマドはゆっくりと居並ぶ三人を見回す。

 

「すまないが……今は言えん。まだ確証の持てる段階ではないのでな」

 

 ナナカマドは申し訳無さそうな顔をして言う。

 

「そうですか……」

「だが、私の研究に深く関わる事なのは間違いないのだ。どうか聞かせてもらえないだろうか」

 

 ナナカマドは二人の距離を詰めて言う。どこか威圧感と共に切実さがある。

 ゴールドはやや間を空けて答える。

 

「わかりました」

「俺も出来る限りの事は」

 

 二人はやや思うところがあるのか気後れしたように答えた。

 

「うむ! では早速話を三人だけで聞きたい。エリカ女史。申し訳ないがレッド君を借りるぞ」

「分かりましたわ。私はヒカリさんとお話ししますから。どうかお気にさらず」

 

 ナナカマドはそれを聞いて軽く礼をした。

 その後、レッドとゴールドはナナカマドに連れられて所長室に通された。

 

―所長室―

 

 二人はナナカマドと相対してソファに座った。

 目の前には既にだされていたお茶と長くなることを予想しているのかサンドイッチや菓子などの軽食が用意されていた。

 

「さて……。先程はああして濁したが二人には本当のことを話すとしよう」

 

 座ってからそこそこにナナカマドは本題に切り込む。

 レッドとゴールドは固唾を飲む。

 

「場合によってだが……もし私の今研究していることが事実として世間に知れれば恐らくポケモンの…………いやトレーナーの常識が一気に覆されることになる」

「え!?」

 

 ふたりとも目を見開く。

 

「まあ……そうして驚くのも無理はない。というのも……」

 

 ナナカマドが続けようとすると強い振動と轟音が響いた。

 幸いにもすぐ収まったが机の上にはお茶が少しこぼれている。

 

「な……なんだいまの」

 

 レッドが困惑しているとドア越しに研究員が騒ぎ立てている。

 

「博士!! 一大事です! シンジ湖で大爆発がおこったようです! 観測員から緊急の知らせがありました」

 

 それを聞くとナナカマドの顔色が真っ青になった。

 

「なんだと!?」

 

 ナナカマドは大急ぎで所長室から出ていく。レッドとゴールドも後に続いた。

 

―休憩室―

 

 休憩室に設置されているテレビではシンオウにある3つの湖の同時爆発について報じていた。

 

「なんということだ……。シンオウの象徴たるあの三湖を爆破するなど」

 

 ナナカマドは打ちひしがれている。

 

「なんでも爆破したのはギンガ団という組織でユクシー・アグノム・エムリットを捕まえるためにあの湖に爆弾をしかけたとのことで……いやはや」

 

 研究員の一人がナナカマドに詳細を伝えている。

 

「うむう……。前々からきな臭いとは思っていたがとんでもないことをしてくれる。こうしてはおれん。四人共。すまないが湖の様子をみにいってはくれないか?」

 

 ナナカマドは休憩室に集まっていたレッドをはじめとする四人に依頼する。

 

「分かりました。僕はとりあえずリッシ湖のあたりに行ってみます。ちょうどこの前行ったばかりなので」

「それじゃ私はエイチ湖に行ってきます。さっきジュンから電話かかってきてどうなってるか見てくるとか行ってたけど一人じゃ心配だし……」

 

 ゴールド、ヒカリがそれぞれ自分の行く先を告げる。ナナカマドは頷いて了承した。

 

「うむ! それではレッド君とエリカ女史には私についてきてシンジ湖に来てもらおう。それで良いかね?」

「分かりましたわ。及ばずながら協力させて頂きましょう。宜しいですわね貴方?」

 

 エリカがレッドに尋ねる。

 

「うん。そうしよう」

 

 レッドはやや間をあけて返答した。

 

「よし。ならば急ごう。一刻も早く奴らの行動を止めねばなるまい! ふたりとも気をつけて行くのだぞ!」

 

 こうして四人はそれぞれの場所へ向かっていった。

 

―午前10時15分 201番道路―

 

 レッドとエリカはナナカマドの先導に従ってシンジ湖へ向かっている。

 その道中レッドのポケッチが鳴り響いた。

 相手をみるとシロナと書かれていた。出てみると案の定用件は先程の爆発についてである。

 

「リーグとしてもこれは放ってはおけないからとりあえずうちの地方のリーグだけでも動員をかけて事態の収拾にあたりたいんだけど」

 

 シロナはすぐに動員をかける構えだった。恐らく口ぶりからしてその制圧作戦にレッドとエリカにも加わって欲しいとでもいうのだろう。

 しかしレッドは反論する。

 

「あの……とりあえず俺たちに任せてくれませんか? 俺とエリカとゴールドが爆発の時研究所に居合わせていてこれからそれぞれの湖に様子を見に行こうって話になったんです」

「あら。そう……」

 

 シロナは十秒ほど間をあけて答える。

 

「分かったわ。こっちとしてもエンジュ騒乱から大して時間も経ってないのにまた動員かけるとなったら体面がよくないしね……。何よりもそれだけの面子が揃っているなら安心して任せられるというものよ」

「ありがとうございます」

「万一解決までに時間がかかった時のことも考えて内々には準備しておくように通達は出すけどとりあえずはそっちに任せるわ。がんばってね。ギンガ団の好きにさせてはいけないわ」

 

 その後シロナからの通話はきれた。

 

「貴方。どちらからですか?」

「シロナさんからだよ。リーグ全体でこの事件を解決したいとかそんな話だったけど……俺は断っておいた」

「え……? 何故です? リーグも入るとなればより速やかに事が収まると思いますわよ?」

 

 エリカは甚だ疑問のようである。

 

「あー……それはだな。リーグが攻撃の準備整えてギンガ団潰すまでの間にこの件はカタがつくと思うからさ。俺に加えてゴールドもいる。それに……お前もいるしな。エリカ」

「まあ……。嬉しいこといってくださいますこと」

 

 エリカは心底嬉しそうな表情をする。

 

「全くこんなところでのろけおって……」

 

 ナナカマドは先導しながらぶつぶつとこぼしていた。

 

「ハハハ……」

 

 しかしレッドがそういった本当の理由は別にあった、ナナカマドが恐らくリーグに介入されては困るのではないかという直感がはたらいたのだ。リーグに委ねるのではなくまずレッドやゴールドたちに頼んだところからしてそんな予感がしたのかもしれない。

 そんな事がありつつ三人は101番道路を進んでいった。

 

―午前10時40分 シンジ湖―

 

 到着すると水は見事に干上がっておりもはや湖と呼べる状態ではなくなっていた。

 

「なんてこった……。これは酷すぎる」

 

 湖の惨状をみたレッドの第一声はこれである。

 

「とにかく湖の状況を見なければならん。何をしているのか探ってきておくれ。私は周囲や湖のポケモンの被害を調査するとしよう」

 

 といってナナカマドは先に湖のあった縁にそって歩いていってしまった。

 

「ようし。とりあえず湖を降りてみるか。いけるか?」

 

 かつて湖底だった場所まではかなりの急斜面である。

 

「どれだけ一緒に旅をしていると思っているのですか。この程度どうということはありませんわ」

 

 エリカは軽く微笑んで見せる。

 

「よし。じゃあいくか」

 

 レッドとエリカは干上がった湖を探索する。ギンガ団員が全部で50人ほどいたが全て二人にとっては取るに足らぬ力しかなかった。

 

「けっ。お前らに負けたところで痛くも痒くもないもんね! ボスがきっと恨みを晴らして俺らにとって住みやすい世界をつくってくれるさ!」

 

 最後と思われる下っ端がそう吐き捨てていった。二人は既にかつての岸辺にもどってきていた。

 

「ふう……。どうやら全員倒したみたいだけどなんの収穫もなかったな。エムリット? とかいうポケモンも既に連れ去られていたみたいだし」

「そうですわね……。徒労もいいところですわ……ってあら?」

 

 彼女が目に遣った先では草むらで何かがガサガサと蠢いていた。その先は湖の出入り口である。

 しばらくするとそこから人がでてきた。しかもそれは意外な人物であった。

 

「トシアキ……さん?」

 

 彼女が名前をいうと当人は振り返って大層驚いていた。

 トシアキの服は泥かなにかと思われる汚れにまみれている。

 

「おや! いやーこんなところで奇遇ですなぁ」

 

 トシアキはいつもどおりの軽妙な様子で接してきた。

 

「どうしてこんなところに?」

「有給をとりやしてね。ちょいとシンジ湖で自然と戯れようかと思ってたらこの大爆発に巻き込まれたんでさぁ。あっしはポケモン持ってないもんで今まであのキテレツなかっこした連中の目をかいくぐってどうにかこうにかここまでたどりついたって寸法なんで」

「そうですか……。それはなんとも災難ですわね」

 

 エリカはトシアキに同情している。

 

「お二人こそどうなすったんです?」

「俺たちはその大爆発を受けてギンガ団をやっつけに来たんですが……どうにも遅かったみたいです。エムリットは逃げているし幹部はとっくに引き上げたとか言うし」

「なるほど……そっちはそっちで災難だったわけですな。お気の毒に……」

 

 それからいくつか話してトシアキと別れた。

 

「まさかこんなとこで会うとは思わなかったな」

 

 エリカはレッドの言葉から少し間をおいて言う。

 

「おかしいですわね」

「え?」

「トシアキさんの服の汚れみました?」

「見たけどあれがどうかしたか?」

 

 レッドは一点の疑問も持っていない様子である。

 

「このあたりの土は比較的乾いています。なのに彼には明らかに湿ったような色の土が服についていましたわ。これがどういうことか分かります?」

「え……まさか湖のなかに?」

 

 レッドはハッと気づいた表情をして言う。

 

「そうです。私達の入ったあの場所はかなりぬかるんでいましたわね。おそらくそこで何らかの作業をしたときの土が服に付着したのだと思います。大きなリュックも背負ってましたしね」

「じゃあつまり嘘をついてたってことか……?」

 

 トシアキは湖の観光で来ていて巻き込まれたと言っていたがもしそれだけならば逃げるためにわざわざギンガ団が多くいる涸れた湖のなかに入る必要はないからである。

 

「そうです。しかし理由がわかりませんし証もありませんから無闇な追及はしなかったのですが……どうにも引っかかりますわね」

 

 それからしばらくしてナナカマドも戻ってきた。彼の方にも犠牲になったポケモンの多さ以外にはさしたることがわからなかったようだ。

 

「そうですか……。弱りましたわね。これではこの先の手が……」

 

 そうエリカがつぶやくとエリカのポケギアが鳴り響いた。相手はヒカリのようだ。

 どうやらジュンの活躍でトバリのアジトにあの三匹は閉じ込められているとの情報が手に入ったようである。そういうわけで二人はトバリに向かうことをナナカマドに伝えた。

 

「そうか……あいつがやったか……。うむ! 分かった。行きなさい。あの二人のことはお前さん方とゴールド君に託す。無茶をしないよう見守ってやってほしい」

「お任せください。博士のご期待には十分に応えられるよう努力します」

 

 レッドがそういった後、二人はトバリシティへ飛んでいった。

 

―午後2時 トバリシティ ギンガ団アジト前―

 

 アジトの前にはレッドとエリカの他にゴールド、ヒカリ、ジュンの五人が揃っていた。

 

「このビルって……」

「確か銀河グループのビルだよな? あそこにも銀河エネルギー工業ってかいてあるし……」

 

 ヒカリとジュンは訝しげに見ている。

 

「でも確かにその下っ端はこのビルだって言ったんだろ?」

 

 レッドがジュンに尋ねる。

 

「は、はい」

「ということはやはりハンサムさんの仰せになられていた銀河グループがギンガ団と繋がっているというのは事実のようですね」

「そうなんですか……」

 

 ヒカリ、ジュン共に沈んでいる。地方を代表するといって過言ではない大企業がそんな大それた悪事の当事者ということがショックなのだろう。

 

「二人ともそんな顔しちゃだめだよ! そういう企業があるからこそ自分たちがそれを正すってことも大事なことだと思うよ。僕たちならそれができるんだ!」

 

 ゴールドが二人を励ます。

 

「そう……そうですよね! ジュン君! あたしたちならシンオウ中の人々を救えるんだよ!」

「そうだな……! よしいっちょやってやるか! おーい! お前らなんか俺が全員やっつけてやる! かかってきなああ!!」

 

 そう言いながらジュンはトバリビルへと突っ込んでいく。

 

「ちょっと! ジュンくん!」

「いや宜しいのですヒカリさん。時間の猶予はあまりありませんしここは正面突破あるのみですわ」

「そうだな。よし。後に続くか!」

 

 レッドがジュンの後に続き、三人も後ろに続く。

 こうして五人のトレーナーはギンガ団の野望を阻止すべく本格的に動き出したのだ。

 

―第二十七話 時は現在(いま) 終―

 

 


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