伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第十話 春の嵐

―4月28日 午後1時 セキエイ高原 ポケモンリーグ 理事長室―

 

 ポケモンリーグの最上階に位置する一室。理事長室。

 ここには全国のポケモンリーグの頂点に君臨する理事長、即ちチャンピオンが鎮座し執務を行う部屋である。

 今ここには理事長であるワタルの他に副理事長のシロナがいた。

 

「理事長、火急の用とのことで参上致しましたが本日は何の御用ですか?」

 

 シロナは突然の召集に当惑気味である。

 ワタルは重々しい様子で口を開く。

 

「うん……。まずはこれを読んでほしい」

 

 ワタルはシロナに100ページ以上に渡る意見書と題された分厚い書類を手渡す。

 

「これ程分量がある書類でしたらメールなり郵送なりで事前に渡してほしかったのですが」

「いや、これは外部に絶対漏れてはいけない情報が詰まってるんだ。まぁ読めばわかるよ」

「確かに所外秘とは判が押してありますが……。愚痴を言っても始まりませんし、読ませていただきます」

 

 シロナは一旦副理事長室に戻ってワタルから手渡された書類を精読した。

 一時間後、彼女は鬼気迫った表情でワタルの下に戻る。

 

「これ……本当の事なのですか? とても信じ難いのですが」

「ああ、僕も初めてこれを読んだときは仰天したよ……。これが事実だとしたら間違いなく天地がひっくり返ったような事態になるだろうね。で、君はどう思う?」

 

 意見書の内容はマツバが書き著したオーキド及びロケット団による悪行の疑惑の数々とそれに関しての監視権を行使したエンジュ大学の精査を要求するものであった。

 

「私としては断固として監視権を行使すべきだと思います。よく調べられていますし、状況証拠に立脚したものとはいえそれなりに説得力のある論ができていると考えます。疑うに足る証拠は揃っておりためらう余地は無いかと存じ上げます」

 

 シロナは確信を以て自身の意見を述べた。

 

「やはり君はそう考えるか……」

「理事長の考えは違うのですか?」

「うん……。確かに君の言うとおりロケット団の悪行は明らかだし、調べる余地は多くあると思う。でもね、相手が相手だ。もし調べて何もなかった場合研究会との関係が険悪になってしまう」

 

 オーキドはリーグと良好な関係を結んでいるポケモン研究会の会長である。

 研究会とリーグはポケモンの生態や分布、その他ポケモンの研究に関してのデータを買っており、それは全トレーナーのポケモンの捕獲や育成論形成に大いに役立っている。

 これらが関係悪化によって停止すればリーグの運営に大きな支障が生じる可能性があり、ワタルとしては是非とも避けたいところであった。

 ヤナギとオーキドの仲は諸事情から非常に険悪だった為、ヤナギが理事長だった時代は一切関係が結ばれなかった。しかし、21世紀に入り先代理事長のダイゴの時代になって漸く上記のような関係が結ばれそれ以来リーグと大学が提携してトレーナーにポケモンの捕獲に対して情報を与えたり、ジムリーダー以上に関してはより強いポケモンを育てるのに研究会の解明した情報が大きな役割を担っていた。

 その為、ワタルとしては極力その関係を壊したくなかったのだ。

 

「何を言うのですか! ポケモンに関する是非は我々リーグが正さずにどこが正すと言うのです。確かに研究会との関係は重要でありますが、本分に取って代わるほどの事ではないと思います」

「今や研究会の情報はトレーナー一人一人にまで影響しているんだ。もしも僕が調査してなにも出てこなかった場合はリーグへの信用や権威は地に堕ちるという事を分かっているんだろうね」

「その場合は正々堂々とこの意見書の内容を公開し、職務に則って行った事を世に示せばいい話です。これは現代の董狐の筆です。マツバさんだって余程の確信と覚悟が無ければわざわざ理事長に請願するとは思えません」

「な、何をとんでもないことを! 意見書の内容を世に晒せばそれこそ笑いものになる。確固たる証拠さえあればこそこれも意味するが、そうでなければオーキド博士を状況証拠だけで弾劾したものにすぎないんだ。オーキド博士の評判からして世間はこれで納得しないことは目に見えてる」

「我々は職務を実行するだけで何の非もないのですよ? 何をそんなに恐れる必要があるのですか? 先人が勝ち取ったこの権利を使うべき時に使わないで如何すると言うのですか!」

 

 シロナのその発言を受け、ワタルは大きく頷き

 

「そうか……。そうだな……。よし、じゃあ……」

 

 監視権行使に向けて議論がまとまりかけたその時、リーグ委員が泡を吹きながら血相を変えて理事長室に入ってきた。

 

「り、理事長! 一大事でございます!」

「こら! ちゃんとノックしてから」

 

 シロナは振り返って委員を見咎めた。

 

「あぁこれはこれは副理事長失礼を……。いえ、あのとんでもないことが起こりまして……」

「落ち着いてゆっくり話すんだ。一体何が起こったんだい」

 

 ワタルは委員に優しい口調でそう尋ねた。

 そしてリーグ委員はおもむろに口を開いた――

 

―――――――

 

―4月23日 午後1時 44番道路―

 

 時は少しだけ戻って4月23日。

 レッドとエリカはヤナギを破り最後のバッジを手にする為に出くわすトレーナーと戦いながらフスベシティへと向かっていた。

 

「はぁ。いい天気だな」

「ええ、お昼寝したくなるほどの陽気ですわね」

 

 昨日と同じく季節は春真っ盛り。葉がやや混ざりながらも桜が咲き誇り、心地よい春風が吹いていた。

 

「本当だな……。はーぁそれにしてもヤナギさんに勝ってからどうもヤマを越えたというか身が入らないというか……」

「何を仰せになるのです。お気持ちは分からなくもありませんけれどね、勝って兜の緒を締めよという諺にもあるように勝ったからこそ身を引き締めなければなりませんわ」

 

 エリカはやんわりと和やかな口調でレッドを諌めた。

 

「うん。わかっちゃいるんだけどな……」

 

 そのような様子で二人は道路を進んでいく。

 

―午後11時 44番道路―

 

 氷の抜け道を目のの抜け道―

前にして二人はテントを設営した。

 日が沈むと途端に肌寒くなり、雲も多くなる。

 レッドが寝静まった後、エリカのポケギアが鳴り響く。彼に遠慮したエリカは一枚上着を重ね着し、テントを出て岩の上に腰掛け、電話を取った。

 ポケギアの通知欄にはアカネと記載されている。

 

「もしもし? アカネさんですか?」

「せやで。久しぶりやねー。かれこれ一月ぶりくらいやったっけ?」

 

 アカネは相変わらずの快活な様子で話している。

 少しばかり近況や世間話をするとアカネは押し黙ってしまった。

 

「あの。アカネさん?」

「な、なんやの?」

「私に電話をしたのは何か用事があるからではないのですか?」

 

 アカネがこうしてエリカに電話してきたのは初めてではないもののかなり珍しいことである。

 彼女はそれを不審に思ったのかそれについて尋ねた。

 

「あぁ……うん、せやで」

 

 しかし彼女はなかなか切り出せないでいる。

 そこでエリカは追い討ちをかけるように畳み掛ける。

 

「もしかして、ツクシさんのことではないですか?」

「え……ええ!? ど、ど、どうして分かったんよ!?」

 

 アカネは酷く狼狽した様子で応える。

 

「いつも歯切れのいい貴女がそうもったいぶるのは恋愛の事と決まってますわ」

 

 エリカは朗らかな声でそう言った。

 

「ハァ……全くあんたには敵わへんなぁ……」

 

 アカネは観念したかのような様子である。

 

「まだツクシさんの事を好いておられるのですか?」

「え……ま、まあなぁ。諦めよう思うて仕事に打ち込んだりしたさかい。せやけどあそこまでウチのハートを射止めた男はおらへんし……諦めるに諦めきれへん……」

 

 アカネは切々とした様子で言う。

 

「左様ですか……。しかしツクシさんは3月末にリーグを辞して今月よりウツギ博士の研究所の研究員としてワカバタウンにまで行かれたのでしょう? 風の便りで聞きましたわ。接点がなくなった今、こうなった以上もう諦めるより他に道はないのでは……」

「そないな事くらいわかっとるわ! 頭ではわかっとるんやけど、中々思い切りがつかんねん。せやから……毎夜毎夜ツクシの事を偲んで慰めてるくらいや」

「な……慰めているってもしかして」

 

 エリカはほんのりと頬を上気させながら尋ねる。

 

「なんや、分からんかったか? 全くし、しゃーないな、オ」

「いえいえ結構です! そ、そうですかそこまでツクシさんのことを思っていらしたとは……」

「ウチも時折自分が怖なるわ……。ここまで人を好いたんは初めてやし、もう金輪際ないと思うし……。出来るならモノにしたいねんやっぱし」

 

 アカネは迫真めいた様子で言う。

 

「それで私にそれを言ってどうするというのです?」

 

 エリカは最も疑問に思っていたであろうことをアカネに訊く。

 

「あんな……さっきも言うたけどチャンスが潰れとるし、この恋がどうにかなる可能性は限りなく0に近いんわウチもようわかっとる。ツクシはもう遠くに行ってしもたし、そもそもツクシの気持ちがウチにむいとらん。どこまでいってもウチの独り相撲やわ。せやけど、この気持ちを一人で抱え込むんわえろう辛うてな……。こんな事言えるのエリカしかおらへんし、少し愚痴に付き合うてもらいかったんねん」

「なるほど……」

「すまへんな。夜遅いのにこんなんつき合わせてしもうて……。少しはすっきりしたし、もう寝るわ。ほな……お休みぃ」

 

 こうしてアカネとの通話は切れた。

 その後彼女は氷の抜け道を目前に据えながら黄昏れ、うとうとしてきたため戻ろうとする。

 するとレッドがテントより姿を現した。

 

「おお、エリカか……」

「あら貴方、どうされたのです?」

「いや冷えてるせいかトイレに行きたくてな……。お前こそどうしたんだ」

「はい、ポケギアに着信があったものですから、テントを出てお話してただけです」

「ん……そうか」

 

 そう言ってレッドは公設の手洗いへと向かった。

 エリカはレッドの後姿をどこか乾いた目で見つめていた。

 

―4月24日 午前9時 氷の抜け道―

 

 氷の抜け道は氷柱や氷壁で構成されるフスベとチョウジを結ぶ洞窟である。

 中は非常に寒く、外は春でも中は冬のごとき寒さとなっていた。

 

「寒い!」

 

 レッドは氷の抜け道に入ると開口一番にそう叫んだ。

 

「あの時のシロガネ山を思い出しますわね……」

 

 レッドとエリカは奥へと進んでいった。

 奥に進むと、少し髪の状態が宜しくないおっさんが、カメラ抱えて話しかけてきた。

 

「意外なところでコンニチワ!わし、カメラおやじのゲンゾーです!フォトジェニックな君達い!記念写真撮っていかなーい?」

 

 何とも快活で馴れ馴れしい口調である。

 しかし、エリカはさして悪い気がしなかったのか、レッドにせがむ。

 

「こういう所で撮るのもまた乙なものですわね。貴方!撮りましょ」

 

 その可愛さに心動かされているレッドの内心などお構い無しに、エリカはサッと位置について、レッドもやれやれといった心持ちで位置につく。

 こうして、10分ほどでレッドとエリカは手持ちのポケモンと一緒に写真を撮った。

 エリカは、ゲンゾーから貰った写真をまじまじと眺めていた。

 レッドとエリカの後や横には、それぞれの手持ちが持ち主の近くについている。

 こうして見ると中々に壮観である。どうでもいい情報だが、ピカチュウはレッドの右肩に乗っており、顔を強張らしていた。

 

「まぁ、綺麗に撮れてますわね!」

「プロのフォトグラファーだしな。つかあの人シロガネ山にも居て凄く驚いた覚え」

 

 レッドの発言を彼女は遮って

 

「貴方のお顔、とても可愛いですわ!」

 

 エリカは興奮しているのか、止まらない様子だ。いつになくでもないが、饒舌(じょうぜつ)だ。

 しかも、レッドは帽子を被っているにも関わらず、エリカは顔をハッキリと判別できるらしい。恐ろしい。

 

「これは一生の家宝に……キャッ!」

 

 エリカは氷床の上でうっかり転んでしまう。

 

「全く、写真ばっかり見てるからさ。ほら、捕まって」

 

 レッドはエリカに手を差し出す。

 エリカはやはり慣れていないのか少々躊躇したが、やがてゆっくりとレッドの手を掴む。

 

「貴方……ありがとうございます」

「いいんだよ。夫婦、だろ?」

 

 こうしてレッドはエリカを助け起こした。

 二人の本当の夫婦としての自覚は少しずつ芽生えていくのだった。

 

 

―2013年 1月某日 シロガネ山 最奥部―

 

 それはレッドがエリカと旅を始める少し前の事。

 レッドはおよそ一年前にパーティをボロボロにされたバンギラスに復讐を果たすために最奥部へ足を進めていた。平均レベルは60から75へと大幅に上昇し、レッドは満を持してバンギラスを倒す腹積もりである。

 一か月前からバンギラスが再び最奥部に出現し、度々シロガネ山全体を揺さぶるほどの大暴れをしていた。 

 最奥部へ足を踏み入れると、真冬だというのに雪ではなく強い砂嵐が吹き荒れていた。

 

「たく、相変わらず立ちすくみたくなる雰囲気だな……」

 

 レッドはシロガネ山の最奥部側の出口に立ち、パーティの先頭に立ってそう呟いた。

 

「ドシドシと足音が聞こえるな」

 

 カメックスがレッドに言う。

 確かにバンギラスのものと思われる重々しい足音が聞こえてくる。

 

「よし。まずはバンギラスを引きつけよう。カメックス!」

「あいよ!」

 

 カメックスは前に出て砲筒から奥に向かって大量の水を放出した。

 これは大きな音を生じる上に砂塵の中の水はとても目立つ為有効な手段である。

 案の定バンギラスは気付いたようで、ズシスジという足音が前よりも明らかに大きく、レッドたちのいる方向に歩いていることが分かった。

 

「ラプラス! 雨乞いだ!」

 

 ラプラスは雨乞いを行って天候を変えた。

 レッドが最初にカントーに出ていた頃はまだ天候を変化させる技を覚えさせていなかった。しかし、ラジオで情報収集しているうちに天候技を知って修行によって習得させたのだ。

 これによって天候がかわり、砂嵐が晴れ、雨が降り出した。

 砂嵐の時よりは視界が良くなったのでバンギラスの所在がはっきりと分かった。相変わらずの恐ろしい形相と雄姿であり、ポケモンたちは戦慄している。

 

「カビゴン、前に出てくれないか」

 

 レッドは一番バンギラスを見て平然としていたカビゴンにそう指示した。

 カビゴンはのそのそと最前列に出た。

 やがてバンギラスは猛然と突撃を敢行する。どうやらギガインパクトと呼ばれる技のようだ。それはカビゴンに直撃し、三分の二を失わせる大ダメージを被った。

 

「カビゴン! ばかぢからだっ!」

 

 カビゴンは仕返しとばかりにバンギラスに突っ込み、猛然とバンギラスを叩きつける。その最中にバンギラスを袈裟がけに大きく引っ掻いて見せ、シンボルともいえる青菱に傷を残した。

 バンギラスはその行為が逆鱗に触れたのかカビゴンを突き飛ばした後、周りの鋭利な岩石を迅速に集め、数十個持ち上げて、パーティーに思い切り投げつける。

 

「う、うわああああああああああ!」

 

 この技にレッドのパーティは甚大な被害を被る。

 レッドは気息奄々となったパーティを見て思わずそう叫んでしまった――

 

―同年 4月25日 午前3時 氷の抜け道―

 

 レッドは半身を飛び起こした。

 

「はぁ……はぁ……なんだただの夢か……」

 

 あの後、レッドは三時間かかってどうにかバンギラスを制し二度と山を荒らさないことを誓わせた。

 しかしその代償はあまりにも大きく、レッドのパーティが精神的に立ち直るまでには数週間の時が必要だった。

 レッドにとって二度に亘るバンギラスとの戦いは大きなトラウマであり極力思い出したくない出来事なのだ。

 まだ心臓が激しく鼓動を奏でており、冷や汗をかいている。

 

「くそ……。嫌な事思い出しちまったな……」

 

 そう呟きながらレッドは再び寝袋に入る。

 しかしなかなか寝付けず結局翌朝まで置き続けた。

 

――――――

 

 その後何日かかけてフスベへと進んでいった。

 

―フスベシティ ドラゴン使いたちの集まる町。龍の穴はミニリュウやハクリューの分布地として高名で、乱獲を防ぐ為に現在はジムリーダーのイブキがここを守っている。ポケモンの技に関するところでも有名で、覚えさせるも忘れさせるもフスベに行けというのが最近のトレンドでもない。

 

―4月28日 午後1時―

 

 フスベシティは山間部にあり、周りには高い山が聳え立っている。

 44番道路の時とは違い、この日は飛騨山脈からの寒い北風が吹いていた。

 

「ここがフスベシティか」

「いよいよジョウト最後のジム戦ですね! お互い気合を入れましょう!」

「おうよ! 気張っていこう」

 

 レッドはまだ緩みが締まってはいなかったが、一応ジム戦の前なので気合を入れた。

 

―同日 午後2時 フスベシティ ポケモンジム―

 

 マグマを越えてイブキの所まで辿り着くと、彼女は穏やかな様子で出迎える。

 

「初めまして。よく来たわね、お二人さん」

 

 イブキは露出度の高い服を着ており、ワタルと同じくドラゴン使いのトレードマークといえるマントを羽織っていた。

 レッドは目のやり場に困っていたが、挨拶もそこそこに彼女は自己紹介を始める。

 

「私の名前はイブキ。この格好を見て察しはついていると思うけど、ドラゴン使いとしてこの街に生まれ、ジムリーダーを務めているわ。ドラゴンの特徴はそのパワーね! ここまでのジムに出てきたようなポケモンとは一線を画する猛烈なパワーを持ったポケモン……それがドラゴンよ」

 

 レッドは一度ワタルと戦っている為少し高をくくってこう言う

 

「いやドラゴン使いとはワタルさんと一度戦ってるんで……」

 

 ワタルの名を口に出すと、イブキが顔を歪ませ

 

「ワタルなんかと比べないで。確かに私はリーダー、彼はチャンピオンで立場は少しばかりあいつの方が上かもしれない。でもね、フスベで修行していた頃は、実力は拮抗していたのよ? 二代前のリーダーだったお師匠が四天王になった時にその座を巡って戦ったときも私は決してあいつに引けをとってはいなかったわ! ワタルとはまた違う私の戦いを見てなさい」

 

 イブキはワタルに対して強い対抗心を抱いている様子である。

 レッドは、そんなイブキの態度に身の程知らずなどと感じるのであった。

 

「行きなさい、ギャラドス! チルタリス!」

 

――

 

 レッドは二体、エリカも二体を失った。

 

「そんな……この私が負けるだなんて」

 

 レッドの所感は、強い事には強かったが、ヤナギには遥かに及ばなかったというものである。

 しかし、イブキはレッドの想像以上に強情な人物であった。

 

「フ……フン! これは何かの間違いよ。負けた私がいうのもなんだけど、貴方たち二人そののろけぶりじゃ全国制覇なんて無理に決まってるわ」

 

 レッドは、そんな悪あがきに対して、何それ嫉妬!? 嫉妬ですかイブキさん!? などと、口には出さなかったが、心の叫びをしていた。

 

「か……勝手に決め付けないで」

 

 エリカの発言を遮るようにイブキは言う。

 

「そうだわ! このジムの裏に、龍の穴っていう場所があるの。中央に(ほこら)があるからそこに行ってごらんなさい。もしもそこで、あなたたち夫婦の覚悟が本物だと認められたなら、私も貴方たちがジムバッジを渡すに相応しい人たちと認めてあげるわ!」

 

 レッドは、勝手な事するなと思ったが、バッジを獲得するには致し方無いと、イブキの言う事に従うのであった。

 こうして二人は龍の穴へと向かった。

 

―龍の穴―

 

 龍の穴。ミニリュウが生息する珍しい場所として、フスベにドラゴン使い達が集う第一の理由となる場所である。非常に貴重な場所な為、一般人の立ち入りは厳禁されており、入る為にはドラゴン使いになるか、守護者であるイブキに勝つしかない。

 さて、龍の穴に辿り着き、池を目の前にしてエリカは感傷に浸っている。

 

「ここがあの龍の穴ですか。なんだか、おどろおどろしい場所ですけど……、なかなかに風情がある場所ですわね」

「ま、とにかくほこらまで行こう」

 

 という訳で二人は波乗りをして、祠の真後ろにたどり着き、桟橋がそこにあったので、いったんそこで降りることに。

 

「あれがほこらかな?」

「朱色の高欄に、茶褐色の擬宝珠(ぎぼし)……、それに加えて瓦葺(かわらぶ)きの社殿…、確かに祠ですわね」

 

 レッドはお前は何を言っているんだという表情をしていたが、最後の祠という単語で、なんとか理解できたようである。

 

「あー…ほこらね、ほこら……。にしてもどこから行けばいいんだ。ここからだとドアらしきものもないし……」

 

 そんなことをレッドが言っていると、エリカは、社殿の軒下に赤毛の少年が居ることに気が付いた。

 

「あの赤毛の人に聞いてみましょう。卒爾ながらお尋ね申し上げますが……」

 

 エリカは古めかしき言葉で、その少年に話しかけた。

 少年は意味が分からなかったのか、少しだけ戸惑っていた。しかし、彼はすぐに威儀を正して、なんとも攻撃的な声調で返事をする。

 

「何だ?……ってまさかお前ら!」

 

 お前とかジムリーダーに対して言う事かよ、とレッドは心中で思っている。

 しかしエリカはそんな事も気しなかったように、声の高さを少し上げ、おどけたように言ってみせた。

 

「あら、シルバーさんでしたか」

「知り合いなのか?」

 

 レッドは不思議に思い、尋ねた。

 

「ええ、私のジムに挑戦されましたわ。とてもお強い方でしたけどポケモンの扱いがぞんざいで……」

 

 とエリカはレッドに言ったが、シルバーはなんの気無しに

 

「当たり前だろ、ポケモンは戦う道具だ」

 

 エリカはその言葉に鋭敏に反応し、冷淡に

 

「まるでロケット団のような言い草ですわね」

 

 と返す。

 ロケット団という言葉に反応したのか、急に口調を強め、

 

「その組織は口に出すな……! 胸糞悪い。おいレッド! 俺はシルバーという最強のポケモントレーナーを目指している男だ! ……俺と戦えっ!」

「態度が気に食わないが……まあいい、売られた喧嘩は買おう」

「伝説のトレーナーだかなんだか知らないが、新婚気取りでチャラチャラしたトレーナーなんかに負けるもんか!レッド!俺は必ずお前を倒す」

「その威勢……いつまで続くかな……。ま、気迫があるのは良い事だ。行け! バクフーン!」

 

―――――――――――――

 

「2体撃破……全く高が知れる。ゴールドというトレーナーだって半分は倒したぞ」

 

 シルバーはその名を聞くと目を明らかにいからせて

 

「あいつの名前を出すな!」

 

 と強がった様子で返す。

 

「負けといて指図される謂れはないね。何だ? 知り合いなのか?」

「私の情報ですとゴールドさんを一方的にライバル視していられるそうですわね」

 

 エリカはこっそりとレッドに伝えた。

 

「ふーん、なるほど。一方的にライバル視ねぇ……」

 

 レッドは、蔑視の目線をシルバーに向ける。

 

「……」

「通りでゴールドから名前を聞かない訳だ。つまりどういう事か分かるか? 君はゴールドから歯牙にも気にかけられてないってことだ」

 

 レッドはそう強く言い放った。が、エリカの一言は更に辛辣なものである。

 

「ポケモンを物のごとく扱っているシルバーさんにはいつまで経っても、レッドさんやゴールドさんには勝てないでしょうね……」

「負けた貴方に何が分かる?」

 

 シルバーは悪あがきのつもりで、エリカに突っかかる。

 

「あら、あの時の私が本気だったとでも?」

「どういうことだ?」

 

 レッドは静かに言う。

 

「エリカは伊達に一緒についたきたわけじゃない」

 

 レッドはエリカの承諾を貰ってから彼女からバッジケースを受け取り、シルバーの真正面で開いて見せ

 

「この通りバッジもしっかり貰ってるからな。お前が挑んできた時と実力は雲泥の差だと思うぞ」

「……!!」

 

 シルバーは目を細めた。明らかに動揺している。

 

「それでなくても私達ジムリーダーには8つのバッジを集めに来た手加減用と、再戦もしくは一地方以上跨いでこられている時の本気用と2つのパーティがあるのです。私達は夫のいたおかげて全員本気用のパーティでしたけどね」

「それを一緒に突破してきたんだ。手加減パーティに勝ったぐらいで粋がってるんじゃ……まだまだだね」

 

 レッドはそうシルバーを(たしな)めた。

 

「!!」

 

 シルバーは居心地は悪くなったのか、一目散に逃げていく。

 

「心の弱い子です事」

「そんな事より長老の所に行かないと……」

 

―龍の穴 祠―

 

 祠に着くと、二人は長老に歓迎され、それと共に察したようである。

 

「よくぞ参られた。何イブキに言われたのじゃろう。困ったもんじゃ全く……」

 

 長老はそう言うと、深くため息をついている。

 

「あれ前にもこんな事あったんですか?」

 

 レッドは長老に尋ねた。

 

「左様。この前はゴールドという少年が来ての……」

 

 長老は手短に、ゴールドが来た時の話をした。

 

「なるほど。大変そうですわね……」

 

 エリカは、息をついた後、長老を労る。

 

「なぁに、ワシとしてもイブキを破った人間は興味がないわけではないからの。さて、お主等には愚問かもしれぬがわしの尋ねる3つの質問に二人は答えてもらおうかの」

 

――

 

「ウム、素晴らしい!二人とも合格じゃ!」

「有難うございます!」

 

 すると、イブキがちょうどドアを開けてやってきた。

 

「結果はどうだったかしら? え!? 合格? そんな……わ、私もまだ認めてもらってな」

「こりゃイブキ!この者たちも技、心。共に見事なものじゃ!観念してさっさとライジングバッジを渡さぬか! さもなくばこの事をワタルに」

 

 長老からワタルという単語が出た瞬間、イブキはすぐに(かしこ)まって

 

「わ……分かりましたわ。ほら、これがライジングバッジよ。さっさと受け取りなさい!」

 

 イブキは二枚ライジングバッジを渡す。

 

「ありがとうございます!」

 

 二人は深々と頭を下げた。

 

「はぁ……とても信じられないわ。まさかあんたたちまで長老に認められるだなんて……」

 

 とイブキ言いかけたところでまた一人、小間使いがドアを少し開けて入ってきた。

 

「あの。イブキさん……あ、お二人も。リーグ委員の方が緊急で伝えたいことがあるとのことで入口で待たれています」

「え?」

 

 そういう訳で三人は急いで龍の穴の入り口まで戻る。

 

―午後4時 フスベシティ 龍の穴入口―

 

 三人が姿を現すと、委員は人払いを願った後、挨拶もそこそこに本題を切り出す。

 

「一大事が起こりました。エンジュシティがロケット団に占拠され、ポケモンリーグに対して宣戦布告を行いました! 理事長は限定総動員令を出し、ジョウト中のジムリーダーに関してはすぐさまジムに戻ってリーグからの指示を待つように、カントーのジムリーダーに関しては即座にリーグへ馳せ参じるようとの事です!」

「ええっ!? な、何よそれ」

 

 イブキは前代未聞の事態に大きく動揺している様子だ。

 

「あの……カントーのジムリーダーはリーグへ赴くようとの事ですが私もですか?」

 

 エリカは委員に対しそう疑問をぶつけた。

 

「いえ、お二人に関してはジョウト地方に居ますから他のジョウトのリーダーと同じく指示を待つようにとの命が下っております」

「さ、左様ですか……。それにしてもとんでもない事態になりましたわね……」

「と、とにかくまずはポケモンセンターに行くわよ! これから忙しくなるだろうし、しっかりポケモンを休ませないと……」

 

 三人は困惑の中、とりあえずポケモンセンターへ向かった。

 

―――――――――

 

―午後3時 ポケモンリーグ―

 

 総動員令発動の少し前、エンジュシティ占拠の第一報がリーグに飛び込んできたときの話である。

 

「落ち着いてゆっくり話すんだ。一体何が起こったんだい」

 

 理事長のワタルは急報を持ってきた委員に対してそう優しく言った。

 息を落ち着かせて委員は言う。

 

「ロケット団がエンジュシティを占領し、我々に対して宣戦布告を表明しました」

「な、なんだって!?」

 

 ワタルとシロナはその知らせに大きく目を見開いた。

 先手を打たれた格好である。

 

「ちょ、ちょっと待って。どうしてエンジュが占拠されるまで何の報告もなかったの?」

 

 シロナが委員に尋ねる。

 

「恐らくですがロケット団はエンジュシティに繋がるゲートを速やかに封鎖し、情報を厳しく統制したのではないのでしょうか……」

「それにしたって全く報告が無いなんておかしいと思うけれど……」

「待って、君の意見が正しかったとしてどうしてエンジュが占領されたって分かったのかい?」

 

 今度はワタルが尋ねる。

 

「はい。それはエンジュ市庁舎よりロケット団の幹部と名乗る人物からリーグ本部へ入電があったからです。本部のパソコンに送られた画像にもマツバジムリーダーが捕縛されているものが送られました。これがそれです」

 

 委員は懐から一枚の写真をワタルに渡す。

 

「な……なんということだ……。と、とにかく今のところはカントーとジョウト限定で総動員令を発令する! ジョウトのジムリーダーはジムへの待機、カントーのジムリーダー及び四天王はすぐさまリーグに来るように伝えてくれ!」

「はい! 了解しました! あと、これを伝えてきた幹部と名乗る人物から理事長に繋ぐよう要求しているのですがどういたします?」

 

 委員がワタルに尋ねる。

 

「すぐにそうしてくれ」

「分かりました。では!」

 

 そう言って委員は理事長室を出て行った。

 

「理事長、私はどうすれば良いですか?」

 

 シロナがワタルに尋ねる。

 

「すぐにシンオウリーグに戻ってホウエン及びシンオウ地方のジムリーダーや四天王にもすぐに総動員令に応じられる準備を整えるよう要請しておくよう根回しを頼むよ」

「承知いたしました。すぐさまリーグに戻ります!」

 

 シロナがそう言って踵を返すと、机上の電話機が鳴り響いた。

 ワタルはすぐさま受話器をとる。

 

「理事長のワタルだ。話は聞かせてもらった。君たち、なんてとんでもないことをするんだ!」

 

 ワタルは電話の相手に対してあらん限りの怒りをぶつける。

 

「貴方と善悪の論争をする暇はありません。私はロケット団幹部のランスという者です。我らの主サカキ様直々の命を受けて理事長の貴方との交渉役を務めることとなりました」

「そうか」

「写真はもう見て頂きましたか?」

 

 ランスは丁寧な様子で話す。

 

「ああ、見たよ」

「我々は抵抗してきたエンジュシティジムリーダーのマツバを人質にとっています。我々の要求は大きく言って二つあり」

 

 ワタルは大きく唾を呑んだ。

 

「一つ目は我々の活動を黙認する事。二つ目はポケモンリーグの速やかな全面的解散です」

 

―第十話 春の嵐 終―

 

 

 

 

 

 

 

 


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