Fate/Grand order 虚構黄金都市ウルク   作:Marydoll

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イシュタルがfgoで出てきたことで書きにくくなったこの小説も、もう吹っ切れて独自設定を押し通します。

文字数が少ないけれどご勘弁を。


望郷、それと談笑

木々が薙ぎ払われる。

天が赫く染まる。

ギルガメッシュの撃ち出す数千の宝物の乱撃を、変容した僕の泥たちが迎撃する。

遂に七日七晩を戦い続けた僕たちは、恐らく、とうの昔に限界を超越していたはずだった。

覗く紅の瞳を迎える。

僅かな喜色と、未知への戸惑い__恐怖で彩られた彼女の(まなこ)は、僕のそれを穿つように睨みつけていた。

分かるのだ。

そう__僕ならば、分かるのだ。

君の寂寞。

君の諦観。

その理由(わけ)と、その終焉の由を、僕は確かに知っているのだ。

孤独であれば良い。

孤高であれば良い。

けれど決して、君は__

 

「なんだ____」

「________?」

「________そういう……ことだったの……」

 

宝物の煌めきが尾を引いて途絶えた。夜の星々が爛々と空を染め上げていた。

ギルガメッシュは、片手に握る黄金の斧をぶらさげるようにして__僕を見つめていた。

 

「……君の自慢の宝も、とうとう底を尽きたのかな?」

「__阿呆め。私の宝物庫には、いまやこの世の総てが納められている。お前一人に、人の世を背負う力などあるものか」

「それは____」

 

きっと、君も同じことだろうに。

目を閉ざして感傷に浸る様子のギルガメッシュは、長い溜息を吐く。吐息が、白く空へと登っていく。僕はそんな彼女を、ふと沸いた穏やかな気持ちで眺めていた。

永劫続くかのような諍いの、終わりの気配を感じていた。

開いた宝玉のそれを空へと向けて、彼女は手を伸ばした__高く、高くへと。

「……………………………………」

「…………………お前の忠言、聞き受けた」

「____そうかい」

「ああ…………あの淫売にも伝えておけ__忠信、大儀であった」

 

背を向け歩き出した、彼女を、僕はいつまでも見つめていた。

いつまでも、いつまでも__

 

 

 

 

「……いつまで、そうやって見ているつもりなんだ」

「君がその仕事を終わらせるまで、かな」

 

山積みになった各所からの嘆願書を矯めつ眇めつ読み進めていくギルガメッシュの、小さな躯をとりとめもなく眺めながら、僕は窓の格子にもたれ掛かっていた。

人並み外れた知性と先見の眼からなる優れた治世は、それ故に、国を治めることに関して一切の余念がないものであった。

つまり、端的に言えば暴君の治世である。禍根が在るなら根絶やしに、芽吹きかけの胡乱な種は、早いうちに摘んでおく。

ギルガメッシュは常に正しい。

けれど、決して人道を介すことを第一に考えたような施政ではなかった__むしろ、遥か高くに座し、広く大地を見通すその瞳が臨む世界は、常に人の在り方を何処までも俯瞰していた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「街を歩くと感謝の言葉が絶えないよ。僕のおかげで、君の治世が穏やかになったんだってさ」

「…………」

「人の行き交いも随分と興隆してきたらしいじゃないか。昔よりも賑やかになったって、皆そう言ってる」

「…………」

「この果物も、市井を見聞しているだけで貰えるんだよね。断るのもなんだし、いつも受け取っちゃうんだけど」

「…………」

 

もっとも、それはつい最近までのお話。民の嘆願書を一枚一枚丁寧に目を通しては、思索を巡らす彼女の髪の毛が、猫の尾のように左右に揺れるのを数刻も見ていた僕は、ギルガメッシュの明確な変化の良し悪しを図ろうとしていた。

民の為に、と言えば聞こえは良いけれど。

これはどちらかといえば……

 

「____おい、聞いているのか」

 

横合にぶつけられた細かな言葉の礫に、一瞬面食らった。

気付けば僕の隣で、窓枠に腰掛けていた彼女の眼が、僕の瞳と同じ位置に座していた。

じととした、責めるような、推し量るような__どこか遠慮気味な彼女の麗な視線にたじろぐ。

 

「…………あぁ、どうしたんだい?」

「……私の職務を見届けるために、そこにいたんじゃなかったのか、お前は」

そんなギルガメッシュに、僕は台の上に積み重ねられていた書類の山が、右の側から左の方へ移動しているのを見つけた。彼女の足から腹の半ばほどまであるそれらを、まさか半日もせずに処理するとは驚きであった。

視線を揺らすと、そんな僕から目を離さずに大人しく座るギルガメッシュの姿が嫌が応にも視界に入る。

__なんといえばいいのか。

 

「凄いね。こんなに早く終わるなんて思ってなかったよ」

 

戸惑いをそのまま音に乗せたら、皮肉を言ったようにしか聞こえないのはどうしてだろうか。

けれどギルガメッシュは、数秒の間目元に陰を作ってから言う。

 

「…………ありがと」

「____え、あ、うん」

 

頬を仄かに赤く染めて、彼女は僕に感謝の言葉を述べた。それから少し早足に執務室の扉へと向かっていく。

どこか弾むような彼女の足取り、いつもより大振りに見えるような気のする両腕、それから肩口に振り返って、僕が後を追いかけるのを待つような仕草。

疑念は、たった今確信に変わった。

 

この娘、存外に好感の具合がわかりやすいぞ……と。

 

 

 

「お主らの探している聖杯は、この地に二つ存在する」

 

かつて、小さな特異点で出会った女性は、俺たちに眼を向けることなくそう言った。

遥か遠方で狼煙を上げる巨大な火山を()めつけながら、師匠は続けざまに言う。

「尤も、片方はそもそもからして何者かの所有物であるようだな。其方の方には、魔術王は関与していないと見ていい」

「魔術王の関与しない聖杯……そんなものがこの地に?」

「その通り。つまり、問題なのは其方よりも」

「神イシュタルの有する、もう一つの聖杯……でしょうか」

 

シャムハトの言葉に、師匠は今度こそこちらに眼を向けて、鷹揚に頷く。

獅子の怪物を文字通り叩き出した彼女は、俺たちを引き連れて生き残った瑣末な森林の名残の下まで移動していた。

灰燼のみが地を覆う世界は、耐え難きその荘厳の余韻を刻み込まれていた。辺りを見渡せば、未だに消えない炎の揺らめきが月の光をその身に受けて青く輝いていた。

「一度、殺したんだがな」

 

師匠のそんな言葉に、俺は彼女に向き直った。

 

「聖杯に接続している間は、不死のそれに近いらしい。戦のために祀られていた神ではないのだろうが、死なぬというのはそれだけで厄介極まりない」

「聖杯、というものはそれ程までに優れた器なのですね」

「お主の主君も所有しているのだろう? 英雄王の宝物庫には、万能無知の聖杯程度(・・)のものならば納められていても可笑しくはなかろう」

「ええ、わたしはそれを見たことはないのですが。曰く、万能の杯であると聞かされています」

「つまりはそういうことだ。この地にある聖杯、もう片方は英雄王ギルガメッシュの所有しているものだ」

 

ギルガメッシュ、その言葉を聞いて驚いたのはマシュとダ・ヴィンチちゃんの二人だった。

 

「ギルガメッシュ! かの王が今この地に現界しているというのかい!?」

「ああ、どうやら独自に動いているらしい」

「既にお会いになったのですか? その、英雄王ギルガメッシュに」

 

マシュの言葉に、彼女は首を振るった。

 

「いや、だが____見えている(・・・・・)、という話だ」

「見えている……成る程、高ランクの千里眼スキルは、この世の遍くをも見通すんだったね」

 

何者かを思い起こすように呟いたダ・ヴィンチちゃんは、続けて師匠に問い掛けた。

 

「じゃあ、目下の目標はその王様に謁見を願うことになるのかな?」

「いいや、それは__」

「恐らく、得策ではないと思いますよ」

 

師匠の言を引き継いで、シャムハトが答えた。どこか遠くを見据えたような黒い瞳に、惹きつけられる。

 

「それはまた、どうして?」

「端的に言うと__感じませんか?

彼女(・・)は今、とても怒っているみたいなので」

 

怒っているってどういうこと?

そんな俺の言葉は、多分彼女には届かなかったのだろうと思う。

__突如、その場に降り注いだ濁流が、きっとその声を掻き消してしまったに違いないのだから。

 

 

 

 

守りに入るつもりで構築した魔術の式を霧散させる。隣にいる彼女もむむと唸った後に、手にした護符を懐に仕舞い込んだ。

そも、かの女王がいる時点で取り分けこれといった心配をしていたわけではなかった。結局行動を先んじたのは彼女ではなかったとはいえ(・・・・・・・・・・・・)、そうでなくとも大事に至ることはなかったであろう。

横合いからの介入の痕跡は、エーテルの塵とかした花弁の香りだけであった。

 

「随分お淑やかなお守りですねぇ、護衛としては及第点といったところでございましょうが」

「逆に言うならば、死なれては困るけれど甘えられても困る……そう考えているのかもしれないわ」

 

狐の耳をぴくりぴくりと震えさせ、四尾のそれ(・・・・・)を妖しげに蠢かす。着崩された着物は、豊満な肢体をこれでもかと主張していた。

「むふふ、彼方にもかなりのイケ魂が居るようですが……やはり、あの女王サマの方が見ていて可愛らしくて、非常にそそりますねぇ……じゅるり」

「あなた……あまり不敬を働くと斬首どころでは済まないわよ。ただでさえ神性の輩を嫌っているようだし」

「それは困りますぅ! 先っちょだけでも味見しなければ、この玉藻! 大人しく座に帰ることなど出来るはずがありませんッ!」

「私が言うのもあれだけれど、相手を選びなさいよ……こんな状況で」

 

そそる、そそらないの話に関しては心底同意するのだけれど、如何せん我欲にまみれたこの女の姿を見ると、同列に扱われたくない気持ちが勝るようであった。自制が効いている、とも言える。

 

「そもそも私、彼女には仕えているのではなく協力しているだけでございますし? 玉藻はー、対価にー、ほんのちょびっとだけぇー、ぐへへ」

「……………」

 

あの愛らしい躯が、己の手の内で乱れる姿を想像するだけで涎が溢れ落ちそうなのも同意するが、やはりこの女と同種に見られるのは勘弁願いたいものであった。

 

「愛玩動物としては私、かなりの自負がございまして。大は小を兼ねるとも言いますし、私ならば完全無欠にあの娘をどっろどろのぬっちゃぬちゃにして差し上げることも出来ましょう」

「嫌なところに共通点を見出すのはやめてあげなさいよ」

「いえいえ、真のサディストこそが真のマゾヒズムを理解しているのでございますれば、また逆も然り! 真のマゾヒストこそが高品質のサディズムを提供できる唯一の供給源なのでございます」

「仮にも英雄王ギルガメッシュを被虐趣味の変態の一員みたいに言うのはどうなのかしら……」

 

結局のところ、反論に窮している時点で、私にも多少の納得の感はあるというか、丸め込まれた()があるらしいが。

神威を垂れ流しにしている彼女の姿を呆れたように眺めていた。ここまで残念な女神はそうは居ないのではないだろうか。此方側の神々は、荘厳の気配を取り繕うことに関しては完璧であったように思われるけれど……

と、ふと気配が後方降り立つのを感じて振り返った。

 

「____メディア様」

「あら、おかえりなさいアサシン。それで、お姫様はなんと言っているのかしら?」

「__放っておけ、今は時期ではない……と」

「了解したわ」

 

彼女の耳筋を撫でてから、先よりも五歩ほど後ずさりした狐の姿に嘆息する。

じとと睨めつけると、女は心外そうに息を漏らして首を振るった。

 

「致し方ないでしょう? 獣の本能がびんびんになり響いていますし」

「指輪をつけているから、毒は完全に抑えられているわよ」

「血清があるから毒を飲め、と言われても困惑するほかありませんが?」

「解毒されているから触ってみなさいな、とそう言っているだけなのだけれど?」

「つーか、獣の本能どころか 神様の啓示的にもアウトなんですけど(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、その身体」

 

首をかしげるアサシンの姿を一瞥してから、私はもう一度深く溜息をついた。

____獅子の怪物を討ち果たすよりも、『お守り』の方が遥かに苦労しそうなのは、流石にどうかと、思うのだけれど……

 

 




文系の大学って、夏休み暇とか言ってたのうそかよ。

やること多くて死にそうだわ。

ライダー・イシュタルも完走できるかわかんないし……

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